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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 裏腹な泉

 ごく軽いですが戦闘シーンがあります。苦手な方ご注意ください。
 長いような短いような時間が過ぎていった。

「くそ、また行き止まりか」
 嗤うかのようにそびえる壁を蹴りたいが、その体力も惜しいので踵を返し新たな道を選択する。

 一定の重さで落ちる床や、鋭器が飛び出す仕掛けなど陰険な罠、休む暇もない魔物たちの襲撃。まともな思考能力すら鈍りそうな中で、唯一ニーナだけは冷静さを失わずにいることができた。その変わらなさは、もはや異常とすら言える。

 ザカザカと音を立てて全身骸骨の蟷螂が二体現れ、襲いかかってきた。この戦闘も何度繰り返したことか。

「く、外した。アル、そっちに!」
 一方はなんとか倒したものの、断末魔のブレスにやられ、意識が飛びかける。視界の片隅で、アルが鎌を剣で受け、はじかれた次の瞬間床に伏せていたニーナの体に、魔物の大鎌が――――――。
「ニーナ!」
 叫んで剣を投げ、軌道は逸らしたものの、その鎌が彼女を切り裂いた。
 ほぼ同時にアルフレッドが迫り、腕を斬られながらも骸骨蟷螂の中心部を砕き再起不能にしたのを見たシャロンは、まずニーナへ駆け寄り、抱き起こす。
「おい大丈夫かッ」
「うぅ……」
 彼女から大量の血が……出てないどころか服が切れているだけだったので即座に横たえて、腕を縛り止血しているアルの元へ行く。
「……状態は」
「平気。大分止まってきた」
「嘘言え、まだこんなににじんでる!」
 眦が熱くなるのを堪えながら必死で布をさらに巻き、出血箇所を圧迫していると、気がついたらしいニーナが、私がやりますと言いながらおぼつかない手つきで押さえたので、任せることにした。

 アルは半端なく嫌そうで、睨みつけてすらいるが、ニーナが手当てをすれば傷の治りが驚くほど早かった。それがどういった力にせよ、本来ここまでの傷と出血は、いつ魔物の手に掛かってもおかしくないほど。
 もう使えるものはなんでも使わせてもらおう、とシャロンは疲弊して鈍くなりがちな頭でそう考える。

 この判断が間違いでないことを願うばかりだが。

 他の魔物が集まってこないうちにと、その場を後にして歩き続けていくと、幸運なことに淡い光を放つ泉へと辿り着いた。

 時間の感覚がなくなっているから自信がないが、随分前、に来た場所だった。なぜかこの泉の近くは魔物が寄ってこない。

「そろそろ水が……これが飲めればなあ……」
 シャロンは光を放ちながら湧き出る透明な水をうらめしげに眺めた。前の時試しに手を入れてみたが水が怖ろしく熱く、とてもじゃないが汲めたものじゃなかった。飲めそうな気もしない。

「アル、靴。あと、ニーナはローブか」
 パカパカに口を開けた靴底に太い紐で応急処置を、ボロボロになってきたローブは針と糸で簡単に縫っておく。貧乏生活の知恵が役に立ってよかった。

「……」
 ローブを繕っていると、魔物にやられた痕跡は決して少なくないのがよくわかる。アルフレッドの物問いたげな視線も感じたが、シャロンは無言で修繕を終え、これまでほぼ怪我をした様子がないニーナに渡しながら問いかける。
「記憶のことなんだが……何かとっかかりはないのか?前にもこんなことがあったような気がするとか、見覚えがあるものなんかは?」
「……いいえ」
 ニーナは静かに首を振ったが、なんとなく嘘だな、と雰囲気で直感した。まあ、もしこの状況で景色に見覚えがある、とか言ったらますますあやしまれることは疑いない。

 ニーナは言葉を続けて、
「でもなぜかあまり怖くはないんです。この先にきっと、私の願いの終着点がある……そう信じたい」
じっとまっすぐな眼差しでこちらを見つめてきた。その迷いのなさは、少々うらやましい。
「……僕たちは、まず何よりも無事で帰ることを優先する」
 そっけないアルフレッドにもめげず、それはわかってます、との静かな返事があった。
「残り三日になった。行かないと」
 アルが静かに私たち二人を促したので日数がわかるのかと問えば、だいたいわかる、と返事があった。なんだか悔しい気がしつつも身支度を整えると、ニーナがなぜか引き留め、
「あの、私……この泉がキーポイントなんじゃないかと思います」
と爆弾発言をした。

 ちなみに爆弾というのは火種と火薬からできている新種の武器なので、“爆弾発言”という言葉自体一部の階級にしか意味が通じない。

「え、と。この泉か」
 確かにいかにも何かありそうだけれども。
「でもここは調査済みじゃないか」
 底まで透明な泉を覗き込んでみたが、特に変わった様子はない。しっかりと手袋をして、手を突っ込んでもみた。
「つっ冷たッ。……あれ?」
 もう一度泉を凝視する。やはり特に変わった様子はないが……。
「……冷たいね。前とは違う」
 アルフレッドも泉の水を確認して、ついでに周辺をぐるりとまわったかと思うと、手頃な石を掴み、投げ入れた。バシャッと水が跳ねて石は沈んだが、泉に変化はない。というか、沈んだ石すらない。
「ニーナ、ちょっとここに」
 どんな風の吹き回しか、泉の中央を熱心に観察しているアルがニーナを手招きして呼んだので、彼女も素直にそちらへ行って泉を同じように覗き込んだ。
 と思った次の瞬間、アルがニーナを泉に力いっぱい突き飛ばした。

「おい、何やってる!」
 慌てて駆け寄る間もなく派手に飛沫をあげてニーナが泉に沈み込むが、すでに彼女の姿は影も形もない。じっとその様子を見ていたアルが今度はこっちの腕を掴み、自らとともに泉の中へ引きずり込んだ。

 沈み込んだ水の中で熱いのと凍えるような冷たさが同時に押し寄せ、その波が去ると、なぜだかこれまでの疲労が拭われ、体に力が満ち溢れるのが感じられた。
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