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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 そして一巡

 地下三階探索中です。
 凸凹のある大広間で、助言なのか戯言なのかわからない文字の羅列にうんざりしながらも、じっくりとそれぞれのドアを眺めてみる。

 先ほど西の、階段へ続くのとは別のドアを選んだが、その向こうの通路は最終的にはこの広間へと繋がっていた。……まったく意味がない。

 赤く“骨折り損”と書かれた矢印のドアは選びたくないが、かといって“この扉を選べ”と書いてあるドアもなんとなく嫌だ。
 考えた末、シャロンは“この扉を選べ”と書いてあるドアの隣にある地味なドアに手をかける。

 開けた先は左に折れた細い部屋になっていて、左の壁には点のように小さく何かが書いてあった。
「……あれは?」
 よく見ようと近づくと、文字に目を凝らしていたアルが慌てて,
「待った」
と強く腕を引こうとした、が、すでに遅く、足元の床がパカリと開く。

 落ちる寸前に読んだ文字は、“ここに罠がある”と――――――。
「誰がこんないらんことを書いた!」
 渾身のシャロンの叫びは、穴の奥へと飲み込まれていった。

 ……ドサリ。

 落ちた先は、特になんの変哲もない小部屋で、そこから出るとすぐ、地下二階だとわかった。
「……」
 文句をいいたいのを堪え、わりと近くにあった階段を下ると、何か納得いかないようなぞわぞわとした感じが走り抜けたが、正体は掴めず、また同じ地下三階の入り口へ戻る。

 やはりそこには“Ⅲ-10 先駆者たちの――”と書いてあって、思わずシャロンは軽くその下を蹴った。

 今なら、“標”を“妄言”と書き換えた誰かの気持ちがよくわかる。

 もう一度壁の文字を確認して、ふと違和感を覚えた。
「あれ?何か違ってないか?」
「……違ってるよ。ここが」
 アルフレッドが人差し指でコンコンと“Ⅲ-10”の、10の部分を示したのでまじまじとそれを見つめ、
「誰かが書き換えたにしては跡がないな」
と呟くと、隣の彼も頷き、真剣な表情を崩さない。

「この数字は何を表してると思う?」
「……前のは、確か14だったかな。4減った、か。ここで減るものってなんだろうな」

 何かの装置の数では、と考えて、この数字は地下二階にもあったのを思い出した。……そういえば、その場所でも違和感を感じた気がする。

「アル、地下二階にも同じものがあって、たぶんその数字も変化していたと思う」
「ということは、それぞれの階ごとに変わるってことだね」

 変わるといえば、魔物の数だが……いや、10では少なすぎるだろう。

 じっと考え込んでいたシャロンはふと閃き、アルフレッドを向いた。
「なあ、ちょっとゆっくり階段を上ってくれないか」
「え、なんで」
「……いいから」
 しぶしぶアルフレッドが階段を上がる。“Ⅲ-10”をずっと睨んでいると、しばらくしてその10の数字が滲み、溶けた次の瞬間9へと変わっていた。

「よし、わかったぞ!」
 シャロンの叫びに、アルフレッドも慌てて階段を下りてくる。すると再び数字は10へと変わった。
「アル、この数字はおそらくこの階にいる人の数を表しているんだ。人が階段を上り下りするたびに、数字が変化するようになってる」
「……じゃあ、今度はシャロンが階段を上がってみて」
 アルが気難しい表情でそう言ったので、素直にそれを実行する。

「なあ、変わっただろ?」
 新しい発見に嬉しさを隠せずそう言うと、アルは文字を指でなぞり、ため息を吐いた。
「いったい誰が、なんのためにこんな仕組みを作ったんだろう……?」
 その声は、静まり返った迷宮に、やけに響く。
「そうだ、な」
 よくよく考えると、人の数で変化する文字は不気味に感じられ、シャロンはぐいっとアルフレッドの腕を引いた。
「行こう。探索を続けないと」
「うん……」
 アルフレッドはなおも厳しい顔でその文字を見つめていたが、やがてそこから離れた。

「考えてみたんだけど、あの広間、どこにも通じていないんじゃないかな。リリアナたちがいろいろまわらされたって言って、あまり収穫があったようには見えなかった。つまり、あそこは探索するだけの価値はないはず」
「そうか……そうだな。一度別のルートを通ろう」
 南東へ伸びる通路を進むと、それは蛇行した挙句リリアナたちと出会った場所へと戻っていく。

 ひょっとしたら、この階はこんなのばっかりかもしれない、とシャロンはひそかに肩を落とした。

 東へ歩くと、突然コウモリが現れ、襲ってきたが……あっさり倒して探索を続けていく。ドアを確認したり、最南東の通路を通ったりしたものの、結局元の場所へ戻るとわかった。

 ねじまがった構造の通路にシャロンのテンションはダダ下がりになっていったが、隣のアルフレッドを見れば、特に堪えた様子もなく平然としている。

 くっ……負けるものかと気合を新たに入れて、近くのドアを開けると、その奥には台があって黒い文字で“正しい言葉を選べ”と書かれており、その先に三つの扉があった。

 右から順にそれぞれ赤い文字で“この隣は正しい”“両隣のドアは正解ではない”“この先に道は続く”と書かれている。

「これは簡単じゃないか。右が正しいとすれば、中央の言葉も正しくなるから矛盾するし、逆も同じだ。だったら、一番左の扉しかない」
「待って。ひょっとしたら、何か違う考え方があるかも知れない」
「そうかな……じゃあもうちょっと考えてみようか?」
 二人で頭をひねったが、やはりそれ以外に思いつかず、一番左のドアを開けて中へ入る。

 ドアを閉めた途端、内側からは開かなくなり、先へ進むと奥の壁に黒く大きく、“ここがおまえたちの墓場だ”と書き殴ってあった。
「アル」
 蒼褪めたシャロンが思わず隣にすがるような目を向ける。そして、しばらく目を閉じ、深呼吸をした。

 待て。まず、なんとか解決策を考えないと。

 しかし何も思い浮かばず、焦るシャロンの前で、文字の書きなぐってある壁をじっと睨んでいたアルフレッドが、突然壁を蹴り出した。
「おい、気持ちはわかるが……今は体力を温存して」
 そう制止の声を上げた彼女の前で、壁がぐるりと回転する。え、と口を開いたまま固まるシャロンの手を引き、アルフレッドは向こう側の通路へと連れ出した。

 その通路には見覚えのある壁の落書きがあり、その近くの十字路には地下二階へと続く階段が、変わらず存在していた。
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