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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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番外 ひらりひらりと舞う 11

 あちこちで起こる爆発と、続く精霊の攻撃にも関わらず、村長の屋敷、その奥にはどこか静謐な空気が漂っていた。

 屋敷にはすでに避難した子どもや老人がおり、また続々と、傷ついた者、相手の戦力をできるだけ減らしながらも逃げ延びてきた者が集まり始めていた。

「村長。比較的敷地の近くで、子どもらの一部が取り残されております。ロッドが手を割いているようですが……」
「ああ。うちの者を何名か行かせなさい。ナスターシャでは、おそらく間に合わん」
「よろしいのですか」
 人が抜ければ、張っている結界の負担はその分村長にかかると、それを心配しての守役の言葉だったが、
「なに……構わんよ。それと、独房の二人も出して足しにしなさい。非常時だ。未熟でもここの労働力となってもらおう」
「御意に」
 まあ、前線に出すと即、死にますからね、とどこか嘆息めいた呟きを洩らした。

「まだ、ご神木はお出でになってはおらぬ。何やら動きもある。ちと荷が勝ちすぎるやもしれん。お主か、もしくは他の側付きを、」
「御冗談を。側付きは側付きですから」
 これには有無を言わせぬ笑顔で反論した。

 側付きの者は誰よリ何より護衛対象を優先とする。今では緩やかになったとはいえ、昔はその関係は強固であり、今でも自然と身代わりの依として命を繋ぐ者が多い。
 この守役も、儀式を済ませてはいたが、村長の強い希望により、老いによる天寿のみはその範疇外としていた。
 若い者の命を奪い少しばかり永らえたとて何になる、というのがその言い分であった。

 村長はその思いを汲み、ただそのしわを深くし黙って頷いた。


 まだほんの童女だったころ、クローディアの側にはいつもロッドがいたように思う。
『はい、これ。一番上手にできたから』
 生まれた日のお祝いをと、準備に忙しい大人たちに外に出され、敷地の庭園で所在なさげにしていた時。自分の幼馴染から笑顔で守り石を手渡され、クローディアは戸惑った。
『あ、これ……いいの?』
 確か、ロッドはずっと守り石を作れず練習していたはず、と渡されたそれをぎゅっ、と握り締める。

『うん。その……まだまだたくさん新しいの作ればいいんだから、とっといてよ!』
 なぜか少し顔を赤らめつつも笑顔で、力いっぱい彼はそう告げた。
『…………』
 その言葉にクローディアは複雑な表情で顔をしかめ、ロッドの頬を摘まみ、ぐいっと横にひっぱった。



 思えば、あの頃からロッドは一言多かった。なのに時々、言葉が足りないんじゃないか、という気もする。
(なんで急にこんなこと思い出したんだろう……)
 ひそかに持ってきていた耳飾りのことも思い出した。これも彼がくれたもの。……守り石は、持っていても発動はするけれども。

(集中しなくちゃ)
 目の前で慈愛に満ちた表情で微笑む樹木の精霊に視線を戻した。彼女が降り立つだけで、みるみる焦土から草が芽生え、蕾をつけて可憐な花を咲かせていく。

 薄桃色の花畑が彼女を中心に一面に広がり、幻想的な空間を作り出していた。ドリアードは白く滑らかな手をパチパチパチ、と打ち鳴らして、
「私は、ここに戦いにきたのではないわ。心からあなたたちの術を賞賛しに来たの。正直なところ、ここまで術をこなせるなんて、思ってもいなかった」

 ――――まるでネジ巻き式のお人形のようね。

 微笑みながら賛辞を口にする彼女に、クローディアはそんな感想を抱いた。彼女の体もおもいもこの場にはなく、ただしゃべるだけの人形がそこにある、そんな印象。
(目的は、なに)
 探るように見るが、答えが返ってくるわけではない。クローディアはふと、ずっと傍にあったロッドの気配が消えているのに気づいた。


(弾かれた……)
 ロッドは蒼褪め、草の根が張る痛みにじっと耐える少年たちに、力を少し注いでやりながらも、寒気を覚えていた。実体なら冷や汗を大量に掻いていたかも知れない。
 ……ナスターシャとは連絡が取れず、場所さえも特定できない。

 襲撃は小康状態になっており、それもまた、何かの前触れではないかと、不安を煽り立てる。そしてふと、遠くから呼びかける声に気づいた。

「ロッド、子どもらの状態は?」
間をほとんど置かずして、囲む数匹の魔物をものともせず、年は還暦近く、よく陽に焼けた髪としわの深い肌をした男たちがその場に現れた。
「すぐ処置をしよう」
「感謝します」
<守役様、申し訳ありません。村長にも最大級の感謝を>
 頭を下げるロッド、安堵の表情を浮かべて弓を下ろすテュロスの横で、、先ほどとは別の涙を浮かべる子どもらの頭に手を置き、一気に火をかける。

