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異郷より。 作者:TKミハル

幻想楼閣

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昔々の

残酷表現が若干あります。ご注意ください。今回主人公たちの出番なしです。
 ――――――口さがないものは言うだろう。すべての事の起こりは、革命による政権交代から始まった。どこの者とも知れぬ男を英雄と讃え、民衆がそれを支持したのがそもそもの間違いだったのだ、と。


ヴォロディア城内にある一室、最深部とも、離宮とも判別しかねる区切られた空間にある書斎のなかで、全てを束ねているゼルネウス・バルロヴ・ヴォロディアは聞こえてくるラスキとシルウェリスの賑やかな言い争いに、一旦ページをめくる手を止め、苦笑して再び次の章へと指を送らせる。

 年のせいか乾きが速く、疲れやすくなった目をしぱしぱと瞬きさせ、ふとカーテンを引き窓の外を見上げれば、空は快晴。鳥たちが群れをなし、いずこかへ飛んでいく。

 それらを見送ってから、彼は再び手元の自記へと目線を戻し、誤字や表現が適切かどうかをもう一度確認した。


“自伝の書”

『――――――その頃、民は傀儡の王と、その取り巻きの貴族がもたらす重税に喘いでいた。やっとのことで日々の生活を送っていた彼らが、その苦しい日常を忘れさせてくれる存在を渇望し、‘英雄’を求めたのも無理なきこと、だった。

 数ある旅人、無鉄砲な、冒険者、と呼ばれる風来坊の中でもひときわその強さを際立たせた者。倒せない魔物などないのだと、その剣の腕は国をも揺るがすと、吟遊詩人に謳われ、人々の憧れの象徴、とまでになったその男は、もはや政府も捨てはおけず、組合ギルドを通しての無理難題から、懐柔策まで、ありとあらゆる手段を以ってその評判を地に落とそうと躍起になっていた。

 そしてその手が身近な人々にまで及んだとき、とうとうそれまで沈黙を保っていた男は立ち上がり、民衆をまとめて中央都に攻め入り、数多の犠牲の末、私腹を肥やしていた貴族を抑え込み、もはや政治の舵を取ることに倦んだ王の代わりに、政権を取り、国土に安寧をもたらした、とされている。

 しかし、その平和もつかの間、すぐさま男を困難が襲う。実質上の政権交代からまもなく、流行病が国中を覆い尽くし、恐るべきスピードで広まる様子は、粛清された貴族の呪い、もしくは一市井が王に成り代わった報いではないか、とひそかに囁かれたほどであった。

 大陸全土に広がる病に、城という囲われた空間にいた王族は元より、貴族の多くも侵され、その数を減らしていく。

 民衆の強い願いもあって玉座についた元市井の男、ゼルネウス・バルロヴ・ヴォロディアは、配下を使い、時には自ら各地をまわり、医学術、薬学術、果ては魔術と、奇才天才、片っ端から方々の分野に逸脱した人材と、病の情報を掻き集めた。……そこからは、時間との戦いであった。

 国土が屍で埋まる前に、王命による研究者たちの、血を吐くような研究努力が成果を結び、もはや病といっていいのかどうかすらわからないほど規模が拡大した、その災厄にようやく終止符を打てた時には、国民は元のおよそ三分の一にまでその数を減らしていた。


 生き残った人材を集めて再び王宮の機能を立て直し。もう一度一部の貴族と市井から人員を募り、補完して、やっと少しずつ新政府はまわり始めていく。

 開発した魔導装置の力もあり、国土は潤い、人々の暮らしも豊かになり、復興が進んでいく。


 光に照らされて、地面に影が落ちるように。社会全体に余裕が出てくると、それまで鳴りを潜めていた輩も、また再び蠢きだす。それまで抑圧されてきた貴族や、闇商人。汗と涙を流し、努力を重ねて這い上がってきた人々を踏み台に、より高みから旨い汁を吸おうと画策する者たちは結託し、力を蓄えつつ、汚泥の底で息を潜め、その機会を、待っていた。


 魔導装置が稼働してから5、6年ほどの月日が流れた。人とは、楽な方へ楽な方へと流されるもの。
 作物は常に豊作、人々はさほど労せず得られる対価に潤い、豊かな生活に慣れ、働く者は減り、怠惰な暮らしを送り始めていく。

 自堕落なその様子に、王とその配下の者たちは、このままではいけないと危機感を覚え、魔道装置の発動に制限をかけ、最終的に停止へと移行することを決定した。

 しかし、その翌年はあいにくと不作年。それまでの奇跡に慣れきっていた人々の動揺に、これはチャンスだと、闇は動き出す。――――――もう一度、国の頂点、その頭をすげかえて見せよう。


