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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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エルセヴィル 1

H28年5月11日改稿しました。特に人形部屋のくだりをなんとかしました。
 空はどんよりと曇っていた。執務室の窓から憂鬱色の景色を眺めながら、王であるゼルネウスは、一呼吸おいてゆっくりと目を閉じた。

 彼らは、結局今回もまた、真にこの城、この世界の存続を、とは望まず、自分のやりたいように生きた。

 エルズはどう出るだろうか。奴らとエルズ、どちらが先か、待ってみるか……。

 目を閉じ、深く息を吸う。一瞬にして書斎の床は消え、漆黒の闇にちらちらと光が浮かぶ。それらの光景はまたすぐに消え、ゼルネウスはつかの間の眠りに落ちた。


 エルズはもはや誰もおらず、耳に痛いほど静まりかえった廊下を疾走していた。

 シルウェリスとの最後の会話を思い出す。

『勝手にあちこちいじくるなよ。きちんと変えた場所は報告してくれ』
『うーん……それは構わないのですが……それを伝える意味は』
『そんなもん普通に考えろ。好き勝手されちゃ困るんだよ』


 しかし奴は予想に反し、城内にはあまり手を加えず、攻撃からの保護をかけたのみだった。例外は、宰相室の扉。

 あそこは、王の棲まう別宮に繋がっている。そしてこの静けさ……宰相室には、シルウェリスの仕掛けた罠があり、それは正常に作動したはずだ。となれば次にするべきことは……。

 誰もいない廊下を駆け抜け、階段を下り、通用口から外へ出る。

「……ここはどこだ」

 生い茂る木々。青々とした草地を前に、思わず呟くが、周辺の様子と位置関係から、狙い違わず演習場であると判断がついた。


「どいつもこいつも…………」
 好き勝手しやがって、とぼやきつつただっぴろい演習場をひたすら、ひたすら早足で歩く。体力は温存しておきたい、と考えつつも次第に足が小走りになる。

 幸いなのは、曇り空であることか…………。


 そこをさらに東へ抜けると、今度は低木と薬草畑があり、質素だが二、三十人は入れそうな小屋があり、そこで植物が育てられている。

 部屋が二つに分かれていて、どちらにも鉢植えや花壇があるが、奥の部屋の中央には、女神像の噴水が置かれ、手持ちの壺から止めどなく水を溢れさせていた。

 放置されていた鍬を片手に、焦りと戦いながら花壇の土を掘り返す。

 何やってるんだろうな俺はと思わないでもなかったが……そうもしないうちに、その鍬の刃がガチッと硬いものを掘り当てた。

 埋められていた、灰色に鈍く輝く長細い形の石を取り出し、女神像の水が吹き出る壺の内側へ、服が濡れるのも構わず石を差し込むとカチッと音がして、水が止まり、噴水の底がぐるりと回転し下から螺旋階段が現れた。

 下からの風が獣臭と薬品臭を運び、噎せ返りそうになりながらも、石の螺旋階段を下りていくと、ひんやりとした空気とともに、ざわざわ、と鳥肌が自然に立ってくる。

 シルウェリスの研究室、いくつかの階層に分かれたその最深部は、地下道とも繋がり、ひりつくような冷気によって閉ざされ、異質な機械と、道具、そして、透明なゲージや檻の中か、もしくは鎖に繋がれた異形の生物が、静かに眠り、時を待っていた。

 解除には、奥の壁から腕輪を取らなくてはいけない。

 妙にバランスの悪く細長い手足で顔がどこにあるかわからない軟体質がいるかと思えば、毛むくじゃらの猿にも似た……こちらも顔の部分に巨大な目と思しき物体があるだけで、普通とは程遠い――――――そんなモノたちの前を足早に過ぎ、奥の壁近くにある台座へと手を乗せる。

 即座に蓋が閉じ、手を包み込んだ。焦燥で吹き出る冷や汗に耐えていると、しばらくして、かろうじて届く位置の壁の一部が四角く空き、そこに嵌められていた腕輪が出現した。シルウェリスが言っていた言葉を思い出す。

『さすがに、ここを解放なんて事態にはならないでしょうが……もしかして万が一、ということもありえます。この腕輪をつけていれば合成獣キメラたちに襲われることもない上に、最終手段として、自爆機能もついています。本当に最後の備え、というわけですね』

 敵もろとも、ってわけだ……。

「自爆か……今いち、格好悪ぃなあ……」
 泣き笑いの形に顔を歪めて呟くも、エルズははっと閃き、そうだ、と呟いた。

 格好悪いついでに、この状況を、国王陛下に直訴すりゃいい。陛下が出てくれれば、すべては万事解決する。いっそのこと、額を地にすりつけてでも。

 エルズは悟っていた。この世界は、創り出された、偽りのものだと。……だが。だからどうだというのだろう。偽りでも、必要とされている。それなら、夢であろうとも、それは現実と相違ない。

