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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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VS クヒィラ 4

戦闘シーン有です。
5月4日改稿しました。
 幻……か。もしかしたら、日常ですらも。

 私が目にしているものは、表面的なものに過ぎず、それは想像しているものよりまったく掛け離れた在り方をしているのかも知れない。

知らずにおくのか、知ってなお選ぶのか。暴くのか、暴かずそっと秘しておくのか。


それは、時に判断を誤れば深刻な事態をもたらす。

リッツなら、秘密は多ければ多いほど楽しみが増すだろ、なんて言いそうだ。……は、まさかそれが目的か。

なんてとりとめない思考に捉われながら、シャロンが見つめる先、アイリッツが言うところの聖獣クヒィラは、くねりながら四つの体を交差させ、こちらを威嚇するように泳ぎ回ってはいる。

しかし、こちらを遠巻きにして、決して近寄っては来ない。

 アルフレッドはそれらを睨みつけ、傍らでなぜか余裕ぶってあぐらをかき肩肘をつくアイリッツに問う。
「で、あれは倒したのか?」
「……いいや。見た目ほど衝撃はいってない。やられたように見せているだけだ」アイリッツが返すと、
「あの攻撃……いったい何がやりたかった」
呆れたように嘆息し、再び遠くで荒ぶる獣たちを睨み、剣の柄を握る。

 それからシャロンを振り返り、
「シャロン、試したいことがある。さっきはこの阿呆のせいでできなかった。協力して」
「……おい」
アイリッツが苦笑する。

「アル、落ちつけ。待ってくれ。ちょっとばかり、混乱してきた」
 シャロンが頭を押さえて首を振る。

「リッツ、もう一度確認する。あの獣の性質をわかる範囲で教えてくれ」
「あれは、聖獣クヒィラ。うつつと虚構の狭間を泳ぐ、優しき無垢なる存在もの……と呼ばれている」
 誰にだ。と突っ込みたくなったが……やめておこう。

 シャロンはそんなことを考えつつも真面目な顔で頷き、アルフレッドを見た。
「アル……やれるか?」
「押し通す」
「わかった。がんばれ」
 力強く言い切ったアルフレッドを反射的に励ましてから、絶対細かいことは考えてないだろおまえは、私に丸投げか、とシャロンは空を仰いだ。

 空は薄曇りだが概ね晴れていて、時折砂埃が宙を舞っている。

「作戦……作戦か……私は風でフォロー、だな。アルは剣でなんかやって、リッツは、なんていうかこう、ちょっと革新的なのを頼む」
「なんなんだよ革新的なの、って。指示が曖昧すぎるだろ」
アイリッツが呆れたような声を上げる。

「あのクヒィラは皮膚の魔法防御がやたら高い……が、それが切り札、ってわけじゃあない。実体と精神体の狭間を泳ぎ、その身に受けた攻撃をかわす。能力は幻術、分身、おそらくだが結界と治癒も使えるだろ……聖獣だからな」
「なるほど。実体でいるあいだに、ダメージを負わせればいい……か。じゃあリッツはタイミングを合わせて結界を張ってくれ。アルの攻撃できる一瞬があればいい」

 シャロンは探るようにクヒィラの動く方向を睨んだ。いっぱいいっぱいなんだが、このくそったれ。

 唸りたくなるのを堪えながら剣の柄から手を離し、アルフレッドへ手を伸ばした。つかのま、励まし合うようにギュッと互いに強く結び、続いて、アイリッツの肩を、それはもう、手跡が残るぐらいめいっぱい強く叩いた。

「~~~~でッ」

 痛い、なんて言葉にならずアイリッツが悶絶するも、叩いた当のシャロンは振り返らず離れ、四体のクヒィラがもっともよく視認できる位置へ陣取った。

「痛て……」
 アイリッツは、そう顔をしかめ、次いで、その頭を、ゴツッ、と衝撃が襲った。
「ッ痛ぇ!!まじ痛ぇッて何しやがるいきなり!」
後頭部を押さえ、半ば本気で怒りながら振り返ると、
「呆けている暇はないぞ。さっさと協力しろ」
アルフレッドが殴った剣の柄をそのままに、こちらを窺っている。
「おまえな、オレの頭が本気でイかれたらどうしてくれる!」
「心配ない」
これ以上悪くなりようがない、と言外に含ませて、地面を蹴り、クヒィラとの間合いを計る。

