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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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遼天を仰ぐ 3

 更新遅くなりすみませんでした。戦闘シーン、流血描写が多少あります。あと、更新後しばらくして付け足ししました。
最初はナスターシャの視点です。
 この鬼畜が。

 ナスターシャは冷めた眼差しでアイリッツを見据えながら、よくよく考えてみれば、相手の力を忌避するのなら、先に封印するなどして使えなくしてしまえばいいのではないだろうか、という考えに達した。

 個人的に、あのお調子者をやりこめて溜飲を下げたい、というのもあるけれども。

 攻めあぐねてシャロンや、アルフレッドの攻撃の手が緩くなり、ナスターシャは再び弓を引く。

「〈銀箭、細雨ささあめ〉」
呪文とともに空を向けて射た矢はそのまま細かく分かれ、銀に輝く雨のごとくに辺りに降り注いだ。

 身構え、それをことごとく避けたシャロンたちを尻目に、細い矢はそのまま突き立ち、結界の役目を果たす。

 一方、アイリッツは自分の中で術式の最後の一ピースがカチリと嵌まった手応えを感じていた。

「……そろそろ動くか」
 やっぱこう、英雄の一人が相手じゃオレが出るしかないよなーと嘯きながらシャロンたちに合図を送る。

「おまえら!ちゃんとついて来いよ!」
 そう、満面の笑みを浮かべながら。

 ……なんだか嫌な予感しかしない、とだいぶアイリッツの性格に慣れてきたシャロは、ぽつりと呟いた。アルフレッドと、視線を合わせ、頷きあう。

 アイリッツの手に、双剣が戻った。ナスターシャの表情がかすかに硬くなったが、いったん彼はそれを収め、機嫌よくハミングして、腰のベルトにかかる鉤縄に手をかけた。

 それを束ねていた金属質の環だけ外してまたベルトに巻いて戻す。

「…………?」
 訝むナスターシャやシャロンたちの前で、芝居がかった仕草でお辞儀をし、
「えー、ここにありますのは、タネも仕掛けもない環っか!なんとこれを、軽く振るだけで、3、2、1!」
 その環は細長く五つに増えた。いくつかを腕に通し、指先でくるくるとまわす。

 パチッとウインクまで決めた仕草が、妙に似合っている。

 あ、これはいわゆる、円月輪チャクラムという奴じゃ……?

 シャロンは、遠い昔、お伽話の類を読んだときに出てきた環っかの武器を思い出した。

「いっけえええ!」
 ヒュイン、ヒュインと高速で回転しながら、その戦輪は離れた。

 アイリッツは双剣を抜き、ナスターシャへと迫る。ちらっ、と下に意味深な目線を投げてよこしつつ。

「あ」
 そういえば、突き立ったあの銀の棒をなんとかしなければ。

 シャロンは風を繰り出すも弾かれ、それならばと突き立つ地面の奥を狙う。同時にアルフレッドが剣にわずか力を籠め棒を薙ぎ払った。

「あああ、もう!」
 ナスターシャが祈り、炎の精霊に助力を願う。

 炎の精霊たちは喜んで具現化し、素早く動くイタチにも似た動物の姿を取り地面を駆けた。十数匹にも分かれた炎は、シャロンたちを取り巻き、その行動を妨げ、攻撃する。

 その間にもアイリッツがナスターシャの居所を捉え、剣を抜き斬りかかった。ガキィン、と小剣で受け止め、彼女は即座に身を離す。

「近づくなこの、変態野朗!」
 わりと本気の怒声が出た。確かに身の一部を媒体として力を吸い取り自分のものとするのは非常に有効かつ強力な手段とは思うが、やられた方はたまったものではない。というか心理的にか、な、り嫌。

 強風にプラスして水を纏わせ、温度を下げる。一気にアイリッツ目がけ、ブリザードが吹き荒れた。地面に突き立った矢は、常にオーラを放ち、彼の力を弱めている。
(いける!このまま氷漬けに……!!)

