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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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長く長い戦闘

 地面に描かれた線を越えると、一気に冷気が押し寄せてきた。

 シャロンが痛む体をなんとか動かしながら、コートを取るため天幕へ行こうとすると、あー、ちょっと待った、と声がかかる。

「まあ、霊薬アムリタ使うほどでもないから、治しといてやるよ」
 ポンポンと頭に触れられ、ぼわっとした光がシャロンを包んで、みるみる傷が癒されていく。

「ふっふー、これぞオレの力の一つ、治癒ヒーリングだ!」
 非常に得意げなアイリッツに対し、そんなものがあるなら、なぜ今まで使わなかったのだろう、と疑問が顔に出ていたのか
「あ、いっとくけど今回特別だから。力は節約したいし。やっぱ女の子に傷はなー」
そう快活にいって、アルフレッドの剣呑な視線にそちらを見た。
「なんだよ、治しただけだからな。まったく、心の狭い……」

「まあとにかく、ありがとう」
 シャロンは軽く礼をいい、それから厳しい表情のままのアルフレッドにおそるおそる近づくと、その腕をくいくいっと引いた。
「あの、アルも、心配かけてごめん。あと、これ」
 荷物から小さな塩の塊と水を取り出し、ちょっとはにかみながらその手に渡す。

「ずっと、食べずにいたみたいだから」
 そう言って足早に天幕へと去っていった。

「うわー、いいねーなんかこう、青春っていうか」
「黙れ」
「やれやれ。もうちょっと軽く流すとか、ウィットに富んだ返事を返すとかないのか?話続かないじゃないか」
 無視して渡されたものを少しのあいだ眺め、それから水で流し込むアルフレッド。

 やがてコートにすっぽりくるまったシャロンが戻ってきて、待たせて悪かった、と謝った。

「じゃあ、始めるか。あ、アルに対しては双剣使うから」
「好きにしろ」
 ちょっとはクールダウンしたかな、とアイリッツは見て、それから開始、とばかりに剣を抜き放った。

 すぐに重たい一撃が来た。

「いきなり全力かよ!」
 舌打ちし突っ込みを入れながら、受け流し、剣で双方から挟み討とうとするが、すぐに躱され横から顎へ蹴りが来た。

 すぐさま避け、間合いを取る。

 一撃か……。気をつけないとあっさり持っていかれそうだ。

「ったく、男の嫉妬は見苦しいぞ?」
「…………」
 動揺を誘う言葉にも、返事はなく、冷えた眼差しだけが返ってくる。

 アイリッツは舌打ちをもう一度して、剣を構えた。

 くる……!!

 アルフレッドの剣は、速くそして重い。流すようにしなければ根こそぎ膂力、体力を奪われ、不利だ。アイリッツは髪一重で剣を避けつつ小剣で逸らしながらもう片方を振りかぶった。しかし、あっけなく避けられ低い位置から容赦なく腹に攻撃が来た。

 ガキィイイン!

 剣を再び左手で受け、また距離を取る。すぐに詰められ、首へ来たのを躱し、剣の柄を胸元へ叩き込んだ。

 顔をしかめるアルフレッドの首筋を、返す剣で狙う。殺してしまっては元も子もないから、剣に斬れ味はないが、動きは止め――――――ぞくり、と走る寒気に、アイリッツは後方へ跳んだ。

 避けられた突きの一撃を気にした風もなく、すぐさま回り込んでくる。

「く、そッ」
 ステップで繰り返される剣戟を避けながら、アイリッツは内心で、やはり長期戦になるか、と呟いた。


 その頃、シャロンは襲いくる眠気と戦っていた。傷は治されたものの、消耗した体は、切実に休息を、と要求してくる。もの凄いスピードで激しくぶつかり合うアルフレッド、アイリッツの戦いを追いながら、駄目だ、アルも見ていてくれたんだから、私も頑張らないと、と心に言い聞かせ、傾きがちな体をなんとかまっすぐ立て直した。

 シャロンが自分との戦いをしているあいだも、二人は剣戟を交わしていた。アルフレッドと違い、アイリッツは一撃でも受ければ終わりだから、分がない。剣筋を読みながらギリギリで躱す、といった動きを続けている。

「いいのかそんな飛ばして!」
 揶揄にも反応せず、ただひたすらに剣を振るうアルフレッド。その攻撃を受け続けていたアイリッツの表情にも、変化が現れた。速度を上げ、大剣“穀潰し”をその腕に叩き込む。

 剣を受け弾き飛ばされたアルフレッドは、少し離れた位置で二三度たたらを踏み、すぐ地面を蹴って肉迫してきた。その動きは、やや獣に近い。
「すごい集中力だ」
 ぼやきながらそれを迎え打つ。

 この世界は異質な力に満ちあふれている。普通なら徐々に気が狂うほどのそれにさらされ続け、さらにオレという存在が現れ引っ掻き回した。こいつの精神的負荷ストレスは、相当なものだったんだろう。それが、鍛錬、という場を得て一気に爆発した。

「くっ……!」
 弾いても弾いても、剣をひるがえし、再び食らいつく。速度を上げ、リズムを崩した奇抜な動きで翻弄していたが、その動きにすら追いつき始めている。予想はしていたが潜在能力が半端ない。

「そんなにオレが来たのが嫌だったのかよ、このむっつり野郎!!」

 これも聞こえてない。先ほどから、まわりのすべてを遮断し、ひたすら目の前の障害(オレ)を片付けることだけに集中している。

「ああもうこいつ……!!」
 この戦いは終わらない。こいつの体力が尽きるまでは。

 ……困難な状況だが、面白い。

 アイリッツは当初の目的を忘れ、本腰を入れて戦い始めた。

 太陽が昇り、さすがのシャロンも限界にきていた。持てる技術すべて出して戦い続ける二人を見ているうちに、自然と瞼が下がり始め……なんとか目を覚まし続ける努力をしたものの……やがて意識が落ちた。

「くそッ!」
 攻撃を流そうとした瞬間、手首を返され剣が絡まって吹っ飛んでいく。小剣“倹約家”で奴の剣を受け、腕を殴りつけて同じように剣を吹っ飛ばす。

「…………!!」
「はっ、これで同じだな」
 即座に拳、そして蹴りがくるのを避けながら、アイリッツは小剣でアルフレッドを狙いつつ、じりじりと落とされた剣へと近づこうとしていた。

 シャロンははっと、目を覚ました。陽は高く上がっている。戦いはまだ続いていた。彼らはなぜかお互い剣を捨て、徒手空拳でぶつかりあっている。

「埒があかない」
 アイリッツは吐き捨て、蹴られ落ちた小剣と大剣の位置をもう一度確認した。お互いに距離を取り、剣を取って再び構え直す。

 地を蹴って速度を上げ、アルフレッドの横へとまわり込む。
「くっ……!!」
 腹に一撃食らわせ二撃目で反撃の剣を躱して距離を取った。身を低く、剣を構え、脚力で距離を縮め、アルフレッドを叩き伏せようとしたアイリッツは……相手の剣が淡く輝いているのを見た。

「まずッ……!!」
 先ほどから刀身が、ぶれているのは知っていたが……!!

 空気のしなる音とともに、重たい一撃が、頭上へと振り下ろされた。アイリッツはかろうじてそれを避ける。

 ビシ、ビシビシビシィッ……!!

 剣に籠められ飽和状態になっていた魔力が解放され、アイリッツの下の大地が、その力を受け二つに裂けると同時に、余波を受けた彼の服の袖が切れ、手首まで滑り落ちていった。 
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