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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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シルウェリス 1

 残酷表現、描写、戦闘シーンがあります。ご注意ください。
 ※27年5月3日の深夜、さらに改稿しました。すみません。
『――――――何が要因だったんでしょうね』
 魔法師団の長シルウェリスは、郊外における実験の最中、先程まで少女の型を保っていたその残骸を前に、冷静な呟きを落とした。

『投与した調整薬かこの環境か……何にせよ、またやり直さなくては』
 乾いた風が、彼の、魔術師にしては長い髪を煽り、通り過ぎていく。

『……いい加減にしてくれよ!!』
 膝をつき呆然と佇んでいた団員且つ研究員の男の一人が叫ぶ。
『いったい何回彼女たちを実験し、滅茶苦茶にすれば気が済むんだ!あんたはそれでいい、と思っているかも知れないがな、どれほど、どれほどの』
 その顔からぽたぽたと涙が零れて土に沁み込んでいく。目元を両手で覆い、同じくらいの年の、娘がいるんだ、と、唇を戦慄かせて声を絞り出した。

『もう、何回も確認してきたことですが……強力な魔法生物、その力を自ら制御させるには、感情を植えつけるのが一番手っ取り早いんですよ。その感情もコピーだと告げたはず』
 ふぅ、と息を吐いて、シルウェリスは散らばった“彼女たち”を、続いて研究員の面々の表情を見渡した。

 首だけになって傍らに転がるミリアムの頬には涙の跡。

 ……城の護りを、と望み、そのために彼女たちは生み出された。強くあれ、と願いを込めて。

 それが出来ないのなら、その存在意義とは何か。

 憐憫、投影。冷静な判断を妨げるもの。目的を見失っては……成果を挙げることは決して、叶わない。

『……わかりました。もっと精度を上げられる目処が立つまで、この研究は一時凍結します。‘カルテヴァーロ’も‘ツインズ’も、元の姿に復元し、眠っていてもらいましょう』
 城の守護のため必要だとは思うんですが、と名残り惜しいその感情を断ち切り、きっぱりと周囲にそう宣言した。
『さあ、ぼぅっと突っ立ってないで、回収してもらえますか』
 続けられる者だけで研究を行うには、人が足りず、彼らの忌避感を無視して続ければ不和を招く。

 理論と感情は一致しない。頭ではわかっているはずの者でも、実際目の前で何度も少女たちが力を制御不能になった挙句空中分解したり、逆にこちらに形相を変え襲いかかってきたりするのを見れば、続けていく気力も失せるのだろう。

 シルウェリスはもう一度、どこかほっとしたような表情で残骸を集める彼らを見まわし、眉を寄せ、実験は必要なことだとは思うんですが、と短く息を吐いた。


 魔術師でありながら散髪は面倒くさがり、長い髪をただ括るだけ。おおよそ、魔術師団長にらしくない姿をし、事実その杜撰な部分が仇で何回か呪いを受けながら、しかし彼のその巨大な魔力を封じることのできる者はこれまでいなかった。


 ……生活のためだと、悪しき力を封印するとの名目の元、騙され犠牲になった者は手足の指の数で足りたのだろうか。魔力を枯渇するまで搾り取られ、ただ一人のために使われた者たちは。

 相手の身体の一部もしくは真名、あるいはその両方を使用すれば、呪詛の成功率は格段に上がる。


 飛ぼうとした鳥が、羽を切られ地に墜ちるように。魔術師団長は一番肝心なその時に魔力を封じられ、蹂躙された。


 彼一人さえなんとかしてしまえば、後は呆気ないほどに。残りの彼らは簡単な儀式であっさり魔力を奪われ、反逆者の刃に倒れていく。


 城中の誰もが認めていた。名は国の端々まで轟くほどだった。性格はどうあれ、彼は魔術の第一人者。それに敵う者など、一人としていない、と。

 知られていたからこそ、彼は標的にされ、失意のうちにこの世を去った。




 幻想の王宮の中庭で、シャロンたちは魔術師団長から、なぜか手厚い歓迎の言葉を受け、困惑していた。

 茶金の髪と目の色、白いローブに幾何学的な模様を描くサーコートとチュニックを着ているだけの、防御力があまりなさそうな姿で、魔術師団長と名乗った男はにっこりと微笑んでいる。

