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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 花茨二つ。

 戦闘シーン有。

 アルフレッドが宝石を奪うと、老人の体は崩れ、さらさらと砂のように零れ落ちてその痕跡すら残らなかった。


「これで、二つか。さすがに、疲れた」

 シャロンは肩で息をしながら、草地に座り込み、足を投げ出した。それからふと思いつき、地面に手を当て、生えている草を観察していたが、やがてその下の砂利混じりの土をザクザクと剣の柄で掘り起こして穴の上に布を被せておく。

「なんですかそれ」

「あ、これ?湿ってるところを掘ってこうやって布を置くと、いい具合に水分を吸い上げてくれるんだ。多少時間はかかるけど」

「……なるほど。よく知ってますね」

「昔、山道で思いついたんだ。その時も今みたいに水が少なくて苦労した」

 照れたように笑う彼女をどこか呆れたようにアルフレッドが見つめ、

「じゃあ、ここで休息を取ろう」

と提案した。


「この草、食べられたらいいのに」

 残りわずかな携帯食料と水を分け合い、しみじみと呟く。

「……無理」

「アルは植物とか、こういうの詳しそうじゃないか」

「生えているものは地域によって違うし、それにここの草は試したくない」

「そりゃ、そうだけど」

 天井からのやわらかな光を浴びながら、しばらく黙々と干し肉なんかを咀嚼していると、どこからともなくそよ風すら感じられる気がする。

「……静かな場所ですね」

 ニーナが目を閉じてそう呟いた。それを見ていると、急速に眠気が襲ってきたので、ドサリと寝転ぶと、カバンから別の布を取り出して顔にかぶせた。……そう、私の勘では今、外は真夜中に違いない。


 そのままそこで仮眠を交代で取り、たっぷり水分を含んだ布から袋へ補給して、部屋を出た。


 通路を台座のある部屋へと戻り、窪みに紫紺の宝石を嵌める。そして、すでに充分休息は取ったので、さっそくまだ見ぬ二つの部屋のうち、前に開かなかった上品な木の扉の方へ行くことにした。


 美しい彫刻のされた扉の前まで来ると、なぜか以前はなかったドアノッカーが付いていたので、それを二回コンコンと叩いてから扉を開けて入ると、後ろでバタンと固く扉は閉じられた。


 そこは……貴族の館の中のようなホールになっており、そこに面した四つのドアは開かれ、可愛いアンティークの小物や、ぬいぐるみなどが飾られた子ども部屋が見通せるようになっている。真ん中には朱色の、おそらくベルベットと思われる艶やかな絨毯、その先の、段の先には白く滑らかな女神の石像、そしてその前には、可愛らしく萌黄色のワンピースを着た、肩まであるストレートの金髪、透きとおるような白い肌に整った鼻梁と猫のようにいたずらっぽく輝く緑の瞳をした双子の少女が仲良く手を握り合わせて立っていた。


 くすくす、くすくすと笑い、耳打ちし合ってから、こちらに向き直り、スカートの裾を持ち上げて二人同時にお辞儀をする。

「「初めまして」」

「あたしはタータ」

「アタシはナーナ。よろしくね。たくさんたくさん、あそんでね」

「ここに来るひと、少ないの。だから、長くながぁくあそぼうね」

 少女の片方が指を上に伸ばしてくるくる回すと、そこからいくつも光の輪っかが生まれ、彼女はそれをえいっと可愛らしい動作でこちらに投げつけた。


 ヒュンヒュンと音を立ててまわる小さな輪っかが一つ二つ飛んできたが、避けれないスピードではない。部屋の隅っこで大人しくしているニーナは元より、シャロンとアルフレッドもひょいひょいと身を躱すと、それはカーブを描いて投げた少女の手元へ戻っていく。そして次の手を打たれる前にと距離を縮めようとしたが、

「うわあナーナずるいよう」

あたしもあたしもともう一人が取り出し投げつけた小瓶、そこから床一面にどろりと広がった謎の液体に二の足を踏み、気を取り直して再び剣を構えるが、

「むうっ。避けちゃダメじゃない!今度はもっと増やすからねっ」

腰に手を当てて、頬を膨らませ、さらに輪っかを増やして飛ばしてくるナーナの横で、きらきら瞳を輝かせてこちらを窺うタータ。


「アル、手早くすませよう」

「……ん」

 そしてもう一度双子目掛けて足を踏み出そうとした、が、液体は避けたはずなのにねちょりと足は床に張りついて動かず、そこへ先ほどより数の増えた光輪が襲いかかってきた。

「くそッ」

 剣で叩き落とすと、その輪はぱっと光を飛び散らせて消える。きゃー、すごーい、これもこれも!と調子に乗ってさらに光輪の数を増やしてくるナーナ。ねちょねちょとくっついてくる床は、動きが取り辛く、避けきれなかった輪っかが腕や足の一部を斬り裂いていく。

