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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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彼の楽園

 今回長めです。
 倒れていたエドウィンを宝物庫だといっていた場所に運び込み、ソファの上で休ませると、大きな怪我もなくじきに気がついた。

 それはよかったんだが……彼は気がついた途端、‘しばらく一人にしてください’と、頼みこむように低く言って、奥の部屋に閉じ籠もり、それきり出て来なくなってしまった。

 仕方なくアルと二人で、青空と雲と太陽の描かれた高い天井や、そのまわりにそびえる装飾のされた焦げ茶の棚にずらりと並んだ道具の数々を眺めて時間を潰すことにする。

 表面に細緻な細工がされた作り物の卵や、蓋のある小さな壺、外側が紺色の古い鏡、古ぼけた巻物や、中にはケースの中に仕舞われた干し肉やら、美しく繊細なかつら、なんてものまであった。
「これはなんだろうな……ええと、万能の霊薬アムリタ?」

 読み上げた途端、バタン、とドアが開き、エドウィンがつかつかと突進してきたかと思いきや、その薬を取り上げテーブルに置いてボスッとソファに腰掛けた。そのまま片手で額を押さえ、俯いてしまう。

「ええと……エドウィン?大丈夫か?」
 干し肉の塊に非常に興味を示していたアルも、隣にきて、ビロード張りの椅子に腰かける。長い長い沈黙の後、エドィンはふーっと息を吐き、やっと顔を上げた。が、なぜか落ち着かず、目線が彷徨っている。

「……まずは、お礼と、謝罪を。申し訳ありませんでした。あなた方を殺すところだった」
 頭を下げるエドウィンに、首を振り、そこまで脅威でもなかった、と思ったが言うのをやめて、シャロンは妹のことや、これまでの経緯を説明した。そして、それでも覇気のないエドウィンを励まそうと笑いかけ、
「それにしてもすごいなここは。煌びやかで、宝物庫というのがピッタリくる」
そう褒めると、
「ええ、まあ……ここには、他では考えられないほど、素晴らしい魔道具、宝物が揃ってま、す……」
なぜかエドウィンは呻いて頭を抱え込んでしまった。

 何に悩んでいるのかはわからなかったが、なるべくエドウィンが好きそうな明るい話題をと心がけることにした。
「ええと、例えば、この壺はどういったものなんだ?」
「ああ、それはですね、その中には雷が籠められていて、蓋を開けた瞬間に周囲のものに降り注ぎます」
え、と顔を引きつらせつつ、続いてこの古い巻物は、と尋ねれば、
「これは、中に大水と、バンダースナッチという人食いの化け物の絵が描かれていてですね、その部分を開いた瞬間に具現化して敵に襲い掛かるでしょうね」
そう答えが返ってきたので、なんというのか、
「なんで……先ほどの戦いで使わなかったんだ」
と思わず尋ねてしまった。するとエドウィンは顔を興奮で赤く染め、
「違う!あなたは何もわかってない!ここに置かれた品々は、本当に希少なんです。もしも使って、壊れたりしたらどうするんですか!?決して得られない伝説級のものばかりですよ!?この私が、全部創り出したんです」
身を乗り出し力説していたエドウィンは、途中で糸が切れたようにまた再びソファへ沈み込んだ。その表情は暗い。

「いえ……こんなものに価値はありませんよ……全部私の妄想の産物です……どうか、持っていってください。あなた方に必要なものだ……」
 何かを振り切るように首を振り、ああそうだ、と顔を上げ、
「是非これは持っていってください。欲望に赴くまま創り上げた中で、一番の最高傑作です。心のどこかで、あなた方が来るかもしれないと、考えていたんだと思います」
棚の一番奥から、懐紙に包まれた、白金に小さく無色透明な宝石が十個嵌っている腕輪を運んできた。

「ええと、これは?」
 そう尋ねると得意そうに笑い、
「この腕輪は、ここに嵌っている宝石の分だけ、あなた方の‘死’を、肩代わりしてくれます」
といった。
「え……」

 それって、希少とか、そういうレベルじゃないぐらい、ものすごいアイテムなんじゃないか……?

「十回もか……それは凄いな」
呆然と呟けば、微苦笑しつつ、
「十回しか、ですよ。私は良くも悪くも現実主義者リアリストなので……無限に命を蘇らせる、というような品は、どうしても想像できず、創り出すことができなかった」
 どこからその膨大なエネルギーを供給するのかとか、余分なことを考えるともう駄目ですね、とため息を吐く。
「ああ、そうだ。ここの説明もまだでしたね……私も詳しくはわからないのですが、おそらく今ここにあるこの世界は、古代魔法文明の遺産の力によって創り出されたものです」
まるで夢物語のようなことを、真剣に宣言した。

「それはまた……途方もない……」
ああでも、その可能性しかないか、とそれだけ呟いて絶句してしまったシャロンに代わり、
「それはどういう?」
とアルフレッドが問いかける。

 そうですねえ……とエドウィンは羊皮紙をテーブルに広げると、自然とインクがにじみ出てくる羽ペン、という便利アイテムを取り出し、上部に簡単な城の絵を描き、その下に大きめの×印をつけた。

