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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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低迷、のちに

H28年5月11日に改稿しました。それ以前に読まれた方は突っ込みどころが多かったと思います。すみませんでした。
 中流貴族ストルーヴェの当主は、くそ真面目、を絵に描いたような男だった。流行り病が広まれば、私財を投げうって領民に与え、部下には呆れられる始末。
 本当に貧窮した時には、多くが、自分を一番に考える。気位が高ければ逸れはなおさら。
 少しずつ彼の元からは人が減り、手元に残った数人と、目を血走らせ痩せた体に鞭打って、少しでも被害を減らそうと力を尽くしていた。

 幼い頃、胸が塞がれるような思いでその姿を覗いていた。あれが、俺の父親だと――――――。エルセヴィルは一人、離れた部屋の中で、

奈落の底にある、夢を見ていた。


『小僧!おい、この能無し!……なんだ、もうおっ死んだのか』
 プレートを着込んだ屈強な男が、つまらなそうに、ずるりとハルバードを引き抜いた。ぶしゅ、とその体から血が流れ、絨毯が染まっていく。

『ださッ。手応えなしじゃねえか』
 倒れたエルせヴィルの腕をぐりぐりと踏みつけ、反応がないのにがっかりしながらいう男のその向こう、
『エルズ!!しっかりするんだ、エルズ!……賊め、おまえらの好きにはさせん!』
父親の悲痛な叫びも意に介さず、
『おい、老いぼれが何かいってんぞ』
『最後のお祈りか、命乞いじゃねえのか?何いってっかわかんねえぞ、オラッ』
ドカッ、と腹を蹴り飛ばされた宰相フェズゲルドは本棚にぶつかり、そのまま自身が愛用していた机に突っ伏して、憎悪の籠もる眼差しで侵入者を睨みつける。

『……矜持を、思い知れ。ただでは、返さん』
 宰相は瓶を取り、中身を呷る。
『あ、こいつ、毒を飲みやがった!!』
『なんだって!?これからクソ王の居場所を吐かせようかって時に!!』
 口実を盾に痛めつけるはずだったのにチクショウと舌打ちし、もう一度殴りつけペッとその顔に唾を吐いた。

 やがてどこからともなく野太い叫び声、剣戟と、何か大きなものを嬲るような奇妙な音が鈍く響く。

『下だ。何か仕組んでやがったか』
『気にするな。別の奴らに任せて先に進めばいい』

 急速に体が冷え、かすむ意識の中。口々に勝手なことを言いながら去っていく音を遠くに聞きながら、エルズは、父親であるフェズゲルド・エムリス・ストルーヴェの唇がかすかに動き、すまない、と声なき声で告げるのを、エルズは確かに見た。



 いつのまにうとうとしていたのだろうか。エルズははっ、と顔を上げ、ひどく窮屈な姿勢でガチガチに強張った手足を、曲げ伸ばしし、動くことを確認する。


 城内から響いていた複数の足音が途絶え、人の気配がなくなった。
 侵入者は……?シルウェリス、ラスキ、ジゼル、ナスターシャ。あれだけにぎやかだった彼らの話し声は消え、辺りは物音一つしない。

