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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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330/346

番外 晴天、波浪につき 12

大変お待たせしました。戦闘シーン、流血、残酷描写等あります。ご注意ください。
 晴れていたはずの空に雲が立ち込め、不穏な空気の下、凄まじい勢いでみるみるうちに距離を詰めるその船は、オンボロだが、帆の形がこちらとは違って、斜めになっており、風を効率よく流せるようになっている。


 船の上で、ヤケクソのようにゲオルクが叫んだ。
「てめえら、覚悟はいいか!?俺たちの意地、とくと見せてやれ!」

 オオォ!

 水夫たちが叫び、思い思いの武器を手に、持ち上げて見せる。半月刀、ナイフ、中には包丁や、銛なんかを手にしている者もいた。

 四、五人いる傭兵たちは剣、楯などを掲げてはいるが、そのほとんどが、苦渋に満ちた表情で、暗い。乗るんじゃなかった……と、そんな顔だ。

「来ちまったものはしょうがねえ。腹ぁ括るさ」
 モランが口の端を吊り上げて言うも、ラッケルは諦めと恨めしさが半々の表情で、黒と赤の、一見まだらのような旗を掲げた船を見やる。

 海面を砲弾が叩き、やや遅れて、間に合わせのバリケードをかすめ、船の縁が吹っ飛んだ。近くで起こる悲鳴と罵声……それから、遠く恫喝の声と、哄笑が、響いてきた。

 痩せた褐色の肌に海藻のような髪をぶら下げて、手に手に剣と、クロスボウと、ギラつく瞳でこちらを狙らう海賊たちの姿が現れた、と思った次の瞬間には、矢を射かけられていた。

「てめえら、ヘマすんじゃねえぞ!!」
 敵の姿を見て叫んだっきり、ゲオルク船長はとっとと奥へ引っ込んだ。しかし、それに失望や不満の声を上げる暇すらなく、すぐに並び立つ敵船から矢と縄が射掛けられる。

 水夫の一人が、矢を食らいもんどりうって倒れた。
「カッツァ!くそ、射られたか!おい縄を切れ!奴らが来るぞ!」
「阿呆、どうやって切るってんだ!矢が来るだろ、棘魚とげうおにでもなれってのか!?」
 こちらも混乱の罵声が飛ぶ。

 叫び声に甲板下から現れたニコルが蒼白な表情で、肩口を真っ赤に染めて悶絶するカッツァーノの体を下へと引きずり、運んでいく。

 それを確認したヒューイックは忌々し気に、
「奴ら、薄汚ねえ顔で高笑いしやがって。乗る直前で落とすか、それとも、とっ捕まえて矢の楯にするか。……まあ、構いはしなさそうだが」
「しかし、数が多いな。あの船のどこに収まるんだ?ぎゅうぎゅう詰めか」
アイリッツも受け答えしつつ、二人で姿勢を低くしスパ、スパっと船に掛かる縄を斬るが、何せ数が多い。

 海賊は次々と鉤縄に布や曲木をかけ、器用にバランスを取りながら縄を伝い乗り来ては、
「イヨ、ホー!女はいねえかぁー!!早いモン勝ちだ!!」
「いや、まず金だ金!」
「女ぁ、女ぁ!」
と叫びながらぎらつく目をした海賊どもに、そんなもんねえよ、と突っ込む間も惜しみ、ヒューイックはたまたま傍に下りたむさ苦しい口髭男に回し蹴りを繰り出し、ついでに足を掴んで船外に叩き落す。

「……阿呆か」
 すぐさままた数人が船の縁に手をかけるのを、アイリッツが剣の柄でゴン、ゴスッ、ゴスッとめいっぱい叩き、苦悶するその頭を殴って海へ落としていく。しかし、さすがにすべて淘汰するのは難しく、いつのまにか、7、8人が船に上がり、我が物顔でのさばり、邪魔な樽や板を蹴飛ばし、震え上がり逃げ惑う水夫たちの後を追う。


「おらぁああッ食らえやぁ」
 トニーが自前なのか銛をぶん回し、寄り来る海賊どもを数人ぶちのめす。それを横目で見やり、あっちは、まだつと判断し、別の者どもが向かう先に首を巡らせれば、
「待て!おまえらに加勢する!だから命だけは、」
「ごちゃごちゃうるせぇッ!」
命乞いをしたルクツィオが斬られ、噴き出す真っ赤な血が甲板を濡らしていた。

