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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 さまざまな価値観?

 彼らはグダグダ中。
 どれほど価値のある彫刻でも、持ち出せなければ意味がない。
「こういうのをなんて言ったかな。絵に描かれたごちそう、もしくは宝の持ち腐れ?」
「知るかよ畜生。こうなったら、価値は下がるが……」
 グレンは置かれた彫像を見て回り、ひと抱えほどもある黄金の女神像をわざわざ持ち上げ、砕こうと力いっぱい床に叩きつけた。

 ゴィン!!

 音を立てて転がった彫像は、残念ながらヒビすら入っていない。
「あああ、イライラする」
「落ち着け。無理なものは諦めて、地下四階の石像の部屋の台座に、符合しそうなのを探そう」
「おまえなあ……あのアル坊もそうだが、これだけのお宝前にしてどうしてそう冷静でいられるのか不思議だよ」
 そういやアルは……と見れば、黄金像に頓着した様子もなく、淡々と置物の大きさを調べたり、持ち上げて重さをチェックしたりしている。
 グレンもそれを見て、あいつの欲求は一部に偏りすぎてるんじゃないのか、などとぼやき、まだ未練がましそうにしながらも、大きな彫像の合間に転がっている持ち運びできそうな地味なのを調べ始めた。

「あの台座、確かそれほど大きくなかったよなあ……お、こんな感じのでどうだ?すごいぞこれは」
「それだとバランスが悪すぎる……設置できない」
 やたら胸の大きい裸婦像を持ってきてすげなく断られ、じゃあこれはどうだ、長すぎる!?おまえ本当に大きさわかってんのか、ただ反発してるだけじゃないだろうななどとと男二人でわいわいと楽しそうにやっていて、なんとも……。
「私はあっちが気になるんだが……」
「おう、勝手に行ってこい」
「……」
 ちらりとアルが目線を寄こしたが……それに軽く手を振って、気になっていた暗がりの、さらに価値のなさそうな彫刻の溜まり場へ向かう。

 そこには人が剣を構えたり体を庇ったりしている動きがうまく再現されている彫刻がいくつもあり、ちょっと前に売りつけられたようなヒビのあるものや、手のとれたもの、頭のないものなどさまざまだったが、中には五体満足のものもいくつかあるようだった。
「なあ、グレンそっくりなのもあるぞ」
 思わず笑うと、グレンがわざわざ近づいてきて小さな彫像をじろじろ眺め、
「なんだ、斧持ってるってだけだ、全ッ然似てねえよ。よく見ろ。第一、こいつは眉毛太いし鼻がでかいしで、かなりの不細工だろうが」
「……そうか?」
「おまえ、目をいっぺん取り換えた方がいいぞ。もっと見えるやつにな」
 そう鼻を鳴らすグレンの横にアルも来て、じっと小さな石の彫像を見つめ、持ち上げた。
「これ、いいんじゃないかな。少なくとも、大きさ、形はあってる」
「そうなのか。どうりで他のとは違う感じが……」
「後付けだろ、そりゃ」
 グレンが余計な突っ込みを入れる。シャロンはその、必死の形相で斧を掲げた石像に傷がないか確かめて、
「それじゃあ、この小さなグレンは壊さないように慎重に運ぼう。しっかり守ってやらないと」
「うるせぇ、黙れ。だいたい似てねえし」
 青筋を立ててストップをかけてきたので、さすがにまずいかと、それくらいにして石像をしまい、彫刻置き場の重い扉に手をかける。

