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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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VS クヒィラ 5

お待たせしました。戦闘シーンありです。
 クィイ……キュキュキュキュゥウ……

しばらくさまよっていたクヒィラは、小さな鳴き声の後、砂音をさせて遠ざかり、やがてそれぞれが砂の下に姿を消した。

 サァ……ッと砂が凪いだ。剣を構え神経を研ぎ澄ます。どこから現れても、対処できるように。

 細波さざなみ立つ。砂が、うねりを上げた。

「ひとまず結界を張る!」
そう叫んで、シャロンは揺れる地面から影響を受けないようにと、風を自分とアルフレッドに巡らせ、様子を窺った。やがて、一斉に、次々と何かが砂地を突き破り、飛び出してくる。


白い羽根持つ魚の群れ。こちらを狙っている…………わけでもないようだが、数が多く、結界を突き破るのもいて、風を張り直すのと同時に、と反射的に地を蹴って、シャロンは距離を取っていた。その大地もさざめき、揺れている。

 流れる砂に足を取られよろめきながら、
「アル、離れるぞ!」
「あ、オレはオレは?」
「勝手に動け!」
心底そう思い叫ぶと、シャロンはアルフレッドに風の結界を纏わせ、引き寄せつつ、高く遠くへ跳躍し、まだ振動の届いていない地面へと降り立った。

細い体の魚は群れて飛び跳ね、砂へと潜っていく。近づくものは風で、撥ね飛ばすが、傷つくこともなく、ビチビチと数回跳ね、また砂の海を泳いで渡っていく。

空には白い鳥たちが舞い、こちらを呼ぶかのように、もしくは合図をするかのように鳴いている。砂は渦をなし、うねり、大地の底から噴き上がる。ゆるり、と白い表面が見えた。
 来たか、と構えたシャロンの前が砂が、突然隆起した。吹き上げ、大量の砂の瀑布を零しながら白くて巨大な、あの城の敷地にも近いだろうか、ひたすら巨大な体躯がゆるやかに上昇し、砂地へと身体を捻らせるが、その巨体にも関わらず、さしたる大地の衝撃もなく、砂の奥へと沈んでいく。


「砂が入るぞ」
なんてアイリッツの声など聞こえず、光を反射させて優雅に巨躯を翻す、クヒィラをただ、驚きで見つめた。

 膨大な砂の、果てしない海。その中を自由に泳ぐ白鯨に似た聖なる生き物は、思わず時を忘れるほどに美しい……しかしそんなことをのんびりと考えている余裕はない。残念だが。


ザザザザザザザザと鈍い音を立て、地鳴りとともに大地が揺れる。

うねりの進攻は収まらず、揺れは無視できないほどに断続的に続き、もはや立つのが難しい。

 まずい。胸中で呟いて、シャロンはアルフレッドとアイリッツを振り返った。その向こうで、砂が抉れ、ズザザザザと一気に引く。ええと、これはほら、あれだ。波が起こる前兆だと、船で誰かが言ってた。


「おい、後ろ!何かが起こるぞ!」
「ああ、これはあれだよ。津波の前触れって奴で……」
「悠長に言ってる場合か!」
 揺れる砂地に膝をつきながらのやり取りのあいだにも、砂は何かに引き寄せられるように集まっていく。地平線が、揺れ動き、そしてゆるやかに盛り上がった。
「………」
 下から少しずつ上へ、みるみるうちに巨大な動く砂の壁が立ち、こちらへ近づいてくる。非現実的な光景に、シャロンが硬直していると、
「あっちがその気なら、こっちだって考えがあるさ」
 アイリッツが剣で砂に円を描いた。その中だけ、揺れが収まり、強く、迫る壁の回避方法を――――――考えつく前に、下から突如突き上げられた。砂が噴き出したその勢いのまま、砂岩に乗っかった形で、宙を飛ぶ。

「リッツ……!!」
「いやー相手の力の方が深かったわー、いやホントわりぃ」
 このまま波を超え……なんてうまくいくわけもなく、壁の上限には、まだ届かない。
「呑み込まれると、仲良く圧死だなありゃ」
「風でなんとかこの岩を操り……いや無理。絶対に無理!!」
 巨大な波の上で飛び交う鳥たちを見た。その速度は凄まじく、狙い打たれ、落とされる可能性が高い。どうすれば……。