 同じようになんとか命乞いをして生き延びようとしていた数人の水夫の顔が、はっきりと蒼褪め、後ずさっていく。

「俺たちの船はなあ、いつでも定員いっぱいよぉ!……まず、ぶんどったお宝を乗せなくちゃいけねえからなあ!」
 数人が笑いながら半月刀を振り回し、逃げ切れず床に頭を擦りつけて命乞いをする水夫に迫るのを、とりあえず板切れをぶん投げて牽制した。

「誰だふざけたことしやがって!」
 投げつけられた板に血相を変え振り向く海賊の目に、
「がぁあああッ」
叫びながら剣を掲げ、甲板で滑らぬよう足を踏み締め慎重かつ早急に大股で寄り来るざんばら茶髪の地味な男の姿が移った。

「覚悟しろ!」
 奴らの気を引くため普段の三倍は大げさに声を張り上げるヒューイックに、
「なんだァあいつはァ?先締めとくか?あぁ?」
這いつくばる水夫の顎を蹴り上げ、それぞれに振り向き、
「はッ、このひょろぎす野郎!てめえのようなのは、すぐに細切れにして鱶の餌だな!玉無しが!」
「とんだ勘違い野郎だぜ!てめえ、正義感ぶってんじゃねえぞ!這いつくばってオレの靴でも舐めな!」
嘲笑と罵倒が飛び、すぐさまいくつもの刃がヒューイックへと向けられる。
「……言ってろ。この、ぼろ鼠ども」

 ぼそりと呟き、叫び声とともに斬りかかる剣を、ガチリと受け止めた。刃を滑らせ肩を斬りつけ、すぐ目の前の腹を蹴り飛ばす。
「て、てめえ、」
 激高する暇さえ与えず間合いを詰め、剣で横薙ぎにすれば、悲鳴と血しぶきが上がり、さっさと次の獲物へ向かい、血塗れた剣を振り露を払い、切っ先を向けた。

「な、糞、化け物か……!!」
「どうした?かかってこないのか?」
 わずかに首を傾けて見せれば、すぐに獣のような唸り声とともに剣を振りかざし、向かってきた。……構えるこの剣は古代遺物アーティファクト。使いこなせれば、羽よりまだ軽く、鉛の詰まった大樽よりもなお重い。

 突き来た剣をあっさり跳ね飛ばし、首付け根から腰までを深く斬りつけ、軽々と振り払い、ドチャリと湿った音をさせる。
「糞が……!!その剣、」
 気づいたのか、髪を振り乱した男が血相を変える。大砲の音が響く。下種どもだが、武器の扱いは熟練者のようだ。

 振り向きざま間近に迫る砲弾は、鉄ではなく石。自然と剣を持つ右手にもう片方を添え、上から石の塊を絶妙な角度で叩き斬る。

 ちょうど真っ二つに割れ、左右後方にぶち当たる砲弾を見て、海賊どもが悲鳴を上げた。
「お、おまえなんなんだよ!聞いてないぞこんな手練れが乗ってるなんて!」
「ああクソ、あの剣手に入れさえすれば一攫千金夢じゃねえってのに……!!」

 幸い、水夫は逃げて見たのはいつらしかいねえようだが……言いふらされても困る。

 振り返り、笑った顔は、まるで悪鬼のようだっただろう。すぐさま怯える奴らを斬りつけ、叩き伏せ、海へと放り投げる。魚の餌だ。

「ま、待て!俺らが悪かった!!何もここまでしなくてもいいだろ!見逃してくれ!」
 足も立たない様子でストップをかける男に、はは、と笑って見せ、
「……面白いこと言うなよ。ならなぜ剣を向けた?最初から戦わなければいいものを。自分はやっておいて、立場が逆転したら見逃してくれ、か?」
相手の顔が目にわかるほどはっきりと蒼褪め、絶望の色が浮かんだ。

 斬るのももったいない。胸倉を掴み上げ喚くのも構わず船の下へと放り投げてやる。後はどうなろうと知ったことか。

 バシャアン、と派手な水音が上がったのを後ろに、一歩踏み出せば、ぬるりとした感触が足下から伝わり、
「くっそ、滑りやがる……」
脱ぐべきか……いや、と考えたが、結論を出す前に、前から殺気と、
「貴様、ただで済むと思うな」
低い恫喝が叩きつけられる。

