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異郷より。 作者:TKミハル

幕間1

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ストラウムの現状

 ストラウムは、ターミルから馬車で一時間足らずの場所にある。

 一日二回しか出てない馬車を、出発寸前で引き止めて乗り込み、三人はなんとか低木に囲まれたその村に向かうことができた。

「……静かだな。他に客もいないし」
 木立ちに隠れる前にと、昨日は余裕がなくて眺められなかった荒れ地の夕陽を、馬車上から堪能する。
 乾いた風の渡る草地と、その向こうにある黄褐色の大地がまるで燃えているようで、どこか切なかった。

 ……ここが自分の生まれ故郷から遠く離れた異郷の地であるからかも知れない。

「到着したようです」
 感慨にふけっていると、いつのまにか村の停留所へ来ていたらしい。エドウィンがそう言ってシャロンを促した。

 ずっと俯き、顔を強張らせたままのヨアキムをちらりと見やって先に降り立つと、村の中心だというのに通りの人々はまばらで、活気もない。
「最近ストラウムの住民はたまにしか出てこないってターミルの人に聞いた」
 アルフレッドの低い声。……ずっと一緒にいるくせに、こいつはいったいどこから知らない情報を仕入れてくるのだろう。

 道めいっぱいに絵を描いてあそんでいる五歳ぐらいの女の子がいたので、声をかけてみることにした。

「ねえ。ちょっといいかな」
 ヨアキムと他の二人が買い物や泊まる場所なんかの確認をしているのを横目に、その女の子に話しかけると、
「うん。いいよー」
と持っていた白い石をちょこんと脇の、石でできた羊の置物の上に載せ、こちらをじっと見つめてくる。
「誰か一緒かな?」 
「一人だよ」
「……ここってあまり人がいないけど、みんなどうしているの?」
「寝てるー。けど、ダイジョウブ。熱はそんなにないし、ちゃんと動けるの。スーちゃんねー、ジャマしちゃダメだからここで遊んでるんだ」
「そっか。えらいね」
 この村の人々に多いと思われる焦げ茶のふわふわした髪を撫でると、えへへーと嬉しそうに笑う。

「ステラ、なんだか人が少ないけど、みんなどうしてるんだ?」
 こちらの様子に気づいたヨアキムが会話に加わってきた。
「おにぃちゃんダメじゃない。ちゃんと人の話しは聞かなきゃ」
 今度はしかめつらでヨアキムを叱り始める。見ていて飽きないが、後ろからエドウィンが、早くしないと日が沈みますよともっともなことを言った。
「えっと、ステラ?私たちはこれから、彼の家に行くんだ。だから、またね」
「え……いっちゃうの?」
 少女の顔が急速に陰る。
「ここにいてよ……さみしいの」
と、上着にしがみつかれた。なんでだ。
「シャロンは、懐かれやすいね」
 アルフレッドがしみじみと呟いた。……見ていないで助けてほしいんだが。

「うう、その、ごめん。また来るから。ちょっとこの石貸して」
 苦し紛れに石を借りて、地面に大きな犬の絵を描く。この辺によく飼われている牧羊犬だ。
「わ、すごくじょうず!おねぇちゃん、こんどは羊描いて!」
「だから、それはまた、次に描いてあげるから」
「うん、わかった。ぜったいだよ」
 まだしぶしぶではあったものの、少女はゆっくりと離れてにっこり笑い、地面の犬をじっと見つめるとやがて家らしきものを描き始めた。
 後ろ髪を引かれたがそれを振りきり、シャロンたちはヨアキムの案内でまずは彼の家へと向かった。

 大きな道から逸れ、村の南西にあるヨアキムの家は、一人暮らし用の素朴な建物だった。ヨアキムがその扉を開けると、続けて入ったシャロンを妙な既視感が襲う。
 散らかった部屋に山積みにされた衣類。台所に積まれた皿や食べ残しからは、そこはかとなく異臭が漂ってくる。

 鍵を戸棚にしまい、ぼんやりしていたその部屋の主は、こちらの物問いたげな視線に、気まずそうな表情をして、
「あ、ああ、すみません、こんな風で。もう、何をする気にもならなくて……」
倒れていた椅子を起こし、いつからあるのかもわからないテーブルの上の皿を片付けて場所を空けた。
 それからヨアキムは、ふらふらと棚から馬乳酒のボトルと素焼きのコップを取り出して、並べていく。

 アルの場合はまだ、寒いところだったからそんなに匂いは気にならなかったな、と考えて、あの時は散らかってはいたものの、食べ残しや衣類はほとんどなかったことを思い出した。

 ギリギリの生活をしていたんだなあ、と改めて感じてアルフレッドを見やる。ヨアキムも同じような状況なのだろうか。深刻な事態が発生してそうで、どうにも居心地が悪い。

「……どうぞ」
 ヨアキムが座るように促したので、シャロンとアルフレッド、最後に部屋の中を探るような目で見渡していたエドウィンが席についた。

「この村も、少し前まではもっと活気があったんです……」
言いかけたヨアキムを、エドウィンが強引に遮る。
「ヨアキムさん。あなたはこの村の現象を、竜の呪いだと言い切った。それには根拠があるはずです。この村の状況は確かに悪いですが、流行病の可能性もある。それなのにどうしてあなたが今このストラウムで流行っている病気が竜の呪いだと言うのか。私はそれが知りたい」

 焦げ茶の髪をした青年はうなだれて顔を両手で覆った。やがて絞り出すような声で、 
「奥の寝室に、僕の友人たちが寝ています。彼らに逢ってきてください。それでわかるはず」
と言ったので、シャロンたちは奥の寝室へ行くことにした。

 寝室には二つのベッドに誰かがそれぞれ寝ていて、掛けぶとんが上まで引き上げてある。見るに堪えないひどい姿をしているかも知れない……。

 シャロンが緊張しつつも、寝ている人を起こさないようにふとんをそっとめくると、そこには二体の精巧なる石像が寝かせてあった。

「このっ……!」
 即座にとって返し、ヨアキムを絞め上げる。
「おまえな、人をからかって何が楽しい!?ご丁寧にあんなのに服まで着せてっ……」
 違います、とかすれた声が相手から上がる。激高するシャロンに寝室から複雑な表情で出てきたエドウィンがストップをかけた。

「シャロンさん。そう言いたくなる気持ちもわかりますが……あれ、本物です。おそらく元は人間で、そこの彼の友人だったんじゃないですかね」

 え、と呟きシャロンが手を放す。エドウィンの言葉に、ヨアキムは震え、次第に顔を歪めて涙をこぼし始めた。
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