挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

63/342

 実験室の名残

 少し魔物のグロい描写があります。苦手な方はご注意ください。
 大部屋の天井を見上げるとそこを這っていた魔物も遠くにいたので、再び細い出っ張りを交代で通って角にある黒塗りの金属製ドアまで来た。残念ながら出っ張りはそこで途切れ、しばらく先にまた続いているが、途切れた分の長さだけ、人工物っぽい板が壁に張りついている。
「仕掛けはこの向こう側にありそうだ」
 シャロンがドアを開けるとそこは小部屋になっていて、左側には犬の彫刻がなされた石の扉があり、コインを入れる穴がついていた

「……犬だね」
「ここであれを使えばいいんじゃないか」
 ごそごそとカバンを探してステイツたちから貰った犬の姿が刻まれたコインを見つけ出すと、穴へ入れる。するとすぐにコトンと中へ落ち、カチャリと開錠音がした。そのまま力いっぱい押すと向こう側へと動いていく。
「う」
 腐臭が鼻を突き、慌てて布で覆う。幅広の通路には、斬られて内臓の飛び出しかかった犬の骸があちこちに転がっている。扉の反対側を見ると、大きく口を開けた犬が彫られており、ちょうどその中にコインが落ちてくる仕組みになっていたので、手を突っ込んで取り出した。
「ふふふむ」
 先へ進もう、とアルフレッドを促すと、一瞬きょとんとなったものの、ちゃんとわかったらしく頷いた。

 左側にもドアがあったが、例の仕掛けの裏側、右の細くなっている方にある金属製ドアを開けて小部屋へ入ると、壁から二か所、鎖の一部分が突き出ていて、それぞれが一本の鉄の棒で留められていたので棒を抜くと、ジャララララと鎖の伸びる音、ガッシャンッと板が倒れたような音がした。
 反対側のコインの投入口はやけに高い位置にあったのでアルフレッドに頼んで入れてもらい、もう一度壁際の通路を確認すると、板が下りて通れるようになっている。

「あれ、行かないの?」
 いったん犬の扉を抜けてまた同じ場所に戻るとアルが不思議そうに返してきたので、
「ま、だ、左がしらふぇてない」
鼻をつまみながらそう答えた。しかし、こいつは鋭い嗅覚も持ってそうなのに、存外平然とした様子を見せている。
 痩せ我慢なのか、それとも麻痺したのかどっちだろう……とどうでもいいことを考えながら左の金属性ドアを開けると、先ほどよりさらに強い悪臭が、目の前に積まれた犬の死体から漂ってきた。

 中に入ると同時にバタン、と音を立ててドアが閉まり、同時にガチャガチャガチャ、と三つの鍵が掛かる。
 ドアは頑丈で壊せそうになく、シャロンとアルフレッドがひとまず隣の部屋へ移ると、おそらく元は一つじゃないかと思われるバラバラになった人骨とぼろ切れが散らばり、隅には金属でできたデスクと三つのスイッチが置かれていた。
 ここもものすごい悪臭で、鼻が完全に麻痺してしまったので諦めて布を仕舞う。

「このスイッチが開錠の鍵になっているんだろうけど……」
 シャロンが三つのスイッチを調べている間にアルフレッドがデスクの引き出しを漁り、二段目から袋に入った白い粉と引き出しの中に直接書かれたメモを見つけ出す。
「シャロン、これ」
「“ここまで辿り着いたが、罠に嵌った。なんとかこの部屋で薬を飲んで永らえてきたが……もう限界だ。あれほど執着した浄化薬は何の役にも立たなかった。スイッチは下から順に”か。おそらくこの白骨の主が残したんだろうが……」
「スイッチの順番を間違えるとおそらく罠が発動するパターンだね」
「そう、今それを言おうとしてたんだ。で、このスイッチ、横並びになってるんだけれど」
 スイッチにはそれぞれ小さく甲虫、ネズミ、犬の絵が描かれている。
「下から順に、ってことは大きさか?小さい順に押せばいいのかな」
「……どうだろう」
「強さという点でも、甲虫、ネズミ、犬の順だな。よし、押してみよう」
「シャロンてときどき潔いよね。別にいいけど」
 アルの同意ももらい、その順番で押してみる。それぞれカチャ、カチャ、カチャと三つ鍵がまわる音がして、隣の部屋へ戻ると、あっけないほど簡単に出ることができた。

「待って。何かいる」

 グルルルル、という低い唸り声とともに、いつのまにか犬の死体が起き上がり、こちらに牙を剥き出して襲いかかってくる。

 アルフレッドが腹を薙ぎ、倒れたものの、腐った犬はぶらぶらと腸をはみ出させながらなおも立ち上がり、今度はシャロン目がけて飛び掛かる。
「このッ」
 犬の脳天に突き立て、振り払うと、やっとヨロヨロと横倒しになり、動かなくなった。ふと横を見ると、そこに倒れていた別の犬の死体の目に光が宿り、ゆっくりと立ち上がりかけている。

 これではきりがない!

 アルフレッドに例のコインを渡し、シャロンは起き上がりかけた犬の頭を蹴りつけ遠くへ飛ばし、続いて剣で圧力をかけ動けないようにする。すぐに後ろでアルフレッドがコインを使って扉を開け、二人でその向こうへ逃げ込んだ。冷や汗を拭いコインを取って、ドアを開け、水の溜まっている大部屋へと戻り、板を踏んで細い出っ張りの続きへと踏み出し、蔓薔薇の彫られた豪華な石の扉は開かないので通り過ぎてその先にある“休憩所”と刻まれた茶塗りの金属製ドアへと慎重に足を進めていった。

 ドアを開けて入った途端、通路の先で何人かが言い争う声が聞こえてきた。複数の男が声を荒げ、聞くに堪えぬ卑猥な悪口を並べ立てている。

 シャロンたちは足音を立てないよう近寄り、そっと広場を覗くと、そこには水のない噴水の中に水瓶を抱えた美しい女神の像が立っており、その奥でリリアナを、つい先程冒険者を水の中へ放り込んだ男たちが取り囲んでいた。
 犬の部屋でアルフレッドは実はこっそり鼻に詰め物をしているのですが……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