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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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彼の名は

突然現れたジークは、いやー、ずいぶん探した、見つかってよかった、なんて言いながら頭をかき、そして、
「え……オレなんでアルに睨まれてんの?」
なんかしたっけ、と少々引きつった笑みを浮かべた。

 そういえば、ものすごいタイミングで現れたなこいつは、と思いつつシャロンはきっぱりと、
「いやそこはまったく、これっぽっちも気にしなくていい。それより、どうやってここに。あと、怪我はどうした」
「いや、だいたい治るのを待って、抜け出してきたに決まってるだろ?書き置きも残してきたし」
そう悪びれなく笑う
「エドウィンとかって奴に会って、道具とかもらって、シャロンたちがいそうな場所を片っ端から探して大変だったんだぜ?」

本当に、ジークなのか……?

 とっさに手首を見るが、腕輪はない。


 さまざまな疑問が押し寄せる中、同じように感じているらしいアルと目が合って、頷いた。……ここは、様子を見よう。怪しいことこの上ないが、何かの間違いでジークだという可能性も捨てきれない。

 そんな二人の目配せを知らぬ体で、それでさ、とジークは笑い、
「来るとき、街の中を漁っ……調査していたら、なんか変な黒いのがいっぱい出てきちゃってさ。なんとか一部倒したんだけど、また見つかると厄介なんで、頼む!かくまって?」
「一度やられてこい」
拝むように頼んできたジークに間髪いれずシャロンは切り返した。

 日が沈むのにいつまでも外にいるわけにはいかない、と、シャロンたちは揃って天幕の中へ移動することにした。

「……狭い……」
「いや、悪い悪い」
 アルの呟きにあまり悪びれなくジークが言って、どっかと奥へ座り込む。

 こいつの頭に遠慮、という二文字はないのだろうか。

 そう辟易しながらも、シャロンは残り少なくなってきた携帯食料を取り出し、アルへと渡し、さてジークは、と窺うと、
「ああ、オレはいいよ。適当にするから」
とカバンからブラムリーを取り出し、キュキュッと布で拭いてシャクリ、と一口齧る。

 先ほどから射殺しそうな視線でジークを睨んでいるアルフレッドを宥めつつ、シャロンは、
「それで、まず、お互い手に入れた情報を確認したい。こっちはひたすら戦闘に継ぐ戦闘で……ほぼ休む暇がなかったものの、とりあえず王城を目指そう、というところで意見が一致している」
と切り出すと、ふーんなるほど、とジークは頷いた。

「王城とは王道だなあ」
と言うなり、シャロンとアルフレッド双方からの殺人的視線に気づいて慌てつつ、
「まあでも、王城があるなら、ひとまずそこを目指せばいいんじゃないか?」
「あるなら、ね」
シャロンはため息交じりに呟き、ジークに、
「で、ジークの方は?何かこう、有益になりそうなことはわかったのか?」
わざわざ、ゆ・う・え・き、とそこを強調して尋ねると、
「ああ。オレもいろいろなことがわかった。まず、この世界は、だな。酒池肉林ができる!」
「短いあいだだったが、ここでお別れだな。さよならジーク」
半ば本気で追い出そうとするシャロンに、
「いや、冗談だって。……まあ、あながち、冗談でもないけどな」
と、やっと真面目な表情になって、
「この世界には……様々な姿をした、柱とでもいうべき存在がある」
「知ってる。それぞれの世界を形創かたちづくっている核のような存在だろ。他には?」
そう答えると、え~、知ってるの?というわかりやすい表情になったジークは、
「ま、まあそれだけじゃない。実は中心となる核が、どこかにあって、そいつを滅ぼさなければ……」
「世界は元には戻らない。……で?」
とアルフレッド。

 いや別に二人がかりでイジメているわけじゃないぞ?と、心で言い訳しつつ、シャロンもじっとジークを見つめてみる。あ、口元に食べかすが……。

「あああ、もう!じゃあこれは?中心となる核は、すべてを総べる存在っていうのは!?」
「…………」
 そのギャグは滑っている、とうまいこと言って返すべきか、それともあくまで真面目に話を進めるべきか。シャロンは束の間悩んだ。

「どうでもいいから結論だけを言え」
 バッサリと斬り捨てるアルフレッド。
「……だからさ、つまり、中心核を滅ぼすと、万事解決なんだけどさあ……他に柱みたいな魔物っぽいのがいっぱいいて、それら全部を統率……は別にしてないけど、力を与えたり、補助したりしているのがそいつで、まあぶっちゃけて言えば、めちゃくちゃ強い」
「で?」

 追い詰めているなぁ……と滅多に見られないアルの姿に、傍観側にまわるシャロン。

「あああ、もう、少しは考えてくれよ!だから、まず、少しずつ勝てそうな奴から先倒して、力を削ごうって言ってんの!!」
「……初めてまともな意見が出たな。シャロン、それでいい?」
 とこっちを振り向いたので、特に異論はない、と頷いておいた。