「…………」

 変わらない……それを確認したかったんだろうか、オレは。……試すような、真似を、

 片手で目元を覆いくしゃ、と顔を歪め、バシッ、と何か打たれたような気がして、慌てて振り返る。その目線の先で、シャロンが、早く、と剣を振っていた。

「……まったく、こっちは真剣だっつーの」
「リッツ、敵を倒すことに集中してくれ!」
 ぼやきが聞こえたはずもないが、シャロンが絶妙なタイミングで声を張り上げた。

 こいつら……。

 アイリッツは、しかたねぇな、と、笑い、ズキズキと痛む後ろ頭に…………くそ、覚えてろよアルフレッド、後で、あの時言ってきたあの、仲間だとかなんだとかいうこっ恥ずかしい台詞を目の前で繰り返し言ってやる、と考えて黒い笑みを浮かべ……今は奴らだな、と再び気を取り直してクヒィラを見据え、その軌道を追った。

「ふっ、このアイリッツ様をなんだと思ってんだ。こんな奴ら余裕に決まってるだろ。真打ちは後から活躍するんだよ」

 戦輪チャクラムを使う。砂に線引き、追い立てるために。アルだけに手柄を渡すわけにはいかない。このままじゃ未来の英雄アイリッツの名がすたる。


 シャロンは、そのアイリッツの姿を眺めながら、ああ、よかった、回復した。もう大丈夫そうだなと、ほっと肩の力を抜いた。……リッツは、ああして笑ってるのが、一番いい。


 私にできることなんて、ほんのわずかしかないけれど。せめて、彼が彼らしくあるように。



 風が、力を増した。砂を弾きクヒィラを追い立てる戦輪チャクラムに寄り添い、その効果を倍加する。

 砂が風で飛礫と化し、容赦なく聖獣を駆る。アルフレッドの元へと。


 四方から迫る戦輪チャクラムを避けるため、クヒィラが別々の方向へ動いた。アルフレッドは気配を殺し、その動きを読んで少しずつ、少しずつ、立ち位置を変えながらひたすら待つ。

 来た!

 奴らのその一が、アルフレッドの前に躍り出た。シャロンは風で退路を塞ぎ、アイリッツは結界でその体を包み込む。

 アルフレッドが、剣を抜き、咆哮した。

 空気が振動し、剣が、二重三重にぶれた。シャバッ、と龍が爪で引き裂くような嫌な音とともに、太く鉤裂きが三筋、クヒィラの白い滑らかな皮膚に痕づいた。きゅぃいいい、と情けなく抜けるような声を立て、ひどく傷つけられた聖獣は、どう、と砂地の上に倒れていく。

「怖ぇえ……」
 アイリッツが思わず、他の一体に迫ろうとした動きを止め呟き、どことなく得意げにこちらを見るアルフレッドに、アル……悪い、私もそう思った、とシャロンも心の中で謝罪した。

 シャァア、と他三体が、警戒音を鳴らす。倒れた白の聖獣が、光の粒となって霧散……したかと思いきや、光は集まり、いくつもの小さな羽ばたきが生まれた。

「鳥……!?」
 白の鳥たちは一斉にその小さい体をシャロンへと向け、飛びかかっていく。同時に残りの三体がぱかりと口を開き、力を溜める。

「げっ」
 アイリッツが呻き声を上げ、戦輪チャクラムを動かす。アルフレッドが牽制のためこちらも重い剣の衝撃波をクヒィラに放つが、それらはすべて白の体躯を通過し、後方で大量の砂が宙を舞った。


 勢いよく襲いかかる鳥たちの嘴から顔を庇いつつ、シャロンは風を使い跳ね除けたが、なぜかそこへアイリッツの戦輪チャクラムが三つ、巨大化し上からすっぽりと嵌ってその体を拘束した。

「リッツ……!!」
 わけもわからず怒りの声を上げるシャロンへ、素早く寄り来た鳥たちがその体を長く伸ばし、変化する。そして、幾重にも幾重にも白い紐状の物体が絡み、巻きつかれたシャロンへと光撃は放たれ……そのタイミングで戦輪が回転し、紐状生物を斬り裂いて弾き飛ばした。自由になった体で、すぐさま地に伏せ、衝撃波ブレスを避ける。

 放たれた光は尾を引いて遠ざかり、やったぜ、さすがオレ、と笑顔でアイリッツが叫んだ。その姿を見、シャロンは立ち上がり、砂を払いつつ、
「この残念仕様……まったく、アイリッツとしか言いようがない」
ぼそりと突っ込んだ。
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