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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 女神の箱庭

 戦闘シーン有。
 白い髑髏の上に、裸足で降り立つ女神――――――。
 ひどくシュールな光景なのに、どこか神々しささえ感じられる。

 やがて女神は、こちらになんの感情も読み取れない虹色の瞳を向け、しなやかな手で足元を撫でた。

 ギチギチギチッと骨は軋み、髑髏を背負う骨の虫に変わる。その数、数十匹。そのすべてがこちらへと向かってくる。
 同時に彼女の体から一抱えもありそうな光の塊がふわりと現れ、まわりへ浮かび上がった。

「アル、行くぞ!あの女神がおそらくすべての元凶だ」
「ん。いつでも」
 あいつさえ倒せば――――――。脳裏にこれまでの、魔物と化した悲惨な冒険者たちや、グレンの姿が蘇ってくる。
 力を籠めて剣を握り締め、アルと並ぶと、後ろから迷いを吹っ切ったようにニーナが声をかけてきた。
「力及ばずながら、私も協力します」
「……わかった。待機しててくれ」
 そう叫んでまた女神に向き直ると、なぜかその美しい眉をわずかにひそめていた。と、その体が輝き、衝撃波らしきものがニーナ目掛けて放たれ、彼女は呻いてドサッと昏倒する。

「え、と」
 突然のことに頭がついていかない。
「……行くよ」
「あ、ああ」
 まったく冷静なアルが呼びかけたので、気を取り直して近づいてくる虫を睨みつけた。ニーナは、気絶していた方が生存率上がりそうなのでひとまず後回しで。

 ザワザワと群がってきた髑髏虫を薙ぎ払い、風を練って女神を狙うが、その刃が当たるかに思えた瞬間、近くをまわっていた光の珠にぶつかり、はじけて消えた。
 そこへ虫を足蹴にしたアルフレッドが女神の体を狙い、斬りかかるが、その姿が揺れて消え、背後に出現する。
「もう一度だッ!」
 髑髏虫を蹴飛ばしながらその女神の背中を狙うと、風は今度は命中し、背中がぱっくりと割れた。とそれは一瞬ですぐに元へ戻り、女神はこちらへと手を突き出した。

 ザララララララッ

 上向けられた手の平から宝石や金貨が溢れ、床へと零れ落ちていく。さらにカランカラン、と宝剣が四、五本落ちて浮き上がり、その切っ先がこちらに向かう。
「くっ」
 シャロンが宝剣と打ち合うあいだにも、アルフレッドは女神の体を斬り裂いたがその体から牙が生え剣をガチリと受け止めた。
 彼は横から伸びてくる手をかわしたが喉元をかすめ、剣を振りきって大きく後退したものの肩を上下させ片膝をつく。
「アルッ」
 シャロンは慌てて残りの一本を打ち壊しそちらへ向かう。

 神々しく佇む女神にはまるでダメージがないように感じられ、その体からまた光が生まれ、ふわりと浮かび上がった。

「大丈夫か」
「ん。でも、何かごっそり気力が奪われた」
「それがあの女神の能力か……厄介な」
 敷き詰められた骨から指一本分ほどのところで浮いている女神を睨みつける。彼女は神秘の微笑みで両手を合わせて水の珠を作り、こちらへと掲げてきた。
「げっ」
 慌てて風を繰り出そうとするが……足元から鋭い痛みが次々とシャロンを襲う。
「なんだこれッ」
 先ほど床に散りばめられた金貨や宝石が、意志を持ってバシッバシッとぶつかってくる。致命傷にはならないものの、これでは……。
「……っ」
「あ、ああああああッ」
 女神の放つ酸の雨が降り注ぎ、体を溶かしていく。アルフレッドがなんとか身を起こし、向かっていくものの、その剣は金貨の山と、光球とに阻まれる。
「くそッ」
 珍しくアルが悪態を吐き、足元の大腿骨を気絶中のニーナへと投げた。

 ゴィン、とコミカルな音がして、ニーナが身じろぎしたかと思うと、はっと身を起こしてこちらの惨劇に気づいた。
「シャロンさん!」
 叫んで駆け寄ろうとするが、金貨と宝石に阻まれて近づけない。

 女神が先に動き、目の前に数十本の宝剣を出現させてダメージから回復しきっていないこちらへ解き放った。

 ニーナが何か叫んだ。かえれ、とか、戻れ、とか、そんなことだったような気がする。

 アルと、私に降り注いだ剣は、その効力を失い、カランカランと落ちたと思うと、砂となり崩れ落ちた。
「大丈夫ですか!?」
 ニーナが傍に来て、爛れた肌を抱え込むその場所から、ゆっくりと傷が癒えていく。
「ア、ルは……」
 思わず振り仰げば、肌の一部が爛れ血が流れて満身創痍にも関わらず剣を女神へと向けるアルの姿があった。

 女神の体にはいくつかの黒い裂け目ができ、それが口となって鋭い牙を剥き出している。
「私も、行かないと」
 立ち上がり身体の損傷を確かめてみる。……なんとかいけそうだ。
「あの……」
「ん?」
「……加護、がありますように」
 何の加護というのだろうか。疑問に思ったが、ニーナの気持ちを無駄にはしたくないのでしっかりと頷いた。案外、彼女自身の加護、というのかも知れない。

 あれほどいた骨の虫や、財宝の魔物も今は静まりかえっている。

 シャロンは女神の周辺を飛び交い傷を癒している光をまず狙い、風によって叩き壊して一気に間合いを詰めた。

「アルッ大丈夫か!?」
「……平気」
 とても平気ではなさそうだが……それはさておき。

「一気に、片をつけよう」
 未だ神々しさを失わず佇む女神は、もはや体のあちこちが裂けて中にビッシリと牙が並び、身の毛のよだつような様相を呈してきている。

〈愚かな――――――願えば、すべてが手に入るというのに〉

 心底こちらを憐れんでいるらしい女神の声に、シャロンは不敵に笑う。

「アルの言葉を借りるが……願いは自分で叶える、ことにする」

 それを受けて女神は沈黙し、やがて静かに手を伸ばした。その手にみるみる眩しい輝きが溜まっていく。すべてを溶かす浄化の炎、か。

〈――――――悔い改めなさい〉

 その言葉とともに、シャロン、アルフレッドの体から、気、もしくは生命エネルギーとも言うべきものが凄まじい勢いで奪われていき、シャロンは膝をつきそうになるのを堪えながら、叫ぶ。
「願いを叶えるなんて、その願いが多くの犠牲によって成り立つものなら必要ないんだ!だから後悔なんてしない。するわけがない!」
「……そう」
 呟いたアルフレッドが剣をぐっと握り、次の瞬間一気に女神と間合いを詰めて振りかざした。
「風、よ、頼む!」
 こちらも風を起こし、なんとか女神の手を数瞬止めることに成功する。

 ザシュ、と女神にアルの剣が刺さるが、女神の手の輝きは止まらず、焔が大きく包み込むように燃え上がっていく。

「絶対に、ここでは終わらせません!」
 ニーナが手を振りかざし、熱い光を放ち、炎を相殺する。
「シャロンッ!」
 アルの剣に合わせ、同時に女神に突き立てると、激しい光が辺りを埋め尽くし、そしてそれを見ていたニーナの心に、すべての記憶が、どっと流れ込み始めていた。
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