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異郷より。 作者:TKミハル

楽園の夢

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遭遇,

2014/3/23 午前0時半辺りに付け足し改稿しました。
 さて帰るか、と、幸せな人たちに背を向けて、アルと二人で通りの、乗合馬車停留所まで戻ると、そこには中年の婦人がいて、馬車は先ほど出たばかりだよ、と親切にも教えてくれた。

 いつもいつも都合よくいくばかりじゃないんだな、と少しほっとしながら、停留所で待つことしばらく。馬車はまだ来ず、やがて、傍のパン屋から、焼きたてのいい香りが漂ってきた。

 ちょうどお昼時。馬車はまだ姿を見せていない。

 アルに待っててもらい、店へ寄ると、驚いたことに、上流階級の食べるようなふかふかの白いパンが安値で売っていた。

 とりあえず二人分買って持ち帰り、一緒に食べてみたものの、ふかふかしすぎていてなんだかパンを食べているような気がしない……。

 アルも微妙な表情をしつつ、それでも綺麗にこちらの分まで全部平らげ、私はそれを見ながら、もっと歯ごたえのあるパンが食べたいな、などとそう思った瞬間。

「はいはい、いかがですか。チーズを乗せたライ麦パンが、今焼き立て!お得ですよ」
神懸かり的なタイミングで、店から籠を持った売り子の少女が、こちらへにこやかに呼びかけてきた。

「…………」

 偶然も、これだけ続けば、必然か。

 なんだかそのパンをあまり食べる気がしなかったので、いらないと断って、自分のカバンから干し肉と携帯食料を取り出して、まだ足りなそうなアルと二人で分け合った。

 食べ終わると、ちょうど道の向こうから馬車が来て砂埃を上げつつ目の前で止まったので、前の婦人に続いて乗り込もうとしたところで、ふと誰かの視線を感じた。同時にアルが立ち止まってパッと後ろを振り返る。

 その目線の先には、ごく一般的な民家の壁際に背を預け、座り込んでいた浮浪者がいて、鋭く睨んでいるアルフレッドに気づいたのかどうか、ふらりと立ち上がり、裏道の奥へと身をひるがえした。

「待っ……!!」
「あんたら、乗るの、乗らないの?」
 馭者の訝しげな声で我に返り、それとほぼ同時に、わずかにかすれた甲高い警戒の笛の音が響いたかと思うと、衛兵がバタバタと男が去った方へ走り過ぎていく。

「珍しい、捕り物かねえ」
 馬車から先に乗った中年婦人が怖がるでもなく興味津々に顔を覗かせ、遠すぎると見てとったのか、残念そうな顔をして引っ込んだ。

「……アル、行こう」
 ひょっとしたら何かの手がかりだったかもしれないが……衛兵がいたのに加え、追える距離でもない。

 無念さを噛み締めながら馬車に乗り、一度大通りまで戻ってから乗り継いで、町の北、少し小高い場所に佇む王宮へと向かうことにした。


 乗り継ぎはスムーズに行き、ほぼ待ち時間もなく、王宮の敷地を囲む正門には、昼には着いた。

 馬車が定刻に来ることなどなく、通常なら早くても二倍の時間がかかるはずなんだが……と突っ込むのにもさすがに疲れてくる。

 正門には兵士が立ち、門の傍には詰所があって、整備された道が広大な庭園へと続いている。
 ちなみに正門から王宮までは、馬車で行かないと半刻以上かかる距離があり、正門から普通に入ったとして……入り口付近はともかく、王宮周りは草木の刈り込みなど、手入れが行き届いており、見つからずに辿りつける保証はない。

 正門付近には、旅行者らしき人々が集まっており、その複雑な装飾の門と石造りの壁に感嘆の声を上げていた。

 その無邪気さを恨めしく思いながら、無謀かな、とは思いつつも、壁をぐるりとまわってどこか侵入できそうな場所を探すことにした。

 アルに、そのことを話し、王宮の衛兵に怪しまれないよう恋人同士のような会話をしてまわろう、と決めると、壁の調査を始めたが……一刻も満たないうちに、早々に挫折を味わう破目になってしまった。

 つるつるに磨かれ、上に槍のような突起物の設置された壁は敷地内をぐるりと取り囲んでいて、登るとしても足がおぼつかなくなりそうだし、要所要所には兵が目を光らせている。

