挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

230/342

ヴォロディア城下町にようこそ!

 ごく軽いホラー表現あり。H27年1月17日改稿しました。
入り口を守る門番との、訪問目的やら装備品やらの簡単なチェックのあと、シャロンたち三人は街の中へと一歩踏み出した。

連なる円を描くような敷石の大通りを行く人々は、容姿、服装などさまざまで、髪色は白、金、茶、赤、黒まで、服も丈の短いもの長いもの、不可思議な文様が描かれているのもあれば、まったく飾り気のないシンプルな服の者もいた。皆一様に小奇麗で、あまり貧富差身分差などはないように感じとれる。

「ぅ、うわ、なんだこれは……」
 通りを走るのは、馬のない馬車。空には羽の骨組みに乗って移動する人が何人か見受けられた。ぽかんと口を開けたまま見入り、
「いったいどういう仕組みなんだろう……」と呟けば、
「多分魔法を使っているんだろうな。動力部に媒体を組み込んでそこに力を注ぐ」
リッツの冷静な返答が返ってきた。

「さあさ、いらっしゃいいらっしゃい!割れないシャボン玉に物言う卵。中は開けてのお楽しみだ!」
行商人らしき男が日に焼けた顔に笑顔を浮かべ、声を張り上げ箱を開けると、その中では、鶏よりは幾分大きめの卵が、カタカタと身を震わせながら、
「アタシにしてね!ふわふわの毛並と可愛い耳を持っているのよ!」
「ボクがいいよ!大きくなるけど強いんだよ?留守番だってできちゃうから」
「わたしは、日当たりのいい場所とふかふかの土、水があれば何もいらないわ」「ぼくを割るのは水の中にしてよ。じゃないと死んじゃうからね」
口々に叫んでいたが、売り手の男のシーッという声に、卵はぴたりと口(?)を閉じて収まった。

また、それとは反対側の別の露店でも威勢よく、
「野菜はいらんかね!今なら特別サービス、たくさん買ったお客様には腐りにくくなる籠をあげちゃうよ!」
「焼き立てのパイはどう?上のツグミが歌うとっておきよ!」
アルフレッドはそれが気になったらしく、パン屋の方をちらりと見て、可愛らしいさえずりを聴かせているパイに、首を振った。

「食べるときうるさそう」
「うーん……さすがに切り分けた後は黙るんじゃないだろうか。わからないけど」

 そうこうしながらも、見るものすべてに圧倒されていたが、、こんなのは大したものではない、と言わんばかりに落ち着いているアルフレッドとアイリッツといるうちに、シャロンの高ぶっていた気分も徐々にクールダウンし始める。

 重要な情報を得ようと、立ち並ぶ通りの店、集まっている人々を見ていると、しはらくして……遠くから、ザァッ……とひんやりとした風が吹きつけてきた。そして、小さな小さな声がシャロンの耳に届いた。

〈だれか……だれかいないのか………〉

「!?」
 思わず振り返った。

 せっぱつまったようなかすかなかすかな声が風に乗って、聞こえてきている。

 どうした、とアイリッツが尋ねるのに、誰かが助けを、とだけ返して、急いで声の元を追いかけた。

 表通りから奥の細い路地を入り、先に進むと、小さな雑貨屋があり、シャロンは慌ててその中へ飛び込んだ。

「ああ、いらっしゃい」
 カウンターで作業をしていた店の主人が、ちらとこちらを見上げ、また再び手元に目線を落とす。声は、ふつりと止んでいた。

 後ろから追いかけてきた二人も、店に入り、困惑顔でシャロンを窺った。
「……この店に用事?」
アルフレッドが尋ね、いいや、と首を振る。

「声が聞こえた気がしたんだ……」
 結局何も見つけられず店を出て、道すがらシャロンがぽつりと零すと、
「ああ、それは‘拾った’な」
アイリッツが苦笑する。
「‘拾った’というのは?」
「この町は……残留思念の塊のようなものだからな。しっかり自分を意識して遮断していないと、ここは魔導装置に近い。だから刻まれたいろんなモノを拾っちまうんだ」
 そういえば、とシャロンは思い出す。

 どこかの世界で、暴動が起きていた。ひょっとしてここもか……?

 そう思った瞬間、整えられた通りは瓦礫の山へとその色を変え、熱く砂と埃の入り交じった風が吹きつけてきた。何か、肉の焦げたような悪臭が鼻を覆い、シャロンは思わず地面に手をつき噎せかえりそうになる。

〈熱い……み、みずを…〉
〈いたい……いたいよお……〉

 啜り泣く声。水を求める声。死んだ方が、ましだ、と繰り返し叫ぶ声。
おおぉうおおぉおおうと声にならない呻きが押し寄せ、シャロンを包み込んでいく。

「シャロン。しっかり」
 いつのまにか、アルフレッドが近くに立ち、彼女の腕を強く強く握り締めていた。
 その痛みに、蒼白だったシャロンははっと我にかえり、
「いや……、ありがとう。大丈夫だ」
「ちょっと顔色がひどいな。いったん休憩をとった方がいい」
言い終えないうちに、アイリッツは人通りの絶えた道の左右をササッと窺う。
 そして手近の、火の気がまったくないどころか、人がここしばらく住んでなさそうな空き家の階段を上がり、扉を軽くノックして、返事がないと見るや、細い細い刃物を出して鍵穴にねじ込み、あっさり開けてしまった。

