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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 給排水操作室

 これから先、ところどころ暗い話が混じるので、不快に思われる表現等あるかも知れません。
 どのくらい時間が経ったのだろうか。
 漂う冷気に、ふ、と目を覚ましたシャロンが身を起こすと、そこは使い古しの道具や、備品などが置かれる倉庫のようで、傍らでアルフレッドが剣の手入れをしていて、目が合うとおはよ、と声をかけてきた。
「アル、まさか本当に朝じゃないよな。あれからどれだけ経った」
 彼はいつのまにか靴も新しいものに変えている。
「そんなには経っていない。たぶん外は宵の口だと思う」
「宵の口か……もう今日は戻らない方がいいな」
 夜、遺跡のまわりはほぼ光源がなく、数は多くないが魔物や、傭兵崩れの野盗が出没すると聞いている。おまけに日没後長時間経つと街門は閉鎖されてしまうため、危険を冒すメリットがあまりない。

「ところで、靴はどうしたんだ?」
 しげしげと足元を見つめると、頷いて隣の部屋にたくさんあったから、と返してきた。

 隣に移ると今度は使い古しの手袋や靴、元は服じゃないかと思われるぼろ布がが床や棚に所狭しと放ってあり、使えるものがないか探ると、いくつかの靴には仕掛けがあり、中から銀貨を発見したので、いそいそと仕舞い込む。
「この手袋なんかもよさそうだ」
 薄手の皮の手袋を引っ張り出してはめるその様子に、
「……せこい」
ぼそりとアルが呟いたので、うるさいな、と反発しながら探索を続けたが、他にめぼしいものはなかった。

 倉庫を出て一度方角をたしかめ、例の、丸い緑の体をした怪物から流れ出た、青みどろの液体を踏まないように気をつけながら南側のドアの方へ歩いていく。
「あの溝に流れる水をどうにかできる方法がきっとあるはずなんだ」
 そういってシャロンがドアに手をかけると、それをアルフレッドが止めた。
「今度は僕が」
「いや、さっきみたいなのはさすがにもう起こらないんじゃないかな」
 そう言ったのを振り切ってアルは無言で素早くドアを開ける。
「うっ……」
 さすがに魔物の襲撃はなかったが、むわっと鉄錆にも似た匂いが鼻を襲ってきた。

 どこからともなく、ゴウンゴウンゴウンと重いものが回る音が響き、目の前にある四つの金属製の扉や左側の奥まで続く長い廊下は、血痕が飛び散っていて床には大きなものを引きずった跡がある。しかも、まだそれほど乾いていない。

 あの魔物にやられたのだろうか、とカバンに入っていた若草色の布で鼻を覆い、正面の扉を見やると、四つの扉には左側から順に一つずつ黒丸が円を描くように増えているらしかった。

 残念ながら四つとも開かず、べたべたする床を不快に感じながら廊下を歩くと、右の向かい合うドアの先はすぐに行き止まりにっていて、まっすぐの狭い廊下の突き当たりの横には太い鉄格子が嵌っていた。

 鉄格子に近寄ると、柵の向こうにもまだ通路が続いていて、
「あ、あんなところにドアが」
もっとよく見ようと鉄格子に手をかけると、
「ッうっ」
突然ビリビリと雷が襲い、慌てて飛び退る。
「なんだ、これ……」
 幸いにも手袋をしていたのでじんじんと痛むだけで済んでいるが、一歩間違えば大火傷を負っていたかも知れない。

「……罠か。シャロン、もう絶対にうかつにそこらの物には触っちゃ駄目だ」
「う、うん。ごめん」
 厳しい口調でアルフレッドが釘を差し、あまりにも正論なのでシャロンは肩を落とす。

 って、こんな注意をされるなんて、私は子どもか。

 自分で考えたことにさらにダメージを受け、しょんぼりと道を戻り、向かい合うドアの近くに立った。
ゴウンゴウンゴウン……と鉄格子のある方の壁から聞こえてくる音に背を向け、片方のドアを開く。

 部屋いっぱいに、見上げるほど大きなブリキの浄化槽のようなものが置いてあり、他には何もない。中を覗きたくても高すぎ、また台やはしごもないので思わず蹴りつけると、タプン、と液体が揺れる音がした。

 気を取り直してもう片方のドアを開けて入ると、そこは大小二つの装置があり、大きいのには七本のレバーがずらりと並んでいて、小さい装置は一つのレバーが十字、それぞれに動かせるようになっていた。

 安全を確認して、アルと手分けして七本のレバーを動かしてみるが、どうやら壊れているようでまったく手ごたえがない。
 バキッ、と音がしたので隣を見ると、どうやら根元が錆びついていて折れてしまったらしく、アルレッドが短くなったレバーの先を部屋の隅に放り投げた。

 前途多難だとため息を吐きつつ、まったく反応しない装置を諦めて、十字にレバーを動かせる小さい装置の前に立つ。

 こちらは倒すとガクンと手応えがあり、どこかでカチャッと小さな開錠音が聞こえた。

 おそらくあの四つの扉のうちのどれかだろうと予想をつけ、改めて試してみる。すると、黒丸四つのドアが開いていて、中にはブリキでできた箱がぽつんと置かれていたのでおそるおそる蓋をずらすと、中には古びた皮袋と銀貨が十数枚入っていた。

 どうやら倒す位置によって開くドアが違うらしい。

 今度は奥に倒すと三のドアが、右に倒すと二のドアが開き、また同じようにブリキの箱が置かれていたが、二つとも中身は空だった。

 次こそ本命に違いないとレバーを左に倒し、黒丸一つのドアを開け、アルフレッドの提案により、剣の先を蓋に引っ掛けて一気に差し開く。

 すると中から無数の針が飛び出し、剣に当たってバラバラと落ちたが、こちらへのダメージは受けずに済んだ。

 箱を覗くと小さなバネ仕掛けの装置の奥にスイッチがあったので、倉庫から長い棒を持ってきてぐいっと押す。

 すると鎖が巻かれるような音がしたので廊下へ出ると、奥の鉄格子が上に上がっていくところだった。

 鉄格子の向こう側へ入り、通路を進んだところにあるドアを開けると、中ぐらいの大きさの部屋の中央に鉄でできた丸いハンドルがあり、それを両手で最後までひねると今まで動いていたあの音が止んだ。
 ハンドルは非常にゆっくりと戻るようになっていたため、装置が再び動き出す前にと、別の仕掛けではないことを祈りつつ慌ててあの深い溝のある部屋へと戻っていく。

 階段のあるところまで来ると、通り過ぎざま〈Ⅳ-17 対の迷宮〉の字がやけに鮮明に脳裏に焼きつき、しばらく離れなかった。
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