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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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番外 ひらりひらりと舞う 5

修行に向かったクローディアたちと別行動を取るロッドは、すぐに最も信頼できる者たちを集め、今まで少しずつ溜めていた守り石を皆に配り、結界の手順と術式を正確に村民に伝えるよう、手筈を整えていた。

「いいか。結界は強固に越したことはない。それぞれの家のモノだけでは心もとない。必ず見落としなく伝えてくれ」

 そんな一人ずつ真剣に伝えるその姿。それを聞く者たちも、真面目な表情を崩さず、
「よし、まずそれぞれまわる家を決定するぞ!」
‘なあ、おい。ロッドって、いつクローディアさんに求婚するんだろうな’
「ああ。オレは東の……タグんちからだ」
‘本当だよな……『彼女より強くなってから』とかいって、いつだよそれ’
「じゃあ僕は、シャウラとその近隣へ」
‘あのさ……2年前のこと、誰か知る奴いるかな?’
「おまえは南東の、あの頑固ジジイの家へ行けよ」
‘ああ知ってる知ってる!確か、村長に懇願したって話だ。『孫娘のクローディアさんを、嫁がせないでください!』って、土に頭をこすらんばかりにしてたって。それで2年も待たせちゃあー’
「なんでそんなとこ行かなけりゃいけないんだよ!おまえがやれよ!」
‘マジか……クローディアさん可哀そうに……今じゃ嫁ぐ適齢期も過ぎ……’

「そういう話は、本人のいないところでやれ」
 こっそり裏でおしゃべりしていた3人組は、鬼の形相のロッドに見つかり、それはもうこってりと絞られたのだった。



 ロッドの配下のメンバーは、村の家々を一つ一つまわり、改めて守り石による結界を張るよう村人に指示していた。

「結界の張り方は?そう、これを四隅に。今のものと二重にしてくれ。なるべく強固に」
 ロッドも自らの足で、結界の強度、張られ方、村人の状態を念入りに見てまわる。……文献によれば、相手は狡猾、搦め手をよく使う。気は抜けない、少しの緩みが即、死に繋がる。

 今度はすぐ隣の家の扉を叩く。家主もこちらのことは承知で、すぐさま頷いて見せた。
「幾重にも張られていますが、油断はせずに。この守り石を――――――」
 残り十数件。最短でまわれるルートを思い描きながら、ロッドは次に打つ手を考え始めていた。


 空気が動く。時折ピリピリと張り詰める。ナスターシャは、ゼルネウスに村を案内しながら、こんなことをしてていいのだろうか、と幾度も疑心に駆られていた。本当は、こんなことより、精霊を操る技を鍛えていた方が、よっぽど有用なのではないだろうか――――――。

 風が頬を撫でた。

‘怒ってるよ‘’怒ってる’
‘笑ってるよ’‘笑ってるね’
‘もう、その時は近い、って――――’

 精霊たちが気まぐれに噂して、去っていく。ミシミシ、ミシミシと結界がたわむ、その音がここまで聞こえてくるようだった。


 複雑な表情をしているナスターシャの横で、ゼルネウスは家の配置と、村人の人数、年齢、様子を頭に叩き込んでいた。奥に見えたあれは……狼だろうか。よく訓練された、感情の読めない眼差しが、ほんのわずか、窺えた。ここで黙々と作業をしている村人と、まったく同じような――――――。

 この村は、どこかの軍、あるいは術師養成所と評されてもおかしくはないほど、村人全員が、なんらかの武術、あるいは何か他の――――精霊術だろうか――――の使い手に違いない。もし敵とみなされたなら、どの村人であろうと、すぐさま対処に来るだろう。

 ――――――制圧は骨折だな。まあ、元よりその気もないが。

 そんなことを考えつつ、土を掘り返し砂のようなものを混ぜ、埋めた後なんの術か白い石を置いてまた別の場所へ移動する村人を観察していると、やがて、ナスターシャが重い口を開いた。
「あんたの……受けた毒は、本来なら、針の先ほどの量で、十数人殺せるって、聞いた」
「そうだったのか。俺は元々毒や薬の類が効きにくい体質だから……おかしいな、とは思っていた」
 ゼルネウスは頓着なくそう発言する。

 初っ端から薬湯をやすやす飲み干して見せ、無防備な姿で相手の毒気を抜いた、その裏付け。

 ナスターシャはすぐにその意味を悟り、男の顔を、じぃいっと見つめ、
「過信家は早死にするよ?」
「そんなつもりはなかったんだがな……」
忠告か非難か判別しづらい言葉に、彼はそう苦笑を返した。
「伝承によれば、太古から存在する、あの精霊は広範囲に渡って精霊力ちからを発揮するから」
 だから――――――戦力は多い方がいい、といいかけて、ナスターシャは、見極めるつもりのはずが、いつのまにかこの男を頼ろうとしている自分自身に気づいて、ひそかに嘆息した。


