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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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336/342

VS クヒィラ 2

H29年3月4日付け足改稿しました。
前のがわかりにくくてすみませんでした。
 下から吹き上げた砂は、白っぽく、赤褐色の砂に乱雑な跡を残す。遠くはまた、広々とうねる波を留めたような砂の海。さざ波の紋様を描き渡る風。

思うほど暑くはなく、高い太陽にじわりと汗は滲むが比較的気温は穏やかだと言えるだろう。

 しかし、どうにもすっきりしない。

 潜んでいた魔獣にしろ、アイリッツの動向にしろ、よくわからないことだらけだ。幻覚を使うのか、あるいは……。


シャロンは、アイリッツを見たが、いつもなら頼まれなくても嬉々として語るはずの彼は、沈黙したまま、じっと砂の動きを追っている。

 突然、その視線の先で砂が隆起し、再び白き魔獣が姿を現した。きゅッきゅッと鳴きながら、高く、飛び跳ね、砂に勢いよくまた頭から突っ込んで……完璧に遊んでいる。

 やたら楽しそう、かつ、優雅に泳ぐ白い巨体を睨みつけたままの二人は、完全に無言。

 シャロンも息を吐きたいのを堪え、

パァンッ

白い巨体に一応風をぶつけてみたが、やはり少しも効いた気配がない。
むしろ、気持ちよさそうに風を感じ、胸ビレをヒラヒラさせている。


 跳び上がった瞬間に、巨体と砂とのあいだに、風の膜を差し入れてはどうか。

 そんなことも考えたが、小さく首を振り、
「…………よし、あいつはしばらく無視しよう。いきなり仕掛けておいて、あれだが、一度、状況を整理したい」

 二人に話しかけ、考えをまとめるように一度目を閉じ、ゆるやかに瞬いた。……何かを掴めそうで、掴めない。もどかしい。

 シャロンの内心の葛藤はまったく映されず、傍からは眠そうにも見えるその姿で首を傾げ、
「そうだな……これはあの、ゼルネウス、とかいう男の“試し”……ということだったが、おそらく、この戦いでその“試し”は終わりのような気がする。ただの勘、だが」
ああ、とアイリッツが頷き、
「わりとシャロンの勘て侮れないからなー。まあ、四体も五体も出したところで、ぐだぐだになるし、倒されればそれだけ力も削がれるから、その可能性はありうるな」
アイリッツが肯定し、アルフレッドが続けて、
「“試し”……それが終わったら、あの黒幕ゼルネウスとの戦いが始まる、ということになるか」
「……そうだな」

 “力”を削られる……?そうまでして、この戦いをやる意味は、あるのか?


それは英雄の、感傷とも言うべき行動だったかも知れない。


 シャロンはそれには思い至らず、ただ首を傾げた。

 こちらの手立てを知るためか、それとも猫が獲物を弄ぶようにしているだけか、そうと見せかけた、罠か……。


「まあ、幸いにしてあの魔獣は積極的に向かっては来ない相手だ。できるなら体力気力は温存したい、けれども」

これもまたよくわからない。どうにも引っ掛かる。

シャロンは顔をしかめた。

 砂の海を自由に泳ぎまわる巨大な生き物。最後の一体なら、これまでより強力な相手のはず。それとも……この戦いそのものが、メインの前の小手調べのつもりか。そんな甘い相手ではないだろうな……。

 また物思いにふけるのを、アイリッツの声が打ち破った。
「まあ、こんなとこで考え込んでいても仕方ねえ。ヤツが何のつもりだか知らないが、たくらみはぶち壊してやる」
そう意気込むアイリッツは、
「で、どうする?オレの結界でアイツを追い詰めて、アルの剣で叩くか?」
アルフレッドに提案する。

まあ、単純だがそれしかないかな、とも考えたけれども。


迷いつつもシャロンは口を開き、
「テスカナータでは、白鯨に似た魔獣を、砲弾と爆、弾……だったか……?とにかく、音と衝撃で追い立て、岩礁地帯に閉じ込めた。しかし、ここは一面の砂地で、追い込む場所がないのと、それに、あの泳ぐ姿が本体かどうかも、わからないのが問題だな」
「ちょい待ち。オレだってそれぐらい考えてるぞ」
呆れていうアイリッツは、おそらく、無自覚だ。

魔獣を捕捉するための巨大な結界。本体を察知するための鋭く正確な探知。……どちらもアイリッツが得意とするもの。
そしてその当の本人は、無自覚に不安定。


 やってみればいい、試せばいい、とは思うが、信頼関係とタイミングが一番重要なこの状況で、冒険に出ることはできない、とシャロンは一つ息を吐いた。罠の可能性も、捨てきれない。


こうなったら、気合いを入れさせるため、一発アイリッツに張り手でも食らわせるか。

そんなことを考えたシャロンの視線に険が籠っていたのか、アイリッツがうろたえ、
「おい、なんでこっちを睨む!?変なこと考えんなよ?」
やや早口でしゃべった。

鼻を鳴らしかけ、そこではっ、とシャロンは我に返った。

いけない。これじゃあアルと似ている、と言われるはずだ。もっと他の方法は。昔の私なら、今と違ったやり方をしたはず。

しかし、いくら考えても、ヤツを一発殴って目を覚まさせる、以外の方法が思い浮かばない。私は変わってしまったのか……なんて、シャロンは過ぎ去りしものに思いを馳せた。


まあこんな変化も、嫌いじゃない。


「リッツ……この事態は、お前を一回力いっぱい殴ったら、解決に近づくと思うんだ」
 (極めて)真面目な結論を告げれば、
「アルフレッドかおまえは。どこをどうしてそうなったか知らないが、暴論だろ」
とアイリッツが予想通りの突っ込みを入れた。


