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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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一時風は凪ぐ

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 照り返す日光と、砂と返り血でべたつく体にうんざりしながら、シャロンたちはその峡谷から元の場所へと戻ってきた。

「よし、帰るか」
 大ワシの肉やら羽やらの入った袋を背負っているアルフレッドに声をかけると、これ戻さないと、と首にずり落ちたスカーフを指差してくる。

「……」
 真上に位置する太陽の光が強いため、再び被っておいた方がいいのは間違いない。
 泣く泣くまだら模様になったスカーフを頭に巻き、時折強い風を受けながら荒れ地からターミルのある草地へと歩みを進めていく。

 思いっきり水を浴びて、体の汚れを落とせたら最高だろうな……たとえ町に帰ったところでそんな贅沢ができるわけもないか……。

 いっそのこと、酒を代わりに使ってしまおうか。

 シャロンの思考は睡眠不足と疲れも手伝って、次第に常識から逸脱した方向へと急展開していく。
 そして、とうとうワインで満ち溢れたバスタブに浸かるという妄想に行きついた時、
「誰かくる」
そうアルフレッドが呟いた。

「……?」
 目の前には何もない、と思いきや、ちらちらと揺れ動く点が二つ、徐々にこちらに近づいてきていた。

「よくわかったな……」
 前々から疑っていたアルフレッドの視力の良さが、これで判明したわけだが……もはや驚く気力もない。
「エドウィンとヨアキムだね」
「ああ、そう」
 そんなやりとりをしているうちに、土煙をもうもうとたて、馬に乗った二人がシャロンたちの元へ辿り着いた。

「やあ、大ワシを討伐してくれたのですね」
 上機嫌のエドウィンとは逆に、どこか不安そうに辺りを窺っているヨアキム。

「……馬は」
 問いかけるシャロンに、
「火蟻と大ワシの数を減らすことを条件に、ターミルの権力者に貰いました」
 にこにこと笑いかけるエドウィン。……その後ろでは、あんな風に豪語して、達成できなかったらどうすると小声でヨアキムがぼやいている。

「あなた方とも出会えたことですし、このままあそこに向かいましょうか」
 馬首をめぐらせ、その先をあの火蟻の渦へと向けた。

 一人で行ってくれ、とあやうく口から出かかったが、シャロンはなんとかそれを飲み込み、
「正直なところ、一戦した後で疲れてるんだが……策はあるのか?」
と尋ねた。
「もちろんです、この荷物の中に。シャロンさんが疲れているというなら、このすぐ近くに水場がありますから、そこで一時休憩にしましょう」
「……わかった」

 水場という甘美な響きに誘われ、シャロンは頷く。アルフレッドはふっと眉を寄せたものの、何も言わず担いでいた袋を持ち直した。

 それから、エドウィンの案内により、一行は蟻柱のだいぶ近くにある窪地に到着した。低木と草の生い茂った地面は、ぬかるんでそこだけ湿地のようになっている。馬から下りると、茶髪の考古学者は真っ先にまわりに虫除けの粉を撒き散らした。

「……おい、水場っていうのはこれか?」
「もちろん。ここは、現地の人の貴重な休憩場です」
 エドウィンが爽やかに笑って馬の鞍を外すと、馬は嬉しそうに横たわり、泥たまりにごろごろと寝転がる。

 そんな馬を恨めしげに眺めつつ、シャロンはせめてもと、なるべく砂利の多い部分を選んで浅く穴を掘り、布を置くことにした。

 カバンの飲み水と携帯食料、アルフレッドが焼いた大ワシの肉も合わせて、二人分の食事が出来上がり、それを食べて小休止を取ってから布のところへ行くと、いい感じに水を吸い上げている。
 その湿った布で顔など気になる箇所を拭いていると、
「シャロンさんて不思議ですよねえ……」
エドウィンがしみじみといった。
「何が?」
「世間知らずなところがあるかと思えば、なかなかへこたれないというか、タフな部分もあるんですから」
 シャロンが褒めているのか貶しているのかわからない言い方はやめてくれ、と言うと、一応褒めてるんですよと微笑を浮かべる。
「さて、休憩も充分取れたし、行きますか」
「……行くのか」

 出発を促すエドウィンの声に、ヨアキムは嫌そうにのろのろと、アルフレッドは頓着などしてないかのように変わらない様子で準備を始めた。

 窪地を出て火蟻の渦に近づくにつれ、ヴワァァァンヴワァアアンと幾重にも重なった羽音が騒がしく響いてくる。

「本っ当にちゃんとした策があるんだろうな」
「無論です。まず、あの蟻をどうにかしますから……その隙に、あの根元の穴を探り、トカゲを見つけてください」
「……どうにかする、ってどうやって?」
「これを使うんです」
 エドウィンは大荷物を下ろして、微妙に飛び出していた棒を掴む。
「エドウィン……そんなに死に急がなくてもいいんじゃないのか?何があったか知らないが……そう自暴自棄にならなくても」
「いえ、違いますよ。……シャロンさん、もしかしてさっきの仕返しですか」
 ふっと息を吐いて、
「これは、特殊スキル持ちの魔法剣です」
そう自慢げに笑い、一振りの剣を引き出した。
 
 特殊スキルの説明は次回。
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