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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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ナスターシャという存在

説明が多いかもしれません。H28年4月7日、文を入れ替え、改稿しました。これまでわかり辛くて本当に申し訳ないです……!!
 その場を、乾いた空気が支配していた。

 呆然とした表情のナスターシャの脇で、
「……しかし、いつバレるかと気が気じゃなかったぜ」
「さっさと、返せ」
作戦は大成功と言いたげなアイリッツに、相当機嫌の悪そうなアルフレッドがぶっきらぼうに告げ、へいへいと、その手に彼の愛剣を渡す。


 魔道具であるその剣の性質を写し取り、自らの力によって似て非なるものを具現化させたのか…………。

 うまくいかず、生き残ってしまった。ナスターシャはその衝撃から醒めぬ頭の片隅で考え、
「あんまり調子乗ってると、いつか痛い目見るよ。力の枯渇は、すなわち“消滅”を意味する」
そう吐き捨てた。

 未だ膝をついた姿で空を仰ぐナスターシャの近くに、同じように呆然とした表情のシャロンが二歩、三歩と歩み寄る。

 その腕をアルフレッドが掴み、
「シャロン、悪い。他に考えつかなかった」
シャロンは顔に出やすいし、と、さまざまな感情が入り乱れたままのその顔を覗き込み、すまなそうに告げる。

「……………いや。別に怒ってるわけじゃ、ない。ちょっと……気持ちがついていけないだけで。半分。半分は諦めていたが、ひょっとしたら、やってくれるのじゃないかと、期待もしてた」
 彼女のその声は震えている。その物問いたげな視線にアイリッツがいつになく真顔で、
「あのな、ナスターシャとかいう、こいつのここまでの決心。強い意思。それを変えるなんてのは至難の技だ。でもな、そんなの関係ないんだよ」
 アイリッツが、ナスターシャを示し、いつになく強く宣言した。
「説得が無理なら、完膚なきまでに叩きのめして、その気すらなくせばいいだけの話だろ?」

 諦めるな、突き進め――――――。アイリッツが言いたいのは、そういうことなんだろう。

「話を、してもらえるだろうか」
 シャロンは気を取り直し涙を拭ってから、座り込んだナスターシャに再び向き直った。

「まっ、たく。言いたいこといってくれちゃって。この外道」
 彼女は、アイリッツに毒を吐いてから、まあ、でも、ちょっとあたしらしくなかったかな、こんな戦い方、とぽつりと零す。

「“英雄は必ずしも、完全無欠ではない”……この言葉を残し、死ぬつもりだったのか」
 アルフレッドが問いかけ、
「いやもうほんとやめて。決意とか悲壮とか打ち砕かれたあたしに何この羞恥プレイ」
うわーと顔をしかめつつわずかに頬を染めた。
呆然としていたシャロンだったが、首を振って気を取り直し、
「ナスターシャ、さん。まずは、お礼を言いたかったんだ。あの手紙を言付けたのはあなたなんだろう?
最初にあの手紙があったから、少し救われた。
私たちの進む方向は間違ってないと、そう思ってーーーー」
彼女はその言葉に、あー、さん抜きでお願い。なんか痒くなるから、と苦笑した。

「シャロンはさあ、あんまり抱え込み過ぎない方がいいよー。体重いでしょ?どうしたって、片方を選んだら片方捨てなきゃいけない状況は出てくる。その時捨てたものを引きずってなんになるの。ある程度の反省は必要だけど、それが終わったら、前へ進まなきゃ。決断する力がなければ、優しさは弱さ愚かさと同じものに変わる」
シャロンは、告げられた重みのある言葉を噛みしめるように俯き、しばらくして、
「あなたは、いったい何者なんだ。どうして私たちに味方をしようとしてくれる……?」
「さあ、ね。当ててみたら?」
 いたずらっぽく彼女は笑い、シャロンは真剣な表情で額に手を当て考え込む。

 清涼な空気と、草の香りが鼻をくすぐっていく。
 これまでの、この王城に対する情報が、泡のように浮かび上がってはやがて消える。

 ――――――ここの主は、いったい何を考えて彼女を…………?

「あなたは、王に連なる……“王の目”か。そして、かつての仲間でもある――――――」
「おっ、大せいかーい。鋭い良い勘をしてるね」
 あはは、と屈託なく笑う。

 “王の目”……つまり、自由に動きが取れぬ王の代わりに、さまざまな事柄を手広く見聞きし、王と同じ目線に立ち、考え、助言する者。

「と、いうことは、王は、この城の在り方に、疑問を感じている…………?」
「お、すげーなシャロン。正解だ」 アイリッツが、軽やかに笑う。
「それはね。正解ともいえるし、そうでないともいえる。人の心はそんな簡単なものじゃないよ」
 ナスターシャが小さく首を振り呟いた。

「彼は、王としてここに。この場所を守る責務がある。その矛盾は、始まりから常に」
「…………始まり?」
「あたしたちは、しがない冒険者だった。
ただ、世界が破滅に向かっているのに気づき、エネルギーを使い捨てられぼろぼろになったこの地を救うため、戦い、勝利し、そして新しい世界をこの手で見出だした。
世界を救ったのに、同じ人の手で滅ぼされたのは皮肉としかいいようがないけれど。