「冗談はともかく……」
「いや目が本気マジだったぜ、今」

「ともかく、まあリッツの作戦通り、あの魔獣を結界で閉じ込め、堪えきれず上に出てきたところを、一気に叩く。物凄くタイミングが重要だが、リッツ、囲むのは出来そうか?」
巨大な網のように、一部を開けて気づかれないよう徐々に締めていくのは、と問えば、
「誰にもの言ってんだよ」
ふふんとアイリッツが得意そうに笑った。

「アル、めいっぱい叩いてくれ。リッツ……じゃなくて、あの魔獣を」
「わかった」
躊躇なく頷き、その冗談どんだけ引っ張るんだよ、との声を綺麗に無視して、アルフレッドはこちらに手を伸ばす。

 シャロンが何をするのか首を傾げるまもなく、その髪をよしよしと撫でた。


「ななな何をするんだ、いきなり……!!」
シャロンは真っ赤になって後退り、アルフレッドを睨むが、
「いや。したかっただけ」
睨まれた方はまったく悪びれていない。

 アルフレドは平然と、シャロンは頬を染めつつも訝しげに、互いに見つめ合う二人に、おーい戻ってこい、なんてアイリッツの声がかかる。


 やがて気を取り直すようにシャロンは大げさな咳を一つして、
「それじゃあまず、リッツ。一応聞いておくが、目の前で泳ぐ以外に本体のような魔力塊は感じとれないんだな?」
「ああ、それが、砂全体が魔力で覆われていて、巧妙に隠されている。探知しても非常に曖昧だ。わりぃ」

「いや、確認しただけだ。その分結界を、できるだけ深く、広く広く張ってくれ。本体があるなら、根こそぎ追い上げたい」
「わかった。底引き網の要領だな。やってみる」
アイリッツが頷いた。あ、もちろん“力”を温存しつつだからな、と念押しして、


 うーん……いつものアイリッツなら、こっちが言うより、もっと奇抜で有効なアイディアを真っ先に提案しそうなものだけれどな。こっちのが面白い、とか言って。


 ……いけない。堂々巡りになってる、とシャロンは首を振った。
「よし。やろう。頼む」
その言葉を合図に、三人はそれぞれに分かれ、魔獣を囲むようにして、それぞれ均等に距離をおいて動き始める。

 そうだ。アイリッツがどうだろうと、関係ない。足りなければ、フォローをすればいい。

例え彼が、本調子じゃなかったとしても。その闇が、どれだけ深かったとしても。暗いところになんて、いさせない。

 殴るなり掴むなり、声を張り上げるなりして、アイリッツを明るみへ引っ張り出す。

 きっとできるはず。それができる私でいたい、と願う。

 シャロンは、そう心に秘め、不測の事態に対応できるよう、ゆっくりと風を編んだ。それから、あちこちに風を収束し、凝縮させ、あの魔獣の進行方向へといくつも放っていく。


白く滑らかな獣が、体を切り返し、その動きはこちらをやや警戒したものに変わる。
 結界を広げるアイリッツの様子と、シャロンの風が起こす誘導に合わせた奴の軌道の変化を油断なく見守りながら、アルフレッドもまた、硬く心に誓っていた。

 シャロンが聳え立つ壁を見据え、掴み乗り越えようとするのなら。

 自分は並び立ち、一歩先に進む存在でありたい。彼女が成長しようとしている、さらにその先へ。

 ……とりあえず、アイリッツは一発殴る。

 こうしてはいられない。立ち止まってはいられない。前へ、前へと進みたい。引きずってでも、連れていく。

 シャロンが砂を巻き上げ、さらに白い魔獣を引きつけるため、その鼻先へ向かう。

 時を同じくして、アイリッツが戦輪チャクラムを取り出し、広く周りを囲むように線を引き始めた。そこから結界を、地の底へと伸ばしていく。深く、深くへと。

 ギリギリと砂の奥深くと周囲から絞り、白の魔獣から逃げ道を奪っていく。………アイリッツの額に、じわりと汗が滲んだ。


 彼は。縛られている。焦っている。引き止めている。これ以上は進まないように。願いが、砕け散らないように、と。


 シャロンが先に動いた。いくつも凝縮させた風を解き放ち、大地を揺るがし砂を巻き上げていく。

 速い動きでことごとく、破裂する凶悪な風刃を躱す、白く滑らかなその体を視野に入れつつ、捉えて爆発に巻き込まれるその絶妙なタイミングを、図る。
「このッ」
 なぜか重く動き辛い身体に渇を入れるようにして結界を締め、白く光る巨躯を下から上へ跳ね上げた。砂の中から追いやられ、白き獣が、空中へと身を翻し、跳躍する。その数、五体。


「五……」
シャロンが呟き、風を操り、そのうちの一体に肉薄していたアルフレッドの元へ急ぎ駆けた。

 アルフレッドが剣を白く滑らかな魔獣の皮膚にと振り下ろす、そこへもう一体が口を開き、光の吐息ブレスで薙ぎ払った。

 間一髪で間に合い、シャロンが張った風の膜で衝撃を和らげたものの、その力を完全には殺せず、砂地の上に叩きつけられた。一直線、遥か遠くにまで砂煙が巻き起こる。

「シャロン、アル!」 アイリッツが呼びかけ、すぐさま衝撃で遠くまで吹き飛ばされた二人の元へいき、砂に半ば埋もれながら呻く、その傷ついた体に“治癒ヒーリング”をかけた。
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