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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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VS 守護龍 9

H28年11月12日改稿しました。
 戻ったのか、それとも――――――表層だけを覆って、みせたのか。

 アルフレッドとシャロンは無言で剣を構えた。アイリッツが、ふっ、と不敵に笑う。

「はは、相当削ったからな。速さあげても変わンねえよ」
「油断はしない方がいい。全力で、倒す」
 シャロンが言い、アルフレッドが頷いた。その二人の良く似た言葉と表情に、アイリッツが瞠目する。

「それじゃ、ま、行くか」
 軽い掛け声とともに、動いた。

 シャロンの‘風’の補助があってもなお、強い風が抵抗し、三人の速度を落とす。蒼龍が大地を蹴り、羽ばたき、飛んだ。


「はッ、行かせねぇ。同じ手をなんども食らうか、よッ」
 アイリッツが戦輪チャクラムを放ち、同時に大地を蹴ってそれらを器用に踏み台に跳躍し、高く上がる。

「シャロン」
「……別にいいけど、」
 アルフレッドが振り返り、自ら求め、シャロンは半眼で呆れつつ頷いた。

 風が足元で渦を巻き、強くアルフレッドを跳ね上げる。


「いいけど……私は行くの嫌だからな」
 ただひたすら龍を目指し、追いすがる二人を見つめ、シャロンはぽつりと呟いた。

 乱気流、ともいえる爆発的な風の流れが、アルフレッドを押し上げる。もはやシャロンは遥か下、小さな点のようになり、
「やった、追いついたぜ!」
楽しそうに叫ぶアイリッツとともに、アルフレッドは龍に追いすがり、その体に剣を突き立てた。

 シャロンは地上から、かろうじて影のように見える龍を、眩しさに目を細めながら、じっと見つめていた。

 何をやっているのか、まったく見えない。

 じっと待っていても仕方ないので、まあこの辺りだろうと予測をつけて、剣を抜き、下から振り上げるように風の刃を、打ち放った。


 小柄になってはいるが、羽根を広げた龍の背は、二人が乗ってもなお、ゆとりがある。錐揉み回転しながら飛ぶ龍、それから振り落とされないよう剣を突き立て、じりじりと皮を切り裂く、その下から、強い突風が煽り、バランスを崩させた。

「ぅぁ」

 強風で叫ぶこともできず、煽られるまま、龍とともに急降下していく。乱気流のように、羽ばたきながら、急速に角度を変え飛び回る龍を次々に強風が襲い、その飛行を阻んだ。

 シャロンは、尾を振りバランスを取りながら、急上昇、急降下と不規則に飛ぶ龍の軌道を、読みつつ、落下地点を予測し走る。

 大きく高度を下げつつも体勢を立て直した龍の背が蠢き、鱗と皮膚の一部が青黒い刃となってアイリッツとアルフレッドを串刺しにしようとし、咄嗟に彼らは、背を蹴り、逃れた。

 シャロンはふ、と息を洩らしつつ、二人を受け止めるため、風を操り、緩衝帯を作る。

「シャロン、跳ね上げろ!」
 アイリッツが叫んだ。おまえもか。

 風を微調整しつつ、見事に尾を使いくるりと曲線を描きこちらへ首をもたげた龍へ、アイリッツを跳ね上げ、続けてアルフレッドにも同じようにする。

 ……完全な補佐にまわっているが、どことなく楽しそうな彼らに、まあいいかと肩をすくめた。

「これは、楽しい、な!」
「…………」
 特に、とか、楽しいのはおまえだけだ、という沈黙がアルフレッドから返ってきたが、まっったく意に介さず、アイリッツは笑う。

 その笑顔を見て、アルフレッドはああそうか、とシャロンの意図を理解した。――――――鬱憤晴らし、ということか。


 アイリッツという人間は、今表面に出ているより、ずっと破天荒で楽観的。常識内では収まらず、とどまることを知らない。

ストッパーがなければ、船と成り立たない------そんな性格もの


普段の行動では、あれでもかなり、抑えているのだろう。 何かに縛られているのか、こちらに合わせるためにか。――――――だが、こいつが何も考えず自由に行動するときこそが、一番輝いて見えるのも事実で。


