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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 塔の上の

 きりがいいので短めにしました。残酷表現ありなので苦手な人はご注意ください。
 階段を上り続けて、もう随分になった。

上り始めてからしばらくすると階段の幅が広がり、余裕はできたものの、上っても上っても石造りの階段は変わらず、仄かに照らされる明かりの位置すらも同じままひたすら上へと続いている。

 救いは、かなりの段数を超えたはずなのになぜかほとんど疲れないことだけ。

 頭が、おかしくなりそうだ。

「アル、ニーナ、少し休憩にしよう」
 混乱を鎮めるべく、一度足を止めて振り返り、後ろの二人に提案した。
 そして、シャロンはやや上段、アルフレッドとニーナは壁際に向かい合わせるように腰を下ろす。

「それで、だ。この状況、どう思う」
「別に」
 そう尋ねた途端、アルからごくあっさりした返事が返ってきた。
「だから、罠の可能性は」
「まだ、七階分も上ってない」
「……それは、そうだが」
 うかつにも納得してしまったシャロンに、あの、とニーナがためらいがちに、
「誰もが同じように考えると思うんです。いったいどこまで続くのかと不安になったり、罠じゃないかと疑うのは」
「つまり、それこそが心理的トラップだと?」
「はい」
妙にきっぱりと頷く。こういうときは、だいたいニーナの考えが正解だったりするんだが……。
「わかった。じゃあ、このまま進み続けるぞ」
 そう宣言すると二人はしっかりと頷き返して立ち上がったので、また三人でひたすら上を目指すことになった。

 そうやってひたすら上っている途中で、ほんのわずかになっていた水が空になり、多分夜が来た。壁を背もたれに眠り、目を覚ましてからまた階段を上り続ける。

 上り続けて、おそらく二日。夜と朝を一つずつ越えて、やっとこの階段に終わりが、古びた石の扉という形ではっきり出現した。

「やっと、か」
 主に精神的な疲労でぐったりとなりながら、扉の前の狭いスペースで一旦足を止める。
 長い長い上るだけの時間は、ミストランテで起こったさまざまな出会いや出来事を一つ一つ思い出すのに充分過ぎる時間だった。

 シャロンは静かに扉に手を当て、
「ニーナ……この先の……展開次第では、私は約束を、守れないかもしれない」
唇を噛み締めて後ろを振り返る。そこにあったのは、いつもと変わらない冷静なニーナの表情。
「わかってます。お気になさらず」
 無表情なままで、彼女は柔らかく頷いた。
「すまない」
 約束なんて、迂闊にするものじゃない、な。

 力を込めて扉を開けると、そこは……広く、ぐるりと白く四角い石積みの壁に囲まれ、上の真っ白な空間からは光が差し込み、中央にある碧く美しい湖の底で石にぶつかりキラキラと反射していた。

 周辺には白く軽い砂が敷き詰められ、歩くたびにサクサクと音を立てる。

「ここ、は、いったい……」
 湖まで辿りつき、シャロンがそう呟き終えるか終えないかのうちに、どこからともなく風が吹き、水面に波紋が広がったと思うと、湖のその真ん中には、ふわりとローブ風のシンプルなドレスをなびかせ、けぶるような金髪、透き通るような肌と虹色の瞳を持つ、女神が裸足で浮かんでいた。

〈さあ、こちらへ――――――〉

 彼女は優しく微笑み、シャロンたち三人にそっと手を差し伸べる。

 歩けないほど深くはない。あそこへ行ったら、何かが変わるのだろうか。

 シャロンはニーナと顔を見合わせ、湖へと足を踏み入れようとして、腕をガシッと掴まれた。 
「駄目だ」
ぅ」
 振り返れば、アルが怖いほど真剣にこっちを睨んでいる。正確には、微笑む女神と、その下の湖を。
「……どうかしたのですか」
 ニーナが問えば、彼は黙って皮の手袋を脱ぎ、湖の中へ放り投げた。
 ポチャン、と音を立てたかと思うと、すぐにシュワシュワと泡立ち、いくらもしないうちに手袋は分解され、影も形もなくなった。

 湖に入る者の末路を示され、シャロンたちに靴底から静かに恐怖が這い登ってくる。

 女神は微笑んだまま、動かない。やがて、彼女から風が起き、湖の水嵩が少しずつ、増え始めた。

「ニーナ、ごめん!」
 即座にシャロンが動いた。剣を使い、強烈な風の刃を女神に向けて、放つ。
 パックリと頬が裂けた。その下には黒い闇が覗いている。

〈アクレク モ ワビアゐニマコゐ タトノ マナコ ロ〉

 女神は理解不能な言葉を呟き、すうっと唇をすぼめた。
 一気に湖の水が霧へと変化し、その口の中へと吸い込まれ、同時に頬の傷口も塞がれる。

 すべての水がなくなり、女神はその真ん中の――――――うずたかく積まれた頭蓋骨の上に、静かに足を降り立たせる。湖の下にあった白い石は、すべて骨、骨、骨――――――。

 シャロンはその姿を見て、突如として悟る。

 ミストランテのすべては女神のために造られたものなのだ、足元の哀れな犠牲者の命を吸い上げて彼女は美しく咲き誇っているのだ、と――――――。
 シャロンは二日上り続けた、と考えてますが、実際は上り始めて丸一日ぐらいしか経ってなかったりします。

女神の台詞の解き方は、地下六階ローマ字(英字?)タイトルの解き方とほぼ同じです。
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