 指をめいっぱい伸ばし、エルズは腕輪を抜き取った。ガコン、と音がして、手が解放される。同時に、ゲージの蓋が開き、檻が下がっていく。化け物たちの目が開かれる。

 襲われることはない、とは分かっていても、背筋が寒い光景であることに変わりはなく、エルズは完全に彼らが解放されきる前にと、急ぎその場から離れていった。

 階段を息を切らし、三段飛ばしぐらいで駆け上がる。小屋を抜けるのと同時に咆哮と爆発音が聞こえ、小屋の壁の一部が吹っ飛んだ。

 振り返れば恐怖で身がすくむ。そう考え、決して振り返らず、エルズは来た道を戻り始めた。



 シャロンたちが未だ囚われるのは、切り離された空間の部屋。その探索は、思うようには進んでいかなかった。
 通路を確認したまではよかったが、砂時計のある部屋の横、繋がるタイル張りの通路の角のドアを始め、いくつかのドアには鍵がかかっていて入れず、例の埋め尽くさんばかりの人形ビスクドールの部屋も調べたが、その向こうのドアにもやはり鍵がかかっていた。

 改めてその人形部屋のドアは封印され、T字路の左も調べたが、例の人形ビスクドール部屋を前に右の扉の通路と繋がっており、さらに先にも扉があったものの、そこのタイルの床に足を掛けた瞬間、進行方向とは逆に動き、シャロンたちの行く手を阻んでいた。

 試行錯誤の挙句、砂時計をひっくり返すと、一部のドアの鍵の掛かり方が変化し、例の動く床は逆になることが分かったが、その効果は砂が落ちきるまでしか続かない。

「罠かもしれないが……一人は砂時計を動かすため、この部屋で待機しかないようだが」
「十中八九罠だろうなあ……ま、ここはオレが」
 制限つきだとオレ一番パワーないからーなんて呟きながら、アイリッツがひっくり返す役を買って出る。

「頼む。じゃあさっそく、」
「シャロン、きちんと開かなくなった扉の場所を確認しとけよ。絶対罠があるぞ」
「……ああ、もちろんだ」
 危なく、忘れるところだった。

 乾いた笑いを浮かべながら、シャロンはアルフレッドと手分けして、アイリッツと息を合わせ、開く扉、開かなくなった扉を確認する。

「とりあえず一通り確認したが……倉庫部屋はきつかった」
 箱を一つ一つ開けるのに時間が掛かる上に、カタカタと脅す人形のおまけつき。なかなかに神経を削られる場所だった。

「あ、そういえば、一応ここも」
 アイリッツの紐で封印された扉を開放し、開くことを確認する。大量の人形はいつみても気色が悪い。

 奥のドアも確認しようと掻き分ければ、人形が数体後ろの扉に挟まって、ギシギシと音を立てた。

 奥の扉は、どうやら仕掛けを作動させても開かないようだ。

 どうにも気色悪いのですぐ戻り、人形を部屋に蹴り込んで閉め、鳥肌の立った腕をさする。

 先に一番気になったT字路の左側を調べようとアイリッツに声をかけ、ひっくり返してもらう。

 動く床は見事に逆方向になり、シャロンとアルフレッドが足を乗せると同時にすいすいと奥へと誘っていく。
 曲がり角に差し掛かると急に床は止まり、左には扉、目の前にも扉があったが、そちらは簡単に開いて、そこは小さな部屋で、真ん中にちょこんとレバーが設置されていた。

「おい!いいか!?」
 相当な大声を出しているであろうアイリッツの声がやたら小さく聞こえ、こちらも負けじと、ちょっと待て、と大声を張り上げる。

 レバーを倒すと、扉の鍵が開いた。しかし、動く床はこちら向きなので、また再び砂時計を作動させるようにとアイリッツに声をかける。

 反対方向に向いた床はそのままシャロンたちを運び、途中にある扉(位置的に人形部屋だろう)を通り過ぎて奥の扉の前へたどり着いた。

 何の気なしに扉を開けると、暗かった室内にパッと明かりが点き、部屋の中にある、大小さまざまな形をした球体が、転がっているのが分かった。

 足を踏み入れるか踏み入れないかのうちに、その球体にはプロペラのような羽根が生え、

 フィィイィイィイイイ

唸りとともに回転し起き上がった。これは、と咄嗟に扉を閉めようとするも、扉は頑固に閉まらない。球体は刃を次々と回転させ、確実にこちらへ動き始めている!

「アイリッツ!砂時計は!」
「ええと、あと半分!」
 間に合わない、斬られる。

 舌打ちを堪え、アルフレッドを見やれば、頷き、まず床を、次いで壁を蹴って通路真ん中の扉へ飛び込んだ。

 うわ、と思いつつシャロンも同じように、とはいかないが、動く床に一瞬足をつけ、動きに合わせて蹴ってともに部屋へ飛び込んだ。部屋は百体近い人形が並んでいて、後ろからは回転音が迫ってくる。廊下に投げた人形は足止めすら果たさず、切り刻みながら球体装置は迫り、シャロンとアルフレッドは人形の海を泳ぎながら扉へたどり着いた。ノブがまわらない!

 ガチャガチャと回し、焦るシャロンの隣でアルフレッドが後方に剣を構え、同時に叫んだ。

「アイリッツ!開けろ!一方通行の扉だ!」

 へ?と気の抜けた声がしたが、すぐに気づいたようで、ドアの向こうからバタバタと足音がした。

 ギィンッと刃をアルフレッドが剣で弾くも、わずかしか動きを止めずすぐ復活する。扉が開いた。雪崩れるようにサロンへ出たシャロンたちの背後から、回転式刃を持つ球体が、次々と排出されていった。
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