挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

299/342

隘路、悪路を行く

 戦闘シーン、やや気色の悪い表現等があります。ご注意ください。
 黒い球体が木っ端微塵に砕け散る。爆音で意識が一瞬飛びそうになったものの、風の防御壁で直接の衝撃は少なくすんだ。だが……ぐらり、と視界が揺れた。シャロンは咄嗟に自分自身の状態をチェックするが、特に異常はなく……小刻みに床、壁、周囲一帯すべてのものがが揺れ動いている。

 そして、すべてが剥がれ、切れ落ちた。アイリッツが何か叫んでたような気もするが……。

 引きずり込まれるような気持ちの悪い状態が続き、耐え切れなくなりきつく瞼を閉じた。

 揺れは長くも短くも感じられた。やがて、それらが収まり、シャロンがふっ、と目を開けると、そこは――――――じめじめとした暗がりの中だった。

 ぴちゃ、ぴちゃん、と水の滴り落ちる音がどこからともなく響いている。

「アル、リッツ、大丈夫か?」
 慌てて周囲を見渡し、一歩足を踏み出せば、片足が空を切った。すんでのところで、アルの、危ない、という声とともに力強く腕を取られ、
「おっと、気をつけろよなー」
アイリッツがいつものように軽い調子で言う。

 カチ、カチッと火打ち石の音が響き、やがてカンテラが点いた。
「う、わ……!」
 辺りは、ぽっかりと広い洞窟のような場所になっていた。足場は網目、というよりまるで、高いところに掛けられた蜘蛛の巣のように細い通路になっており、そして、自分の足は、下は遥か底に切れ落ちている穴にまさに踏み出されようとしている。

 冷や汗を掻きながら足を戻せば、石の破片がカラカラ、と落ち、大分経ってポチャン、ジュッ、と鈍い音を立てた。

「干渉したけれど妨害を受けた。位置的には地下だけれど、あそこからそう離れてはいないはずだ」
 周辺を冷静に分析していたアイリッツがそう告げる。
「ついでに、ちょっといらっとしたんで、色々いじくってやった」

 悪そうな笑みだが……あの場所にはさすがにもう行きたくもない。

 アイリッツのあまり意味のない悪戯宣言(?)に首を傾げつつ、
「アル、どっちへ向かえばいいんだ?」
と尋ねれば、
「多分こっちだと思う」
と網目状通路の先を示した。……後ろにも似たような空間が広がっていたが、アルフレッドがそちらを選んだ理由はすぐにわかった。
 通路の先に人が通れるだけの穴があり、そこからぞろぞろと、四足で黒く細い体と赤い光る目をした、針金でできた蜘蛛のような奇妙な物体がぞろぞろと這い出てきていた。




 シャロンたちが地下で謎の物体と遭遇している頃、腫れた足を引きずりながらも、エルセヴィルはなんとか演習場を抜け、城内の長く続く廊下を歩いてきた。

(だいぶ時間を食った……)
 まあ、あのまま倒れるよりはずっといい、と呟く。途中、怪我の手当てをし、体力が限界を迎える前にと適当な水分と栄養補給を取ったので、調子はいくらかマシになっている。

 それでもいつもの廊下をやたら長く感じながら、エルズは宰相の執務室へ戻っていく。




 シャロンたちは細い細い通路の上に慎重に立ち、ぞろぞろと細い奇妙な物体が吐き出される、遥か遠くの出入り口のような穴を見た。

「……風を」
 シャロンが呟き、三人がうまくバランスを取れるよう補助をかける。
「……行こう」
「よしじゃああの細いのが来る前に駆けるぞ!」
意図せずアルフレッドとアイリッツが同時にいい、アルフレッドが顔をしかめた。

 あ、今蹴るのを我慢したな、とシャロンはどうでもいいことを考えて、すぐさま気持ちを切り替え、頷いた。

 細い細い通路の上を走る。そのさなか、強い横風が、ごう、と吹き、その度に足を止めてやりすごしながらも、小走りに先へ向かっていく。

 あの細い虫(?)も止まっていたりはしない。ぞろぞろと、決して緩くはないスピードで動きながら道へ進み、進路を奪っていく。

「どけぇええッ」
 気色悪さを吹き飛ばすように叫びながらシャロンが風を使いその細い体を吹き飛ばす。……吹き飛ばされたかに見えたが、素早く他の個体が飛び立ち、細く体を繋げて落ちるのを防ぎ、シャシャシャシャシャ、と長く黒く細い体を伝うように先端から這い登ってくる。

 気持ち悪い気持ち悪い、気持ち悪いとしかいいようがない。

 うわキモッとかアイリッツが呟きながら、剣をブン投げ、細い列を断ち切り、アルフレッドが道で繋ぎ止めている一体を剣で真っ二つに裂いた。バラ、バラ、バラ、と落ちていくがその何体かは壁に掴まり、また再びこちらへと這い登ってくる。

 その隙に速度を上げ、通路から通路へ体を繋ぎ渡ってくるヤツらを吹き飛ばしながらなんとか穴まで辿りついた。

「う、うぁあああ…………」
 入り口には、針金のようなあの魔物が密集し、網のように広がりながらそこを塞いでいた。その隙間から、ゼリー状の、なんかねばねばした物体が、どろどろと体液をはみ出させていた。

「一気に行く」
 こういうとき、アルは強いと思う。うわあ、と顔を引きつらせるリッツの横で、剣を構え、そのカタマリをその力で強引に引き裂いた。

 うん、気持ち悪いです。

 ちょうど詰まったその真ん中がぱっくりと割られるような感じになった。シャロンは見ないように見ないように心がけながら、即座に風の防御壁を周辺に張り、足を踏み出し、一気に駆け抜ける。

 ううう……!! 

