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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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〈地下六階  i  r  o  〉

 今回今までよりきつい残酷描写、グロい表現やホラー要素が多々あります。
 苦手な方は読むのをご遠慮ください。この話を読まなくても、多少謎は残れど本筋に影響はありません。

 ※アルフレッド寄りの視点です。
 黒い光に包まれた、と思った次の瞬間、アルフレッドは一人で青白く光る赤錆色と灰色のまだらの石の通路に立っていた。濃密な血と腐った肉の匂いが、辺りに充満している。

 飛ばされた。

 地下三階での経験からそう判断し、耳を澄ます。遠くのくぐもった悲鳴、そして引きずるような鈍い複数の足音。それは腐臭とともに、徐々に近づいてきていた。

 即座に踵を返し、慎重に走り出す。走るうちに飛び散る錆色の模様が血の跡だと気づいた。ぶよぶよと腐った肉片らしき物もところどころ見られる。

 次第に通路は薄暗くなり、分かれ道へ出た。ガサゴソ何かが這いずりながら近づき、やがて角を曲がったのか遠ざかっていった。

 さて、二つの通路は暗く、何のしるべもない。暗闇に目を凝らせば、一方の床と天井には無数の穴が空いていたため、別の道を選ぶ。

 しばらく仄暗い道をカツカツと早足で歩いていると、壁にもたれかけている人影を見つけた。が、すでにこと切れている。腹にえぐられた跡があり、絶望が顔に色濃く残っていた。

 腰には刃が湾曲している刀剣、そしてカバンを持っていたので使えるものがないかを探る。残念ながら食料は一欠片もなかったが、中身の詰まった財布が出てきた。
 こんな状況ではまさしく無用。アルフレッドが財布を床へ投げると、バラバラと金貨銀貨が散らばった。水もないことにため息を吐いて立ち上がり、もう一度辺りを確認する。
「……?」
 さっき放り投げた金が忽然と消えていた。

 唖然としたが、ズズッ、ズズッと不吉な音が近づいてきたので、すぐにその場を離れて先を急ぐ。
 通路はどこまでも続いているかのように思えたが、唐突に曲がり角が現れた。道には顔や腕のない死体が無残な姿で転がっている。

 迷わず死体をまたぎ、罠のない通路を選択する。ガサガサと虫の這うにしては大きい音が近く聞こえたのでそれも避けて進み続け、どのくらいたっただろうか。

 前方の床にボロ雑巾……のような物体が見えてきた。近づくとそれは人で、口からひゅうひゅうと息が漏れている。かろうじて息はある、が……。
 体をえぐられ、死を待つばかりの男の側に寄ると、二股に分かれた道の一方を指したので、その先を窺えば、かすかに斬り結ぶ音が聞こえてきている。
「……な、かま」
 それだけやっと言ってこと切れた男を後に急げば、痩せ細った男が一人で、頭が髑髏で両手足が鎌になってい奇妙な魔物と戦っていた。
「避けろ!」
 大声を出し間合いを詰め、首の脆い部分を狙い討つと一撃で頭蓋が割れ、魔物の体が傾いだ。やったか、と思ったのもつかのま、すぐに体は体勢を立て直し、こちらへと鎌を振り上げる。
「くッ」
 全体に細い骨で、背中で手足が繋がっている。体をひねり、鎌を躱しざま背中を砕けば、手足が散らばり床に落ちた。それらはくっつこうともがいているのかバラバラな方向へ行き、やがて動かなくなった。

「あ、あああ、あ」
 痩せた男の目には涙が、歓喜と不安の両方に彩られていた。幻でも見たかのような表情に先読みして、
「君の仲間から助けを頼まれた。僕は幻じゃない」
と言うと、双眸からぼろぼろと滴がしたたり落ちていく。

「あ、ありがたい。もう、駄目かと……」

 茶髪でボロボロの皮鎧をまとう男はグィード・ダッツァと名乗り、三日前からここに閉じ込められている、と語った。アルフレッドが皮袋から水を少し分けると一気に飲み干し、
「俺だけじゃないんだ……本当はもっといたんだ。みんな、別れ別れになっちまって、もう生きてるのかどうかすら……」
嗚咽を堪えて鼻をすすり、小さく頭を振る。
「死んだ奴の食料を貰ってここまできたんだが……。剣もなまくらになっちまって」
 血や魔物の体液で汚れた剣を拾い上げ、鞘に納める。
「あんた、ここ来て日が浅いんだろうが……まず、この中は自分の位置がまったく掴めねえ。俺は迷った時のためにと、何回も何回も壁に印をつけといたんだが、それがいつのまにか消えちまうんだ。だからといって覚えておこうにも、分かれた通路や部屋の場所なんかが毎回変わりやがる……おっと、続きは後だ」
 ガサゴソとどこからか虫の這うような音が聞こえ始めた。遠ざかるようにして、廊下を先へ進んでいく。遙か先に、扉らしきものが見えたが、果たしてあれは本当に扉なのだろうか。
「だが、必ず出口はあるはずなんだ……アイリッツ、いや、俺より随分前にここに来ていた奴なんだが、そいつの言うことには、上り階段で帰った奴を見たって。あ?ああ……そのアイリッツとははぐれちまったんだ」
 顔をくもらせてグィードが言う。これまでの反動か、水を得た魚のようによくしゃべっているが……気力は持つのだろうか、などと考えていると、
「帰りてえなあ……」
ぽつり呟き、話し疲れたのか黙り込んだ。