 円月輪が、ナスターシャを襲った。広範囲の嵐を突き破るように狙うそれに舌打ちし、急ぎ、水のヴェールを張る。

(来たのは三、か……)

 残り二つは地を巡り矢の破壊とシャロンたちのフォローにまわっている。

「残念だったな、オレは今、絶好調なんだよ!」
「…………へーえ。後は落ちるだけだね」

 かなりイラッと来たため、大量の水を出し、滝として落とし込んだ。

「ふ。水も滴る……って奴だな」
 流されたものの、アイリッツはすぐに復活し、ナスターシャが風で浮かぶこちらを仰ぐ。
(…………懲りてない)

 下では、シャロンたちが活躍し、結界の矢を一掃している。

「あーもう…………」
 空間把握とか苦手なんだよねー……とぼそりと呟いた。目の前のことに集中しすぎる癖、なんとかしないと、と心中ぼやきつつ、一気に空中に水平な美しい陣を描いた。それらは、幾重にも円として連なり、球体を表す。

 何かを発動させるためのものではなく、そのものに“力”が籠められ、実体化したそれは光とともに爆発した。

 破片が鋭い刃となって周辺のものに襲い掛かり、木や建物の壁、大地に突き刺さった。目標以外のものにぶつかったそれらは、自ら解け、破壊したものを回復する。

 シャロンは風で防ごうとしたものの、
「お、重い……ッ」
そのあまりの破壊力に、押し負け、その体をズタズタに斬り裂かれた。防いだ分だけ威力が抑えられ、致命傷は避けられたが、満身創痍で、服に勢いよく血が滲む。隣のアルフレッドも同じ。

――――――実は、風の結界と、さらに剣で対抗したため、傷はそこまで深くはないのだが、彼女にはわからない。

「あ、ぁあああああッ」
 やりきれない思いを力に換えて、シャロンが叫んだ。失う怖れにか、彼女は震え、その感情に風が共鳴して振動する。肌がピリピリと焼けつく。

 バリバリバリッ

 シャロンからナスターシャへ、振動の道が繋がり、粒子がこすりあわされたことにより……そこに途方もない圧力の電流が流れた。

「…………!!」

 風の力による副産物。強力なエネルギーが、ナスターシャの動きを止める。

「“治癒ヒーリング”」
 そう呟きながらも、アイリッツがその隙を逃さず、剣を突き立てかけ、まったく別のもの…………イラクサの茂みを斬り裂き、痛ッと呻いた。

 距離は取ったものの、予想済みだったのか、五つの戦輪がナスターシャを取り囲み、未だ体に残る衝撃を振り払いながら、それらに触れさせず、叩き落すことに集中する。そこへ、風の効果で音を消していたアルフレッドが剣を掲げ跳躍した。

 いつのまに。そして、力を盗るよりこちらを滅ぼすことを優先させたのか。

 避けようとして、自らを囲むようにぴんと張り巡らされた、糸に気づく。

「く、しまったッ」

 四方八方へ回転する戦輪から、しなやかで頑丈な糸が張られ、触れたものの能力を封じる結界の役目を果たしている。

 巧妙に、力を抑えられ隠されていた、それら。……剣を避けたところで、囲む糸に力を奪われ、終わる。

 アルフレッドに対し、条件付けでもしてあるのか、糸はなんの妨害にもならず、むしろ足場と化して彼を手助けする。

 そして、思うように身動きとれずにいるナスターシャへと、狙い違わずちょうどぴたりと正中線……ど真ん中目掛け、剣が振りかぶられた。強大な力が籠められたまま。

 もはや手の打ちようのない絶妙のタイミング。先ほどもそうだが、風が。……きっと、彼女シャロンの真摯な思いに、力を貸したのだろう。風は、いつだって気まぐれで自由だった。

 剣がすぐそこに迫り、おそらく、本当に力を振り絞れば避けられたそれを、ナスターシャは受け入れた。何も残さず、滅びる道を。

 ああ、これでもう、見送る側でいなくてもすむ。少なくとも、しばらくは。彼らが去りゆくのを、傍でずっと、見なくても――――――。

 くそ、とシャロンが拳を強く握り締めた。本当は、きちんと。話をしたかった、のに――――――。

 狙い違わずその剣は、ナスターシャを上から下まで、斬り裂いていった。




「……………え?」
 ナスターシャは、はっと目を見開き、自分の力が、通り過ぎた何か、により抑えつけられ、封印されたことを知る。アルフレッドの手元の剣が役目を終え、空中で霧散した。

 アルフレッドは心底嫌そうに顔をしかめ、即座にパッパッと手を払っている。

「これで、王手詰み、だ」
 呆然とするナスターシャの手をがちりとアイリッツの左手が捕らえ、そこから赤褐色の魔法陣が鈍く光を放ち展開し、彼女を拘束した。

 彼はにやり、と笑い、宣言する。
「〈無条件無許可強奪おまえのものはオレのもの〉スキル、発動!」

「あ、ちくしょう……!!」
 収束した魔法陣から最後の最後までごっそりと力を奪われ、激しく燃えるような目でアイリッツを睨みつけながら、ナスターシャはがくりと膝をつき、そして手を振り上げた。

 彼は敢えて避けず、パァン、と小気味いい音が、空へと高く鳴り響いていった。
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