「そもそも……私はシーヴァースの城の地下で発見されたという遺跡を探索に来て、扉の番人だとかいう人物に出逢って戦い、結局勝負に負けて、その時、一瞬だけですが、何か途方もなく大きな存在と、その付近で瞬く星のような力の塊を感知したんです。そのあとおそらくは理性の箍を外され、まああのようなことになったわけですが」
とそこで大きな×のまわりに小さな×印をいくつも描いて、
「おそらくですが、この世界を形創る核のようなものがあり、そこから人々の望みを叶える力が沸き出しているのだと思われます。最初は城の地下から、そして徐々に周りへと広がっていったのでしょうね。どうしてこのような仕組みになっているかもわからないのですが」
その昔誰かが、世界平和でも願った、とでもいうのでしょうか、と投げやりに言う。

「とすれば、元の世界に戻す方法は、すべての元凶であるこの世界の核を壊す。それしかありません」
「でも、それはいったいどこにあるんだ?それからどんな形をしてるかも、できれば知りたい」
「あとは……それを見つけたとして、本当に僕たちに壊せるか、ということも、だけど」
 アルがいつになく厳しい表情で言う。

「そうですね……私からはどうともいえません……。もしここに来る前でしたら、あなた方を止めたでしょうけれども、もうここに来てしまった以上は……進むしかないんです。ここはあちらとこちらを結ぶ中継地点ですが、引き返すためのルートは私を倒した時点で失われてしまいました……。私は扉を守る番人ということになっていますから。これを、持っていってください」
沈痛な面持ちで呟いたエドウィンだったが、懐から、針が一つきりでくるくるまわっている懐中時計のようなものを取り出してこちらへと渡してきた。

「羅針盤です。例の、魔力に反応する振り子を改良して創りました。周辺の、より巨大な魔力の塊に反応するようにしてあります」
「それは常に一定方向を差し続ける?それとも……」
 アルフレッドが疑問を口に出せば、エドウィンは苦いものを口に含んだように、紙に描かれた大きな×印から、放射状の線を描き、それぞれ小さい×へと結びつけた。
「行けばわかると思いますが……あちらは中心となる魔力塊がそれぞれ空間を区切って担当し、一見それぞれ異なった世界のように展開されています。近づけば針は中心部を差しますが……それが大元かどうかは倒してみなければわからないのです」
悲痛な表情で羽ペンを置いて、自分を取り囲む棚、そこにずらりと収納された魔法具に目をやった。

「ここにあるものは全て持っていってかまいません。シャロンさんたちの辿ろうとしている道は過酷すぎる。使い方は説明しますから、好きなものを選んでいってください」

 とはいわれたものの、運び出す量にも限界がある。アルフレッドは肉の塊の用途を訊いていたが、それはどれだけ切ってもまた肉が盛り上がって食べられる、という便利なもの――――不気味なのは否めないが――――で、嬉々としてカバンに入れたものの、味は薄くあまりしない、と言われショックを受けたようだった。

 その他にも、どんな怪我でも回復する薬、疲れを即座に癒す薬など、さまざまなものをカバンに詰め込んだ。武器もたくさんあり、鋼ですら貫く弓矢や、一度投げたらどこまでも相手を追いかける球など、さまざまだったが、結局使い慣れたものが一番だろうと、持っていかないことにした。

「そういえば、エドウィンはどうするんだ?」
 荷物を詰め込み尋ねれば、苦い返事が返ってくる。
「私は、行きません。というか行っても足手まといどころかすぐ命が終わってしまうでしょうね。あなた方ならきっとこの事態をどうにかできると……ここで祈ってますよ」
 こちらを見るその表情が重く辛そうなエドウィンに、じゃあそろそろ行くから、と暇を告げて立ち上がると、部屋の入り口まできて、
「扉は、好きなのを選んでください。どうせどれもそう変わりはしません。あと、腕輪ですが……生き返るからと言って絶対に油断はしないでください。むしろ、腕輪は元々持っていない、ぐらいの心持でお願いします。そうしないと本当に……十回なんてあっというまですから」
「わかった。胆に銘じとく」
「……ご武運を」
その言葉に頷いて宝物庫を出るとそこは――――――先ほどとはうって変わり、白い廊下に向かい合わせにしてずらりと扉が並んでいた。バタンと背後のドアが閉まる。

「アル……どれにする?」
「どれでもおんなじじゃないかな」
 アルも疲れたように言ったので、適当に近くの扉を選び、一気に開くと、すぐに金色の光に包まれた。


 シャロンたちが去ってから随分長いこと、エドウィンは重く俯いた顔をなかなか上げようとはしなかった。

 ――――――分の悪い賭けだとはわかっている。それぞれ、異なる世界を構築するような存在を、当たりが出るまで倒し続けなければいけないシャロンたちの困難は、その道のりはいったいどれほどの苦痛が伴うのだろう。しかも、倒すべき相手が世界の核となれば…………。

 エドウィンはのろのろと顔を上げ、自分の自慢だったコレクションを一つ一つ眺めてみた。

 結局ほとんどを置いていってしまった彼らに、勝算はあるのだろうか。

 文字どおり宝の持ち腐れでしかないそれらを見ているのも辛く、思わず、
「……処分するか」
と口を突いて出た。

 すると、バタンと突然扉が開かれ、エドウィンを跳び上がるほど驚かせたかと思うと、
「おいちょっと。この宝いらないのか?じゃあ、全部オレにくれよ!」
晴れた日の秋風のような爽やかで涼しげな声が入り口から降ってきた。
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