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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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番外 ひらりひらりと舞う おまけ 「いつも不機嫌なオッファ」

 おまけのSSです。しがない一冒険者の視点。あと、人ではありませんが若干グロい描写ありなのと、後書きの説明にこの番外のネタバレがあります。ご注意ください。
 いったいそれはいつからなのか。そんなことはわからない。

 言えるのは、もっと前には魔物と評されるような生き物は存在しなかった。いたとしても限られた場所に少数だけ。
 だがいつからか、それは――――――僕たち町を離れて旅する冒険者にとって、ひどく身近な存在(もの)となっていた。

 その日、山道ではあるものの、町にほど近い場所で、僕らは狼の群れに襲われた。四、五頭のほどの群れだった。通常なら怖れるに足らず、二三頭屠れば諦めて去っていく、はずなのに。

 夕暮れが迫ってくる。町はほぼ、目と鼻の先だというのに!

「おい、まずいぞこいつは!」
 仲間のマシューが油断なく剣を構え舌打ちする。倒したはずの狼たちがゆっくりと起き上がり、血だらけの体で低く唸る。頭蓋が割られ、目が飛び出ているものさえいる。

 遠吠えが響いた。狼は数を増やす。骨の体が現れた。鼻がねじまがるような腐臭が漂ってくる。

「クソッたれが!」
 マシューが飛び掛かる狼の前足に斬りつけた。その狼はいったんは怯むものの、すぐに立ち上がり、吠えたてて襲い掛かる構えを見せる。他も同じ。斬っても、斬っても、蹴り飛ばしてもすぐに立ち上がり、向かってくる。いつのまにか、群れは十頭に増えていた。内臓をぶら下げたもの、骨だけのもの……ひやり、と背中が汗でべとついて気持ち悪い。寒気は去らなかった。

「下等が。うろついてんじゃねえ」
 ふいに、低い恫喝が響いた。横をすり抜けるように走る人影。柄の短い戦斧バルディッシュと呼ばれる得物を持っている。

 その男は、背丈も中ほど、普通にしていたらそこらの農民と変わらないんじゃないだろうか、というほど容姿も普通だった。にやり、といった形容が相応しい表情、そして機敏な動作で次々に狼たちを蹴散らしていく。

 辺りには肉や骨片が飛び散り、その男が去ると同時に、山道は再び静けさを取り戻していた。


「なんだったんだ、いったい……」
 マシューが呆然と呟いて、鳥肌の立ったらしい腕をさする。

 僕も狼に噛まれた腕を見、カバンから濃酒を取り出し、傷口にかけてから布を巻いていく。

「行くか。新手が来ないうちにな」
 マシューの言葉に頷き、腐臭漂う山道を後にした。


 一度報告のため組合ギルドへ寄ると、あの男が眉間にしわを寄せつつカウンターにいて、何か話し込んでいたかと思うと冷笑を浮かべ首を振る。

 こちらへ来たので、慌ててマシューと声を揃え、
「先ほどは、ありがとうございました」
礼を言う。

 また彼の眉間にしわが寄った。
「あい、頭湧いてんのか。俺が通るのにたまたまおまえらが居合わせただけじゃねえか」
 言ったのはそれだけですぐに去っていった。


 彼の名前はオッファというらしかった。家族名はわからない。根っからの戦闘狂で、関わる者などいない、という話を、後で組合ギルドから聞いた。


 死霊リッチの潜む遺跡の奥深く。巨大狼の巣食う森林。彼の噂話はそういった危険な場所でのものがほとんどだった。

 冒険者として経験を重ね、その噂をなんともなしに聞いていると、その彼のひととなりが自然と浮かび上がってくる。

 彼に助けられた、という者はかなりの数に上るが、それは助けようとしたわけではなく、戦闘に彼が自ら首を突っ込んだ結果らしい、とはその本人の話だ、と顔見知りになった受付の男は笑う。

