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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 分析と直感の相互関係

今回文が長めです。
 ちょっと待ってくださいねと言って、リリアナはごつい男たち三人と相談し始めた。どうやら、どの道を行くかで迷っているらしいが……。

 胸当てのベストと腰に短剣しかない軽装備な姿、頬に手を当てて小首を傾げる仕草は優雅そのもので、無骨な他のメンバーとは、対照的な姿だ。
 濃厚に漂う薔薇の香りといい、この迷宮には場違いでもおかしくないが……なぜかしっくりと溶けこんでいるような気がする。
 目が合うと彼女は話を中断して、
「シャロンさんはもうこの階は探索済みですか?」
と尋ねてきた。

「いや、それがまだ」
 まだどころか、下りてきたばかりだが、なぜかそれを正直に言うのはためらわれた。
「そうなんですか……。こちらも翻弄されてしまって、なかなか先へ進めなくて。ずっと同じところを行ったり来たり」
「助けになるかわからないけど、この後ろのドアを抜けると上り階段の近くに出るよ」
「本当に!?」
 リリアナはパッと艶やかな笑みを浮かべて礼を言い、リーダーなのか戦鎚を持った男に声をかけると、座り込んでいた二人もやれやれと立ち上がった。

「ちょうどどの方向へ進もうか迷っていたんです。お礼にこちらも一つ情報を。東の方へ行くとドアが三つあり、そのどれかが宝の部屋へ続いてるという噂があって……。あたしたちもまだ見つけてはいないけど」
 彼女はそうこっそりささやいてきたが、こうも簡単にライバルとなるかもしれない私たちに情報を話してもいいのだろうか。

 そう指摘すると、
「何を言ってるの。こういうところでは、持ちつ持たれつ、じゃないと」
とパチッとウインクしてきた。後ろの三人はこの会話は聞こえておらず、ただこっち―――つまりウィンクされた私―――をうらやましそうに見ている。

 それじゃあ、と手を振って、リリアナのパーティーは東側に去り、シャロンは知らず知らずのうちに入れていた肩の力を抜いた。手の平にもじっとりと汗をかいていたので、服の裾で拭う。
「どうも、ああいう性格は苦手だ」
「……それだけ?」
「え、どうして」
 突然言われ、困惑しながらもそう返したシャロンに、アルフレッドは複雑な面持ちで、
「シャロンて、天然?」
と言い放った。
「は!? おい、いきなり何を言うんだ」
 うろたえたが、相手は真面目な表情を崩さず、気づいてるのかと思った、とこぼした。
「いったい何を……って、またおまえだけで納得してるじゃないか。そういうのはさっさと話してくれないと」
 シャロンの催促に、やっと彼は重い口を開く。
「じゃあ、さっき会った四人のうち、戦いたくないのは、誰?」
「リリアナに決まってるじゃないか」
間髪入れずにシャロンが答える。
「なぜ?……あの四人の中で一番親しいから?」
「いや……それは」
 思いがけない言葉に、シャロンはうろたえ、思考の波に囚われた。

 あれ、なんで私は彼女とは戦いたくないんだろう。かよわそうな女性だから、というわけではなく、親しいから、というのも違う。さっき会った時、なぜか逃げ出したい気持ちに駆られた、その理由は。

 アルはじっとこちらを見つめて待っているし、ここで素直にわからない、とは言いにくい……と考え、シャロンはやっとその理由に思い当たる。
「そうだ、だって……よくわからないじゃないか」
「わからない?」
「ああ。彼女は情報通だし、冒険者狩りの連中のことも知っているはずだ。この迷宮には魔物だっている。それなのにあんな軽装備でいるなんて……よほどの命知らずか、あるいは」
 よほど腕が立つかだ。シャロンはその思いを飲み込み、小さく身震いした。
「僕も同意見」
 アルフレッドは頷き、軽く剣の柄に触れる。
「これは勘だけど、あの人が普段使う武器は短剣じゃない気がする」
「そうかも知れないな。しっかし、」
 シャロンは雰囲気を変えようと、わざと明るい声を上げた。
「アルがリリアナを避けてたのはそういうわけだったのか。ただ単に好みじゃないとかじゃなかったんだな」
「僕は、シャロンが思ったより直感で判断していたことに驚いた」
「う。……ま、いいじゃないか。それより先へ進もう」

