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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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言の葉

今回短めです。すみません。視点移動にご注意ください。
 国の王となった英雄には、二人の仲間がいた。一人は王国の騎士団長。流行病で命を落とし、息子ラスキが後を継ぐ。残る一人は――――――



 あれはいつだったか。

政権が交代し、やっと民に落ち着きと安寧が得られたその記念にしようと、数日間お祭り騒ぎが続いたあくる日の夜明け近く。

 黙って出立しようとしたナスターシャに、声がかかった。

『―――――行くのか?』
 一番祝宴の中心にいるはずの仲間の、引き留める言葉に振り返り、ナスターシャはにっこりと笑顔を見せる。
『うん、もちろん。これでも、大分長居をしちゃったと思うよー。なんだか立ち去りがたくてさ』
 そうやってどこか照れたように、これからこの国もよくなっていくんだよね。弱い者が搾取されず、公平な国へ』
 爽やかな風が、頬を撫でた。新しい旅への期待で、胸が膨らんでいく。

『世話になった返しも、まだ何もしてやれてないが……』
 ナスターシャは憮然と佇む男にぶふっ、と吹き出しながら、
『いらないいらない。それに、また寄るよ。たまにはね』
愛馬の首筋を軽く叩き、地面を蹴ってひらりと跨った。

『ああでも、もしも……ゼルたちがピンチに陥って、助けが必要だっていうならね、すぐに知らせてよ。どこにいても駆けつけてくるから』



 時が流れれば、人を取り巻く環境が変わる。状況が変われば、その心だって移ろいゆくだろう。ただ、言葉だけは変わらず残り、時に相手を縛りつづける枷となっていく。

 あの時、そのことに気づかずにいた自分は――――――間抜けとしかいいようがない。



 談話室兼会議室から階段を下り、磨き上げられてはいるが、どことなく質実剛健、という雰囲気も醸し出す廊下を抜け、演習場へと向かう。
 同じように足を急かせるジゼルとラスキの表情は硬い。

 魔術団長シルウェリス。一人欠けたことで、消滅が現実味を帯びた。恐怖がすぐ傍にある中、恐慌状態に落ちず踏みとどまっているのは僥倖か、それとも必然か。

 彼らはここで、繰り返す。死の瞬間抱いた思いを抱えながら、同じ道を、繰り返す。

 ……一度滅ぼされるとリセットされ、発現からこれまで得たものは消え失せてまっさらな状態での再生となるだろう。それまでの経験を省いた分、別の新たなシルウェリスともいえる。

「今回の相手は手強いな……覚悟はいいか?」
 ラスキの最後通告とも言える問いかけに、ジゼルとともに、頷いた。

 シルウェリスの消滅は、外因子を呼び込んだ自分にも責がないとは言えないけれども……それでも、続かない未来を夢見て、同じところで空回りし続けるよりはよほどいい。

 足踏みし続ける彼らに、救済を――――――。

 早足で歩くうち、ドレスが絡まったらしいジゼルが、少し待ってください、と立ち止まり、ある一室に入ったかと思いきや、髪をひとくくりにし、ドレスの下に着込んでいたのだろうか、すぐに簡素な長袖上下姿となって戻ってきた。立ち居振る舞いとは真逆な服。まるで、女性としての柔軟さ、美しさを押し込めようとするかのように……。

 ナスターシャはそこまで考え、首を振った。シルウェリスの張った結界は、本人がいなくなった今もなお、こちらを助け、演習場へと侵入者を誘導するために、正常に機能していた。

 演習場に着いた。通常なら、騎士団の鍛錬で賑わう場所は今、砂をところどころ舞い散らせ、黙ってそこに佇んでいる。

 夜明け直前の、静かな時間。ナスターシャたちは、しばしそこで待った。 
「来ないねー」
 じりじりと、空が白み始める。夜が明ける。

 演習場脇の、屋根のついた休憩場所に腰を下ろし、厳しい表情のまま無言でいる二人に目をやり、ただ簡素にくくっただけの、ジゼルの髪をまじまじと見つめて、
「ジゼル……その髪、編み込もうか?なんか全然来ないし……」
「え?でも……」
戸惑う彼女に、笑いかける。

「多分戦う時うっとうしくなるよ。いいから任せて」
 ラスキがいつものように剣の手入れをしている隣で、髪を懐から取り出した櫛で梳き、ナスターシャは丁寧な手つきで器用に編み始めた。


 庭園でのつかのまの休息。シャロンは気まずそうに、久しぶりのご馳走に舌鼓を打つアルフレッドへと声をかけ、
「その……アル、さっきは悪かった。助けるためとはいえ、手荒なことを……。きっとこれからも手段なんて選べる余裕がなければ、同じことをするかも知れないが……気に病まずにいてくれると嬉しい」
「別に、気にしてない」
あっさり頷かれ、ほっとしたように頬を緩ませた。

「シャロン、オレには?」
 そんな様子をからかうように軽い調子で、アイリッツ。

「おまえは……私の出した衝撃など、どうとでもできるんじゃないのか?」
「いやいや、気持ちの問題だよ気持ちの!」
困ったようにシャロンが返すのに対し、彼がそう返すと、
「そうか。じゃあ……リッツ。助けに入るのに、多少乱暴な扱いになるかもしれないが、あまり気にするな」
「なんだろうな、この差をつけられた感は……」
そううそぶいた。

 そんなやり取りの後、交代で仮眠を取り、庭園から反対側へと向かう扉を探る。回廊へと足を踏み入れる。大理石の床は足音が反響し、あちこちに飾られたタペストリや騎士像などが並ぶ廊下を用心深く歩けば自然と。魔法による結界がいたるところに張られ、決められたルートを進むよう制限されている事実に気づかされていく。

 シルウェリスは、彼らを倒せたら、と言っていたからまだ他にも立ち塞がる者がいるのだろう。シャロンは、近づこうとするとバチィ、と見えない壁に弾かれた階段に背を向け、再び通れる道筋を確認し、選び取り次々に進んでいく。

 もう、覚悟はできている。今はただ、仲間とともに先へ進み続けよう、そう心に言い聞かせながら。
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