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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 探索への駄賃

 いつもの朝練を終えた後アルフレッドに朝市での買い物を頼んだシャロンは先にギルドへ向かい、待ち合わせより早い時間に着くと、すでにグレンがいて、テーブルの上にずらりと酒瓶を並べていた。

「何考えてるんだいったい」
 思わず突っ込むと、にやりと笑い、
「いやいや、一晩よ~く考えておれは悟ったのさ。……あのやたら陰湿な迷宮を楽しむには、とっときを持ち込むしかないってな」
「……あの中で酒盛りを楽しもうって奴はお前ぐらいしかいないと思うが」
「いや、そんなことないさ。現に地下一階では最近頻繁にあるらしいぞ。前より冒険者の被害も減ったし、お宝も増えてるって話だ」
「ちょっっと待った。確か、地下四階までは調べ尽くしたはず。そんなお宝なんてどこから湧いて出た」
「さあな。案外、新しい魔物のドロップ品とかかも知れないぞ。調べてみるか?」
「地下四、五階で手一杯なのに、そこまで広げられるか」
 からかうようなグレンにぼやいて向かいの席に腰を下ろす。

「だいたい、ちょっと前までは行方不明者が出ているとか、深刻そうだったじゃないか」
「あ~、あれな。つい先ほど仕入れた情報だが、どうやら何人か迷宮から帰ってきてるらしいぞ。しかも、金細工の彫刻やら宝石やらの高価な品々を持ち帰ってきたって話だ。はぐれた仲間が戻らねえって言い張る奴もいるらしいが、どうだかなあ……本当にはぐれた可能性より、裏切りにあったっていう線が濃厚だと思うぜ。一生もんの金品だ。目がくらんでもおかしくねえ」
 テーブルに並べた酒瓶を、そのまま持っていくのかと思いきや、一つ一つ味を吟味してから皮袋に流し入れていき、最終的に残ったものはほとんどその場で飲み干してしまった。
「ふう。体調さえ万全なら、こんなもん水と同じだ」
「呆れたな……」
 と、ちょうどそこにアルフレッドが帰ってきて、こちらに灯油や携帯食料などを渡すと、朝市で手に入れた自分用の朝食をドサリとテーブルに並べ、席についてさっそく食べ始める。
「お、おまえ気が利くなあ」
 それを見たグレンも干し肉の大きな塊に手を伸ばして頬張り、あっというまに男二人ががつがつ食事をむさぼり食う、なんとも優雅ではない光景が広がった。
「もう、勝手にしてくれ……」
 食欲の失せたシャロンは、それでも食べなければ体力がつかないので、カバンからパン一欠片と小魚の燻製を取り出し、瓶にまだ残っている酒と一緒にちまちまと流し込むことにした。

 そうこうしているうちに約束の時間になり、シャロンたちは場所を変え、好事家男爵の使い、ダリル・モランを新しいテーブルで迎えることにした。

 彼は待ち合わせ時間ぴったりに入ってくると、二つ隣のテーブルの惨状に顔をしかめつつ増えた人混みの中からこちらの姿を認め、汗を拭き拭き駆け寄ってきた。

「おお、待ちかねたぞ。それで、どういった品物を手に入れたのだ」
 乗り出さんばかりのモランに、袋から取り出した天使の像を、慎重に手渡す。
「ふむう……これは……」
 唸りながら腰のカバンから小さなルーペを出して天使像を眺めたり、耳に当てたりしていたが、やがて像を静かにテーブルの上に置き直した。
「ま、銀貨3、4枚が妥当だろうな」
「なんだって。待ってくれ、これは遺跡の奥の方から発見した、珍しい石像なんだ。もっと高値がついてもおかしくない」
 シャロンが慌てて言い募る。これでは買い取った値段とほとんど変わらないじゃないか!
「いやいや。確かにこれは珍しい。普通の状態であったなら、30銀貨ほどの価値はあるんだ。……無傷だったならな。ほれ、ここをこうして叩くと……」
 モランが拳を石像に当てると、やけに歪んだ音が響く。
「おそらく、何度か衝撃が加えられ、目には見えないヒビが入っておる。これじゃ、高値は付けられん」
 シャロンがグレンとアルフレッドを見ると、二人とも自分と同じようなことを考えているのがわかった。

 あいつら、さてはこれをぶつけたか、落としたので売りつけたに違いない。

 無言になったこちらを見て、何を思ったのか、ダリル・モランが宥めるように、
「まあ、どうやらちょくちょく他で掘り出し物も出ているようだから、また何かよさそうな物があれば買い取ろう。ただ……やはり結果が伴わなくては、渡せるものも渡せん。今回は、これぐらいだな」
銀貨13枚を置いてそそくさと立ち去っていった。

「なかなかうまくはいかないな……」
「まあ現実なんてこんなもんだ。まだ文句言われなかっただけ随分マシじゃねえか」
 グレンが銀貨を4枚ずつ分け、これはおれの交渉分な、といってちゃっかり1枚余分に持っていった。
若干落ち込んだシャロンの頭をアルフレッドがぽすぽす叩いて、
「……そろそろ行こう」
と声をかける。
「ふう……いいな気楽で。こっちはかなり崖っぷちだってのに。もし宿代がなくなったらどうするんだ」
 そうじろりと睨むと、アルはいい笑顔で、野宿がある、と指摘してきた。

 気を取り直して、郊外にある遺跡へと戻ってきたが、確かに前より人が増え、より賑やかになっている気がしないでもない。

 人っていうのはちょっと金儲けの可能性が出てきただけでこんなに集まって、単純だなあと自分のことを棚に上げて考えつつ、遺跡の中へ入っていく。

 地下一階も、地下二階も通り過ぎたが、魔物もいつもどおりで、変わった様子はない。

 地下三階を西側の階段目指して歩いていた時、ふとアルフレッドが立ち止まり、突然予備動作なく腰のナイフを抜き放った。
「うわ、危ないっ」
「おいおい、どうした。虫でもいたか?」
 アルフレッドの側へいくと、手に何かきゅいきゅい喚くものを握り締めている。
「なんだこりゃ。えらく小さな……人形か?」
 帽子を被った小人のようなものが、苦しそうに喚いていたが、アルフレッドに握り潰され、ボフンと音を立てて消え去った。

 彼が手を開くと、こぶしの中には小さな宝石がキラキラと光っている。

「おおッこれはすげえ。おれにくれ!」
「やだ」
 即座に断ってさっさと財布の中へしまい込む。

「たぶん、前に食料盗んだ奴だと思う。まとわりつく感じがした」
 そこはかとなく嬉しそうなアルフレッドに、そういえば盗まれた時かなり悔しがってたからなあ……とシャロンはほんの少し盗んだ小人(?)に同情した。
〈地下三階の魔物〉
 魔法の小人……姿を消し、食べ物を盗む。素早さが高いため倒しにくいが、倒すと宝石に変わる。
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