 ぐちょん、と背後で締まる音が聞こえる。金属質の通路の前には、鉄の扉があった。鍵が、かかってるかもと考え、
「アイリッツ!」
叫んだ。

「ああ。ほらよ、っと」
 アイリッツがカバンから小瓶を取り出し、布を入れて火をつけ、後ろに放り投げた。ゴウ、と炎が広がり、シャロンはアイリッツと場所を代わりそのその火を煽りつつこちらに来ないよう風で防いだ。

「こんなもんオレにかかれば、簡単簡単」
 アイリッツは懐から縦長の包みを取り出し、細い針のようなものを2本、鍵穴に差し込んだ。

「時間はかけるな」
「わかってるっ、つーの」
 こちらの状態も確認したアルフレッドがぼそりと呟き、アイリッツがすぐさま返す。

 ごうごうと燃え盛る炎を防ぎながら、ちらちらと振り返れば、アイリッツは耳を扉に当てながら、神妙な手付きで少しずつ少しずつ2本の針金、それぞれの位置を変えていく。

 ……次第に息苦しくなってきた。

「アイリッツ、そろそろやばい」
 そう洩らせば、
「開いたぞ!」
カチリ、と小さな金属音とともに嬉しそうな声を上げる。

 よし、と中に傾れ込み、扉を閉めた。辺りは、シン、と静まり返り、青白い光が通路を照らしている。アイリッツが明かりを消し、カバンの中に仕舞い入れた。

「……こっちだ」
 アルフレッドが迷わず分かれ道の片方を選ぶ。
「すごいな……どうしてわかるんだ?」
 そちらの方向へ走りながらそう問いかければ、
「物が破壊され、何かが暴れる音がする」
あまり嬉しくないことを教えてくれた。

 顔を引きつらせながら、向かわないほうがいいんじゃ……などと呟いたシャロンだったが、そこへアイリッツが、
「いや、どこかの部屋とかなら、何かヒントがあるかもしれない」
そう言ったので、やはりそちらに向かうことにした。


 エルズは階段を上がり、宰相執務室まで来ていた。相変わらず倒れたままの父親に布をかけ、大きく息を吐いて、扉の前に立ち、一気に開いた。

 ぐにゃり、と空間が歪むような感触とともに、そこに広がっていたのは、まったく見も知りもしない異質な小部屋。

「あ、あの馬鹿シルウェ……!!条件付けをしなかったのか!?」
 思わず、エルズは叫んだ。


 シャロンたちは通路を向かう。いくつかの研究室じみた小部屋を通り過ぎると、破壊音は大きくなっていく。

 ドン、ドン、ドキャッ!

 そして、向こうから激しく暴力を加えられているらしい、両開きの扉の前まで来た。ドガ、ドガッと殴られ、歪んだ扉の隙間から毛むくじゃらの腕がちらちら見えている。

「ここしか、ないだろうなぁ。まあ……開けるか」
 アイリッツが半笑い状態で、呟いた。その時、シャロンはひらめいた。何もわざわざ開けなくても、先に隙間から攻撃すればいい!

「アル、リッツ。一度下がってくれ、ここは私が」
 剣を構えて念じ、隙間をくぐるような風の刃を、連続で放つ。

 ギィアアアアア、と嫌な声が響き、隙間からじろり黒にオレンジ色の虹彩が覗く。

「……確かにいい手だ」
 アイリッツが半ば呆れながら呟いた。
「シャロンも、だいぶすれたな」
「……臨機応変さを身につけたんだ」
 反論し、扉向こうの獣が動かなくなるまで攻撃を打った。やがて静かになり……キン、とアルフレッドが扉の隙間から閂を切ると、扉は自然と開く。

 巨大な猿のような体躯を跨げばそこは……広い研究室のようだったが、血が飛び散っている上に、荒らされ、器具やら机やらは完膚なきまでに叩き潰され、見る影もない。

 広い研究所の奥に、扉があり、そこは上へと続く階段が伸びていた。やはり、その向こうからは何か、複数のモノが暴れまわっているような物音がしてくる。

「シャロンは後ろの方がいい」
 アルフレッドがそう声をかけ、目線でアイリッツに、さっさと前へ行け、と促している。
「うわーうわー得意分野とか体格とかでいったらオレ絶対後ろなのに」
「運が良く、罠を発見できる技術のある者が前へ行くのは、当たり前」
 何を言ってるんだこいつ、というようにアルフレッド。

 なるほど、確かに。

「うわ、意外にも正論が来た」
 アイリッツが、どうせオレはトラップ発見機だろーとも、と唸りながらしぶしぶ前に立ち、階段を歩き始めた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