 思わず目をやれば、別の、つぎはぎ皮のターバンを被る海賊が、ぐったりしたトニ―を片手で締めつけながら、射殺しそうな目でこちらを睨みつけていた。


 船首へ向かったヒューイックとは逆の方向へ動いたアイリッツは、よじ登り来たらしいまた別の一群と出くわしていた。

 頭頂部以外剃り上げた筋骨隆々たる男が短いが幅のある剣をブン、と降ったかと思えば、短髪でじゃらじゃら装身具をつけ三連ピアスを持つ痩せ男が、ぎょろりと目を光らせ、及び腰になっている水夫たちを目にするや、
「いやっほぅ、かかって来いやァアアおめえらァア」
と叫んで細身の刀を振り回した。てんでバラバラに相手が逃げ出したのをにやりと笑い、剃り上げ男と頷きにやりと笑いあってその背中を追う。

「があああああ」
「てめえら弱ぇええなあ!逃げるばっかりか!?なあおい!」
口を半月型に吊り上げ、一方的な狩りを楽しもうとするその男たちに、
「うぉっと!オレが相手だ!」
とアイリッツが間に入り、待ったをかけた。

「なんだァ、おめぇはァ?」
「オレの名はアイリッツ!未来の英雄の名を、知らないとは言わせねえぜ!」
「いや、知らねぇなあそんなもん。おめぇ知ってるか?」
 三連耳輪男が、首を傾げ隣の筋肉男に問うが、相方もひょいと肩をすくませてみせる。

「ぁあン?ボウヤ、ごっこはおうちでしてまちょーねー。とりあえず死ねや!」
 ブン、と痩せた腕に似合わぬ勢いで剣が振られ、予測してしゃがんだアイリッツの頭上を薙いだ。しゃがんだ姿勢からアイリッツは甲板を蹴り、剣を抜く。

 三連耳輪痩身男の脇のぎりぎりを擦り抜け、丸太ほどもありそうな隣の剃り上げ男の上腕をかいくぐり、反転させた剣がザシュッ、と敵の利き手を斬り裂き、さらに皮鎧を蹴りつけ一旦距離を取る。

「ぐぉおおおおおおッ」
 利き指を斬り飛ばされた男が手を抱えうずくまるのに合わせて下から顎を蹴り上げノックアウト。わずかない間に、それらすべてが行われ、仲間がやられたのを目にし、激高した細身男が、
「て、てめぇ、ぶち殺す!」
と剣を振りかざすが取り合わず、
「じゃ、後は任せた!」
手をスチャッと上げて遠巻きにして影に隠れていた船乗りたちに挨拶し、床を蹴りすぐ傍の壁に足をかけて最も高い後部の甲板に跳び移った。


「ッざけんな糞がッ」
 目を血走らせ、口から唾を飛ばしながら叫び追おうとした装飾男が何かに足を取られてすっ転び、手から剣が離れ、回転しながら縁へ滑っていく。
「ちッくしょぅ何がどうなって……」
 いつのまに斬られたのか、千切れたベルトと下穿きが足元に絡みついている。
「は………」
 身動きがうまく取れず、倒れたままの男の顔に影が差す。

「「や、やっちまえ!」」
 その目が捉えたのは、男を囲み、震える手で角材や樽を持ち上げ、振り下ろす水夫たちの姿だった。


 アイリッツの活躍を、下甲板入口に陣取りながら見ていたモランは、浮足立ち、引っ込んでいた傭兵たちに、
「おい、俺らも負けてんじゃねえぞ!」
と発破をかける。

「……戦況は?」
 様子を窺うため顔を出した一等航海士リベロに、
「あんまりよくねえ。思いがけず、旅客の二人が活躍しているが……いつまで保つか。……なあ、よかったのか?あの布づくめフード野郎通しちまって」
「何かやりたいんだったらやらせとけ。どうせ何もしなければ沈む」
うっとうしそうに張り付く前髪を掻き上げたリベロがモランにそう返答をした。

「そういや船長は」
「部屋に籠りっきりだ。逃げ出す算段でも立ててるんだろ。非常事態はいつもこうだ。心配しなくても、そっちの報酬は払う。……生きて帰れれば、の話だが」
「ふうん」
 冷めたままの表情でモランは頷き、気を取り直したように、
「おい、やる気がなけりゃ下の守備を固めてろ!絶対通すなよ!最下層には!!」
そうラッケルに怒鳴り、入り口で混乱と阿鼻叫喚の甲板を眺め、こちらを見つけ奇声を上げて襲ってきた奴を斬り伏せ、放り投げた。