「あ、あづづづづッ」

「この深さじゃ焼いたとて動けんな。運ぼう」
 上がる悲鳴に頓着せず処置を施していた一人、褐色の肌と髪をした男がロッドを向き、こちらは任せろとばかりに頷いた。

 ロッドは再び深々と頭を下げ、すぐさま姿を消した。

(守り石があるから凌げはするはず……どうか凌いでいて欲しい)
 焦りを押さえ、近づくことすら敵わないクローディアたちの元へ行くのは一時諦めて村人のフォローへまわる。

 多くの魔物を巻き添えにして自害した者も少なからず、生き延び屋敷を目指す者たちの励ましにまわる。その先々で、村の家々に根を、枝葉を伸ばし生い茂る木々が、蕾をつけ、ゆっくりほころび始めていた。


 クローディアの前で、樹木の精霊である少女は、切々と昔の、封印前まだ精霊と人が共存し助け合いながら暮らしていた頃のことを語り、村人の心に訴えかけている。
 他の者も彼女も、複雑な思いでそれを聞いていた。その間に術を練り、発動ギリギリの状態にまで高めておく。
 村人の中には、何ゆえ今また、とはっきり顔に浮かべている正直な者もいた。

(火をかけるか……いいえ、これは末端のはず)

「まだ、間に合うわ。ここで武器を収めてくれれば、これ以上のことはしない」
 少女はそう締めくくった。
「…………これを見て」
 すっ、と上品な仕草で手を伸ばすその先に、とす、とす、と足音をさせて歩いてくるものがいる。

 あちこちから怒号と悲鳴が上がった。あろうことか、蔦や草をはびこらせた村人を、精霊は内から動かし、呼び寄せてきたのだ。

 シャウラ、ニック、と、かろうじて見える服の様子や体つきから誰かを判別し、後ろから思わずの震え声がかかった。
「今ここでやめれば、彼らも元に戻し、以前と変わらない生活に戻れるはずよ。――――――わかるでしょう?」

 戻せないはず。あそこまではびこらせてしまったのでは、もはやドリアードの命令に従うだけの傀儡にすぎない。村の者も、精霊術を扱える者でさえあれば、いったいどういう状態であるのかぐらいすぐわかる。

 これではただ煽るだけ――――――。

「ふざけるな!こんな状態にしておいて、何が話し合いだ!何が講和だ!いい加減にしろ!」
「殺せ!あの邪悪な精霊を滅ぼすんだ!」
 口々に叫んだ。

「待って!冷静に――――――」
 煽ることそのものが目的では、と制止をかけたが、矢をつがい術を走らせ、村人は止まらない。
 いかにして彼らを静めるか、と思考をめぐらせていた彼女だったが、その狙いの先がおかしいことに気づく。なぜ、自分を――――――?

 時すでに遅く、驚愕に彩られた彼女の体を、村人が放つ矢、続いて精霊術が貫いていた。


 その頃セリエは、ロッドから情報を得ながら、魔物を狩り、残りの村人を助けるため奔走していた。次つぎに蕾をつけ、薄紅の華を咲かせる木々に不気味なものを感じ、できるだけ焼いておこうと術を紡ぎ、炎を放つ。

「もっと火の術を学んでおくんだった……」
 拙い自分の術に、思わず歯噛みする。森の中に位置するこの村は、元来精霊とともにあったため、山火事など不穏な印象を招く術は避ける傾向にあった。

 それでも精霊に対抗するためと、教えられてはいたが、延焼を避ける手配も同時に行わなければならず、どうしたってその鍛錬は制限されてしまう。

 甘い香りが辺りに漂い始め、セリエは動物たちの様子がおかしいことに気づいた。


 油や火薬といった荷物がなくなったザックたちは、足取りも軽く、魔物を減らしながら急ぎ村長の屋敷へと向かっていた。ところどころスキュラや蜘蛛を倒すためか、爆発の跡が見られ、中には家ごと自害した様子もあり、憂鬱な気分のまま進んでいると、次第にあちこちの木々から蕾が出て、華が咲き始めていく。

「何か来るな……」
 呟き、煙草を吸いながら、さらに甘い香りの充満する中を突き進んでいくと、突然セルマの悲鳴が上がった。
「せ、精霊が!この化け物!」
 目を血走らせ、ナイフをなぜだか自分の夫に振りかざしている。

「おい待て!何やってるんだ!」
 慌てて止めるが今度はヨハンが叫び声を上げる。
「くそッ幻覚かッ」
 煙草の煙が目暗ましの役も担っているため、ザックに刃は向かず、対峙しようとする二人に急ぎ彼は懐の煙草、それもかなりどぎついのを取り出し、火をつけると慌てて双方の口に咥えさせた。


 クローディアが首から下げていた、あの最初に貰った守り石が砕け散った。

「幻覚……まずいわね……」
 鳥肌を押さえ、バスケスと目線を交わし合図をする。どうやら術に耐性の低い者は軒並みやられ、かからなかった者も攻撃を必死で避け、動きが取れない。


 もはや村のほとんどで、混戦状態となっていた。
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