 そして、これが一番肝心なところだが、この状況がひたすら辛かった。

 アルにはこの演技は向いておらず、普段通りあんまり表情が変わらない彼に、ひたすら甘い言葉をかけ続けなければいけないし、まあ、アルにも一応恋人同士らしくしようとの考えがあるのか、手を握ったり腕を組んだり、をするのだが、これがもう……ひたすら恥ずかしい、というか、どんな罰だいったい、と精神力がガリガリと削られ、もはや瀕死状態になりそうだ。

 気力が尽きて早々に周辺探索を切り上げ、正門へ戻ると、そこにちょうど貴族の使用する豪華な馬車が何台も来て、中へ入っていくところだった。

 また貴族に変装するしかないのだろうか。だが、おそらく招待状がないと入れないに違いない。
 エリーに頼めば、なんとかなるかも知れないが、私も……次、はたして父と母に遭った時、その存在の改変に耐え切れるのだろうか……。

 冷静さを保てないだろう、との予感はある。

 吹き出しかけた黒い感情に蓋をして、シャロンは、心配げに見ているアルフレッドを促して乗合馬車に乗ろうとした。

 しかし、珍しく満員で入れなかった上に、次まで一刻以上かかる、とのことで……仕方なしに、たまたま通りがかった辻馬車を拾って、食事などは後回し、と、もう直接宿へと戻ることにする。

 あまり揺れもなく、にぎやかな通りをのんびりと馬車は進んでいく。愛想のいい馭者と会話が弾み、盛り上がっていると、アルが硬い表情で腕を叩き、窓の外を指差した。

 窓の外は昼過ぎて夕方近く。ゆっくりと日が陰り、馬車はにぎやかな通りから遠ざかって、どことなく静かな、大きな屋敷の点在する区画へと向かっていく。

「……おい、どこへ向かっている」
 思ったより低い声が出た。
「へえ?あれ、お客さん、こっちじゃなかったですかい?確か、リーヴァイス家の屋敷へ向かうんじゃ……」
「降ろせ」
「へ?あの……」
「いいからさっさと降ろすんだ!」

 びっくり、といった様子の馭者を脅すように馬車を止めさせ、半額を払って出、暗くなり始めた通りをアルと二人で、宿のあるところまで急ぎ足で向かう。

 いったい、どうなってる。リーヴァイス家にいくなんて、欠片も話さなかったはずなのに。

 顔は怒りで燃えるように熱いのに、手足は妙に冷たく、汗が冷えて寒い。

 もし、この町に敵という存在があるとして、探るような動きをしているこちらを見つけ、そいつが何かを仕掛けてくるとしたら……?

 見慣れた通りに差しかかるころにはじっとりと手は汗ばみ、明かりが見えてきたことにほっとして――――――。

「おい」
 地の底を這うような低い声に突然呼び止められ振り向くと、かろうじて残る太陽の残滓に照らされ、灰色のフードを目深に被った男が、その下から血走った目と痩せこけた頬とを覗かせ立っていた。

「シャーロットとアルフレッドだな。ついて来てもらう」 
 男が名を呼び、シャロンとアルフレッドはほぼ同時にそれぞれの剣の柄に手をかける。

男はその姿を見てふん、と鼻を鳴らし、
「待て。これを見ろ」
とコートを開き、その内側にずらりと結わえつけられた、上から紐の出ている太い円筒を見せてきた。

 これを見ろと言われても…………。

 いったいそれがなんであるのかよくわからず、首を傾げているこちらを見て、男は小さく長く息を吐くと、
「ここにあるのは、すべて爆薬だ。衝撃を与えたり、俺が火をつければここら一帯は吹き飛ぶほどの量がある」
とそう説明した。

 が、いまいちピンと来ない。丸い形の爆弾なら、本などで見覚えがあるが……。

 それに、これだけの量が本当に爆薬なら、その価値は、同量の金塊か、それ以上。この男は、家をまるごと買えるほどのものを、コートの中に入れていくつも持ち歩いている算段になる。

 黙ったままのこちらに業を煮やしたのか、
「もういい。とにかく黙ってついて来い」
そう言って、くいっと手招きをした。

 おかしなやりとりのあいだに、冷静になったシャロンは、この男は変な奴だし、言っていることもよくわからないが、ひょっとしたら手がかりになるかも知れない、とアルフレッドと目線だけで会話して頷き合うと、周囲に気を配りつつ早くしろと急かしてくる男の後ろにつき、その案内で複雑な道を抜け、裏通りの奥にある、寂れた空家へと入ることになった。
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