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異郷より。 作者:TKミハル

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急ぐ旅の道程は 5

 1月23日夜、若干文章を追加しています。
 馬車はその後少しの休憩を挟みつつも、ジレットの手前の、ティルターという町へと順調に向かっていく。

 苦痛に呻く盗賊の男たちと向き合い揺られているうちに、興奮状態だった頭もすっ、と熱が引くように覚めていった。

 まあ、冷静に考えればあの居丈高な男が私たちのことを護衛だと勘違いするのは、無理もない。ついでに貴族たちと一般市民との壁もどうしようもない。が、それでも腹が立つ。

 こんなことしてる場合じゃない、早く行かなければと急き立てる心と、思うようにならない現実。その二つを感じ、苛立つのと同時に、ああ、焦っているのか私は、とシャロンは自分の状況を理解する。

 とにかく気持ちを落ちつけようと、深く息を吸って、吐いた。

「……落ちついた?」
 アルが首を傾げてこちらを窺ってくる。
「えっと、うん、悪いな。大分焦っていたようだ……」
 なんだか申し訳ない。そう思い、アルを見やると、彼は一つ頷いて、なぜか私から距離を取った。

 どうも、こいつの考えることはよくわからない。

 そうこうしているうちに馬車は広々と畑のある道へ出て、しばらく進んでからやっとティルターに到着した。

 商会の馬車庫に入り、これで宿でゆっくりできる、と男たちをさっさと下ろし、先ほどから何やら、こんな危険な旅だとは思わなかった、どうしてくれる!と叫びクレームをつけている貴族の客数人と、その肩を持つあの男を、商会の者であろう数人がかりで宥めているのに構わず、その場を立ち去ろうとすると、あ、ちょっとそこでお待ちを、とそのうちの一人に呼び止められる。

 そのまま、痩せ形で、質素だが品のいい制服を着た男に、小さな部屋へと案内され、
「あ、どうかそこの椅子に腰かけて、楽になさってください。いや~長旅の上に盗賊退治で、お疲れになったでしょう」
「はあ……」
 テーブルの上にはお茶とビスコットが出され、なんだろうこの待遇は、などと考えていると、男は微笑を浮かべた。
「わたくし、受付兼相談係を受け持っております、ノーマン・コンクェストと申します。そちらは、シャロンさんとアルフレッドさんですよね?ヤルゼルより、伝達を受けております。あ、どうぞ遠慮なさらず」
 そう言ってこちらを待っているので、仕方なくお茶のカップを手に取った。

「それで、要件は……」
「そのことでございますが、まず、リッケンバック商会を代表しお礼を。この度は盗賊を退治に力を貸していただき、真にありがとうございました。少ないですが、こちらは謝礼となります。どうぞ、収めてください」
「はあ……それはどうも」
 戸惑っていると、男は灰色の目を細めて苦笑し、
「道中、うちの商会の者が失礼をしたとも聞き及んでおります。その迷惑料も兼ねておりますので」
それから声をわずかにひそめ、
「あの男、実はさる豪族の関係者でしてね……こちらも扱いに困りあぐねているのです。貴族に受けはいいのですが、いかんせん他がどうにもならなくて。ろくに調べもせず護衛を選んだことといい、今回で、謹慎か、おそらくはまた異動になるでしょう。そうやって各地を転々としているのですが、本人は待遇が自分の能力に見合っていない、だのと言い張るばかり」

それからふと我に返ったように、
「ああすみません、聞き苦しい話で。それで……どうでしょう。あなた方はここから、ジレットに向かわれるとも聞きましたが……ぜひ我が商会の馬車をご利用なさっては?あいにくと、貴族の方々とのご同席はできませんが、料金は無料にさせていただきます。ただ、そうですね、道中またどんな危険があるかはわかりませんので、そこはお力でなんとかしていただくことになるかと思いますが」

 渡りに舟とは、このことだろう。

 しかし、シャロンが考え、了承の返事をする前に、アルフレッドがその肩に手をかけ、
「悪いけど……ここから先は知り合いの馬車に頼むことになってる」
と断った。

 え!?

 なんとか驚きを顔に出さず、アルにはアルの考えがあるのだろうと、話を合わせて頷いて見せると、男の表情がほんのかすかに動いた。
「それは、もう決定なのですか?」
「さあ……話次第では、とも思うけど、もう支度を整えて待っているかも知れない」
「そうですね。じゃあ、そちらの方への迷惑料ということで、支度金を出しましょうか。……銀貨10ぐらいでは?」
「それだと争いになる。もう少し。30ぐらいは」
「30ですか……それだと多すぎますね。ふむ……」
 男は何やら考え込んでいたが、
「一度、上司に相談してみます。ひょっとしたら条件付きになるかも知れませんが、ひとまずそちらの希望は銀貨30ということですね。伺ってまいりますので、ここでしばらくお待ちください」
にっこり笑顔を見せ、失礼しますと一礼してその場を去った。

「つまり……報酬の要求だったのか?」
「うん。あの貴族客に、僕らはもともと始めから雇っていた腕の立つ護衛で、この旅の安全は保障されていた、って従業員が説明してたから……通るかな、って」
「最近おまえが怖くなってきた……」
 そういえばアルは耳もよかったんだった……と遠い目をするシャロンと、特にいつもと変わらないアルフレッドの元に、コンクェストが上司らしき人物を伴って入ってきたのは、それからすぐのことだった。


 交渉を終えて宿に泊まり、今度は正式な護衛としてリッケンバック商会の馬車へと乗り込んだ。

 商会からの報酬は、払った乗車代に迷惑料が上乗せされていて、シャロンはほっと胸を撫で下ろした。シーヴァースへ着いたら妹に会うため、おそらくかなりの額がかかる。それまでになんとかお金は減らさないでおきたい。

 馬車は先へ進み、ジレットへと向かう。道中もう盗賊が出るようなことはなく、まあ、ただ、貴族たちの前でアルフレッドが見世物的に猪や鹿の解体などをやることにはなったが、余った肉を貰えて嬉しそうだったし問題はなかった。


 思わぬハプニングはあったものの、概ね旅は順調で、ドリメル河も無事に渡り、馬車を変えシェーンを過ぎて、テスカナータ出発から2週間半と少し経つ頃には、もうシーヴァースは目の前に迫っていた。
 ちなみに、盗賊の賞金は全部リッケンバックが回収しました。
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