「そろそろ、来る」
 修練を切り上げ、どこか虚空に視線を彷徨わせながら、バスケスが言う。
「……そうですね」
 セリエもそれに、細く長く張っていた術を、糸を手繰り寄せるようにもう一度確認した。

 ――――――随分と、余所者に気を許したようだ。

 垣間視えたナスターシャの様子に眉をひそめ、すぐ意識を切り替えた。彼が何を企むにしろ、どのみち変わらない。なるようになるだけ。

 せめて少しは役に立ってくれればいいのに、とは思うが、あっさり彼かの存在に滅ぼされて終わりだろう、と結論付けた。

「ああ、楽しみだ」
「まったくあなたは不謹慎ですね」
 おそらく自分の力が試せるのが嬉しいのだろう。好戦的で粗野な笑みを浮かべるバスケスに、セリエは遠慮なく突っ込んだ。


 村をひととおりまわったロッドは、北西にある、村と森との境界の一部へ向かっていた。

 総力戦になれば、術の苦手な自警団のメンバーたちが心配だが、護法具アミュレットを渡す以外にできることもない。ロッドは嘆息し、すでに、結界の状況を視認できるよう張り巡らされた縄の元へ来ていたグローリアに合流した。

 他数人と離れ、のんびりと見張っていた彼女が指先に炎を灯し、香り煙草に火をつけた。煉瓦色の煙を吐き出すとともに、肉桂とピリッとした香辛料の香りが、辺り一面に広がっていく。

「“火蜥蜴の吐息ブレス”本当に、よく似合いますねー」
 しみじみとロッドが呟き、こちらも、“ヨモギ”という、まさしく蓬と数種の薬草を織り交ぜたような、身もフタもない銘の煙草に火を点け、短く吸ってゆっくりと吐いた。
「あんたは年寄りくさいわね」
 クローディアが呆れたように言い、続けて、
「でも、嫌いじゃないわ。その香り」
そうにっこりと微笑んだ。

 ゲホッ、エホッ……。動揺したらしいロッドが、やたらと噎せる。

 そんな様子を余所に、クローディアはふと思い出したように、
「そういえば、要のメンバーの中であたしだけ……他はそうでもないのに、どうしてよく敬語を使われるのかしら」
と首を傾げ、ロッドもずっとそうじゃない、とそちらを向けば、なんとか呼吸を整えたらしい彼は、
「そりゃ村長の孫という上の立場だからじゃないですか。あと、俺は、どうも側付きだった頃の癖が抜けなくて」
そう苦笑した。

 それに、むぅ、と小さく口を尖らせ、
「でも……そんな風にされると……寂しいじゃない」
ロッドにそう告げたが、これには返事がなかった。

「ちょっと…………!」
 振り向きかけたのと、ロッドが、今のは結構キた、と呟いたのがほぼ同時で、クローディアはそれは聞き逃し、
「時間差で追い打ちってのは……」
と呆然と言うのが耳に入った。

「え、あ、あたし、今のはそういうつもりでいったんじゃなくて、本当にっていうか……!」
 頬を染めて叫ぶ彼女に、
「わかってます……じゃなくて、わかってるよ」
とふ、と遠い目をしつつ返し、彼は心の底で、この天然、とか、小悪魔が、とか、本気で言ってるから性質悪い、とかいろいろ考えた。

 沈黙が二人のあいだに流れ、
「あのさ、ロッド……死なないでね」
クローディアが、言いにくそうに、ぽつりと言うのに対し、これにはロッドはただ、優しく透明で穏やかな笑みを向けた。

 確約はできない。要には、村でもっとも強い力を持つ者が選ばれる。アーシャはどうも勘違いをしているようだったが、犠牲を出し人柱という形で封印を成り立たせるような掟りはない。ただ、まわりの者が倒れ、残された手段が他に無かっただけのこと。

 もし、自分がその立場であったなら、迷いなくそうするだろう。それは、クローディアも、他の者も同じ。そこまで考えて、それでもそう言葉にした彼女に、気づく。

「クローディア。ありがとう」
「…………うん」


 結界が軋んだ。破られるまで、あとわずか。

 俯いていたクローディアがはっ、と顔を上げる。
「ロッド」
「ああ。一足先に……乗り越えて来たな」
「ええ。ここじゃないわ……もっと西の……すでに村人が臨戦態勢に入ってるけど、まだ動いてはいないようね」
「ああ。行こう」
 二人は頷き、すぐさまその場を離れた。
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