 続いて、お互い持っている道具なんかを確認して――――――ジークのカバンからは、エドウィンのところからのだと思われる、投石具や、何に使うかよくわからない代物がいっぱい出てきたが、もうさらりと流しておいた――――――次なる問題は、と。

「さて、腹も膨れたし、さっそく寝るか!」
 威勢よくジークは言うが……天幕の中は三人寝るのがやっと、という有り様だ。しかし、まあ、どうしようもない。

 まだ、こいつを信用したわけじゃない。ここは、あいだに挟んで、どんな場合でもすぐ対処できるようにするのがいいだろう。

 目線でアルにそう呼びかけると、なんとなくどんよりした表情になって、こちらに強く訴えかけるように見つめ、利き手を剣の柄に添える。

 いやいや、それはまずいだろ。必死でストップの合図を送っていると、ジークがつまらなそうに、
「おまえら、仲いいのはいいけどさ……オレもいるんだけど」
そう呟いた。

 オレ真ん中でいいのか?よっしゃ、とまったく気にした風もなく堂々中央に寝そべるジークの隣で、剣を手元に置いて寝ようとすると、表情の晴れないままのアルが、着替えと布?よくわからないがそれらを筒状に束ねたものを、私とジークのあいだに、と持ってきた。

「えっと……?」
 なんだこれ、と困って窺えば、ひどく嫌そうな表情で、なるべく黙っておきたかったけど、と前置きし、
「シャロンは、野外だとあまりないけど、屋根のあるところで安心して寝ている時、手近なものに抱きつく癖があるから」
爆弾を投下した。

 し、知りたくなかった、そんなこと……!!

「何で知ってるんだよ」
 呆れたようなジークの突っ込みに、ふっと、意味深に口の端を上げて、さっさと自分の場所で寝転んだ。

 くっ……!!今日はもう寝れない……!!まあ、元から寝るつもりなんてないんだが。

 自分一人でボケと突っ込みをこなしつつ、もう寝るぞ、とランタンに覆いを被せ、先ほどの会話は忘れることにした。

 そして、警戒となんというか、羞恥とかその他諸々で、まったく眠くならないまま、時間だけ過ぎていった。

 ジークは、真ん中で気持ちよさそうに寝ていたが、夜明け前に起き出し、こっそりと外へ出ていったので、当然、こちらもまったく眠っていなさそうなアルと二人で後を尾けることにした。

 と思ったら天幕のすぐ前にいて、
「なんだ、起きたのか」
と視線を寄こしたものの、すぐに東の方へ戻してしまう。

「……夜が明ける」
 その言葉どおりにゆっくりと空が白み始め、最初の光が差し込んで、一気に輝きが花開く。紺から灰色、そして青へと色彩が変化し、それから朝がやってきた。

「ああ、清々しい朝だなあ」
 んーっ、と思いっきり伸びをしてジークが言う。

 清々しいのは、おまえの頭の中だけだ、とシャロンは心の中で突っ込んだ。……こっちは、緊張と警戒に、ジリジリと苛まれていたというのに、と。そして、同じように疲れた様子のアルフレッドが隣に立つ。

 ……もう、充分だ。

「ああ、まったく清々しいな。それで……おまえは誰だ」
 チャリ、と剣を抜き切っ先をジークへ向ける。

「へ?……おいおい、いきなりそれはないだろ」
「黙れ。お前とジークとは似ても似つかない……ジークは、私たちと過ごしている時にも、楽しそうにはしていたが、時折ふっと、その顔に、影がよぎることがあった。だが……おまえにはそれが、ない。心底この状況を楽しんでいる顔だ。おまえはいったい……」

 何者、と続けようとしたところで、まったく悪びれない顔のまま、彼は頭をかいた。

「いやーこんな早くバレるなんて、怖ろしきは女の勘、て奴だな」

 反応が、おかしい。こんなにあっさりと……。

「いや~、ジークもいい仲間に出逢ったもんだ」
うんうん、と頷く正体不明の男一人。アルはすでに斬りかかろうとしている。

「じゃ、改めて、オレの名は……」

 その先は、聞かない方がいい、気がした。確実に常識外れの厄介ごとだ。

 そう考えると、自然に口が動いていた。

「いや、悪かった……。さっきのは私の勘違いだ。おまえはジークで、間違いない」
「えっ、いや、ちょっと!さっき確信持って疑ってたのにいきなりそれかよッ。あ、あと、話し中に斬りつけようとするのやめてほしいんだけど」
 ひょいひょいっと剣を避け、んんッ、と咳をして仕切り直し、
「さて、大方の予想はついてることと思うけど。オレの名はアイリッツだ。よろしくな!あ、気軽にリッツって呼んでくれて構わないぜ」
彼はそう爽やかな笑顔で、言ってきた――――――。
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