「まさか……」
 呟き声に返される言葉もない。エルズは、ふらつき、少しずつ血の通い始めた足を引きずりながら、居た部屋を出て、廊下をゆっくりと歩き始めた。

 次第に痺れが取れるに連れ、知らず知らずのうちに駆け出していた。おかしい。奴らがやられるはずなどない。

  よく見知ったはずの、しかし今は不気味に沈黙している通路を不安に駆られ、もつれそうになる足を必死で運ぶ。

 親父は。宰相はどうなった。国王は。

 息をぜいぜいと切らしながら、国王陛下の執務室の手前、宰相の仕事部屋へ。祈り、走り、扉に掛ける手が震えるのを叱咤し、一気に開け放つ。

 バタン、と大きくドアが鳴る。その部屋は……ひどい有様だった。

 整頓されているはずの本棚、調和が保たれているはずの家具は見る影もない。そして、その中央には、壮年の男、宰相であるフェズゲルトが突っ伏している。

「おい!何やってんだ。起きろ、フェズゲルド・エムリス・ストルーヴェ!く……冷た……ちくしょう」

 その口から漂う異臭で毒と知り、その冷たく硬い体を、下、書斎机の上へ寝かせ、ゆっくりと部屋を見渡して目を細めた。

 俺は……この光景を知っている。

 宰相から真正面の、ぽっかりと空いた空間、その床の絨毯に手をやり、
「ここで……親父が、やられるのを見ていた」
エルズは、そう、呟いた。

 敵襲の時、何もできずただ凶刃に倒れるしかなかった。抵抗らしい抵抗もできず、こんなはずではなかったと、驚愕と後悔に彩られたまま。

 ああ、なぜ。どうして俺は。

「……どうして鍛えておかなかった。どうして対策を練っておかなかったんだ。あの時、ただやられるだけでなく。何か、せめて少しでも奴らに!!」

 実の父親は、物言わぬ骸となり、エルセヴィルに何かを訴えかけるかのように、そこに鎮座している。

「どうして俺は、こんな、こんなことになるまで気づかない!!」
 叫び、叩きつけた拳で、書斎机が揺れる。


「もう間に合わないのか…………?」
 違う。そんなはずはない。まだだ。このままでは………!!
「終われない。このままでは、終われない。絶対に」
 血を吐くような呟きとともに、エルセヴィルは、部屋をもう一度、見回し、宰相である、自分の父親を見た。

「親父……悪かった」
 そう謝罪し、彼は、ふらつきながらも、動き出した。自分の、為すべきことを、実行するために。


 閉じ込められた、おかしな空間。吹き抜けと、小高い位置のギャラリーには一応手すりがあるが、なぜかそこへ通じる階段はない。おそらく、二階からぐるりとまわるようになっているのだろう。

 天井は高めで、上にはよくある換気羽根シーリングファンがまわっている。落ちてきたりは……しないと思いたい、が。

 ギャラリーには彫刻や人物画などが飾られているようだ。

「気になるな……」
 その呟きにアルフレッドが無言で階段を指差したので、ひとまず上って見ることにした。階段から、少し通路が奥に伸びて、その先に…………特に、何もなかった。

「……あれ?」

 あ~、なんて間延びした声を上げるアイリッツの横で、もう一度階段の方を振り返る。そして通路へ視線を戻すと、そこの奥は白い壁が四方に、こちらを囲むようにあるだけとなっている。

 ひとまず突き当たりの壁に蹴りを入れ、また元の場所へすごすごと戻っていく。


 そうか、アルフレッドならあのギャラリーが詳しく見れるはず!

「アル!上のギャラリーに怪しいところは!奥に何かありそうか!?」
「髪が蛇の妙な女の彫刻と絵が二枚……あまり奥行きはなさそう」
「そうか…………」

 ということは、虚偽ブラフだろうか。


 下のサロン(一階?)部分には、来た道以外に全部で八つの扉があり、そのうちの一つはすでに寝室だということがわかっている。広間からいきなり寝室、というのもおかしな話だが。

 シャロンは、小さく首を振り眉間にしわを寄せつつ目をぐっと閉じた。その後開いたかと思うと、
「よし。時間もない。風の力を使って一気にドア、その他の仕掛け諸とも吹き飛ばそう」
力強く宣言した。

 アイリッツがはぁあ、と嘆息し、
「悩んどいてそれかよ。確かに多少強引な手段を使ってでも急ぎたいのはやまやまだが、といいたいとこだが……この空間の壁や道具全体的に妙な魔封じがかかっていて、無理やり力でこじ開けたり破壊したりねじ伏せようとしたりすれば、よくて反射されるか、最悪どこか遠い別の場所へ飛ばされる仕組みになってるんだな、これが」
 アイリッツがしかめ面をしたので、シャロンも同じように眉を寄せ、
「そうか。時間のことも気になるが……慎重に探っていくしかないようだな。しかし、手分けするのは……」
「ん。ここが安全と限らない以上、やめた方がいい」
 アルフレッドは真剣な様子でそう言ってはいるんだが……ソファにどっかと腰を下ろしお茶を優雅に飲み、焼き菓子に手を伸ばしながらはどうかと思う。