そして、魔導装置によって死してもなお、ずっとここに縛られ続けている者たちがいる。あたしはそれを助けたい」
 だってね、と続けて、
「ここは、ほぼ閉じてしまっている。魔道装置に、記憶されたことが繰り返し、具現化され、未来へ続くことは、決してない。永遠に変わらないのなら、それは、生きているっていえるのかな?」
 それを聞き、シャロンが首を傾げた。

「わからないな。あなたは最も王に近しい考え方のはずだ。国王、つまりこの世界を統べる者がそう思っているのなら、ただ願えばすむだけじゃないか?」「ことはそんなに単純じゃない。仲間や部下を捨てて、すべてを白紙に返すのを選ぶなんてことは。……例え不可能かも知れなくても、誰もが幸せにと願ってここまで駆け抜けてきた彼には…………」
 そこまでで、ナスターシャは言葉を止めた。

「こんなことまで話したら、怒られそうだけど。彼が、心のうちに抱く自己矛盾と罪悪感。それがあるからこそ、あたしがこうして動いた。本当なら魔道装置を止めるはずだった彼は、核となり、今、最奥で待ってる」
 表情が遠くを見、真剣なものへ変わる。

「貴方たちは、本当についてる。これまででほぼ一番といっていいぐらい、今回は、幾重にも幸運が重なっている。魔道具とそれを使いこなし素質ある者に加えて、特異なこいつ(アイリッツ)の存在。……でもそれでも、勝率は、三割、四割を切る。絶望に見舞われることになるかも知れない、けど、忘れないで。英雄と呼ばれている者だって、本当は同じ人間に過ぎないんだってことを、知っておいて欲しい」

 厳かに告げられたそれに、その言葉にシャロンは、
「私たちは、私たちもこれが正しいかなんてわからない。偽りでさえ、当人が信じれば、本物へ変わるから。正直なところ、正解なんてわからないが………私たちはいかなければ。取り戻すために」
「うん。それでいいと思うよ。それに……シャロンには命を預けられる仲間がいる。これは、得がたい大切なこと。……忘れないで」
ナスターシャは眩しげに目を細め、ひとつ頷いた。

「できればあなたたちの望みが叶うことを祈ってる。それは、あたしの望みでもあるから。……じゃあね、よき闘いを」
 健闘を祈る、というようなことを呟いて、彼女は地面を蹴った。そのまま、トントンと建物の傍に立つ木を駆け上がり、鍵の開いていたらしい窓に手をかけガラリと開けると、手を振って中へ去っていった。

「あ……早いな」
「あんまり引きずるのを好まない、そういう性格なんだろ。こっちも一度休んだほうがいい」
「……ああ」
 シャロンはアイリッツの回復を断り、アルフレッドと、最後に残った霊薬アムリタを回復力は大分下がるが半分ずつ分け合い、ついでに菓子類も分け合って………シャロンはもぐもぐと食べていたかと思いきや、木にもたれかかり、そのままズルズルと腰を下ろして、やがて静かに寝息を立て始めた。

「おまえも休みは取っとけよ。精神的にもだいぶ消耗してるだろ」
「言われなくても」
 そのまま隣に行って目を閉じ深く息を吸い込むと……浅い眠りに入った。

「まったくこいつらも……良い神経してやがるな」
 眠らなくてもすむアイリッツはそれを見届け……灰色と黒のまだらを描き始めた空を仰ぎ、そう呟いた。



 ナスターシャは回廊の、隠し通路を突っ切って、ほとんど時間はかからずに王であるゼルネウスの下に辿り着いた。

「や。相変わらず、場所といい雰囲気といい、辛気臭いとこにいるねえ」
 どこか吹っ切った眼差しのナスターシャに、ゼルネウスは静かに、
「………行くのか?」
と問いかけを返した。
「うん。あたしのやることは終わったから。やっぱり消えるとなると、こんなところでじっとしてるより、思いっきり好きなことしたいじゃない?……まあ、彼らが負けたらまたここに来ることになるんだけど」
 かつての仲間に柔らかな笑みを向けたナスターシャは、

「……ゼル、ゼルネウス。ゼルがずっと、ここを守るため、血の滲むような努力を重ね、苦しみに耐えてきたのを、あたしは知ってる。だから、充分だよ。そろそろ開放されても良い頃だよね」
をうしみじみというナスターシャに対し、ゼルネウスはふっ、と、不敵な笑みを浮かべ、
「何を思い違いしてるのか知らないが。あんな若造どもに、やられるほどヤワじゃあ、ない」
そう自信に満ちた口調で告げる。

「この、頑固者が……。とにかく、じゃあね」
「ああ。また、な」
 自信たっぷりに告げられた言葉にナスターシャは微苦笑を返し、老いてもなお眼光鋭く気迫に満ちた盟友ゼルネウスにひらひらと手を振ると、その執務室を後にした。 エルズのことが気になるといえばなるけど……でも、彼の答えはすでに、彼の中にある。

 厩舎までいって、愛馬を探し、首を撫でて、ともにそこを出た。城門を抜け、城下の小麦畑から、さらに草原へと馬を走らせる。

 そう。限りなく遠く、広い場所へ。自由と自然を愛する彼女は、もう、後ろは振り返らなかった。
 ナスターシャ……かつての英雄の盟友であり、何よりも自由と自然を愛する。ゆえに、城に縛られることのない“永遠の客人”。

 この世界の存在に対する迷いの象徴であり、来訪者を歓迎し、ひそかに擁護するためその戦闘能力は制限される。同時に、その命を奪うことはたやすく、殺せば王の怒りを買う。
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