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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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シルウェリス 5

戦闘シーン、若干のグロい描写ありです。ご注意ください。
 夜。魔法の明かりに照らされた、幻想的な庭園の中心、噴水よりやや斜め上方の位置。肩から左腕の先まで爆発によって抉り取られ、緋に染まるローブもぼろぼろで凄惨な有り様のまま宙に浮かび続ける魔術師団長の姿がそこにあった。

 倒したかと思ったが……。

 警戒するシャロンたちの前で、シルウェリスは微笑を浮かべ、手を打ち鳴らそうとしてすかッと空を切り、仕方なく器用に膝を使い、数回音を立てた。

「素晴らしい連携プレイでしたね。準備していたことに気づきませんでした。……ちょっとばかり油断していたことは否めません」
 ラスキにバレたらなんて言われるか……なんてぼそぼそと言い、目を細めてシャロンたちの手にする武器、それから装備を見る。

「その腕輪……興味深いですね。死を肩代わりする魔具ですか。どれだけ続くのか、試してみましょうか」
 かなりのダメージを受けているはずなのになお、平常とほぼ変わらず皮肉げなシルウェリスに、
「魔術師団は……おまえみたいな怪物の集まりか」
そうシャロンが尋ね、
「あー、そんなことはないですね。私のこの体もただの……趣味の副産物です」
と肩をすくめてみせる彼。

 ……………。

 あまりと言えばあまりな言葉を聞き、開いた口が塞がらないシャロンに、
「さて。三分の一ほど抉れたところで、何が変わったわけでもありません。続けましょう」
そう言って、一瞬だけ顔を眉を寄せ小さく首を振り、
「だっる……」
ぼそりと呟いた。

 それぞれに思案し、次の手を、と考えじっと動向を探るシャロンたちの目の前で、ポポポポポとコミカルな音を立てながら、小さな赤い玉が姿を現し、ゆっくりと円軌道を描きながらシルウェリスを中心に周回し始める。

「リッツ、あれは……」
「まあ、どう見ても血だな……」
 うわ、と顔を引きつらせるシャロンと呆れるアイリッツ、獣がチャンスを待つのと等しく黙ったままのアルフレッド。

 その台詞を聞いたのか、シルウェリスがにこりと笑い、
「この際使えるものはなんだって使いますよ。これからが本番です」
そう言って魔法で創り出したロープに乗っかったまま、取り急ぎ何をするでもなく、ゆらゆらと浮かんでいる。その足元のそこかしこで、蒸気のごとく薄紅の霧が発生し、空気の流れに沿って漂い出していく。

「とにかく、やろう。慎重に。このままじゃ埒があかない」
 シャロンはアルフレッドに声をかけ、ぼんやりとしている(ように見える)シルウェリス相手に剣を構えた。

 風の刃をいくつも作り出し、まずはと奴を囲むように放ってみた。しかしシルウェリスはゆらりと避け、あるいは手をかざしただけで弾き返してしまう。

「なんだかおしゃべりだった奴が黙ると気味が悪いなー」
 言いながらアイリッツが双剣を取り出し、じゃ、とりあえずいくわーとアルフレッドとともに奴へと向かっていく。

 例の‘壁’が無くなった今、相手はどうするのか。シャロンはフォローのためやや離れた位置に残り、目を凝らす。

「さすがにそんな攻撃にはやられませんよ」
 向かった先の彼は呆れたようにいい、トン、トン、と足場から波紋のようにゆるやかに魔力の波動を起こし、衝撃波で辺り一帯を揺るがした。

 足留めを食らったアイリッツとアルフレッドが耐え、その隙を逃さずシルウェリスが手をかざすと、それまでゆっくり周回していた珠玉が繋がり、鋭い突起のついた環となったかと思うと、突然棘状のそれが外向きあらゆる方向に発射された。

 一度深く息を吐き、気怠い表情のままシルウェリスは庭園をひょい、ひょいっと跳んでこちらより遠ざかりつつ、体を取り巻く環の数を増やし、すぐさま多方へ棘を飛ばし、同時にこちらへ右手の指ですっとまっすぐ線を引いた。