「あれ、開かない。まさか……」
 いきなり体から血の気が失せた。さっきは開いたはずの扉が、閉まっている。
「マジかよ。おい、ちょっと貸してみろ」
 先程のことはひとまず遠くに置くことにしたらしいグレンが言い、
「僕もやる」
と手を出してきたアルも加わって三人で押すと、ぐぐっと弾力のある手ごたえがして扉は少し動き、タプンと何かが揺れる感触が伝わってきた。
「こりゃあ……向こうは水か。しかも、まだそれほど深くなってないとみた」
「今ならまだ、出られる、かも?」
 なぜ疑問形……ていうか出られなかったら終わりじゃないか!
「よし、それじゃ一気に開けよう!」
「おう、せーの!」
 三人で再び力を込めるとグググッと扉は開き、部屋の中に一斉に水が押し寄せてきた。と、思いきや、まわりに細く深く掘られた溝に沿い、溜まらずに下へと流れていく。
「お、助かった、行けるぜ」
 グレンがバシャバシャと浅瀬をドアに向かって歩き、それに続く。

 大部屋に戻ると、誰かが水門を開けたのか先ほどまでより大幅に水が減り、長く黒い影が底から姿を現し、ぬめりのある黒い体と背びれを見せ、再び底へ潜っていった。

「……でかい。なんだありゃ」
「ウナギ?」
 グレンの呟きにアルフレッドが首を傾げて答え、なんだか緊張感が台無しになった。
「ウナギ……ウナギってなあ、違うだろ!ここはやっぱ水竜とかいうべきだろうが!」
「え……そう、かな。でも、丸焼き……」
「頼む、もうやめてくれ。わかった、すぐに休憩にしよう。そこでパンでも食おうじゃないか」
 さらに言い募るアルフレッドの暴走をなんとか抑え、細い壁際の通路を無事渡り終えてそのまま地下四階へ上がり、すぐ側の小部屋で休憩を取ることにした。

 そういえばここは、ライオネルたちと会って、コインを貰った場所だったなあ、とシャロンはうっすら思い出した。
 まだあれから十日も経っていないが、遠い昔のことのような気がする。

 アルフレッドが干し肉を取り出しさっそくかぶりついたので、こちらのカバンに入っているのを出して予備用に彼に渡してから食べ始めた。

 グレンが硬そうなパンをかじりながら、ここで他の冒険者が来たら間抜けだよなあと言っていたが何事もなく休憩は終わった。
 三人で地下庭園まで行く途中、また他の冒険者の一行とすれ違ったがほとんど会話せず通り過ぎ、地下庭園から蔓薔薇の扉を抜けて移動する。

 そして再び三つの石像、四つの台座がある広間へと来て、何も乗っていない台座に、例の彫刻置き場から持ってきた石像を嵌めるとピッタリと嵌り、台座ごと横へスライドし、その奥から一回り小さな扉が現れた。

「隠し扉か」
 グレンが呟き、窮屈そうにしながら小さい扉をくぐる。それに続いて同じようにくぐると、そこは狭い空間になっていて、右横に地下五階への下り階段があった。

 そしてそれを下りきると、見覚えのある無機質な文字で、壁に文字が刻まれているのを発見した。

 〈Ⅴ-37 対の迷宮〉

「この文字……こんなところにあったのか」
「そうだな。まさかこんなところにあるとはなあ……しかし37人、か」
 グレンが同じように呟き、隣の鳥の彫られた扉を見つめる。
 コインを入れて扉を開け、左へ曲がっている通路のその真ん中に、手を差し伸べる女神の姿と、複雑な透かし彫りの描かれた、今まで見たどれより豪華な扉があり、これまでと同じように取っ手にコインを入れる穴が造られていた。
「これはすごい」
「……うん。きっとあの水門をすべて開くと、女神のコインがあって先へ進める仕組みになっているんじゃないかな。他に隠してある場所の見当もつかないし」
「おまえらのんきなこと言ってっけど、あのでかい怪物はどうするんだ。水を全部抜いて、あそこに下りて戦うことになったらどうする」
「う。それは、その……なんとかするしかないだろう?」
 シャロンはあのぬるぬる黒光りする大きな体、立派な背びれを思い浮かべ、気が重くなったが……いやいやこの三人ならいけるはずだとなんとか気持ちを上向きにする。

 グレンもうんざり顔でいたが、なぜか隣のアルは瞳を輝かせ、
「シャロン、頑張ろう」
と声をかけてきたので、思わずグレンと顔を見合わせ笑ってしまった。
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