 ガチャ、とまた何の気なしにアイリッツが近くのドアを開け、その中を一瞥し、
「……なるべく離れなければいい話だろ?」
といいながら再び閉めた。

 ちょっと待て。気のせいじゃなければ今そこの向こうの狭い部屋に百体近くの人形ビスクドールが並べられていたんだが…………。

 アイリッツはこちらと他愛ない会話をしながら、壁に杭を打ち込み、ドアノブとその杭を縄でぐるぐる巻きにして開かないようにしている。おい、探索はどうなった。

「とにかく、あちこち探ってみよう」
 シャロンは、ちょいちょいと手招きして、寝室に繋がるドアと、その隣の人形部屋(仮)、そこから風景画と静物画を挟んだ右の壁のドアに近寄り、ノブを握り締め、一気に開け放った。

 そこはシックな栗色の絨毯張りの短い通路になっていて、その奥にもまたドアが見えている。

「……とりあえず、サロンに面したすべての扉を開けてみるか」
 そう言うと、
「よく考えたら、盾役だったな。開けるのは任せた」
とアイリッツに言って、何が起きても言いように後ろで剣を構え準備をする。

 任されたアイリッツは、
「なんだよその扱い……まったくオレってほんと気の毒だよなー」
と肩を落とすが、よくよく考えてみればこいつは結界が使える上に、ちょっとやそっとじゃ死なないので、適役ではないだろうか。

 それぞれ寝室と人形部屋を前にして右側の壁のもう片方、後ろ側の二つを、一人がさっさと開いたので、こちらも再び用心して自分のまわりに風の結界を張りつつ、左側の二つの扉を開くと、テーブルに砂時計の置かれた応接室らしき部屋と、またしてもドアに繋がる通路を発見した。こちらは黄色と青の四角のタイルが敷かれている。

 砂時計はいかにも怪しいが、今は他を優先させよう。

 アイリッツとアルフレッドが開いたもう一つも通路。右側のもう片方のドアは板張り、後ろ側の二つも通路で焦げ茶と緑、それぞれの絨毯が敷かれ、高級感をかもしだしている。

 げんなりしながら、まず一番安っぽく見えるタイル張りの通路を選び、こういうところ貧乏性だよな、なんていうアイリッツのからかいを無視して、ドアを開け様子を窺う。そこにはまたしてもタイル張りの通路が左に曲がる形で続いており、進んだ所にある二回目の曲がり角には扉、それを無視して折れ曲がった通路がどこまで続くのかと思いながら、三回目の曲がり角のすぐ目の前にあった扉を開けると、なんだか見覚えのある緑の絨毯通路に出た。そしてまたまたその先にある扉は!

 予想どおり、サロンへと続いていた。つまり、ぐるっと回って戻ってきたことになる。

「…………」
 この空間はさほど広くないのかも知れないな、なんて考えながら、別のドアの先にある板張りの通路を眺めると、すぐ目の前のT字路その右側に扉があった。
 ので、迷ったが、思い切って開けてみることにした。風の結界はきっちり張った後で。

 そこは、四角い物置のような小部屋になっており、縦長で張りぼてのような長四角の人形が、どまんなかに設置されているのが目に入った。途端、ぐるんッとやたら厚化粧で毛糸のような髪の人形がこちらを向き、シャキン、と半月形の良く切れそうな刃物を三方向に生やし、決して速くはない動作で、カタカタとこちらに近づいてきた。

 そしてシャロンは即座に扉を閉めた。

「まったく碌なものがないな」
 その呟きは、他二人の気持ちも代弁して、意外に大きく通路に響いていった。
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