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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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ラスキ・メースフィールド 2

後半、回想シーンの中に、さほどグロくはしなかったつもりですが、がっつり残酷描写とホラー表現があります。ご注意ください。
 明かりの中、油断なく互いに距離を測っている二人をシャロンがはらはらしながら見守る横で、
「幅広の刃は六角か……手堅いな」
「いや、何を言ってるかなぁ。あっちのアル君のフィラングだって、その流れを汲んでるよ?どっちも手間かかって作りにくいから鍛冶屋泣かせっぽいなあ」
アイリッツとナスターシャは、そんな言葉を交わしていた。

「何を話してるんだ呑気に……」
「いや、ほらあれだよ。剣の形状は頂点から見たとき六角になっている形が一番強く、打たれ強いって話。シャロンのはあいにく菱形だけどさー」
 トントンとシャロンの剣の柄を指で叩いてみせる。

「……ああそう」
 呆れて視線を戻せば、ラスキの方が先に動いた。やや斜め下から胴体に斬りつけ、アルフレッドが止めるその剣をかいくぐり打ち払う、と見せかけ剣先を半転させ肩に振り下ろした。
 慌ててアルフレッドが地を蹴り間合いを伸ばすも、さらにまた斜めから手首を返し斬りつけていく。

「フェイントからの蛇行斬り……淀みないな。きちんと基本に則っている」
「そんな悠長なこと言ってていいの?押され気味だよ?」
「これぐらいで負けるようなタマじゃねえだろ」

 く、こっちは必死の思いで二人の動きを追い、神経を削っているっていうのに……!!

 見物気分のアイリッツを殴りつけたい心境に駆られながらも、その時間も惜しく、シャロンはラスキとアルフレッドの剣戟を見つめ続ける。

「しつこい」
 パン、とアルフレッドが手の平――――――正確には指なし皮手袋グローブの腹だが――――――で、自らの剣の根元を打ち角度を変えた。刃は刃渡りを滑って手から肩口までを直線距離で狙う。慌ててくいっと手を返したラスキの頬を切っ先がかすめ、同時に腰を落としたアルフレッドが下から間合いを詰める。

 ラスキの靴先がアルフレッドの顎を捉え、彼が飛び退り、唇を切ったのか、ペッと血を吐いた。

「やるなおまえ。それほどの腕だ。みっちり修行を組めばいったいどれほどの腕前となるのか想像もつかん。我が騎士団に入る気はないか?」
「ない」
 切って捨てるアルフレッドの声。

 まさか勧誘!?なにやってっかなあ、とナスターシャの呆れ声が零れ落ちる。

「ふ、ふふふ、冗談だ。ここで倒さなければならないとは……惜しいな」
 にやり、と壮絶で無邪気にも見える笑みがラスキの顔中に広がった。すっ、と剣の切っ先を上に、念をこめるように額から顔の中心に立て、振り下ろす。アルフレッドはいち早く避けたが、ビリビリ、と遠くにいるシャロンたちの傍まで、重厚な気の余波、としかいいようのない力が届いてきた。

「俺も全力を出そう。今のこの……素晴らしき機会のために」

 ラスキが剣を振るうたび、重圧にのしかかられてはたまらない。アルフレッドは一度逃げをうった。否、距離を取って相手の技を見、反撃のチャンスを掴もうとする意図があるのかも知れない。

 先ほどより大きな衝撃波がアルフレッドがいるその周辺ごと、あるいは薙ぎ倒し、あるいは押し潰して演習場を、瓦礫と更地の両方へと変えていく。

 本人は青筋立てて嫌がるだろうが、その様はシルウェリスの無差別魔法攻撃と似たり寄ったりなのでは、とナスターシャは思っている。

「おいおい……いいのか止めなくて。オレらにとってもう出血大サービスだぞこれは。こんなに技も見せていくれちゃって」
「あー、いいよもう。本人楽しそうだし。久しぶりの歯ごたえのある相手だから……ラスキには鍛えるつもりもごくわずかにあると思う」
「まったく……よくわからねえな。おまえんとこの奴ら……王にせよ他の誰かにせよ、常軌を逸した人間へんじんのやることは」
「あんたが言えることじゃなくない?」

 シャロンは中庭にてひそかに補給しておいた水を口に含みながら、隣のやり取りに関しては無我の境地を貫けるよう努力をしていた。そう、意識するべき大切なことは、もっと他にある。

「はぁ……いるんだよなこういう……棚上げで自分だけはまともだとかって勘違いしているようなヤツが」
「そぉかな~?強欲張りの誰かにはあたしなんてとてもとても叶いっこないし」
「いやいや。若作りのだっれかさんには負けるからホンと」
「口開ければシモネタばっかりの人もいたよね~」
「は!?それをいうならちんちくりんの、」
 盛り上がっているところ悪いが、と低く地を這うような声が、二人のあいだをぶった切った。
「私は。この戦いを、真剣に見届けたいんだ。邪魔をしないで欲しい」

「あ、ごめんなさい、つい」
「スミマセンっした」

 やっと、静かになった。

 シャロンはこれで心置きなく見られる、と、頭に上った血を静めながら、アルフレッドとラスキの戦う方へと、視線を戻した。

 多少は反省したのか、黙るアイリッツの横で、ナスターシャは短く息を吐いた。

 そう、今回は違う。こんな穏やかな気持ちのままで、戦いを見ていられるのは、本当に稀なことだ――――――。

 ふと、いつだったかもわからない、過去の記憶が、脳裏に鮮やかに蘇ってきた。


 あれは、だいぶ昔の――――――シルウェリスを倒すほどに強力な力を持った三人の戦士たちとの戦いだった。

 勇者と呼ばれ責任を背負ってきたのだろう、色褪せた茶髪の少年と、傭兵上がりと思しき戦士、そして金色の髪を靡かせ、優しげな顔立ちを厳しくしこちらを睨む、女性の治癒師ヒーラー
『くそが!ここまで来て負けられるかよ!』
 リーダー格の少年が叫び、ジゼルに剣を振りかぶる。彼女は硬い体で跳ね返すが、その動きはナスターシャやラスキの速さには及ばず、早々に集中攻撃を受けることとなった。