アイリッツが獰猛な笑みを浮かべ、龍の鼻先から口にかけて、剣を突き立てた。龍が噛み砕こうとその口を開ける。脇腹にアルフレッドが剣を突き立てるも、止まることなく。

 呑み込まれても、腹の中からバラせばいい。

 アイリッツの考えは、手に取るように二人に伝わった。

 その図を想像したシャロンの脳裏を悪寒を伴う一閃の思考が走り、風がアイリッツの背中を横に凪いだ。

「ぅわ、~~~ッ」
 鼻先に剣を突き立てたまま、風に揺さぶられ、意地でも剣を離さないアイリッツごと、剣が鼻から口を斜めに裂き、体液が迸る。触手が生まれた。アイリッツを取り込み、食らおうとする触手が。

「……遠い」
 アルフレッドが舌打ちし、同時に龍の腹の下で、風の爆発が起こった。龍の体が衝撃で大分低空まで下がり、
「ああ、やっぱり、効かないか」
 シャロンが目を細める上では、うまく反動を利用しアイリッツの上から、触手を斬り裂き足蹴にし、顎の付け根に剣を差して落下を防いだアルフレッドと、その足を掴むアイリッツ。

「……下りろ」
 そして、アルフレッドは、容赦なくアイリッツの腕を、蹴った。

「~~おい!」
 蹴られて手を離したアイリッツはしかし、見事に宙返りして足から地面に降り立った。

「さすがはオレ!」
 にっ、と笑い、決めを作るアイリッツを、ちょっとばかり冷めた眼差しで見やり、シャロンは斬り裂かれた傷口が塞がる前にと、風の刃を繰り出し、それを避けるようにアルフレッドが体を揺らし、後方へ移動する。

 ズシャッ、と音が響き、蒼龍の体を削る。飛び散る肉片を風で包み、潰そうとする前に、アイリッツがパチンと指を鳴らし、それらを一瞬で蒸発させた。

「やりぃ!」
 してやったぜ、という自慢そうな笑顔でシャロンを見れば、調子に乗るなと思いっきり冷たい視線が浴びせられ、
「あ~、わかってるわかってる。もう無駄遣いしませんよほんと」
ちょっとぐらい見せ場を作ってもいいだろ、と口を尖らせぶつぶつと呟いた。

 地響きを立て、蒼龍が耐え切れず一度地面に降り立つのと同時に、アルフレッドが剣を抜き放ち、前足付け根後方に力を籠め突き入れる。

 血の赤をしていた体液が一瞬で禍々しい色へと変わる。

 シャロンは風の力を利用し、めいっぱい踏み込んだ。近くの腕を掴み、
「アイリッツ!行けぇ――――――!」
「ちょ、いやそんなことしなくても、」
思いっきり腕を引かれついでに風で力いっぱい押されたアイリッツが驚異的な速度でアルフレッドの元へ行き、毒液を被った彼を、回復させる。

 続いてシャロン自身も、龍の元へ駆け、気を引くため鼻先へ攻撃を仕掛けて吐き出された吐息ブレスを慌てて避ける。


 外側から風は効かないが、内からなら………!!


 アイリッツの作戦ではないが、シャロンはそう考え、口元へ向かおうとしたが、はっと我に返り、龍が風を自ら操る可能性がある、と気がついた。


「リッツ、アル……!!こいつを、」
 二人の名を呼び、龍の口元を示し、目で作戦を訴えてみる。

「三人で狙う、ってことか……!!」
 あんまり通じてなかった。

「違う。風を使いたいんだ………!!」
 アイリッツに怒鳴る。作戦を事細かに説明している時間が惜しいし、何より、この龍は、もう中身が全部狂っていなければ、の話だが……人語を解する、かもしれない。