 当惑しつつも、生真面目なシャロンは簡素に名乗り、警戒の表情を崩さない後ろ二人を手短に紹介した。

 魔術師団長はにこにこと笑いながら、
「ここヴォロディアは歴史も古く、守りの堅い石造りの城壁と、内側に造り込まれた華美な内装が、自慢なんですよ。今の国王に変わってから、装飾過多だった場所にはあちこち手が入り、私が言うのもなんですが、趣味のいい空間に生まれ変わっていることと思います。この世界に辿り着いた方は数も忘れるぐらい多いですが、城内まで入られた方は、本当に十数人ぐらいで非常に珍しいんですよ。残念なことに皆さんあまりゆっくりもされず、急ぎ足で目的を達しようとする方々ばかりでしたが、やはり来たからには、あちらこちらにある絵画や彫刻にも目を止めて頂きたいですね」
「……はあ」
「待つ身も退屈なものです。ここは安定しているんですけど、変化に乏しいですから」
まあ、座ってください、と彼はベンチを指し示したが、シャロンは断り、
「待った。私たちはここの王に会いたいんだが。どこを行けばいい」
そのまま、おしゃべりを続けたくてたまらない、といった表情の彼の話を遮った。

「まあ皆さんそうおっしゃいますね」
 あはは、と軽く笑い声を立てつつシルウェリスはベンチに腰掛け、のんびりと庭園を見渡していく。それからその向こう、太陽の位置からすれば北北東を指差し、
「この中庭を抜けて、建物内を通り、演習場からまた別棟へ移ってしばらく行って階段を上った先に宰相執務室があり、さらにその奥になりますね」
表面上は親切に感じられる言葉にシャロンはなるほどと頷きながら、心は全く別のことを考えていた。

 こいつの言葉は、嘘を言っているように感じないが……どうも上っ面だけだな。

「別に向かうなら止めませんよ。いってらっしゃい」

 そうか。こちらを推し測っている最中、というわけか。 

 シャロンがそう結論に達したところで、にこやかに見送ろうとするシルウェリスを前にアイリッツがつまらなそうに、
「それで、中庭すべてに結界が張られていて、誰ひとり出られないようになっているって話はどうなる」
そう告げた。

 シャロンはひそかに驚き、アルフレッドは眉をピクリと跳ね上げたが、目の前に座る魔術師団の長は特に表情を変えた様子もなく、
「あれ、気づいたんですか。いやー、このまま一周して戻ってきたら面白いな、なんて考えたんですが」
毒を含んだ笑みをふふっと零す。

 シャロンは、噴水から、やたら広い中庭の、やや傾く日差しに照らされた花々、庭木を眺め、
「結界……?気づかなかったな」
と目を細めた。

 アルフレッドはうっとうしそうに足元の草を蹴っている。足蹴にされても茎が折れた様子もなく、それはそのままそこにあった。

 守られているのだろうか。

「いや、不可視になってるから見えないだろうけど、相当分厚いぞ。……うんざりするくらいにな」
「……先に進むにはどうすればいい」

 もう、なんだかだいたい予想はつくが……。

 シャロンのアイリッツへの問いかけに対しシルウェリスが、
「通れないですよ。私を倒さないことにはね」
あっさりそう答えた。

 やりにくい……。

 そう考えるとほぼ同時に、アルが剣を抜き斬りつけた。パキィッと音を立て、その剣は弾かれる。

 いくつかの斬撃を、羽根で撫でられたかのように受け流したシルウェリスは、
「貴方がた三人の中では、いわゆる一般の“魔法”を使える方はいらっしゃらないようですね。これ以上世間話もあれですから、実践を伴った魔法についての講義、といきましょうか」
懐から、読めない文字が表紙に刻まれた分厚い本を取り出してパラパラとめくり、
「魔法というのは、この世界に漂う何がしかのエネルギーを、こちらの意志で集めて行います。方法はさまざまですが、“力ある言葉”……つまり、微弱な意志を持つ浮遊エネルギ-に対し、最も有効な発声、発音で呼びかけるのが最も多いでしょうか」

 何かわからないが、まずいものには違いない。パララララと紙をめくるこの間、シャロンも遅ればせながら剣を取り、風とともに斬りつけた。

 アルとリッツがタイミングを計り、絶え間なく繰り出していく剣戟。それらを、ふわふわ、と地に足がついていないような最小限の動きでそれらすべて避け、相手に当たったかに見えた攻撃も何か見えない壁によって弾かれていく。