 斬っても斬っても立ち直り立ち塞がる彼女を前に、相手も戦い方を変えた。――――――彼女の戦意喪失を、狙うために。

『こんなのも避けることができないのか!おまえはこの中で一番役立たずだな!』
 傭兵上がりだと思われるガタイのいい男が吼え、ジゼルに斬りかかる。
『え、そ、そん、な、ワタシは』
『ジゼル!そんな奴の言う事なんか聞かなくていいから!この腐れ根性男!!』
 ナスターシャの放つ矢は男に届く直前で相手の治癒師ヒーラーに張られた結界に守られる。

『この程度、防げます。……私たちは、どうあっても、負けるわけにはいかない。私たちの、世界のためにも』

『わ、わたし、わたしだって守りたいのに、』
『脆弱なおまえに守ることなんてできはしない。俺たちは必ず勝つ』
 青の瞳に悲壮な思いを乗せ、痛んだ茶の髪と、もはや傷のない場所などないのではないかと思われる鎧の少年は何度目かになるかわからない、剣戟を繰り出し、ジゼルの体に刃を突き立てた。
『あ、ああああ、そんな、いやぁああああ』
 自らの作った血溜りに、ジゼルが沈む。
『ジゼル、しっかりしろ!ジゼル!!』
 悲痛なラスキの叫びが響く。


『……一人片付いた。次だ』
 少年は血塗られた剣を振りかざす。


 こんなことは、望んじゃいなかった。こんなことは……


 それしか術がない、というように、剣を、力を、振りかざす。

 足元の血溜りに見向きもせず。その痛みにも、気づいているのに、彼らは瞳を閉ざす。ジゼルは、

 ビュン。

 血溜りの中から伸びた無数の手が勇者の体を掴んだ。ミシ、と嫌な音をさせるまもなく、赤い液体に引きずり込まれ、バシャバシャと音を立て、やがて静かになる。


『え、あ……』
 治癒師が細くか細い悲鳴を上げる。その視線は、血溜りに浮かぶ女性に吸い付いて離れない。

 その女性は、白いドレスを着ていた。顔も塗ったように真っ白。唇は青褪め、本来目に当たる位置はぽっかりと空いてそこから血の涙を流す。

『ぁ、あああああ、マけられないの、ツグナイ、ヲ』

 誰も、何もできなかった。空中に無数の剣が浮かび、戦士と治癒師を串刺しにする。一瞬で絶命した治癒師はともかく、戦士はまだ息があったものの、抵抗も虚しく血溜りへと引きずりこまれていった。

『タタカウ、タタカエルワ、イタクナイモノ、力があふレテ止まらナイ』
 ひどい有様だった。ジゼルの底無しの絶望を映して赤く赤く深く、その攻撃は止まらず辺りに破壊を撒き散らしていく。

 人の心の底など、土足で入っていいものではない。最後まで付き合う気がないのならば、深遠を覗き込むべきではない。

 混乱で、同じ言葉がぐるぐると頭をまわる。沈痛の表情で、なすすべもなくラスキが立ち尽くしているのを見たナスターシャは、もう一度人であることを放棄し形を失ったジゼルを見つめギリッと唇を噛み、自分のやるべきことを実行した。

『ゼル!ゼルネウス!』
『――――わかっている』
 呼びかけと同時に、年老いてなお鋭い眼光を失わないゼルネウスが、ふっと先触れもなしに現れた。
『へ、陛下!』
 慌てて膝をつき頭を垂れるラスキに、
『堅苦しい挨拶はいらん』
と一言告げ、同時に辺りを光の帯が取り巻き、キュキュイン、と縮こまるような音が響くとともに、ジゼルを構成していた欠片のすべてが球体の中に集まり、やがてそこに膝を抱え頬を泣き腫らして眠るジゼルの姿が浮かんだ。

 同時に、彼を中心に光の輪が広がり、破壊された城のすべてを戻していく。

『さすがに、呑み込まれた勇者モノたちは戻らんが……仕方ないな』
 ふう、と息を吐き、
『こちらも戦闘と、そしてこの再生に大分力を使った。これから、休眠期に入るだろう』
そう告げると瞬く間に姿を消す。

『休眠期……』
 ぼんやりと呟くナスターシャの頬を、乾いた冷たい風が撫ぜていく。

『あのー、非常に心苦しいのですけんども、そろそろ移動して頂けると……』
 庭師のオスカーが足元にちらちら視線を送りながらおそるおそるこちらに話しかけた言葉に下を見れば、ナスターシャとラスキが戦っていた場所はちょうど花壇の中央辺りとなっていた。

 謝り、宮廷の方まで移動すると、シルウェリスが腰を叩いたり首をひねったりしながら歩いてくるのに出くわした。

『そろそろ、冬ですねぇ。休眠期が来るそうですよ。冷えるせいでしょうか、私もどうも体の節々が痛くて……』
 そりゃ爆発で体がバラバラになった名残じゃ、と思ったものの、どうせ覚えちゃいないんだから、と考え直し、
『シルウェ……それは歳、だと思うよ』
なんてからかっておいた。

 ナスターシャは喧騒を取り戻した城の廊下を歩きながら、ふと窓の向こうの青空を見上げ、思う――――――。

 これからまた、長い長い眠りが、また始まる………。幻想ゆめの終わりは、いったいいつになるのだろう、と――――――。
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