 素早く龍の口元とシャロンを見比べたアイリッツが、やっと合点して、頷いた。わかるのが遅い、とアルフレッドが後ろで剣を構え、呟いた。


 あまりやりたくなさそうな雰囲気をそこはかとなく醸し出すアルフレッドが、剣に力を籠め、ギチ、ギチ、と体を震わせ威嚇音を立てる龍を睨みつける。


 アイリッツが戦輪チャクラムを再び取り出し、指で回転させ、龍へと繰り出し、アルフレッドとシャロンが、対角から龍目掛け、剣を振り上げる。

 アルフレッドが龍の表皮と鱗を傷つけ、アイリッツがそこへ攻撃を当てる。シャロンが刃を突き立て、斬り裂いていく。傷から闇色の口が、生まれた。龍と、蝕とがせめぎ合い、互いを貪り合うかのように、中が蠢いて、絡みつこうとしたため、即座に離れ、再び対峙する。

 斬り裂かれる痛み、執拗に、食らいついて離さないかのように捻じ込まれる剣の動き。龍の形が定まらず、ちらちらと淀む何かが見え隠れする中、シャロンは、龍の頭を狙い、剣を繰り出した。


 剣を振りかざすシャロンの目の前で、龍が口を開く。そこから吐き出されたのは――――――吹雪だった。凍える風に手がかじかみ、柄へ張りつく前に風を起こし、直撃を免れるが、急速に冷やされ、動きが鈍っていく。

 先ほどより速度が落ち、捉えやすくなったシャロンの前で、龍が待ち構え、噛み砕くために顎を開き、シャロンはそこへ、圧縮した風の塊を、送り、アイリッツ、アルフレッドの攻撃と合わせ、解放した。


 内側から爆発が起こる。思ったよりも小規模のそれに舌打ちし、シャロンは剣に風を溜め、渾身の力を籠めて、口内へと、投げ入れた。

 轟きとともに、籠められた力が解放され、龍の体の大部分が弾け飛ぶ。

 弾け飛んだかと思いきや、その塊は曲線を描き、あちこちを飛び回り始めた。

「無茶しやがって……!!」
 アイリッツのそれとは違い、魔道具であるシャロンの剣は、術者から離されれば、行使力を失う。噎せ返るような臭気が漂い、弾け飛んだ肉片が気味悪く変化し、シャロンへと食らいつこうとするのに対し、彼女の剣をなんとか回収しようとしていたアイリッツは慌てて結界を一時的に強化した。

 が、肉片はその塊を崩壊させ、速度を弱めながらも、シャロンに刃を剥き出し、
「このッ」
剣のない彼女は、拳で応戦した。

 ジュッ、と肌が焼かれるような音とともに苦悶の表情でシャロンが手を引く。咄嗟にアイリッツは自分の小剣を、シャロンに届くようにと投げた。

 くるくると回転し放物線を描いてキャッチされたそれは、届くと同時に、シャロンの手の傷を癒す。

「感謝する!!」
 その小剣を使い、シャロンは牙をガチガチと剥き出す肉塊を斬り裂いた。斬り裂かれた肉塊は結界で包まれ、音もなく溶かされ、崩れ去っていく。


 その様子を見ながらも、近づけないでいたアルフレッドが、剣に“力”を籠め、巨大な肉塊にベシャリと叩きつけ、潰していく。アイリッツがシャロンの剣を拾い、二人がそれぞれお互いの持ち剣を交換し合い、シャロンは風で細かな肉片を包み潰す。

 龍の体はもはや大部分を失い、哀れな姿と成り果てていた。体の再生は追いつかず、妙な形に細く捻れ、あちこちがくっついているだけの状態ながら、その頭部だけはあまり傷がなく、色のない眼球が、じっとシャロンたちを映し出し、そして、矜持を見せるように咆哮した。


「……さよなら。哀しき王者よ」
 シャロンが風を溜め、アルフレッドがその剣を龍の頭へ振り被る。ギリ、と刃が軋む音が聞こえた。最後の力を振り絞り、牙を閃かせ襲うが届かず。アルフレッドの剣が、龍の眉間を貫き、押し潰す。

