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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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苦労の果てに得た小さな報酬

 ……本当に終わったのだろうか。

 不安が拭えないシャロンは立ち上がり、よろよろと石の塊に近づいて確認するが、命の抜け落ちたそれは、ただの石でしかない。

「随分、呆気なかったな」
「はあ……私はあなた方がいったいどうやって倒したのか、それすらも疑問なんですが」
 エドウィンが尋ねたので、シャロンは先ほどの戦いを話すことにした。

「眼が潰れていた、と。それはおそらく、復活の時のエネルギーが不完全だったんじゃないかと。これも、大昔の文献から総合して判断したものですが……いくら力の強い魔法生物でも、力が無限に湧き出てくるわけではありません。多くは、まわりの生命エネルギーを奪い取ることでその強力な能力を維持させているんですよ。おそらくストラウムの村人に呪いをかけただけでは足りなかったんでしょうね」
「また文献か……だいたい、文献によれば儀式に危険はない、とかっておまえは言ってなかったか?」
 シャロンはうろんげにエドウィンを睨んだ。
「ええ、私も驚いています。まさか、本当に本物の竜が出てくるとはね。てっきり、竜の彫像が現れるだけかと……。ここで儀式を行って、一度でいいからその彫像を見てみたかったんですよ」
 彼はそう言うと、石くれになった竜をどこか残念そうに見下ろした。
「まあ、文献と実際が違うのはよくあることですから」
「あ、そう」
 そのために死ぬような思いをしたわけだが……もはや突っ込む気力もない。シャロンはこういう時のためのとっておき、カバンの底でまだ冷たい果実酒の小瓶を取り出し、黙って飲み干した。

 しばらくは誰も何も話さず、体を休めていた。エドウィンだけは、砕け散った赤い宝石を拾い集めたり、竜だった石の塊を調べたりしている。

 石柱のあいだを吹き抜ける風が頬を撫で、アルフレッドなんかは石柱の影で足を伸ばしてくつろいでいる。

 ……本当は、彼に頼るつもりなんてなかった。

 石化しかかった時、思わずアルフレッドを呼んでしまった。その自分の弱さが、シャロンには許せない。

ぐっと拳を握り締めたが、そのやりきれない気持ちを切り替えるようにして、アルフレッドを呼ぶ。
「アル、そろそろ出発しよう。ストラウムがどうなっているのかも知りたい」
「……ん」
 日差しが強いので、水分補給やバンダナを忘れないようにして準備を整えると、行きとは違い、徒歩でその祭壇を後にした。途中、魔物にやられたらしい馬の残骸があったが……見て見ぬフリで通り過ぎ、続いて、遠くから幌馬車で来る賑やかな集団に出くわした。

「おい、あんたら何やってるんだ!魔物が多いからこの辺は危険だと知らないのか!?」
 筋骨隆々とした傭兵が声をかける。確かに魔物の数は少なくないが……呪いがなくなった今では散らばってしまって時折遠巻きにこちらを窺うのがほとんどだった。
「あ~、そうだな……今戻るところだ」
「おう!早く戻れよ」
 そう言って瞬く間に遠ざかる馬車を後に、時間をかけてストラウムに到着した。

「シャロンさん、アルフレッドさん!ありがとうございますっ」
 村へ入るとすぐ、待ちかねていたらしいヨアキムが駆け寄ってくる。通りは誰もが今までの遅れを取り戻そうと行き交いが激しく、忙しく荷物を持ち運びする人や知人の安否を確認する人で賑わっていた。

 はしゃぎながらおにごっこをする子どもたちの中に、ステラの姿があった。彼女はこちらに気づきもせず、髪をくしゃくしゃにして楽しそうにおにから逃げている。

 それを眺めるシャロンの胸に、安堵の思いとともに、成し遂げたことへの実感と、喜びが沸き上がってきた。
「本当に、よかった」
「はい。村の人たちはみんな、呪いで人が石に変わっていった時のことを、夢だと思っているみたいです。熱が見せた、幻だと」
「その方がいいのかも知れないな。変に、騒ぎが起こるよりは」
「正直、あれだけのことをしたのにとも思いますけどね」
 エドウィンの澄まし顔に、お前は何もしてないだろうがとシャロンは睨みつける。
「……道、邪魔になってる」
 アルフレッドの指摘に慌てて端へ寄ると、ガタガタと音を立てて荷馬車が通過していった。
「……僕の家に来てください。友人に紹介します」
 ヨアキムが何やらこっちを憧れの眼差しで見てくるので、どうにもこう……落ち着かない。

 そんな気分でヨアキムの家まで来たシャロンは、アルフレッドたちと一緒に入るなり、茶髪にそばかすの背の高い青年と、同じく茶髪で眉間にしわのあるいかつい青年の青年がギロリとこちらを睨みつけたので仰天した。
「どうも、すみませんしたっ」
 構えるといきなり頭を下げられ、さらに困惑する。後ろ二人は突然の謝罪にもいつもどおり飄々として、悔しいぐらいだ。
「話は聞いた」
「最初は信じられんかったけど、こんな嘘つく奴でもないし」
 交互に説明する二人を、ヨアキムは紹介する。
「そばかすで、チョッキ着ている方がアーサー、眉間にしわよせて薄いシャツのがディエゴです。二人には、竜の呪いのことを話したんです。シャロンさんたちのことも」
「オレたちのせいで、ほんとにすんません。もう絶対飲み過ぎないって誓いました」
 アーサーがぺこりと頭を下げる。
「そう。やはり火酒二本で止めるべきだった」
「いやいや!何被害者ヅラしてんだ。そもそもお前があんなに持ってこなきゃ済む話だっただろうが!ヨアキムにも無理に勧めて」
「……二人ともやめてください」
 ヨアキムが二人の言い合いを止める。
「いい友達じゃないか」
 シャロンは思わず笑顔になった。こういう雰囲気は、嫌いじゃない。
「石像から戻ったとたんに騒がしくなりましたね」
 エドウィンはそうぼそりと呟いて、出された薄い馬乳酒をすすった。
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