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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 再び迷宮へ

 争奪戦のような食事の後、前後の見境なく酔っ払う前にと、シャロンは皿を積み重ねてテーブルの場所を空け、さっそくグレンに質問することにした。

「ところで、さっき言ってた地下四、五階のことなんだが……」
「ああ、そうだったな。まず、地下四階と五階が繋がってる、ってのは知ってるか?」
「いいや」
「……じゃあ、そこからか」
 グレンは酒瓶の底に残った最後の一滴を名残惜しげに舐めとると、足元に転がした。

「まずこれまでと違って、地下四階、五階は単独の迷宮じゃない。地下五階の、水が溜まった大部屋見ただろ?実はあの水を抜くことが重要らしい」
「え?あの水……って、かなり深くないか?いったいどのぐらいあるんだ?」
「さあな。端がたぶん6ヤールだ。ただ、真ん中はもっと深いだろうが」
「6ヤールか。うかつには飛び込めないな」
 ちょいちょい、とアルが袖を引くので振り向くと、ヤールって何?と小声で聞いてくる。
「……2ビッツだよ。1ビッツが鼻から中指までの長さ」
 こういった単位は辺境ではあまり使われず、自分自身も忘れかけていたことは、秘密だ。

「で、あそこには七ヶ所水門があってな、本来は四階南側にあるレバーで排水する仕組みだったらしいんだが、装置が壊れちまってる。ほら、あの四つの部屋があるところのやつ」
「あ~あれか。なるほど」
 シャロンはそういえばと壊れた七つのレバーを思い出した。そんなのもあったな。
「それで、だ。非常用に開閉装置が地下四階、それぞれの水門ごとに一つずつあるらしい。おれたちはそこを巡って手動で開けなければいけないってことだ。しかも、開閉装置は一定時間で戻る仕組みになっている。明らかに人手が必要なんだ」
 グレンはひと息に言ってこちらを見た。
「それで、その開閉装置の場所はわかるのか?」
「おれが知っているのは全部で四つ。だが、簡単に開けれたのは二つだけだ。装置は簡単に作動できない仕組みになってる。まあ、これは実際行ってみたほうがいい」
「じゃあ、明日か。待ち合わせはどうする?」
「朝、九つの鐘が鳴った時にギルド前でどうだ」
「わかった。アルも、それでいいか?」
「かまわない」
 それまでずっと黙って聞いていたアルが返事をすると、おまえら変わってるな、とグレンが呆れたように呟いた。

 私も変わってる人物のうちに入ってるのだろうか、と微妙に思いつつ、
「それじゃあ、明日な」
と席を立って出ていくグレンを見送った後、ふと、あることに気づいた。

「あいつ……勘定押し付けてったな」

 脱力して宿へ戻ったものの、部屋でその嫌な気分も吹っ飛び、寝台で寝られる喜びを噛み締めた次の日の朝。シャロンは日の出とともに起き、待ち合わせの時間まで鍛錬に励むつもりで同じように出てきたアルフレッドと宿近くの空き地へ向かう。

 素振り、打ち合いをひとしきり終えると、シャロンは軽く目を閉じ、瞼に焼き付いているリリアナのあの動きを思い出す。
「……」
 当人の性格はさておき、彼女のゆるやかなのかと思えば、突然はっとするような鋭さを見せる、あの舞のような攻撃を、なんとかものにできないだろうか。

 いくつかステップを踏み、どうも違うなと首を傾げているところへ、アルが声をかけてきた。
「踊りで稼ぐのは、やめた方がいいよ。みんなリリアナを見てたから、目が厳しい」
「違う!そこまで切羽詰まってない。……じゃなくて、あのリリアナの動きを真似してるんだ。あれほど威力を持つなら取り入れたい」

「う~ん……たぶん無理」
 アルの言葉が、ドスッと鈍くシャロンを打ち据えた。
「え、あ、そう、なのか?」
 あまりの衝撃にそれ以上出て来ず、黙り込む。アルはなおも続けて、
「シャロンは基本に忠実で、しかも頭で考えるタイプだから。どうしても剣筋が直線的になるんだ。彼女はその反対。自分の気の向くまま、本能に沿って動いている。だからリリアナは掴み辛い」
それからしばらく考え、
「もしあの動きを身に付けるなら、鍛錬の前に、心理的柔軟さ?みたいのが必要になると思う」
思いっきりとどめを刺してくれた。

 もうすぐ待ち合わせの時間だと太陽の位置で感じたので、アルフレッドは歩きながら、
「それに……あんな風には、なって欲しくない」
思い切ってそう言って振り返ったものの、どうやら思考の渦に巻き込まれたシャロンには届いていないようだった。

 朝のギルド前。そこには落ち込んでぶつぶつ言っているシャロンと、あまり顔色のよくないグレン、特にいつもどおりのアルフレッドという混沌としたパーティーが出来上がっていた。
「どうせ頭が固いよ……」
 アルを睨みつけてみたものの、無言で首を傾けるだけで、気にした様子もない。このままじゃいかんと頭を振り、さっきからしゃがみこんでいるグレンに向き直る。
「おい、大丈夫か?」
「ああ……ぅぷっ、ちょっと腹の調子が悪くてな……わり」
 そのまま口を押えて手近な側溝へと走っていく。
「昨日結構飲み食いしてたからなあ……」
 その背を見送りながらシャロンは思わず呟いた。

 そんなアクシデントはあったものの、三人は予定どおりミストランテの遺跡の入り口へと来ていた。
「本っ当に大丈夫なんだな?」
 念を押すシャロンの背を、グレンは笑いながらパシパシ叩く。
「はは、いや~吐くもん全部吐いたらすっきりしたぜ。安心しろ」
「あっそう」
 聞くんじゃなかった……とげんなりしつつ、遺跡の埃っぽい地下に足を踏み入れると、朝らしく大広間の露店に仕入れをしていてにぎやかだった。

 そういえばもう残り七日切った、と感慨にふけりながらも、シャロンたち三人はまた再びその下の迷宮へと足を進めていった。
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