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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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端と端

パッと見には近そうに見えた草原だが、丘陵を下っていくと意外に遠く、ふもと近くでは、低木があちこちにその葉を生い茂らせ、行く手を阻んでいた。

 さほど高くはないが、いかにも何かひそんでいそうな茂み、それが夕陽の朱色に照らされ……枝分かれした道は、そこまで細くはないものの、そのあいだを通るようになっている。

「…………」
 何かがひそんでいそうな感じがするが……。

 カサカサ、と何かが動くような音が聞こえ……しかし、じっと目を凝らしてみても、茂みは茂みでしかない。
「えっと……アル。何かいそうか?」
 困って尋ねれば、アルは眉根を寄せて頷いたものの、
「よく見れば何かいる。気配、葉擦れの音、それから、見た目にも不自然な箇所がある。けれど姿は見えない」

「さて、どうするよ」
 軽い調子でアイリッツが尋ね、
「気は進まないが……いったん戻って、通る途中にあった場所で野宿することにしよう」
「おっけー」
「…………」
 軽くほがらかに笑うアイリッツと、始終不機嫌そうなアルフレッド。

 その二人の様子を見たシャロンはため息を押し殺し、踵を返そうとした瞬間。アイリッツが動き、低木の茂みへと飛び込んだかと思うとその辺の枝を斬り、キューキューと音のする透明な何かを数匹掴んで戻ってきた。それはやがて、手足が細長い上に目玉がぎょろぎょろした土色の妙なトカゲへと変化する。

「これ、晩メシな!たくさんいそうだけど、まずはこのくらいで」
「……食うのか、この得体の知れない生き物を」
「まあ、体の色を変えれるだけで、特に害はなさそうだし」

 彼がそう言い終わらないうちに、ビシッ、と得体の知れないトカゲから長い舌が飛び出し、アイリッツの頬を斬り裂いた。
「前言撤回。さっさと食材になれおまえら」

トカゲ相手に何やら格闘し始めたアイリッツを放置して、シャロンたちは少し上の、まさしく旅人が休憩するためにあるとしか思えないスペースへと戻ることにした。

 茂みの枝を利用して天幕を張り、まわりを切り払って大きめの石を集め、かまどの場所を確保する。

 山火事にでもなったらことだが……果たしてここで山火事は起こるのだろうか?

 そんなことを考えつつ、アイリッツが道中集めていた枯葉や枯れ枝を組み、火打ちで火を起こして鍋を乗せ、皮袋から水を注ぎ入れる。

「シャロン、これを使ってくれよ」
 捌いたトカゲを置き、アイリッツがカバンから自慢げに取り出したのは、大きな葉に包まれた魚の骨……。
「わざわざ、とっといたのか?」
「ああ、もちろん。こんなとき必須だろ?」

 さらにアイリッツは脱穀された麦穂も取り出し、シャロンをさらに呆れさせた。

 ふとアルはどうしたんだろうと見れば、適当な場所に座り、つまらなそうに魚の燻製をかじっている。いや、あの時焚火の傍で何かやっているのは気づいていたけれども……用意周到だな。

「おまえのカバンには他に何が入ってるんだ」

 普通の手提げカバンにしか見えないけれども……なんかやたらといろいろ出てくる気がする。

「秘密。そんな簡単にバラしたら面白くないだろ?」
「ああ、そう」

 こんないろいろ出てくるなら先に具を炒めとくんだった……などと後悔しながら、アイリッツの魚の骨を出しにしたスープに、麦と味の悪い肉の代わりにトカゲの、それと香草などを適当にぶちこんで、オートミール仕立てにしてぐつぐつ鍋で煮込む。

 そのあいだに陽は沈み、東から小月が先に上がってくる。

「なあ、リッツ。ちょっと前から気になったんだが……今私たちがいるこの場所の主は、カトブレパスなのか、それとも他の魔物なんだろうか」
 アイリッツは鍋が煮えるのを、無言で剣の手入れをしているアルの隣で今か今かと待ちながら、
「あ?ああ、それならさっき境界を抜けたじゃないか。もう他の奴の陣地だよ」
「待った。そこがどうもよくわからない」

 シャロンは鍋を焦げつかないようかき混ぜながら、
「世界には中心となる魔物がいて、そいつを倒さなければ別のところには行けない、ってわけじゃないのか?」
「ああ、それは、その領域を司るボスによる」
 あっさり彼はそう答え、木皿を手近に置きながら、
「だいたいが自分たちの領域で結界を張り、エネルギーが行き来できないようにしているんだけれども、異分子となれば話は別さ。ボスといっても性格も万別だから、様子を見て傍に来る奴もいれば、ダメージ受けてから隣り合わせの世界に押しつけて慌てて離れていく奴もいる。逆に、プライドの高い奴なんかは、一度負けてからもリベンジしようと結界を強化して、こっちを出さないようにするだろうね」

「じゃあ、カトブレパスの例で行くと?」
「ボス本体の弱体化に伴い、結界が弱まったので隣の世界へ行けるようになった。大抵は喜んで送り出すんじゃないかな。回復には時間がかかるし、誰でも傷ついたら静かに休みたいだろ?」
 そう言ってアイリッツはさっそく鍋の杓子を取り、しこたま中に盛りつけた。

 おい、ちょっとは他の分を考えろ、と注意しながらも、シャロンはアルフレッドと、自分の分をよそってそれぞれの場所に置きつつ、
「じゃあ、その主を滅ぼしたらその世界はどうなるんだ」
「ああ、もちろん保てなくなって消滅する。その時、たまたま近くに別の誰かの領域があったりすると、吸収されたりもするな。ここでは、常にエネルギーが循環し、無駄にならないようにできているんだ」

「……なるほど。だから、永遠の命、ってわけか」
 シャロンは頷き、ふとエッヘ・ウーシュカのことを思い出した。あの自己顕示欲に満ちたあいつの性格からすると、相当根に持っていそうだが、よくあの世界から脱出できたものだ。よっぽど弱っていたのだろうか……。

 ひんやりとした風がシャロンを撫でたので、彼女は身震いして火の傍へと近づいた。

 空には月が大小二つ並んでいたが、あいにくと星は一つも見えなかった。
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