 届く前に逃げ切れるか、と反対側を見やる。しかし、そこには再び、目を疑うような光景が広がっていた。

「ああくそッ」
「ダブルで挟むか」
 アイリッツがどことなく感心したように言う。砂はすでに姿を変え、こちらを両側から壁が上へ上へと上昇していく。

「いいからリッツ、なんとかしろ」
成り行きを見守っていたアルフレッドが、冷静に発言した。
「はいはい。そんじゃ、カモン!ビッグウェイブ!!」
 アイリッツは、にやりと笑い絶好調の様子で叫んで……巨大津波の方へと向かっていく。
「リッツ…………!!」
「シャロンー、心配なら風でも頼むよ。この岩のまわりにさ」
「天然空前絶後の阿呆、考えなしの無鉄砲、それから、ええと……」
シャロンが暗い表情で呪文のようにぶつぶつ言いながら、強固な風の結界を周囲に張った。


 大きな滑り板のようになった岩は、砂地の上を滑るように走り、巨大な壁の手前を横切るように、つかず離れずまっすぐに進んでいく。

 このまま波の横の最端を抜けるつもりかと思ったが、端が、端がまったく見えない!!
「この壁には終わりがない。このままでは、生き埋めにされる……!!」
「わかったわかった。そろそろかな」
 アイリッツは、くいっと足で平な砂岩を操作しいったん離れた、かと思いきや、なぜか巨大津波目掛けて再び突っ込んでいく。
「上が、上が崩れるぞアイリッツ!」
悲鳴じみた声になった。いや、この状況で冷静になれる奴がいたらお目にかかりたい。

「知ってるって。……ああ、いいね。タイミング良し!波間良し!」
「うるさい黙れ」
 さすがに表情を強張らせ、緊張した面持ちのアルフレッドが剣を構えた。

 剣でどうにかなるものなのか………?

 そして、いやっほう、という軽快な叫びとともにアイリッツは落ち来る瀑布のような、砂の壁へと挑んだ


 砂が落ちきる前の、絶妙なタイミング。シャロンたちを乗せた岩は、するりと砂は端から、渦潮のようにゆるやかな曲線を描き、背後から次々に閉じていき、それをかいくぐり、

 円を描き縮まる波の隧道をくぐり抜け、滑り板はどこまでもどこまでも走っていく。アイリッツは危なげなく足元を操作しながら、
「シャロン、これ先に渡しとく」
ひょいっと、腕輪……のようなものをこちらへ放った。
「これは……あの円月刃チャクラムか?」
「よくわかったな。シャロンの攻撃が効くようちょっとばかり細工した」
「ありがとう。アルの攻撃が効いたのと似たような感じか?どういった仕組みなんだ?」
「シャロンの場合は、純粋に攻撃にオレの力を付与して効くようにするだけ。アルのは高い物理防御を超えた力によるゴリ押し。あの技は“気”を武器に纏わせ固めて物理攻撃力を上げるものだから。シャロンだと魔力を行使していることになるから、奴にはさらに効きにくい」
「……わかった。つまり、この腕輪がその辺りを補助するというわけか」

 最初からそれをやってればよかったんじゃないだろうか……?

 その気持ちがありありと顔に出ていたのか、アイリッツが頭を掻き、
「まあ、ちょっといろいろな……差し障りがあって……とにかく、それで、」

 バキィッ

 嫌な音を立て、砂の壁が凍りついたように固まり、その長い長い隧道の向こうから、長い蛇のような大きな生き物が現れ、うねり、長い首をもたげながらこちらへ滑り渡ってくる。

「イールかウツボか……まあよくある」
「……麦酒エールで煮るか」
 口の端を上げるアルフレッドの発言は、半分以上本気に違いない。アイリッツが足元の砂岩の一部を砕き、勢いよく発射してその勢いを殺し、同時にアルフレッドが剣を構え、力を溜めてパックリ口を開けて牙を剥く大きな鰻の親戚を迎え討つ。

 斬り裂いてもなおびちびちと跳ね回るその魔獣の体が、ビシリ、と砂の隧道に亀裂を走らせる。

「崩れるぞアイリッツ!」
「わーってる!さすがに表面を抑えるだけの力はあるぞ!」
アイリッツは白の前髪を風にはためかせ、すっ、と両手を左右に広げ、固まる砂の表面を後ろへ向かい撫でるような仕草をした。

 亀裂が止まり、先ほどよりゆるやかに、細かな線を走らせていく。シャロンは無言で風の結界を強化し、崩壊に耐えようとする。

 細長い魚の群れが、砂の洞窟を突き破り、襲い掛かってきた。同時に風を膨らませ、外へ周囲を跳ね飛ばす。

「うわお、ぎりぎり」
 重たい砂の飛沫を浴びながら、隧道を抜ける三人の後ろで、巨大なモニュメントにも似た、砂の壁と隧道は、巨大な音を立てて地面へと崩れ落ちていった。
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