「おい、金だ。盗賊の根城を一つぶっ潰した」
 ふらりと現れ、ふらりと去る。売られた喧嘩は必ず買い、それで完膚なきまでに叩き潰された者たちもいた。

 気がつけば、新参の冒険者に、彼に憧れる者が増えていた。

 常に強さを追い求め、生き残るために手段を選ばず突き進む姿勢は、この状況下において、一つの光となったことは間違いない。

 憧れる者が増えるにつれ、さまざまな噂が流れるようになった。

 ものすごく酔っ払った姿を見た者がいて、そいつがいうには、なんだか借りが、とか、いやあれは違う、とブツブツ言ってる姿があったとか。

 助けられた者は多くいるが、それを指摘されるのを嫌う、とか。 

 そんな噂が笑顔とともに――――本人に気づかれないようにだが――――ひそかに語られるのにも、やはり理由があると思う。彼は、弱者には決して手を出さなかったから。

 いつか、熟練の冒険者たちが苦い表情で語ったことに寄れば、いつも眉間にしわを寄せてる彼も、遺跡の奥深くや、樹海と呼ばれるような場所で、強大な魔物に出会った時はまるで子どものような無邪気な微笑みを浮かべるらしい。そして、それに出くわしたまわりの者は、そのあまりの姿に震え上がるのだとか。


 でも、そんなことは僕らには関係がない。組合ここに来るときはいつも彼はしかめっ面をしている。

 そしていつしか親しみを込めて、彼を知る者は、ひそかにまずこう呼んでからその噂を語るようになった。‘いつも不機嫌なオッファさん’と――――――。
ナスターシャ:精霊の愛し子。三歳の頃母親を亡くして以来、ちょくちょく無意識下による精霊の暴走が起こるようになったため、防ぎきれなくなる前にと、父ザックとともに故郷へ戻る。だが、精霊中心の村の在り方に反発。その心によって、精霊術は学んだものの、力のすべてを出し切れぬまま、あの日を迎えてしまった。

ゼルネウス:幼い頃家族の生活のため、魔獣魔物狩りを繰り返すうちに戦闘の才能が開花した。


ロッド:クローディアの元、側付き。ともに重荷を分かち合いたい、と考え側付きではなくなったが、クローディアの命を自分の命で代える儀式はすでに終了しており、だからこそ彼女と離れて戦える、そんな関係。精霊に常に重きを置くよう育てられては来たものの、人をないがしろにすることもしたくはないので、双方バランスを取りつついきたいと考えている。精霊の願いを感じ取りつつ動き、彼らに助けられてもいる。村を守りたい、との考えにより結界が得意。クローディアの前でだけ残念な奴になる、との噂あり。


クローディア:炎を操るのが得意。というより、何代か前の村長が炎の精霊に好かれる者を、と血筋に取り込み、それを引き継いで生まれた。精霊重視の教えを受けてはいるが、ドリアードの精霊の危険性と対処も学んだためどちらかというと人寄り。
 ロッドには自分から迫ってもよかったが、できることならちゃんと告げて欲しいと待っていた。そしたらいつのまにか年を重ねて二十歳過ぎ(この世界の結婚適齢期は十代)、という微妙な年齢に……。

 実はロッドとの仲はほぼ村人全員の周知のところであり、いいからさっさとくっつけ、と思われていた。


セリエ:主に水、そして風、といった精霊と相性が良いため、ドリアードの影響下であまり活躍できなかった。グリエルに師事し、動物まではなんとか操れるようになった。例の出来事の後、村と外の町のパイプを繋ぎ、行商人として来るようになった男性と最終的に結婚して皆を驚かせた。

バスケス:後述するオッファと幼馴染み。強さを追い求めるが、面倒見も良い。風を纏う戦闘が得意。

オッファ:自警団であるラグールの下で目立たぬよう仲間を集め、ひそかに反旗の機会を窺っていた。その仲間はすべてドリアードとの戦いの中で死亡した。
 幼い頃から村の外へ出ることを夢見て、先に出ていったザックに憧れるが、彼が戻ってきたことに失望。どうあってもこの村からは逃れられないのか、と失意のうちに日々を過ごすうちに、村そのものを無くすことを考えるようになった。

ラグール:自警団のリーダー。責任感は強い。

ヘイグ、グリエル、レブレンス:結界を他の者に任せ、できるだけ若手の命を救おうと、必要とあらば精霊と精霊と心中も辞さない構えで戦闘に参加した。
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