 この話は先送り?と後ろで聞こえたため息に気づかぬ振りで、シャロンは西の突き当たりにある扉を開く。

 すると、そこは激しい凹凸のある四角い広間で、さまざまな方向を向いたドアがあり、真ん中の金属プレートに“心して選べ”と文字が彫られていた。

 あちこちにある文字は、これまでとは違い、どうやらドアの向こう側について書かれているようだったが……。
「無い方がましじゃないのか」
 思わず呟くシャロンの前方の壁には、赤く“骨折り損→”と書かれていて、右側を向けばドアに黒く“この扉を選べ”の文字、左側の先の壁には緑なのか青なのかわからない色で“←お急ぎの方はこちら”と書かれている。その付近にもドアが二つ。

 後ろを振り返ればさっき入ってきたドアとは別の扉が二つもあり、真ん中のは青で“お疲れさまでした”その左には何も書かれていない。
「……」
 南側に位置する後ろの扉を選んだら来た道に戻ってしまうんじゃないだろうか。

 悩んだ挙句、シャロンは隣で真剣に壁の文字を眺めている彼の意見を聞くことにした。
「アル、どれがいいと思う?」
「……西側が気になる」
「なるほど」
 二人して“←お急ぎの方はこちら”と書かれた壁の前に立つと、アルフレッドは矢印の先にあるドアには目もくれず、突然剣の柄で壁を殴りつけた。

 ガキィイイン!

 濁った音がうるさく響き、シャロンは仕掛けでもあるのかと目を凝らしたが、壁がごくわずかに削れたぐらいで、何も変化はなかった。
「どうやら、この壁の向こうに通路はなさそうだ」
とアルフレッドは満足げに呟いた。
「行こう」
 こいつのやることは時々よくわからないな、と頭を抱えたくなる気持ちを我慢して、ドアをくぐり通路へ出る。

 アルは同じように右の壁を剣の柄で叩き、先に進んではまた叩く。
「いい加減説明してくれないか」
 大分焦れたところで、やっとその奇怪な行動を止め、西側の壁に手をついて、
「おそらく、ここが西の外壁。つまりこれより西にはもう何もない」
と得意げに宣言した。
「……そうなのか」
 いまいちそれがなんの役に立つのかわからないが、とりあえず頷いておく。

 曲がり角へ進むと、シャロンは何かが腕にぶら下がり、しがみつくのを感じた。
「わ、な、なんだッ」
 叫んだ途端その感触は消え、体が軽くなる。
「どうかした?」
 駆け寄ってきたアルに、いや、なんでもない……と言いかけて、妙にカバンが軽くなっていることに気づき、慌てて背中からカバンを下ろして中身を確認する。
 財布や道具類はそのままだったが、多めに用意した携帯食料が半分ほど無くなっていた。

 アルフレッドも中を覗き込み、意気消沈して、
「……ここの魔物は食料を盗むのか。シャロン、油断せずに行こう」
そう呟いたと思ったらすぐに顔を上げ、盗ませてなるものかと決意をみなぎらせる。
「というか、先に食べとけばいいじゃないか。もうこれ全部やるよ」

 そのまま軽く休憩を取り、また通路を歩いていくと、すぐ横に幅の狭い上階段が現れた。
「あれ?この階段はどこへ続くんだろう?」
 上の階にもう一つ下り階段なんてあったっけ……って、前にも同じことを感じたような、と思いつつその階段を上ろうとすると、アルフレッドが引っぱって止める。
「シャロン、この階段……位置関係から行って、地上行きの階段か、例の部屋へ繋がっている可能性がものすごく高いけど、行きたい?」
「…………いや、遠慮しとく」

 なぜ地下三階にも直通の階段があるんだろうか。

 これまでの緊張感はなんだったんだと脱力しながら、シャロンとアルフレッドはまた広間へと引き返して扉を選び直すことにした。
 凹凸のある広間のドアの総数:10
 リリアナと出会った場所の付近:小部屋3・広間へのドア1・階段のある通路へ通じる一方通行のドア1
+注意+
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