 線は引かれた後も空中に黒く残り、中から広がって黒い円になったかと思うと。小さく分かれて数を増やす。
黒粒子ブラックフォトン発動」

「また何かやるつもりか……」
 攻撃を防ぐか威力を削ごうと、シャロンが風を円へと放つが、バチィッと弾かれ、黒い点々や拳大ほどの稲妻を伴った黒い塊は、さらに数を増やし、そこら中に飛び散った。

 シルウェリスは特に表情も変えず、空中に浮かぶ数十からなるそれらを操り、じりじりとこちらへと向かわせ、同時に、再び棘状の環を、自分のまわりにめぐらせていく。

霧を毒に変え、さらにじわじわと体力を奪う。もしくは極小の粒をひそかに彼らの体内に潜り込ませ、内側から崩壊させる。

 その方法も考えつかないではなかったが……破られた時、さらなる怒りによって相手の力が倍増しても困るし、何より。

 この戦いは、正々堂々と行いたい。

 そんなことを考え、棘の枝を勢いよく伸ばすシルウェリスの攻撃の合い間を縫い、風を放つも即座に黒い何かに弾かれる。。突っ込んだ瞬間に串刺しにされるのを避けるためか、慎重にアルは様子を窺っている。

薄紅の霧が纏わりつくようで、じわりと体の重みが増し、それと合わせるようにシルウェリスに向かって霧とともに何かが吸い込まれ、少し彼の顔色がよくなったように思えた。

「アル、リッツ!長引けばそれだけ不利だ!奴は、回復している!!」

 寒気を覚えながらシャロンが叫べば、アルフレッドがまず頷き、うげっと言いながらアイリッツが腕をさする真似をした。

 攻撃と同時にアイリッツがアルフレッドと連携を取りながら、襲い来る棘と、稲妻をたくわえる黒い円を避けながら、シルウェリスを狙い撃つ。

 その攻撃を避けながら、いくつもいくつも、小さな赤い粒を外側へと飛ばし続けている。

 シャロンはその様子を睨みつけ、自身の位置を変えながら、アイリッツとアルフレッド、双方のフォローにまわっていた。攻撃の瞬間は追い風を、時には風の守護を。

 アイリッツが動きで翻弄し、アルフレッドが隙を狙う。

「あんまり魔術師団長を、舐めないでくださいね」
 背中から斬りつけようとした瞬間に、周回していた紅玉の連なりが、網目のある羽のようになって彼の強力な攻撃を防ぎ、再びそこから棘が発射される。

 アイリッツが舌打ちし、即行でバシャッと霊薬アムリタをアルフレッドにかけた。

 その間にも、薄紅の霧が徐々に体を重たくし、シャロンは風を溜めてまわりを一掃する。

「……点在するものを帰路へ。加えて、追尾」
 シルウェリスが呪文なのかただの呟きか判別しない言葉を短く言い、黒い円がそのままぐるりと回転し球体になり、同時にどこか果てへと飛ばされた赤い粒が鋭い弾丸となって彼の元へ戻る。

 予期しなかった動きにシャロンは、避けつつも最も近く危険な二人の守護を優先させた。赤い弾丸に打ち抜かれ、肩と足に鋭い痛みが走る。

 霊薬アムリタ……こちらも後残りわずかだ。

 急ぎ回復し、また剣を構えれば、ゆっくり浮かぶだけだった黒い物体の動きが変化し、カクカクと急旋回し動きながら三人を尾け狙う。再び、シルウェリスが動き、放射状に黒と赤の混じり合った衝撃波を周囲八方に放ち、庭園に生える草花の上を薙いだ。

「くッ、あいつのどこに残っているんだこんな力が」
 こっちはひぃひぃ言ってるってのに、とアイリッツが愚痴を零しながら、‘力’を飛ばし黒粒子ブラックフォトンを防ぎにかかる。