 意外にも、自分の運命を受け入れているかのごとく、その体は動かない。

 シャロンが風でその体を散らし、再生もできないほど潰すのに合わせて、アイリッツも他の破片を昇華させていく。

 白い霧のような煙がくすぶり、風に乗って舞い上がり、青い空へと吸い込まれるように消えていく。


 それを見送りながらシャロンは、急速に体が重くなるのを感じ、隣のアルフレッドに凭れて意識を失った。


「まあ、次の戦いが始まるまでは、寝かせとくか」
 とてつもなく短い時間ではありそうだが、とアイリッツが呟いた。






ズゥウン……、と、穢れによる腐蝕をところどころに残し、もはや虫の息となった龍は、その躰を地へと投げ出した。

『そなた、らの勝利だ……強き者たちよ、自らを誇るが、よい……』
蒼龍は、その白く濁り始めた瞳を瞬かせ、地に伏せ、永久の眠り、すぐそこに差し迫った安息の時を待つ。

『どうして……こんな……』
精霊に近しき、尊き存在よ、なぜ、蝕まれ、このような哀しき姿に。

アーシャが膝をつき、命消えゆく存在ものへ問いかけ、緩く彼は首振り、微笑むかのような気配を見せた。

誰も、言葉を発しない。

『ゼル……手遅れだったのかな。もっと早く気づいてれば、あたしたちがもっと早くここに来ていれば、こんな……』
悔し涙をにじませ顔をぐしゃぐしゃにして堪えるアーシャに、仲間は黙したまま答えない。


ゼルネウスが宥めるように頭をぽん、ぽんと撫で、アーシャの涙が決壊した。

彼女の、拭っても拭ってもあふれては伝い落ちる涙を、頭をかろうじて持ち上げた龍の、長い舌がべろんと舐め取った。

『それ、は違う、な、小さき人の子よ……そなた、ら、は間に合ったのだ……腐り果て災いを撒き散らす醜き姿。完全になりきる、その前に……矜持を保ったまま、逝くことが、できる……。強き者よ、勝者なる証、を、持っていくがよい……」
『“龍核”……伝承にある、‘龍の心臓’のことか』

 人が渇望してきた“力”の象徴。食せば不老不死や、巨大な力を得るとも、言い伝えられている。それをくれると龍は言う。

『偉大なる龍……気高き存在よ……』
 涙を流したまま茫然と呟くアーシャに、
『我が名はヴァルズィーグ。“核”とともに持っていくがよい。ふ、ふ、まこと、人とは面白き、不思議なものよ。‘龍核’は我らの魔力の源、命そのもの。これをどうするのかは……そちらで、考え抜くことだ』
穏やかに告げたその口から、フヒュゥ、と大きく風が通るような吐息が漏れた。

『西の砂地……忘れさられて久しい神が宿る。“神殺し”の汚名を怖れぬのならば……ゆけ。慈悲深き再生の獣……はや、その命をもってしかこの“呪い”は漱げん……それでもなお、足りぬ。足りはせぬ。道険しく、希望は細る月光のごとし……』

言い終えた龍はふっ、と目を閉じ、それきり、もう語らなくなった。

『……!!』
やがて、その体全体から発生した蒼い炎が彼を包み込み、その身をほろほろと崩していく。


巨体すべてが炎とともに消えた中央に、拳より小さく、蒼く半透明に輝く結晶が残されていた。

『浄化の、炎……』
『自分で、始末をつけたのだな』

ゼルネウスの静かな言葉に、沈痛な面持ちでアーシャが屈み、その結晶を広い上げる。

『西は、この荒れ地よりさらに暑さ厳しく乾燥した砂漠地帯、ですか……』
『選択肢はなさそうだ、が』
ハロルドの迷いを断じつつ、おまえはどうする、と問いかけるようにゼルネウスが告げる。

『そうですね。向かいましょう。ゼルネウス様ならきっと、成し遂げられる。及ばずながらも、力の足しにしてください。お側に』
ハロルドがどこまでもついていく、との意志表示のため、手を胸に当て、膝をつき、今一度騎士の忠誠を表す。


拾い上げた“龍核”をぎゅ、と握り締め、アーシャは西の空を仰ぐ。

 黄昏の空は燃え、大地を隅々まで赤く、染め上げていた。
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