「……」

 アルは双子を睨みつけ、腰のナイフを抜くと、タータ目掛けて投げつけた。


 狙い違わずザックリとナイフがタータの腕に刺さり、少女は目を潤ませる。

「ふえええん、こわいよう!」

「大丈夫よタータ。どうせあいつらあそこから動けないんだから」

 慰めるナーナの表情は余裕に満ちている。いや、さすがにこんな状態では終われない。

「アル!」

 声をかけて上着を脱ぎ、床へ置くと、察したアルがその上に飛び乗って双子へと肉迫する。


 キャアアアアッと耳をつんざくような悲鳴が聞こえ、アルフレッドの剣がナーナの肩から胸にかけて斬りつけた。

「あ、あ、ああああ………お気に入りの服がだいなし」

 最後は冷静に呟いてナーナは手の爪を鋭く伸ばし、アルの胸を抉るため振り下ろした。咄嗟に風を使い、スッパリと斬ったため爪は届かず、同時に彼も飛び退る。

「ナーナぁ」

 ぐすぐすと涙を袖で拭きながら、タータは胸元から女の子の人形を取り出しキスをした。不吉なものを感じたので足をなんとか床から離そうと努力しながらこちらもタータと人形を風の刃で斬りつけるが、残念ながら効いたようには思えなかった。


 人形はふわりと浮き、手に硝子の爪を生やしてこちらへと襲いかかってくる。剣で応戦するがちょこまかと動いてなかなか致命傷を与えることができない。アルフレッドはナーナに斬りつけたが、その剣も弾かれた。

「アタシたちは変わらず在りつづけるかぎり、決して負けないの」

 にやりと笑い、爪を振るうナーナ。タータがそこから一歩離れ、物悲しいメロディで歌うと、子ども部屋からくまやうさぎの人形たちが現れ、こちらへと向かってきた。


 本来ならファンシーな光景だが、針を全身に纏ったものや、ナイフを構えたものが続々と近づいてくる様子には怖気が走る。


 なんとか粘着質の床から踏み出し、人形へと剣を向ける。

「あたしのお友だち、いじめないで!」

 タータが悲鳴を上げて跳躍し、背中を思いきり踏みにじった。こっち、はどうなる。


 体ごと張りついたシャロンが、それでも目いっぱい腕を伸ばし、力を振り絞ってタータに、強く鋭い風の刃を放つと、タータの首が、取れてごろりと床に転がった。

「ふ、う」

 あまり気持ちのいいものではないが、やっと一人、と思ったが……すぐにむくりと少女の体が起き上がった。

「あ、取れちゃったよお」

 とてとて、と首の傍により、持ち上げてもう一度体にくっつける。


 その向こうでは、かなり息のあがったアルフレッドがナーナの体をバラバラにしていたが、その体は動き、再び同じようにくっつき始める。

「な、なんなんだ、いったい」

 宝石はどこにあるんだ……と途方にくれたように呟くシャロン。アルフレッドはナーナの首が戻らないよう剣で縫いとめているらしく、その下でバタバタと暴れている。


 と、そこへ――――――

「ありましたよ、宝石が」

先ほどからずっとどこかへ行っていたニーナが、子ども部屋から年代物のオルゴールを持ち出してきて、こちらへ掲げて見せた。確かに蓋に大きな緑の宝石が、くっついている。


「あ、あ、それは……」

 剣の下でもがいている首が悲鳴混じりの声をあげ、タータが慌ててニーナの元へ走り出す。

「やめてぇ、壊さないで。そ、それがないとあたしたち消えちゃうぅ……」

 オルゴールを今にも壊さんばかりのニーナに、二人は涙ながらに懇願する。

「それは、できません。これまで、ここで犠牲になった人たちのためにも」

 いつものごとく表情を変えずにニーナは宣言して、オルゴールを床へと叩きつけた。


 ガシャアアアン、とオルゴールは激しい音を立てて壊れ、パフッと音がして浮いていた人形たちが下へ落ちていて、あの双子は……もうどこにも姿が見えなかった。

 双子の魔物……ナーナは攻撃力、タータは独創性のある魔法力と魔法耐性に長ける。

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