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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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ジゼル・コルシェシカ 2

 ラスキ、そしてやや離れてアルフレッドが、シャロンとジゼルの戦いを、と見守る横にナスターシャとアイリッツも姿を現した。

 ナスターシャは一言、こちらも休戦協定を結んだから、とだけ告げると、苦渋の表情で頷き、ラスキがまたふいっと視線を戻す。

 ちょうどその先では、長い髪をなびかせ、ジゼルがシャロンへと剣を突きつけていたところだった。

 「覚悟を」

 身軽さを取っているのか動きやすい服装に胸当てをしているだけ、しかも布地は一部が裂けてしまっている、見ようによっては満身創痍、といった姿だが、その眼光、表情は鬼気迫るものがあった。

 まわりの空間に、黒い鋼の棘でできた円、がいくつも浮かんだ。瞬きする間にそれは拡大し、小剣の豪雨となりシャロンに襲い掛かる。それらの形はすべて、大小の差はあれど、ジゼルが持つものと同じ。

 そのわずか前、シャロンは風を使っていた。地面を蹴り、彼女を見据えながらその横側、木々のある場所へと回り込もうとし、まっすぐに自分の軌道を狙う一斉攻撃に咄嗟に足踏みし、きって返す。それをジゼルが追う。

 ジグザグに走り、跳躍しながらシャロンが避け、風で彼女の体を狙い、肩を浅く斬り裂いた。ものも言わずジゼルがシャロンに追いすがる。跳躍により、再び離れ、さらにその向こうへ。

 本来なら騎士たちの鍛錬である演習場は、大勢を入れるのにふさわしく、ただっ広かった。

 地で剣を構えるジゼルの上には、空に生えたように数十もの剣が浮かび、シャロン目掛けて飛来し、彼女はそれを避けながら反撃の糸口を掴むため、再び大地を蹴りつけ低く滑走するように跳躍した。 

 太陽の位置関係からして、ほぼ入り口へ戻され、建物の外側から反対側へとまわった時には、演習場の向こうに別棟が見え、疲れた体で大分歩かなければならなそうだ、なんて思っていたのだが…………。

「くッ」

 瞬く間に稽古場が迫り、襲う剣が備え付けられた藁と木の人形を薙ぎ倒し木端微塵にしながら降り注ぐその中を無我夢中で避けているうちに、建物がすぐ近くに迫ってきていた。

 いつのまにこんなに近くまで、と頭の片隅で考えながらもシャロンは、広く逃げ場のない場所で狙い打ちされるよりはよほどいい、と、次々に繰り出される剣を時に空中でバランスを取り、時に地面に下り立ってところどころかすらせつつも避けていく。

 襲い来るそれらを避けながらその隙間を縫い、迫るジゼルに、また一度地に下りて土を蹴り、建物壁間際まで逃げて追い縋り剣を振りかぶるその体を掴み入れ替え、突風を使い下から壁へと叩きつけた。

 剣を、胸目掛け突き刺そうとするも、返ったのは硬い手応え。

「!?」

 ガギィンッ!

 鈍く激しい音を立て剣がジゼルの手によって跳ね除けられ、ギリギリまで掴んでいた手を放し、咄嗟に窓枠を掴んでぶら下がる。そこへ狙いすましたように小剣が降ってきた。

 腕一本で反動をつけて避けたものの、体勢を整えたジゼルが隙を突く。咄嗟の判断で体を振って手を放し、近くに葉を茂らせる月桂樹か何かの植え込みへと踊り込んだ。枝が折れ肌を引っかく痛みを我慢し、振り返れば壁に突き立った小剣を踏み台にこちらに走り剣を構えるジゼルの姿があった。

「無茶苦茶だ…………!!」
 勢いは殺しきれない。それならむしろ………。風の盾をあいだに挟み、シャロンは土煙を上げながら地面を吹き飛ばされた。

 煙で視界が閉ざされ、ジゼルの動きが止まる。

 硬質な手応えは、防具か、それとも…………。身を低くして油断なく剣を構えながら、数秒にも満たない時間でシャロンは一つ策を練り、地を這うような動きで死角からジゼルへと肉迫し、斜め下から斬り上げた。

「こ、の………!!」
 ジゼルが間合いに入ったシャロンを斬りつけようと、剣を反転させるその腕を掴み、動きを止め、返す剣でその首元へ斬りつけた。

 そこから真っ赤な血が噴き出した、と感じたのは。錯覚だったのだろうか。

 次の瞬間傷口はすでになく、シャロンは自分の背後を狙いいくつかの小剣が出現したのを、振り返るまでもなく肌で感じ取っていた。手を振り払おうともがくジゼルの動きのタイミングを掴み、同時に身を躱す。

「あ、あああああッ、くッ」
 読み通り、彼女の生み出した剣は避けたシャロンのすぐ脇を過ぎてジゼルへと突き立ち、パックリとその肌を裂いていた。

 これなら…………。

 ひょっとしたら効かないかも知れないとも考えていたのだけれど、彼女は大きくダメージを受けたように見えた。


「ジゼル!しっかりしろ!」
 近くまで来たのだろうか、ラスキの叫び声が届く。

 突き立った小剣は消えたが、彼女の上腕と鎖骨近くとに裂傷を残している。

「ふ、ふふ、大丈夫ですよ……私は、まだがんばれます」
 闘志を失わず、傷口を庇いながらも敵であるこちらを見据える瞳は、昏くにごり、シャロンは背筋に冷たい戦慄と怖気が走るのを感じていた。


 柄を握る手が汗ばんでいるのをしっかり握り直し、自分を奮い立てるよう深呼吸をする。


 …………私の傲りだったのかも知れない。

 自嘲の笑みが浮かんだ。人の心なんて、簡単にわかるものじゃない、な。

 もはや、彼女がどうしてここに剣を握り、立っているのか……彼女の背負い抱えるその膨大な闇の欠片さえも、呑まれ潰されそうな重みを感じることはあれど、掴むことなど出来はしなかった。

 彼女が再び剣を構え、振り被る。前よりも幾分か速さの削がれたそれに、シャロンは一時離れ、距離を取った。悪寒は去らない。足元から這い登るような冷えが漂ってくる。

「…………行きます」
 ふらり、と彼女の体が傾いだ。地面を蹴り、跳躍してこちらへと向かい、その体をシャロンは風で打った。トン、トンと壁を蹴り体勢を整えるジゼルの傷口から、きらきらと宝石のような輝きが、ゆっくりと下へと零れ落ちていった。

 それは、これまでシャロンが城で斬ってきたあの、無数の人間の体から生まれた輝きに似て、儚かった。
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