 シルウェリスは特に気にした様子もなくすべて防いだのち、ページの一枚に目を留めて、
「これなんか珍しいし、綺麗ですよ。“始めに、光があふれた。続いて聞こえたのは、妙なる音。私は、光の洪水に呑み込まれた。とめどなく流れゆく調べ、永遠に”」
指をなぞりご親切にもこちらに説明しつつ、そう唱えた。

 言葉通り光があふれた。ただし、目も眩む輝きではなく、穏やかな輝きが、シルウェリスを中心として、幾筋もの軌跡を描き、空へ、庭の向こう側へ、建物へと流れ、美しく染めて遠ざかっていく。

「この魔法は、最初の、歓迎のレセプションにぴったりです」
そう微笑み、光あふれる中心となっているシルウェリスから、三人は一度距離を取り、身構えながら魔法の影響を受ける全体を見渡した。

 それは、本当に美しい光景だった。光の洪水が、まるで調べに乗っているかのようにゆったりとリズムよく流れていく。

 伸びるその光を避けながら、しつこい、うっとうしい、と隣でアルが吐き捨て、リッツがうんざりと、
「光の動きに注意しろ。曲と言うのは……徐々に上り調子になっていく。城全体に守護結界があるせいでわかり辛いが、当たれば溶かされて死ぬ」
その言葉どおりに光が建物や、地面に当たると反射し、ゆるゆると引き返してきて、それらは少しずつ動きを、速度を変え、辺りを覆っていくようだった。

 ぞわり、と産毛を撫でられたような悪寒がした。先ほどの呪文は何か言っていなかったか。“私は光の洪水に――――”

 まずい。徐々に中庭は光に埋め尽くされようとしていた。呑み込まれる前に止めるは、直接攻撃、か。だが……

「“輝きに満ち、包まれた世界”」
 上機嫌で呪文を唱え、光を操っているシルウェリスに、シャロンはアルフレッドに合図して、お互いに風で加速をかけ、双方から光あふれる大本へ挑んだ。

 光自体の速さは遅く、避けるのに造作もない。ふいに、そのリズムが崩れた。動きがうねり、速度を上げ、一気にシャロンたちを襲い、シャロンはすぐさま風で自身とアルフレッドのバランスを崩し、いったん離れ、絶妙な加減を取りながら光を避けていく。

「アイリッツ!」
 恐るべき身体能力で光を避けていたアルフレッドが、遠くでじっと様子を窺っていたアイリッツにさぼるな、なんとかしろと叫んだ。

「なんとかしろっておい。あ~それに……効かないのがわかってて、やるのもな……」
と彼は苦い顔で言いつつ、カバンからたくさんの白い人形ひとがたの紙を取り出し、宙へと放る。

 途端にそれらは羽ばたき、鋭い刃となって、シルウェリスへと襲い掛かっていく。

 その攻撃を見ても、彼はおどけたように少しばかり目を大きくし、
「……こんな玩具オモチャ使われても」
と手を振ってすべて叩き落とした挙句青白い炎を灯し燃やしてしまう。

 同時に光の攻撃がやんだ。シルウェリスは次の攻撃を選ぶためパラパラと本をめくっている。

 この雰囲気……誰かに似ているな、とシャロンは戦闘中に余裕を崩さない相手を呆れながらも、油断なく睨み据えた。

 手段が目的と化している悪いパターンだろう。城を護るという、大義のため魔術を使うにしては無駄が多すぎる。

 発動前に防ごうと風を撃つが、弾かれ、いったん対策を練るため距離を取り他二人の元へと急ぐ。

 シルウェリスはふわり、と地を蹴って宙に浮かび上がり、
「術には魔方陣、というのもありますよ、これはですね、術者の記憶力と腕が試されます。書き方ひとつ間違えれば、発動しなかったり、もしくは反動が返ったりして危険度が高いですが。ほら、こんな感じで行います」
指先ですすすと幾何学模様を円にして描き、トン、と突いて、黒く細く長い樹木のような触手を産み出し、辺りにはびこらせていった。

 陽は傾き、伸びる影はまだまだ長い。相手の趣味が多分に引き出された、気の遠くなるような戦いの始まりだった。
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