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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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解決の手立て

 ヨアキムの家の裏の倉庫は、案の定鍵がかかっていた。

「戻って鍵を貸してくれ、というのも間が抜けているな」
 カバンに入っていたランタンをつけ、シャロンは倉庫の入り口を照らしたまま困リ顔で呟くと、
「大丈夫ですよ。借りてきました」
エドウィンが古びた鍵を振って見せる。
「おい……」
「まあ、あなたの性格からして、こういう展開になるんじゃないかと予想したので、あそこを去り際声をかけたんですよ」
「乗り気ではないんじゃなかったのか?」
「そうですね。こちらの労力に対して見返りが少なすぎる。でも、この先どうなるのか、という興味もあります」
 苦笑しながら鍵を差し入れてガチャガチャと音を立てる。錆びついているのか、なかなか動こうとしない。
「あ、開いた。さて、中がどうなっているのか……」

 倉庫の中は狭いはずなのに、光が行き渡らず、どんより湿っている。アルフレッドが非常に嫌そうな顔で一歩身を引いた。
「……気持ち悪い」
「確かに。あんまり探りたくないな」
 息を詰めながら、鍬や鋤などの農具をどかして奥にじっと目を凝らす。残念ながら、薄暗くて何も見えない。
「シャロンさんて、危機感薄いですよね」
「……こういうのに対して鈍いんだと思う」
「うるさいな、さぼってないで手伝ってくれ」
 振り返ると、エドウィンはやけに遠目にこちらを窺っている。
「媒体を確認しないといけないんですけどねぇ……なんだか近寄りたくないんですよ。ほんっとうにあなたは何も感じないんですか?」
「いや……多少嫌な感じはするけども」
 アルフレッドも二の足を踏んでいる。二人ともが尻込みする様子に不安になり、シャロンは物をどかそうとしていた手を止めて、再び奥を凝視した。

「うっ」
 ……倉庫の闇は、いつのまにかその姿を変えていた。ランタンの明かりを寄せつけないほど黒く濃い闇が、しゅるしゅると奥にある何かを取り巻くように蠢き、淀んでいる。

 後ずさりたいのに、体が一歩も動かない。

 その吸いつくような闇から目が離せずにいると、その塊は膨張し、無数の地を這う生き物となって、一気に弾けた。
「危ないっ!」
 後ろからアルフレッドが強引に腕を引き、二人して地面に倒れ込む。
 離れた安全な場所からそれを眺めていたエドウィンが独白のように、手遅れでしたね、と呟いた。

 すっかり夜になったので、村の外れにある、宿なのか貸し家なのかよくわからないところで部屋を取ることにした。
 受付の老人は、いきなり飛び込んできた客を不審に思ったのかこちらをじろじろと見やり、害はなさそうだと判断するや、後は好きにしろとばかりに奥へ引っ込んでいった。
 ほとんど貸切状態のその宿で、物をしまう棚はおろか、寝具すらなく、毛布がたった一枚あるだけという部屋に荷物を置き、炉端の休憩所へと足を運び入れる。

「シャロン、顔にまだ土がついてる」
 各自の食料を持ち寄って晩餐を過ごした後、ふいにアルフレッドが手元の布を伸ばしてきた。
「あ、ああ、ありがとう」
 シャロンは、毒気の抜かれた顔で顔や髪についた土を拭っていたが、再び気合を入れ直し、
「……もう、とにかく竜の呪いについて知っていることを全部話せ」
出し惜しみの激しい男を睨みつけた。
「私の調べた文献が、必ずしも正しいとは限らないんですが……」
とエドウィンはわざわざ前置きして、
「進行は今のところそのとおりのようです。文献によれば、最初は張本人が罰を受けているだけですが、それを放置すると第二段階としてまわりに風邪のような症状が広がり、第三に呪いの媒体が十三のトカゲに変化して四方へ散らばる、と。ここから先は、坂を転げ落ちるように状況が悪化して、竜の使いが出す瘴気の影響を受けた魔物の活性化、さらに広範囲に病が広まるなど、様々な現象が起こります。もし、このまま進行が進めば、最終的にはここら一帯すべての生物が石像と化し、大地へ還っていってしまう結果に終わる、と書かれているんです」
「それを防ぐ手立ては?」
「幸いなことにそれも私が見つけた古文書にありました。第三段階が起こる前に祭壇の一部を戻せたらよかったんですが、もし変化してしまったなら、竜の使いをすべて大地へと還し、祭壇を元に戻して祈りを捧げ、竜の像の荒ぶる御霊を鎮めよと。祈り後の夜明けの光とともにすべてがあるべき姿へと収まるそうです」
 その朗報に、シャロンは思わずそうか、と呟いて安堵の笑みを浮かべる。
「いやいや、安心するのはまだ早いですよ。懸念すべき事がいくつかあります。まず、地道に竜の使いである黒いトカゲを探して発見し、瘴気を含むエネルギーの塊であるそれを確実に滅ぼさなければいけないんですが……普通の武器では効かないんですよ。魔力を帯びたものでないと」
「その、魔力を帯びているかどうかってのは、どうやってわかるんだ?」
「そうですねぇ……ちょっと剣を貸してください」
 シャロンが渡すと、柄を握り刃を確かめてから返した。
「これは普通のですね。魔力を帯びていると、なんというか違和感があるんですよ。まあ、魔剣なんてそうそうないですが、たまに持ち主が鈍感で知らず知らずのうちに持っている、なんてこともあります。それと、もし磁針を持っていたら近づけてみるのも一つの手です」
 そう言って立ち上がり、カバンから振り子を取り出すと、試しに今度はアルフレッドの剣へと近づけてみる。
 すると、その振り子は不規則に揺れ、次第にくるくると回り出した。
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