「さて、あまり私も暇じゃないんです。一気に片をつけましょう」
 左腕でもぶれることなく次々と魔方陣を描き、創り出していくシルウェリス。一番手近にいるのは……。

「待て!おまえはなんのために、そこまでしようとする!?」 
 アルフレッドが離れる時間を稼ごうと、シャロンが叫んだ。
「なんのために、なんでそんな体になってまで……!!」
 シャロンの叫びに、シルウェリスが笑う。
「趣味だといったでしょう。この体にも私の行為にも意味があるとするならば。……たまたまやりたいことがあり、そこにちょうどよく何かあっただけに過ぎない」
 後付けです、と言って、魔方陣から強力な雷撃を召喚した。

「くそったれッ」
 叫んでアイリッツが結界を構成する前に、シャロンがアルフレッドを吹き飛ばす。
「うわッ」
 余波を受けよろめくアイリッツの横で、さらに風を使い、吹き飛ばされた彼の衝撃を和らげた。

 バリバリバリバリッ

 強力な雷撃が辺りを飛び交い、アイリッツがぽいぽいと、鉄製のガラクタを何か投げて避雷針代わりにしているその隣で、ちらりとアルのもの言いたげな視線に、手を上げ謝りつつ、シャロンは次々に発動される雷と対立する。これ以上仲間を危険にさらすわけにはいかない。

 できるだけ、他を避け、本体に届くように。速く、強く、なお速く。

「くッ」
 魔術を行使しながらも、絶妙な角度で襲い来る風の刃を、シルウェリスは避けた。しかし、それも束の間、風は絶え間なくシルウェリスと周囲を取り巻く守護球体の死角に嵌るように、しつこく彼を斬りつけていく。ひとまず顔や手足を庇いながら、それでもスパっスパっと切れていくローブに、

「小癪な……。うーん、さすがに体力が無くなってきました……もっと鍛えておけばよかったでしょうか」
と呟くシルウェリスの顔色もさすがに蒼白に近い。

 あと少し……あと少しか……。

 自分を奮い立たせながらシャロンが疲れで震え始めた手をもう一度握り締め、渾身の力を籠めて風を放った。

 ブシュッ。

 その風を受け、シルウェリスの左肩と右足の一部が裂けた。

「よし、一気にたたみ込む!」
 アイリッツが叫んだ。
「言ったはずですよ。舐めないでくださいと」
 低く射るような声とともにシルウェリスの体が、うっすらと赤い光を帯びた。続いて黒と赤が混じり合ったどす黒い魔力の筋が、うねるように右肩、腕の欠損箇所から、溢れだして、鎌首をもたげ、蛇の形を取った。

 それは続々と中から細く太く溢れ、次第にシルウェリスの姿さえも覆い尽くすほどになっていく。

 シャァアアアアッ

 八つの首からなるヒュドラ。ぐねぐねととぐろを巻き、質量を増すそれに、シャロンはもう一度、すべてを吹き飛ばすため強力な力を籠めた。

 アイリッツが動く。双剣に魔力を纏わせ、暗い赤色の蛇へ斬りつけ、少しでも覆われていない場所へとさらに跳び、また斬りつけ反撃を受けながら薙ぎ払い、同時にアルフレッドが蛇の頭を斬り飛ばす。

 前に戦ったヒュドラと同じく再生力が高い。一気にいかなければ……。

 シャロンは強力な爆薬に匹敵するほどの力を溜め、シルウェリスに絡みつくヒュドラへと一気に放ち、解放した。アイリッツがアルフレッドと自分とのまわりに結界を張り、ダメージを防ぐ。

 二人はよろめき、それでもなお、体勢を立て直しシルウェリスへ。シャロンが風で彼らを後押しする。アイリッツの双剣がシルウェリスの体を切り裂き、下腹部に鈍く光る魔宝石が一瞬その姿を見せた。

 アイリッツにぶつかるぎりぎりで、アルフレッドが一度剣に力を溜め、渾身の力を籠めてその魔宝石を胴体ごと薙ぎ払い、それと同時に、凄まじい衝撃と閃光、爆音がその場の二人に襲いかかっていった。
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