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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 通行の注意事項

 今回やや短めです。そして戦闘シーンがあります。
魔物を避けながら進み続けてしばらくすると次第に物音は遠ざかり、いつのまにか辺りは怖いほど静まり返っていた。
 青白い光を放つ灰色の通路は、魔物や死体がなければどこか現実離れした場所に感じられる。光っているのは周囲だけで、その向こうは暗く見通しが立たない。

 分かれ道でじっと先を見つめていたアルフレッドが右側を選び、その後ろについて歩き続けていると、遠くの壁に何か貼ってあるのが見えてきた。近くまで来ると、

《騒音禁止》

白い紙に不気味な文字でこう書かれている。
「      」
と、思わず疑問が口をついて出たが、何も聞こえなかった。
 アルフレッドが顔色を変え、何かを叫びながら突然こちらを突き飛ばす。

 シャカシャカシャカ、と音の立ちそうな動きで、先ほどまでいた空間を骨と髑髏どくろの蟷螂のような魔物が通り過ぎ、再び戻ってきた。ここまでまったく無音。耳の痛いほどの静寂が続いている。

「    !」
 口の動きで察したらしいニーナが床に伏せたので、剣を抜き、横薙ぎに風の刃を繰り出した。右の鎌が斬れ落ちたものの止まらず、間合いを詰めて斬りかかったアルを寸前で避け、横の壁に取りつき鎌を振り上げたのでそれを防ぎ、続いてアルが脊髄を打ち砕いた。
 床に転がり落ちた髑髏はガタガタと歯を揺らしているようだったが、やがてごろりと動かなくなった。
 アルフレッドはまだ警戒を解かず、通路の先の暗がりを睨みながら剣を構えている。

 今度は後ろにいたニーナが突然腕を引き、シャロンは大きくバランスを崩したがなんとか立て直す。
「  」
 避けきれなかった腕に何か、おそらく人のであろう歯型、その歯だけががっちりと食い込み、ギリギリと噛み締めてきた。
 それをなんとか剣で砕いたものの、アルフレッドも太ももをやられたらしく、ズボンがみるみる血に染まっていく。

 まず手当を、と叫ぶが、空しく空気だけが吐かれる。このままでは……。

 シャロンは一縷の望みをかけて剣を振り、壁にあるあの貼り紙を斬り裂くと、特に抵抗もなくその紙は破れて床へ落ちた。
「アル、大丈夫か!?」
 途端に声が戻り、遠くでざわつく音がどこからともなく響いてくる。

 急いで近寄り傷の具合を見ているとニーナも来て、預けていた例の酒を取り出し、アルの傷口に振りかけた。
「つッ」
「すぐに布を巻きます」
 破片が刺さってないか調べてから手際よく布を包帯として巻いていく。
「シャロンさんも」
「……ああ、頼む。そっちのケガは」
「擦り傷程度で、大したことはないです」
 彼女のローブの腕部分がパックリと避けていたものの、その下の肌はうっすら血がにじんでいるぐらいで済んでいた。

 しかし、うらやましくなるぐらい白くてすべすべした肌だ。

 シャロンは痛みを堪えつつ、陽に焼け、しかも引き締まった筋肉のついた自分の腕を見た。まあ、これはこれで味があっていいと思うことにしよう。

「そんなことしてる場合じゃない。今すぐここを抜けないと。……あれを見て」
 アルフレッドが指差す先には、切り裂いたはずの紙が、同じ場所に、今度は《魔道具禁止》とくっきり書かれていた。


 それから苦労しつつもシャロンたちはなんとかその場所を抜け、再び死体の転がる通路へ戻ってきていた。
 《魔道具禁止》の貼り紙は風の力が使えなくなったり、武器の斬れ味が鈍ることはあったがそれほど被害なしで進むことができた。

 傷口の血が止まり、痛みも感じなくなったので、服の袖を捲りあげもう一度確認してみる。
 おそるおそる布を解くと、なんと噛み傷は綺麗さっぱり肌から消え失せていた!

「……って、なんだこれはッ」
「あの、どうかしましたか?」
 ニーナが不思議そうにこちらの顔色を窺ってくる。
「いや、どうしたもこうしたも……アル、そっちも見せてくれ」

 やはり足に巻かれた包帯の傷は消えてなくなっていた。

「特におかしなところはないような気が……」
「いや待て。人間、こんな簡単に傷が治るもんじゃないだろう」
「え、普通すぐ治るじゃないですか」
 きょとんとした様子のニーナ。どうも、冗談で言っているような顔ではない。
「こんな感じで」
 ローブの切れた部分を開いて、例の擦り傷を見せてきたが、そこはすべすべとしていて擦り傷どころか瘡蓋かさぶたすらない。
「普通こんなにすぐは治らない」
 アルも異様なものを見る目でその肌を見た。……よかった、一瞬どちらが本当かわからなくなるところだった。
「え……そんな」
 ニーナはショックを受けた様子で黙り込み、どこか虚ろに視線を彷徨わせた。

「で、シャロン、どうする」
 やけに低くアルが尋ねてきた。顔が怖いよ、お前。
「どうするもこうするも……ものすごくあやしいには違いないけど……一応信じると決めたから」
 はっとニーナが顔を上げ、嬉しそうにする。

 しかし、信じると決めておいてなんだけど……この状況、私の手に負えるんだろうか……。仮に、もし仮にだが、彼女が敵で、いきなりわけのわからないことを言いながら襲ってきたらどうすればいいんだ?

 思わずアルと目を合わすと、決意を込めた眼差しで見返してくる。

 そうなったら、そうなった時だな。と、こちらも頷き返して、ニーナの肩を叩く。
「ニーナ、大丈夫だ。いざという時の心づもりはできた」
「……いざという時が、永遠に来ませんように」
 彼女は手を組み合わせ祈りの文句なのか口の中であまり聞いたことがない言葉を呟いて、
「じゃあ……行きましょうか」
と促したので、通路の先の暗がりを見据え、地下六階の探索を続けることにした。
 極限状況なのでシャロンは棚上げすることにしました。

〈補足〉
 貼り紙……破ると周辺エリアの禁止事項が変化。《魔法禁止》《武器使用禁止》《抵抗禁止》など。
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