情報は操作され、新政府の意図は捻じ曲げられた。本来なら不動の支持であったはずの民意は得られず。兵の中には、旧政府の貴族の側へつく者も現れ、事態は急速に傾いていった。


 混戦が続き、必死の説得も届かず、決定打に欠けるまま民衆の暴動は王都までその手を伸ばしていく。その資金と、武器。それらを調達し、民衆を煽る扇動者がいる。

 気づいたが時すでに遅く、王都の街壁は敵側の魔術師と兵により破られ、なんとか城下の者を王城へと避難させるも、対するは民衆だけではない。


魔術師には魔術師を、と、魔術師団長シルウェリスが部下を連れて抑えにかかったが、返ってきたのは訃報。それも、魔術師団が白兵戦により命を落とした、というわけのわからない情報だった。


 それでも、シルウェリスが施した仕掛けが幸を奏し、王宮魔術師団壊滅と同時に町全体に魔法封じの結界が張られ、敵方魔術師がその力を失った隙に城門を閉じ、籠城の構えをする。

 その城が内側、あの“忌みの塔”から侵略された時、王の元戦ってきた者たちは、はっきりと悟らされた。城内に、内通者あり。

 必死で国の人々の、その幸せのためにと尽力してきたはずだったのに、どこで間違えたのか。その当の民に裏切られるとは。

 若き騎士団長ラスキ・ハロルド・メースフィールドは自己矛盾を抱えながらも、城をそして王を護るため、猛り、雪崩れ込む兵と、民衆たちに剣を向け戦ったが、数に押され、やがてその刃に倒れ伏す。


 もはやこれまで、と宰相の命令により、兵の一人が王宮地下の研究施設、そこに閉じ込められていた魔法生物を解き放った。蝙蝠の羽を持つ巨大な蛇、獅子、ヤギ、竜の三つ首を持つ怪物、鋼よりも硬い甲殻に包まれた巨大蜥蜴、人食い砂蟲ワームなどが外へ解放され、手近な人間を襲い食い散らかしていく。


 王であるゼルネウスもまた、その首を獲り褒賞を貰わんとする多くの兵に囲まれ、自らその剣を振るっていた。かつての腕は年を重ねやや衰えはしたものの、それでもなお近づく者を寄せ付けることない威力を放ち、足下に敗者の山を築き上げていた。

 その光景を見た者は怖れ、二の足を踏む。

 突如現れた強力な魔物の群れに、敵も味方問わず薙ぎ倒され、食らいつかれ、動く者はその数を減らしていった。やがて敵兵と興奮し破壊の限りを尽くしていた一部の民衆も怖気づき、恐慌状態になって逃げ出していく。

 手負いの王、ゼルネウスが残りの部下とともになんとか魔物数匹の始末をつける頃には、王都はあちこちに火の手が上がり、もはやその栄華は見る影もなくなっていた。

 魔導装置を手に入れた者が、次の覇権を握る、と煽られた者たちは王都が焼け落ちた後もなお、魔物の影に怯えながら躍起になって探したが、その痕跡すらも見つけられず徒労に終わることとなった。

 そして、その年の冬が来た。本来なら秋に収穫されるはずだった麦などの作物は、暴動の最中に荒らされ、火を放たれて得られず、生き残った人々のあいだに残りの食料をかけての争いが起き、やがて多くが飢えと寒さとで淘汰されていった。

 中央都から少し離れた村に、保護を受けていた王ゼルネウスも命はかろうじて残っていたものの、受けた傷がその身を苛み、片手ほどになってしまった部下の見守る中で、その生涯を終え――――――現在に至る』

 そこまで確認して、王は思い出に浸るかのように、その春の曇り空のような瞳を伏せ、パタリと本を閉じた。


 あれから、人々は散り散りに分かれ、国を治める者も現れないまま、少ない利益を求めて絶えず戦乱が起こる状況が長く続いたという。その中でかつての栄華再びと、魔術研究を重ね魔法生物を創り出して利用する者、魔物の脅威に対抗するための手段としての魔術や魔導具を開発する者が現れたとも伝え聞くが……その辺りは定かではない。


 城は炎に包まれ、ゼルネウス本人の手記やそれに類する物など残らなかった。ここに在る本もすべて、この世界が崩壊すれば、儚く幻となり消えていってしまうだろう。


 口さがない者は言うかもしれない。そもそもの政権交代が、間違いだったのだ、と――――――。ただただ人々に幸せな日々を、生活を、とのあの時の我らの強い願い。目指していたその未来さきを………。

 誰も知ることは、ない。

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