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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 彼女と私

 今回短めです。
 後悔先に立たずとはよくいったものだ。

準備していた品々を取りに、宿に帰った時点でふと冷静に返り、ニーナの話の胡散臭さに頭痛がした。
苦しい生活から抜け出したいと、つい高利貸しに借金をした人の気分そのものになって彼女の元へ戻れば、フード姿でさりげに注目を集めているその存在が痛い。
「どうかしましたか」
「……いや、ニーナはこれまでどうしてたのかと思って」
「ああ、そうですね。あれからいろいろな方に依頼をしたのですが……なかなか引き受けてくれる人がいなくて。浅い階層ならともかく、地下三階以降は同行を頼んでも断られたので、情報を集めることに専念していました」
 彼女は(言ってることが本当だとして)記憶喪失の弊害なのか他の理由からか、やけに感情の起伏が乏しく可愛らしい顔立ちなだけに、まるで人形みたいに見える。それに加え――――――
「このまま行くのか?宿に戻ったりは……」
「特にしません」
ローブの下は酒場でちらっと見たところ、か~な~り軽装だったはずなんだが……。
これから迷宮に行くっていうのに腰に小さなカバン一つ、武器も短剣のみ、という心許なさ。
 あれか。例の、リリアナと同じで実はすごい百戦錬磨の強者だったりするのか!?

 ……そうでもなさそうな気がする。

あまりに持ち物が少ないのでこちらの食料や水などの荷物を持たせると、素直に従った。
脳内突っ込みもむなしくなってきたので、一応本人に確認をとってみる。
「この装備……ニーナはよほど体術ができるんだな」
「いえ、私は、武術はあんまり……」

詰んだな、これは。

 戦略的遊戯グロースで前触れなく王手をかけられた気分になりながら、彼女には絶対に無理をするなと言い聞かせて町を出た。

こうしているあいだにもアルは苦しんでいるかも知れない、まさかまったく戦えないわけではないだろう、と引き返したくなるその心を必死で抑え、自分を励ましながらミストランテの内部へと向かう。

 地下一階、二階は大した魔物も出て来ず、地下三階の無数の文字に彩られた迷宮を進む。ここまでほぼ一人で戦ってきたといってもいい。フードを下ろしたニーナは邪魔なることはなかったものの存在感薄く、そのせいか真っ先に魔物が狙うのも私だった。

「なんだか壁の落書きがやけに増えている……特に悲惨な言葉が」
 そうですか?と呟いて首を傾げるニーナの、その足元の×印も前は見かけなかったような……。アルがいればもっと細かい点まで気づいたんだろうが……。

 わけのわからない不安で暗くなりそうな心を引き締め、ぎゅっと奥歯を噛み締めつつ歩き続けて地下四階へ到達した。

「さっそく女神の扉へ向かう。どうだ?」
「なんとか、足手まといにはならないようにします」
「……」
 ため息を吐きそうになったが堪えて例の流水トラップを解除し、溝に掛かるはしごを下りる。

 ズルッ。

 振り向けば、ニーナが足を滑らせたらしくはしごにぶらぶらとぶら下がっていた。
「……本当に大丈夫か?」
「ええ。滑っただけなので、問題ないです」
 別の意味で不安が募りながらも庭園を抜け、四つの石像の部屋まで来て、あらかじめ手に入れていた冒険者の像を設置して奥へ入リ、階段を下って女神の扉の前へ。

「……開けます」
 ニーナが腰のカバンからコインを取り出し入れると、一瞬だけ扉が光り、ゆっくりと開いていく。

 なんだ今の、と疑問に思ったが、
「シャロンさん、早く」
ニーナが隅の大きな石像に手をかけ呼んだのでそちらへ向かい、よいしょっと真ん中の台に乗せて両脇へ立つ。

 すると祭壇奥の壁が前と同じように開き、白く照らされた部屋と下り階段とが姿を現した。

 なぜだろう。以前はなんともなかったのに。

 その白い空間を覗き込んだ途端、全身が震え、ガチガチと歯の根が合わなくなった。ニーナは一度手を爪の色が変わるぐらい握り締めてから、
「シャロンさん」
黒い瞳でこちらを見つめ、ゆっくり差し伸べてきた。
「ばらばらに飛ばされてはかないません。手を握っていれば、なんとか一緒にいられるのではないでしょうか」
「……」
 その手を握り、二人で中へ進んでいく。すると――――――部屋の床に黒い魔方陣が広がり、辺りは一面闇で覆われていった。




 気を、失っていたのだろうか。

「声が、聞こえますか?しっかりしてください」
 ニーナの呼びかけではっと意識を戻せば、辺りには暗い闇が広がり、ぼんやりとした青白い光が通路を照らしていた。
 血と、腐った肉の匂いが鼻孔を刺激する。飛び散っている茶色い染み、床に散らばるぶよぶよしたもの……。吐き気を堪えてそれらから目を背け、ニーナに向き直ると、無表情だがどことなく心配そうにも見えた。
「だい、じょうぶだ。ここが地下六階、なのか?」
「さあ……わかりません。でも、ここからすぐ動いた方が」
 言われて気がつく。ザッザッザッと規則正しい足音が近づいてくる。それから、武器か何かだろうか、ガチャガチャと硬いものがぶつかる音も。

「そうだな、行こう。アルを探さないと」
 シャロンはじっと通路の先の暗がりに目を凝らし、罠がないかチェックして急ぎこちらへ向かってくる何かから遠ざかっていった。
 次回に続きます。
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