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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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〈地下三階 先駆者たちの標〉

 ライオネルたち三人組と別れたあと慌てて町へ戻り、携帯食や薬、それにいざという時のための敷物やランタンを買うと、背負いカバンがはちきれんばかりに一杯になった。

「アルはいいのか?」
「あそこでは、身軽な方がいい」
「まあ、そのとおりだ……。いや、私だってこれ全部持ってくわけじゃないぞ?」
 シャロンは自分の荷物を眺めてため息を吐いた。

「なんだか必要な気がしてしまって……」
「ランタンは、念のためいるかも」
「やっぱりそう思うだろ?」

 そんなやりとりの後その日は早めに寝て、次の日の朝ギルドへ寄って新たな情報がないかチェックする。
 同じようにギルドに来た人々でざわざわとするなか、受付の男(この男は初日にここにいた男だった―――)は眉間にしわを寄せ、
「それが……冒険者を標的にしている奴らがあの遺跡内にいるらしい。ちょこちょこ被害が出てる。グループでの諍いも増えているから、おまえらも注意しろよ」
忠告してきた。
「わかってる。それに、こっちは遺跡に深入りはしないつもりだから」
「どうかな。そう思っててもハマっちまうことはあるもんだからな」
そう言うと年配の男は苦く笑って話は終わりだと手を振った。

 確かに、未踏の地にある秘密を少しずつ解き明かしていくのは、なんかこう、わくわくしてくる。それに実益が伴えばなおさらだ。

「これじゃ、エドウィンのこと言えないな」
「……どうかした?」
 呟きに反応したアルフレッドに、なんでもないとごまかして、連れ立って遺跡の中へ入っていく。

 地下一階の大広間に並んだ品物や呼び込む声、人だかりは相変わらずで、特に変わったこともない。

 さっさと地下二階に続く階段を下り、シャロンは“Ⅱ-6 秘匿された場所”と書かれた壁を横目に中央の、地下三階の階段を目指す。

「アル、近くに魔物がいそうな気配は?」
「今のところ大丈夫。遠くから羽音が近づいては来てるけど」
「わかった。急ごう」

 しかし、どうも落ち着かないというか、ずっと、何か……ささいなことを忘れている、もしくは見落としているような気がしてならない。

 考えてもそれがなんなのかわからないので、ひとまず放置しておくことにして、アルフレッドの記憶を頼りにいくつもある扉を慎重に選び、押すと隙間ができる壁の先の階段を下る。

 階段を折り返してさらに下りていった場所は、今までより薄暗く、ひんやりした風がするっと首筋を撫でていった。

 色味の落ちた砂岩の壁には、さまざまな罵詈雑言が書かれており、その真ん中に見覚えのある文字で、“Ⅲ-14 先駆者たちの――”

「うわ、ひどいなこれは」
 ……本来なら標、と書かれていたのが、何本も線で消されており、“妄言”と書き直されていた。

 左側を見やれば、続く迷宮の通路の壁のそこかしこに落書きがされており、色とりどりのその文字は地味な壁から際立ってこちらに訴えかけてくる。

 見覚えのない字で書かれたものやかすれて読めないものも多いが、その中から意味のわかる文字を拾い上げて読んでみると、
“アイリッツ参上!”“壁に落書きするな”“←おまえもな”“明かりが尽きた。もうだめだ”
などと役に立たないものばかりだった。

 シャロンはげんなりして、
「アル……もし探索のヒントとかあったら教えて」
「今のところ、ない」
「じゃあ、まずはその辺を調べてみようか」
まわりを見渡し、左右に続く道は無視してすぐ前の通路を進んでみる。すると、曲がった奥の壁にしたたるような毒々しい赤色で、“この扉の先へ進むものは、大いなる収穫が得られる”と刻まれ、その横には鉄製の扉がどっしりと構えていた。

「どう思う?」
 思わずアルフレッドに振ると、首を傾げつつ、
「この先に、何があるんだろう」
と扉に手をかける。
「おいッ」
「……何?」
「いや、まだ開けるのは待ってくれ」
 アルは素直にいったん手を戻してこっちの様子を窺っている。

 ひょっとしたらただの戯言かも知れない。でも、もしこれが罠だとしたら?

 ぐるぐると頭の中で不安の渦巻く中、しかし、本当に何かあるのかもしれない、という誘惑に勝てず、シャロンは頑丈そうな鉄の扉に手をかけ、慎重に慎重を期してゆっくりと引いた。

 すると、その奥にも扉があり、そこには直接赤い字で、“この扉の先へ進むものは、大いなる収穫が得られる”と刻まれていた。

 シャロンは黙って自分の開けた扉の造りや重さを確認し、再びその扉を閉めた。
「……ここはやめておこう」
「そうだね」

 通路を戻り、再び十字路に立つ。左側へ行くと、小部屋ばかりで特に気を引くものはなかったので、引き返して十字路のすぐ傍のドアを開けると、横幅のある空間に出たが、ここにも縦横無尽に落書きが走っている。そのうちにガチャガチャと鎧のこすれる音がして、複数の話し声が近づいてきた。

「シャロン、あの人だよ」
 アルが突然言った。
「あの人?」
 あの人って……誰のことだ?とシャロンが頭を悩ませていると、音は大きくなり、
「シャロンさん!」
滑らかな声と猫を思わせるしなやかさでローブ風のスリット入りドレスをなびかせ、リリアナが駆け寄ってきた。

「無事でしたか?全然会わないから、すごく心配で……」
「ああ、その、私たちは地下二階をまわっていたんだ。リリアナはどうだった?」
 それまで憂い顔だった彼女はふわりと微笑んで、
「すごく運がよかったんです。親切な人たちに仲間にしてもらえて」
と後ろを振り返った。

 そこにいた男たちは三人とも重装備で、ジャラジャラと鱗状に金属板を縫い付けたジャザラントを着ている。

「ああ。リリアナには傷ひとつつけさせやしないさ」
と戦鎚を持った一人が言えば、それに応えるようにもう一人がバスタードソードを振り回して見せ、残りの一人も無言で鉄球のついたフレイルを持ち上げた。

 悪い連中ではなさそうだが……。

 筋肉質な男たちに、シャロンは顔が引きつりそうになるのを堪え、なんとか笑顔での挨拶に成功した。
〈武器の蛇足的補足説明〉
 ジャザラント…説明は本文参照。いわゆるリングメイルのこと。
 バスタードソード…片手または両手どちらでも使える便利な柄の長い剣。
 鉄球のついたフレイル…棒の先に鉄球がついていて遠心力でダメージを与える。とげのついた鉄球つきフレイル=モーニングスター。
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