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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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昼と夜の境界

 若干流血表現等あり。苦手な方はご注意ください。
 死は、すべての者へ平等に。

 ガーディスのヒントを元に、うろ覚えの記憶を辿れば、以前と同じ場所にその墓地はあった。……昼過ぎなのに濃い霧が湧き、厚く、時に薄く、周辺を覆い尽くし渦巻いている。

 入り口の門を抜け、しばらく行くと、やがてずらりと並んだ墓石が、寒々しく訪問者こちらを出迎え、その合い間を行けば、さくさく、さくさくと足元の葉や草が音を立てる。

 ……風が、生ぬるく体に絡みつくようだ。

「さて。このどこかに、何かの手がかりがあるはず、って、アル、どうした?」
 彼はふぅ、と息をひとつ吐き、
「シャロンは鈍すぎるよ」
とぼやいた。
「……ッ悪かったなっ、て、待った。誰か、いる」
 出てこい、と低く恫喝すれば、墓石の向こう側に隠れていた男が、ガサリ、と音を立てて立ち上がった。

「………」
 肩には斧を担ぎ、服は野良着。一見、木こりに見えなくもない。表情の乏しい暗い色彩の男は緩慢な動作で斧をかざし、
「なんだあ、おまえらは。おい、ここから出ていけ」
と恫喝した。

「いや、ここに用事が」
「あれ、なんだあおまえらは」
 言い終わる前に再び墓石の影から男が現れた。霧があって見えにくいが、髪色も目も暗い色をしていて手には鎌、
「なんだあおまえらは。おい、ここから、出ていけ」
「おい、どうしたあ」
 一つ、二つ、三つ、四つ……男たちは次第に増えていく。その数が……。

 辺りは濃厚な霧。手に手に武器を持った、普段着の男から傭兵まで、姿はさまざまな男たちがぐるりとこちらを取り囲むようにして現れ、その数、ざっと百か、それ以上。
「おまえら、ここに何しに来た」
 男の一人が出てきて、暗い瞳でこちらに告げる。

 剣を抜き、すでに臨戦状態のアルフレッドを制し、シャロンは、
「……ここを通してくれ。私たちは、争うつもりじゃないんだ」
そうよく通る声で告げる。 

「よく言うぜ。おまえらがここに来た理由はわかってる。多大なるお節介、って奴だ」
一人が言えば、隣の男も頷き、
「おうよ。まったく余計なお世話だぜ。人がいい夢を見てるってのによお。無理矢理それを壊そうなんざ、迷惑も甚だしい」
「俺は、こういう偽善者ぶるのが大嫌いなんだ。だいたいよお、幸せになりてえって望んで、何が悪い。ただかろうじて生きてるような、最低最悪な暮らしから、少しでも贅沢がしてえって思うのは、そんなに悪いことなのかよお」
「それ、は……」
 男の言葉が重みを伴ってぐさりと刺さってきた。口がカラカラに乾いて、声が出せない。

「シャロン、目を閉じて」
 いきなりアルが、とんでもないことを言い出した。この状況で……!?そんなわけには、
「そんなこと言ってるおめえは、その女とヤりてえだけじゃ、」
ザシュ、と男の首が飛んだ。アルフレッドは容赦なく、手近にいる人間の腕を、体を、斬りつけていく。日が陰っている。辺りにはビシャリと血が跳ね、草むらを赤黒く染めていく。
「な、アル」
「シャロン、目を!」
 呆然と立つシャロンには目もくれず、殺気立った男たちはアルフレッドに群がり、武器を振りかざす。囲まれながら、幻だ、と告げる彼の声が届いた。

 幻……?

 反芻して一度深呼吸をし、目をゆっくりと閉じ、1、2、3と数え心を落ちつけてから再び目を開けた。目の前に広がるのは、濃厚な霧と、墓石の群れ。あれほど密集していた男たちは、影も形も無くなっていた。先ほどの喧騒とは、うってかわっての静寂が、耳に痛い。

 少し離れたところにいたアルフレッドが、駆け寄ってくる。
「……行こう」
「今のは」
「よくわからない。けど、多分……怖れ、不安、誰かの心の一部」
「……」
 黙ってその隣に並び、墓地の中を、歩き出す。

「アルはその……怖くないのか」
 言い淀みつつも、おそるおそる問えば、 
「ぬるい」
「え……」
「ミストランテはこんなものじゃ、なかったよ」
そう答えが返ってきた。

 進めば進むほど、霧は濃くなり、すぐ目の前の墓石ぐらいしか見えなくなってきた。躓かないよう、ぶつからないよう気をつけながら、もはやどこに向かっているかもわからない場所を奥へと、二人で進み続けていると、徐々に息が苦しくなるような圧迫感が増してくる。顔や手に滲む汗を袖で拭いながらも無理やり強張った顔を動かして笑みを浮かべ、
「まるで、巨大な何かの、息吹のようだな」
と冗談のつもりでアルに言えば、まるでそれを合図にしたかのように霧が渦巻き、生あたたかなそれ、をそのまま音にしたかのような、不明瞭な声が降ってくる。

 …………ら…………よ……

 緊張に耳をすませば、声は少しずつ近くなり、

 扉に触れようとする者よ 我が試しを受けよ

そうくっきりと響いた、と思うと同時。霧が急速に薄くなり、墓地がその全貌を現した。

 時は夕暮れ、木々に集まる烏の群れ。それらがその数を増し、バサバサと羽音を立てて、集まってきて――――――寄りあい、絡まり、その場に大きな鴉の頭と上半身を持つ、人型の魔物が出現した。
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