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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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竜の呪い

 ヨアキムは肩をしばらく震わせていたが、やがて袖で涙を拭き、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。その彼に向かい、シャロンは頭を下げる。
「その、すまなかった。どうも雰囲気に呑まれて動転していたようだ。……冷静に考えれば、騙す理由なんてないとわかったはずなのに」
「……いいんです。僕も未だに、これが信じられないんです。ひょっとして夢を見ていて、いつか覚めるんじゃないかと」
 そんなわけないですよね、と呟いた声は震えている。

 シャロンはたまらず、難しい顔で手帳をめくっている考古学者の名を呼んだ。
「エドウィンは、竜の呪いがどういうものなのか、知っているんじゃないのか?」
「まあ、過去にそれについて書かれた文献を読んだことがありますから。まさか、本当にあるとは思いませんでしたが……」
「教えてくれ。この状況の打開策があるかもしれない」
「そうですねぇ……ただでは教えられない、と言いたいところですが」
 苦笑するエドウィンにアルフレッドが口を挟む。
「契約では……」
「そう、最初に情報は隠さないと約束しましたからね」
 どことなく残念そうに息を吐いて、
「竜の呪いについてですが、これにはいくつかの段階があります。第一に、祭壇を穢した本人が罰を受け、その次にそこから風邪に似た症状が広まっていく。もし呪い発生の条件を満たしているとすれば、あなたの友人は呪いを受けてもおかしくない何かをしたはず」
その言葉にヨアキムがびくりと体を震わせる。
「正直にすべてを話してもらわないと、解決は難しいでしょうね」
 エドウィンの強い口調と眼差しに、ストラウムの青年は、話そうか話すまいか自分の中で葛藤していたようだったが、やがて決心したように口を開いた。

「僕とアーサーとディエゴは、村起こしの方法をこれまでずっと考えてきました。ここは見てのとおり平凡な村です。主な産物もなく、人は年々減る一方で、このままでは年寄りばかりになり、そのうち立ちいかなくなってしまいます……」
 なんとなく話の展開が読めたが、それで、とシャロンは先を促す。
「三人で話し合い、やはり古くから村に伝わる竜の伝承を元に何か人を集める工夫をしようと、少し離れた遺跡に足がかりになるものを探しに行きました」
「……そこで竜を呼び出す儀式もした、と」
 低く呟くエドウィン。
「そのとおりです。やってみよう、ということで。でも思ったより儀式が長かったので疲れてしまい、こう酒を飲んで体を元気づけてですね」
 ヨアキムは酒をあおる動作をしてみせ、
「ついつい飲みすぎて、僕はあまり得意な方じゃないので気持ち悪くなってしまったんですが、二人はいい感じに酔っ払い、その勢いで竜を呼び出す祭壇に並べられている石を掘り出し、村に持ってきてしまいました……」
その時のことを思い出したのか、表情が暗くなる。
「あの時僕が止めてさえいれば、こんなことにはならなかったのかも知れません……」
 あまりといえばあまりな話に、シャロンは言葉が出なかった。

 エドウィンもどう答えていいものやらわからない様子で、こめかみを揉んでいる。というか、この前はたまたま何も起こらなかったが、一つ間違えば、自分たちもその呪いを受けていたかも知れない。

「そ、それで……その石はどこにあるんだ。戻したのか?」
「いえ、実はまだ、裏の倉庫に」
「……まずはそれを戻すことが先決じゃないのか」
 そう言うと、ヨアキムは叫んだ。
「わかってますよ!僕だって何度も戻そうとしたんだ。でも、あそこに近づこうとするたび足が竦んで……嫌だ、あんな風にはなりたくないっ」
 先ほどまでは普通の調子だったのが、血相を変えて蹲ってしまい、もう何を言っても首を振るばかりで話そうとはしなかった。

 これからのことを話し合うため、三人でひとまず彼の家から出て、道端の石に座り込んだ。
 辺りはすっかり暗くなっており、二つの月が東の空に輝いている。

 家々はひっそりと静まりかえり、入り口にランプを吊るしに来た人の様子を見ると、やはりどことなく体の調子が悪そうにしていた。
「どうしましょうねえ……私としては、もう話も聞いたことだし、さっさとこの村を離れたいんですが」
「おい……全部放っておくのか?」
「だって、仕方ないでしょう?元はと言えば、彼らが招いたことです」
 自分のやったことは棚に上げ、涼しい顔をするエドウィン。
「それとも……シャロンさんはこの事態をどうにかできるとでも?これから起こる問題を解決して、竜の呪いを解く、簡単なことだと言いたいんですか?」
「それは、違う……」
 シャロンは力なく首を振った。でも、と続けて、
「少なくとも、何かできることがあるかもしれない……今ならまだ」
「……やれやれ。甘いことだ。わざわざ危険に飛び込むなんて正気の沙汰じゃない」
 エドウィンは、だいたい想像つきますが、とわざわざ前置きして、アルフレッドにも意見を求めた。
「僕は、シャロンに手を貸す」
「まあ、そうでしょうね。……いいでしょう、私も覚悟を決めます」
 突然そう宣言した男に、シャロンはやや気圧されつつも疑問を口に出す。
「覚悟、というと」
「もちろん、いざというときケツをまくって逃げる覚悟ですよ」
とにっこり笑い、
「さて、間に合うかどうかわかりませんが、例の石がある倉庫へ急ぎましょう。第三段階、呪いの媒体が変化する前に」
 急ぎ足で家の裏手へと駆け出したので、残る二人もその後を慌てて追いかけていった。
 ヨアキムが呪いを受けていない理由その1→この呪いは受けた者、そして呪いの媒体を中心に少しずつ広がる性質を持つ。ヨアキムは恐怖のあまり自分の家から出て、ターミルへ渡ってそこで解決策がないかずっと探し続けていたため、呪いの媒体からは離れていた。
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