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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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凶鳥

戦闘シーン有。
 黒い羽の生えた体に、裾の広がった服。色彩は、ただそこに黒の濃淡があるだけで、まったくわからない。

 クェエエエッ

 それは、一声啼いたかと思うと、バサリと羽を広げて浮かび、こちらへ突進してきた。

 シャロンは剣を構え即座に風を放ってその勢いを殺し、同時にアルが体を斬りつける。それと同時。魔物は無数の烏の群れへと姿を変え、斬撃を食らい地に落ちた一、二羽を残し大多数がバサバサバサと空へ飛び立ち、ぐるりと円を描いてこちらへ戻ってくる。そして、羽をすぼめたかと思うと急旋回とともに落下した。

 剣を振り烏の、黒い豪雨を薙ぐ。それでも降下は止まらない。鋭い嘴は目を、喉を狙い、致命傷を与えれなかったものはすぐにこちら目掛け水平に飛んでくる。目と喉を庇い、風を溜めて一気に払おうとするが、すぐに烏の群れは離れて人の形を取った。

「アル!」
 目に入りそうな血を拭いながら呼び、見渡せば、さほど遠くない位置に細かな傷を作ったアルフレッドがいて、こちらに軽く手を上げた。

 クェエエエッ 

 烏の化け物が叫び、バサリと羽を羽ばたかせた。烏の攻撃の一つ一つは、さほど強くはない、が……。

 魔物の呼び声に応えて、森の木々から烏たちが集まり、その体の一部となっていく。回復する前にと、もう一度呼吸を合わせ、うまくタイミングを計って剣戟を当てるも、やはり先ほどと同じように多数に分かれ、飛び去っていった。
 群れはぐるりと上空をまわり、再び戻ってくる。

 ぴん、と張った広く分厚い空気の膜を想像する。落下の速度を落とし、そのバランスを崩すために。

 剣を振り空気の膜を飛ばせば、意に反して無数の烏たちは集まり、三つの塊に分かれた。……まずい!

「アル、避けろ!」
 こちらも咄嗟にしゃがみ、その頭上をゴォッと唸りを立てて来た、小柄な、人なのか烏なのかよくわからない物体を転がって避け、剣で斬り裂いた。羽が散らばり、烏が数羽地面に落ちて消えていく。

 アルも一体倒したらしい。残る一体はよろめき、轟くような唸り声を発した。その声に応え、再び烏が集まってくる。

「埒があかない……」
 攻撃はさほど強くはない。しかし、戦いが長引き、地味な攻撃でも食らい続けていれば、精神、身体、共に疲れ、不利になっていく。

 アルを振り返り、目線で合図をした。再び人型を取った魔物が宙に浮く。それと同時に、タタタッと助走をつけ、アルフレッドが墓石を蹴り、跳躍して、気合の叫びともに上から烏の化け物を斜めに斬りつけ、落ちる途中で体勢を変えて再度頭から斬り落とす。

 そのあいだシャロンはずっと力を溜めていた。重く、垂れ込める風。重たい空気の層。もう一度、広げて、今度は圧倒的な圧力を持って押し潰すために。

 アルフレッドが人型の烏と地面に衝突した瞬間、素早く魔物を足蹴に離れ、烏が地から起き、バラバラに飛び立とうとするわずかな合間。そこへシャロンは、溜め込んだ力を一気に解放した。

 ズヂャッ

 何かがへしゃげ潰れるような嫌な音とともに、わずかに嵩のある黒い跡が土にくっきりと刻印された。それはやがて、シュウシュウと煙を上げ、消えていく。

 ズシン、と重い音が響く。周辺を探れば、何をしたわけでもないのに中央の墓石が一つ倒れ、その下には、冷たく白い石の階段が、静かに横たわっていた。

「アル……」
 とりあえず、と、擦り傷だらけのアルフレッドの顔の、血と土の汚れを拭ってそのままボロ布を渡し、自分も別の布で顔と足や手などを拭うことにした。

「これぐらい大したことないよ」
「……そうか。まあ、そうだな」

 仕方ないとはいえ、嫌な倒し方をしたな……。

 口の中の、苦い土と血混じりの唾を吐き、暗くなってきたので一度ランタンを点け、つるりとした階段を窺うと、下から濃厚な少しカビ臭い土の匂いのする風が来て、ふわりと前髪を撫でる。

「行かないの?」
 アルが不思議そうに問う。何が起きるかわからない、とのガーディスの言葉が蘇った。
「……」
 黙って彼の手を取り、握って、ひょっとしたら外れるかもしれないと思って、より外れにくい握り方に持ち直した。

「……行くぞ」
 そう決意を込めてアルを見れば、なんとも言い難い、微妙な、苛立ったような複雑な表情をしていた。

「この状況で、これ……。シャロンは、僕をどうしたいんだ?」
「へ?いや、何が起きるかわからないから、離れ離れにならないようにと……」
「……もういいよ。そうだね、さっさと行こう」

 彼の苛立ちの原因がわからないまでも、頷いて、墓石下の階段を見つめる。足を踏み出し、下りていくと、カツン、、、カツン、、、と硬質な足音が響き渡った。

 歩いていくと、辺りの空気は次第に湿ってきて、前方にはまるでどこかの洞窟のような通路が見えてきた。
 ズズズズズ、と上から入り口の閉まる音が聞こえてくる。

 ふと、テスカナータを出てくる時、絶対にここに来ると叫んでいたジークのことを思い出した。

 ……結局、会えなかったな。


 来ない方がいいのかも知れない、と暗い岩場をくり抜き磨き上げたような通路を、慎重に歩きながら思う。

 シーヴァースはすでに変わってしまっている。ひょっとしたらジークはこの町に、あの空気に、呑み込まれてしまうかも知れない。怪我のこともあるし……。いっそのこと、来ない方が。

「シャロン?何かあった?」
 そう思いながら歩いていると、アルが様子を窺ってきたので、なんでもない、と手を振って答えておいた。
 シャロンがしたのはいわゆる恋人繋ぎ。

〈補足〉
・この墓地には行き場を失った負の感情が集まり、ここに来る人の心の怖れ、不安を投影する。負の感情を増大させれば増大させるほどその力を増す。

 大鴉の墓守……地下通路入り口を守る番人。能力は本文参照。戦いに敗れた相手は、烏の餌か、自主的に墓のまわりをうろついて見回ることになるか、記憶を消され街に戻る。
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