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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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急ぐ旅の道程は 3

 戦闘シーン、残酷描写あり。
 遅ればせながら気づいたが、その商会はリッケンバックという名前で、受付の男ヤルゼルによれば、これから手広くやっていく最中とのことだった。

 しかし詳しい話を聞く間もなく、店員というよりは倉庫番といった風体の男に、こっちへついてこいと呼ばれ、荷物運びの男たちと一緒に少し離れた表通りに面した馬車乗り場のところまで歩いていく。

 待ち合い場所の豪華版といった風情のその建物へ入ると、当然のことながらその馬車は主役のごとく中央にと鎮座していた。

「「……」」
 アルと二人でしみじみ眺めたが、まったく言葉もない。美しい樫の赤茶色が映える馬車の側面には美しい獅子の彫刻がなされ、嫌味にならぬ程度に金の象嵌がほどこされていて、なるほど、誰が見ても高級馬車だ。

 大きな馬車の本体は座席があり、その後ろの荷台は二つに分かれていて、座席に近い方の荷台は客の荷物入れなのか、扉は閉ざされ錠が下りていて、そう簡単には破られないように造られている。
「おい、何呆けてる。さっさと乗れや」
 そう言って日焼けした手でぐいっと示した場所は、まさしく荷台。こちらには消耗品や携帯食料などが詰められている。つまり馬車内部は前から順に、貴賓席のように豪華な座席、高級荷物を入れる荷台、普通の荷台と分かれ、それぞれのドアから別で出入りできるような仕組みとなっていた。

 随分荷台が空いているようだが、この後さらに積み込むのだろうか。

 そんなことを思いながらアルと座っていると話し声がして、武装したむくつけき男たちが四人集団で現れ、馬車へと乗り込んできた。
「なんだぁ?おまえらは」
 いずれもがたいのいい男たちなので、荷台は急速に狭くなり、荷の隙間に埋まるようにしているとじとりとこちらを見つめ、
「おいおいここは連れ込み宿じゃねえんだぞ」
「彼氏ぃ、優しくしてやんなよ、初めてなんだろ?」
そうゲラゲラ笑いだす。

 相手をすると厄介なので無視を決め込んでいると、そのうちの一人が苛立ちつつ、
「無視かよ、おめぇら人を舐めてんじゃねえぞ」
とアルの腕を掴み捻り上げようとしたが、逆に腕を取られ、痛てて、と情けない声を上げた。

「おい初っ端から揉め事を起こすな。報酬を減らすぞ」
 荷台の外からこちらもまた負けじとばかりに屈強な男が顔を見せ恫喝して御者の方へとまわる。
 絡んできていた男たちはもう一度こちらを睨み舌打ちするとそれきり黙り込んだ。

 馬車が出発したら、てんでに皮袋の酒をぐいぐいやったり、干し肉やチーズなどのつまみを取り出したりして好き勝手にしている。

 これまでの馬車とは違い、軽やかで揺れも少なく、さすがに値段が高いだけのことはあった。それはともかく。

 やたらアルと距離が近い。いや、これだけの狭さではどうしようもないんだが、なまじスムーズに馬車が進行しているだけに、よけいに気になるというか……。

 男の一人がけっ、と唾を吐き捨て、いちゃつくなよ餓鬼が、とぼやいた。

 別にいちゃついてなどいないんだが……。

 なんというか、彼らが幅を取っているからアルと身を寄せるようにして座っているのであって、その様子がそう見えるのなら詰めて欲しい。

 妙に焦りながら(ちなみにアルに気にしている様子はあまりない……)、馬車に乗り続けて半日。途中の村で夜を過ごし、相乗りしている男たちとはなるべく関わらないようにしながら一昼夜。

 出発してから三日目。馬車は山間の森に差し掛かり、しばらく道なりに進んでいたが、ふいにアルが緊張した面持ちで顔を上げ、
「馬と人の足音、それに鎧のぶつかり合う音が近づいてくる」
と言い、
「はっ、なに戯言ぬかしやがる」
と男の一人が鼻で笑った瞬間、
「襲撃だ、囲まれてるぞッ」
手前の乗客席から叫び声が上がり、馬車のスピードが一旦上がったが、すぐに御者の叫び声とともに、やがてその動きを止めた。

「馬は追うなッ!荷を先にしろ!!」
 怒声が飛び交い、荷台からは見辛いが、武装した集団がどうやら囲んでいるらしい。ちらりと武器を持った男が視界に映り、雇われの男たちはおまえら勝手な真似するんじゃねえぞ、と言い捨てて武器を取り、外へ降りるとまずは目の前にいた盗賊の一人に剣で斬りつけた。

「護衛がいたぞ!!こっちだ!!」
「ふ、おまえらみてえな馬鹿どもに負けるかよ!!」
 辺りはにわかに乱戦となり、激しく斬り結ぶ音が聞こえだした。

 雇われてもいないし勝手な真似をするなとも言われたが、見て見ぬフリをするわけにもいかず、アルと外へ出て、ここにもいたぞ!!とか叫び襲い掛かってきた手近な盗賊の攻撃を交わし、その肩を斬りつけた。

 幾人かの盗賊は倒れていたが、なんにせよ数が多い。まず乗客の扉とその荷物がある荷台の頑丈な扉に取りかかっていた男たちを倒し、続いてこちらを認め襲い掛かってくる相手に返す剣でその腕や胸を斬りつけ、叩き伏せていく。

「おい、なんだこいつらは!!」
 血相を変えて向かってくる彼らを軽くいなして斬りつけて動きを留め、蹴飛ばし倒してから見渡し、馬を繋ぐ紐の切られた後や、中でどうしているのかは不明だがカーテンがしっかり下ろされた客席、遠くで嬉々として戦い、死屍累々を築き上げているアルフレッドを確認したが、不思議なことに先ほどまで威勢よく声を上げていた護衛の男たちはおらず、いつのまにか戦っているのは自分たちだけとなっていた。

「逃げたな、これは……」
 そう無意識に呟き、アルに、
「アル!馬も人も、なるべく殺すんじゃない!!」
と声を張り上げたが、ちょうど馬上の一人を倒さんと、馬に斬りつけた瞬間で、勢いは止まらずその一頭と乗っていた男は残念なことになった。


 それまで盗賊を殲滅させる勢いでさくさくと進んでいたアルフレッドは、シャロンの言葉で一度その動きを止めた。
 目の前で馬と仲間を斬り殺され、剣を首間近でピタリと止められた男は、土気色の顔で必死に首を振り祈りの言葉を唱えている。

 とりあえずそいつを蹴り飛ばし、シャロンの言葉をもう一度反芻した。彼はそれまでの、強きがすべてものを言うもの、との単純な思考を切り替える。

 ――――生かせば恨みを買う。どうあがいても盗賊は縛り首だが万が一逃げ延びたら禍根を残すかもしれない。

 そう思いもう一度シャロンを見、ため息を吐いて蹴飛ばした男の、両手の親指と人差し指のみを斬り飛ばし、それで収めることとした。
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