「おら、少しでも男気のある奴ぁ行くんだな。このままだと、ただの旅客に手柄取られて終わりだ」
 その言葉に、迷っていた傭兵のうち、二人が慌てて頷き、駆け出していく。 

 それを見送り、他を一歩も通さぬようどっかりと腰を据え、モランは辺りを睥睨した。
「ああ、なんでこんなむさ苦しい男連中に囲まれなきゃならないんだ……せめて色気のある女海賊はいないのか」
 そんなため息交じりのリベロの嘆きを聞き流しながら。


 ちょこまかと海賊を翻弄しながら縦横無尽に動くアイリッツに、ドン!と敵船から鯨用の銛が太縄付きで発射された。狙いは逸れたものの、銛は客室壁へと突き刺さり、船がぐらりと揺れる。

「うわあ、怖え怖え!」
 ふらついた態勢を立て直し、おどけながら周囲を窺うアイリッツは、乗り込んできた海賊の残数、水夫たちの動きに続き、船首側にヒューイックと対峙し、人質を取る海賊たちとを発見した。水夫のトニーはぐったりしていて血の気が悪い。すぐさま周囲を見回し、近くの、メインマストから垂れ下がるロープを手に取り、その長さと強度、出せるはずの飛距離を目測し、縄の端をしっかりと握り締めた。


 鯨の銛が撃たれ、ぐらりと船が揺れた。ヒューイックはその隙にと間を詰めようとしたが、
「おっと、近寄るなよ。こいつがどうなるか、わかるな?」
皮ターバン男とその仲間に凄まれ、たたらを踏む。

 くそ……距離がある。

 ぎり、と奥歯を噛んで男を睨むヒューイックは、ふと男の背後、高い場所でロープを握り、手を振る存在に気づき、わざと声を張り上げる。

「そんなことして何になる!諦めろ!」
「馬鹿かおめえは。こいつを絞殺されたくなきゃさっさとその武器を渡すんだな。俺が有効に使ってやるよ。まさか、お仲間を見捨てるなんてことはしねえよなあ?」

「卑怯者め!正々堂々と戦おうとは思わないのか!そんな人質を取らなければ俺に勝てないとでも!」

 うわ、自分で言ってて虫唾の走る台詞だ。噴飯ものだな。奴に聞かれてないといいが……。

 案の定、相手は馬鹿にしたように鼻で笑い、トニーを絞める手に力を籠めた。
「よくわからねえこと言ってんじゃねえおのぼりさんよお!おめえはあれか?おぼっちゃんか?」
 嬲るように口角を上げる男の向こうで、縄を使い振り子のように勢いよく体を揺らしたのち、跳躍したアイリッツが迫りくる。……恰好つけだが、いいタイミングだ。

「おぶッ」
 ちょうど皮ターバン野郎のすぐ横に控えていた男の肩を目いっぱい踏みつけ、蹴ってその反動を利用し体を捻りざま皮ターバン男の肩をガシッと両手で掴み、遠慮なくその背中へのしかかるように両足で踏み込み激突する。
「おぎゅぇッ」
 潰れた蛙のような声を立て、倒れる男からひらりと離れて、息も絶え絶えのトニーに手を差し伸べて起き上がらせ、
「アイリッツ、見参!危ないところだったな!」
と見栄を切って見せた。

 ……これさえなければ、と毎回思うのだが。

「おい」
 正気に戻る前にやれ、と呆気に取られたままの海賊の一人を指せば、にっ、と笑い、
「わかってる。さあ、オレの“穀潰し”の剣の餌食となりやがれ!」
叫んで剣を抜き、慌てて相手が自前の武器でそれを受けた瞬間、その動きに合わせ体を捻り、反らしざま踵で後頭部を狙い打って落とし、ついでとばかりにみぞおちに拳を叩き込み黙らせる。

 あれだ。あの技はいわゆる“蠍蹴り”というヤツだ。

「よっしゃ、成功」
 足元で横たわる海賊と、小さくガッツポーズを取るアイリッツ。

 ……まったく、詐欺フェイントにもほどがある。

 こんな状況下でなんだが、そのあんまりにもあんまりな言動と行動に、ヒューイックはその犠牲者に少しばかり同情した。
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