 歩き続けていると、やがて扉の前に来た。まわりと扉の向こうに聞き耳を立て、罠と魔物がないか確認して扉を開く。するとそこは武器置き場のようで、ところ狭しと剣や斧、弓が並べられていた。
「ははは……」
 泣き笑いの表情でグィードは自分のなまくらを捨て、手近な剣を選び腰に差す。

 余分な物は持ちたくないが、それでも使えるものがないか探っていると、刃の湾曲した剣が立てかけられているのが目に留まる。飛ばされて最初に見たものと、彫られている文様、汚れ具合までそっくり同じ。

 アルフレッドの脳裏にいくつもの映像がよぎっていく。宝箱の中の青い首飾り、使用後元通りに戻された道具、落ちた金貨、そしてこの剣。

 ――――――この迷宮は、循環している。

 金や宝石など、価値のあるものは決められた場所に移動し、その役割を果たす。これまで宝箱に入っていたものもおそらくは……。
「行こう」
 グィードを促し部屋を出ると、とてつもない腐臭が襲い、アルフレッドは鼻と口を咄嗟に覆った。ずる、ずるりと体を引きずりながら、人の形をした何かがこちらへと足を運んでくる。
 幸いなことにそれらの足取りは遅く、難なく振り払い幾度か分かれ道を抜けて見通しの良い大きな通路へと出ることができた。

 道はいくつも枝分かれし、先へと続いている。試しにと自分たちが来た方角の道を選び、戻ってみる。どこか憔悴したグィードはそれに気づいた様子はない。
 道を幾度か曲がり、さらに歩き続けたが、いつまでたっても見覚えのある場所へ辿り着かなかった。

「おい、あれを見ろ!」
 グィードが突然叫んだ。道の遙か向こうがいつのまにか広い場所になっていて、明るく光っている。そちらへ向かって歩いていくと、暗くなったり明るくなったりしている道の先に、いつのまにか上り階段が出現していた。

 誰かが大きな袋を大事そうに抱え、えっちらおっちらと階段へ向かい歩いているのが、アルフレッドの目にもはっきりと見えた。
「あ、あの野郎。待て!」
 どこにそのエネルギーを持っていたのか、先を睨みつけながらグィードが走り出す。通路は明るいところから暗い場所へ。

「グィード!」
 アルフレッドの背筋をぞくりと悪寒が走り抜けた。
 暗がりには、無数の穴。そこへ飛び込んだグィード目掛けて鋭く太い針が一斉に放たれた。

 ザシュザシュッ

 串刺しになり倒れたグィードの体から、おびただしい血が流れて床を染めていく。いつのまにか前方の階段は姿を消し、辺りは静まり返っている。

 なぜ、このタイミングで現れた。

 恐怖よりも状況の不振さへの苛立ちを強く感じていると、やがて針は消え、穴から粘着性のあるうっすらと碧い半透明の物体が垂れ下がってきた。その物体は痩せた男の体に取りつき、溶かし込むと、骨を残して穴の中へと消えていく。

 ガチャリ。

 嫌な音が聞こえた。

 残された骸骨は剣を支えに、軋みをあげながら立ち上がり、やがてゆっくりとこちらを向いた。そこにはもはや、グィードの面影は、ない。

 体をガチャガチャ言わせながらおぼつかない足取りでやってきた骸骨を、アルフレッドはせめて二度と蘇ることがないようにと剣を構えた。

 これが、仕組みか。人も道具も金もすべて持ち去られ、使われていく。この迷宮を、維持するために。

 骸骨を木端微塵に砕きながら、シャロンたちのことを考える。二人が生きている可能性は、これで限りなく低くなった。しかし……。

 ――――――シャロンが死んだという確証が得られるまでは。

 きっと足掻き続けるだろうなと、アルフレッドは自嘲気味に笑った。
 刃が湾曲した剣……キリジという相手を断ち切ることに秀でた剣。長さは大人の膝から踵ぐらいまで。
 手足が鎌で骸骨の魔物・サイデル……骸骨二体を魔力によって繋ぎ合わせた魔物。本来は強敵だがこの個体はかなり疲弊していた。気絶のブレスを持つ。

〈この階層に出口の上り階段が出現する条件〉
・ここへ来て高価な品を手に入れ、悲惨な目にあっていない、もしくは情報を洩らすことのできない精神状態にある。
 上の条件且つ、視認できる位置ですぐに駆け寄ることのできない距離に他の冒険者がいる。
+注意+
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