「とりあえずあがって落ち着こう。話はそれからだ」
 まるで自分の家かのごとく促すアイリッツに、突っ込む気力もないシャロンは、アルフレッドに助けられ、ふらつきながらもなんとか中へ上がり込んだ。

 トポトポトポ……とアイリッツがポットからいい香りの紅茶を入れる。毎回のことながら、魔法のアイテムっていうのは不可思議なものだな、とぼんやり思いつつカップを取り、飲み干すと大分落ち着いた。

「すまない。声が聞こえたんだ……たくさんの」
「ああ、なるほど。まあ、聞こえるだろうな。王都炎上再現か……シャレにもならない」
 つまらなそうにアイリッツが呟き、シャロンは一つ身震いして、今度は飴を口の中に入れ、さらに紅茶を合わせ飲む。冷えた体が暖まってきた。

 回復したら、少し恥ずかしくなったので、隣のアルからちょっと身を離して座り直す。……リッツの口元が、何かをいいたげにひくっと歪み、それに慌てて、
「それで、だ。これから、城へ向かうのか……。どうする?正面から当たるのか?」
「いや、まずは入り込める場所がないか外から観察だろ。正面の門、裏門、壁の崩れた場所がないかを探し出す。まあ、見つかるとは言い難いが、思いがけないところに攻略のヒントが隠されているかも知れない」
自信たっぷりに言い募るアイリッツ。こいつのこの自信はどこから溢れてくるのだろう……。

「調査しているあいだに、敵に見つかるという可能性は?」
「いやーもう見つかってるだろ。一応この部屋には結界は張っといたけど、道すがらちょくちょく視線のようなものを感じたから。なあ、アル」
「……ああ。動く気配はなかったから、放っておいたが」
 それを早く言え、とシャロンは手元のカバンをアイリッツの顔面へぶん投げた。

 残念ながらうかうかとぶつけられるアイリッツではなかった。即座にバシッと両手でカバンをキャッチして、彼女に投げ返しながら、
「ああ、そうだシャロン。ここはすべて‘核’である王の支配下だからな。頭を取ってしまえば、それまでだ。だから、これまでとは違い、無駄な戦闘、争いは避けてほしい。その方がいいだろ」
「ああ、そうだな。気持ちの上でも、そちらの方がありがたい」
「……まあ、あちらさんの方で、立ちはだかってくるだろうけれどもな」
アイリッツがぼそりと零し、さて、そろそろ行くかと腰を上げた。

 空き家を出てから、何かが紛れ込まないようにと、意識的に心に薄い膜を張るようなイメージを作れば、自然と声や荒れ果てた町の映像は遠ざかっていった。

 賑やかな喧騒を抜け、大分時間をかけて城へと向かい、その白い城壁へと辿り着いて、警備兵に見つからないようにと、慎重に調べていく。

 ところが、正面の見上げるほど巨大な門は、壁のように強固に閉ざされ、いったいどう出入りするのかと悩むほどに、微動だにせず、足が棒になるほど歩き回ってはみたものの、裏門はまったくなく、ただひたすら中も覗けないほど高い塀が続いてるだけとわかった。

「まあ、予想はしてたけど守り硬そうだな」
とアイリッツが苦く笑う。
「そうだな……手がかりがないかとも期待したがこれでは……」
辺りを見回していたアイリッツが、ふと真顔になって告げる。
「シャロン、風の結界をアルと自分に」
「わかった」
 即座に展開するとバジィッ、といくつかの小さな塊が、風に弾かれ微塵になった。

「毒虫だな。えげつない……」
「アル、大丈夫か」
「問題ない。でも……ちょっと待って。何か声が」
 アルフレッドが耳に手を当て、目を閉じた。シャロンも耳をすませてみたが……何も聞こえない。

 まさかまた残留思念か……?と思いながらアルフレッドをまじまじと見つめた。あんまり、そんな声など聞こえそうじゃないな。

「ああ、声がするな。ひょっとしてオレらを呼んでいるんじゃないか?」
 アイリッツもそういい、そろって北西の方角へ歩いていくので、シャロンも、こいつらの耳っていうのは……どうなっているんだ、と思いつつそれについていった。

 そういえば、風をこちらへ向ければ聞こえるんじゃないだろうか、ということに思い至ったところで、おーいおーいと呼び声が聞こえ始めてきた。

 近くには、木々や草花、そしてひたすら高く白い壁。声がする方へ大分近づくと、突然茂みから、隠れつつこそこそとうろついていたらしく、小枝や葉などがひっかかっている少年が現れ、こちらを見るなりパッと表情を明るくして駆け寄り、満面の笑みで、はい、これ、と手紙を渡してきた。

 そこには、
‘ヴォロディア城下町へようこそ! この町には必要ないもの二つ。一つは入り口、一つは罠’
と丸みを帯びた筆跡でそう、書かれていた――――――。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