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異郷より。 作者:TKミハル

『雪山と北の町』

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湖畔の町ビスタ

 グレンタールからボノ河沿いに東南へ進むこと一か月半。
 一面に広がるライ麦畑や農村を抜けて歩き続けるうちに、日差しは徐々にきつくなり、湿り気を帯びていた風は乾いた風へと変化し始めていく。

 やがていくつもの流れに分かれたボノ河がなくなり、シャロンたちは小さな湖の町に到着した。

「さて、と。ここがミストランテじゃないことはわかるんだが……どんな町なんだろうな」
 シャロンは今まで歩いてきた道と町との境目にある素朴な木の柵の手前で、地図を広げながら呟く。

 北の町で手に入れた地図は、周辺は詳しく描かれていたものの、二つほど村を過ぎた時点で役立たずとなった。そもそもミストランテも、地図の東にぽつんとあるだけで、そこへ至るまでの道筋は詳しく描かれていない。

 シャロンのその呟きに、アルフレッドがくいっと彼女の袖を引き、柵向こうに倒れている看板を指した。

“湖畔の町ビスタへようこそ”

 中へ入るとまず、木と煉瓦で建てられた何軒かの家と、広々した畑で一心に水をやっていたおじさんに出くわした。

「ちょっといいですか?」
「あんれまあ~旅人さんかね。待っといて~な。今ちょうど半分やったところだで~」
 また一生懸命畑に水をまき始める。
 ……すぐには終わりそうもないので、話をするのはあきらめ、町の中心へと向かうことにした。

 畑と家の合間を縫い、しばらく歩くと、肉や魚を焼くいい匂いとともに、店の立ち並ぶ比較的にぎやかな通りが目の前に広がった。

「いらっしゃい~今朝獲ったばかりの新鮮な魚だよお~」
 ちょうどお昼時。露店でカーラという魚を売っていたので、三匹焼いてくれと注文した。
 通りを歩く人や店の人の話し方は間延びしていて、動作もそれほど速くなく、ゆったりと時間が流れているような気がする。
「……まだかかりそうか?」
「はいはい~捌いてる最中だで~」
 焼き上がるまでまだまだかかりそうだったので、その辺をぶらぶら散策しようと、名残惜しそうな目で魚を見つめている彼を連れ、その場を離れた。

 並べられている干物やチーズを見たり、ライ麦でできた平たいパンや魚の燻製を買ったりして戻ると、おじさんがにこにこしながら焼き魚を渡してくる。
 シャロンは彼にミストランテに行きたいんだが、と尋ね、なんとか町の西側(今の場所からだと東側)にあるギルド兼案内所のことを聞き出した。

 ギルド兼案内所のある西側は、さらににぎやかで、店の呼び子の声もよく聞こえてくる。
「お客さんたちグレンタールからとは珍しいですね~。いつも中央フランキシュからの人が多いんで~」
 このビスタへ寄るのは、そこから観光に来る人と、荒れ地の採掘場から隣町へ向かう人がほとんどだと受付嬢のキャサリンがにこにこしながら教えてくれた。

 彼女はたぶん十五、六歳で、可愛らしいエプロンドレスと出るところは出てウエストがきゅっとしまっている、思わず恋人か嫁にしたい!と思わせる姿。

 このギルド兼案内所兼休憩所には、軽食を取りに来た人たちも、昼から飲んでいる酔っ払いも含め男性が多く、皆一様に受付嬢にぎらついた眼差しを注いでいるが、普通だったら怖がりそうなその視線にも臆することなく微笑んでいる。

 まあ、奥の方に用心棒らしく、頬に傷跡の残る荒くれ者がどっしり構えてはいるんだが……。

 アルフレッドはと見ると、興味なさそうに壁に貼られた依頼書やメニュー表を眺めていた。その態度は男としてどうかと思うぞ。

 こっそり、気にならないのかと尋ねると、他人のものは興味ない、と低い返事がきた。

 えっと、それはつまり……。

 その言葉を耳にしたキャサリンが顔を近づけてひそひそと、
「あれ、よく気づきましたね~。実は奥で座っているあの人がうちの旦那さんなんですよぉ~」
それを聞いたシャロンは仰天した。うわぁ、と叫びたいのを堪えつつ、
「指輪とか、しないのか?」
「持ってはいるんですが~。それつけるとたぶん売り上げが半減しちゃうからぁ~、秘密にしといてくださいね~」
「……なるほど」
 ここにいる男たちのほとんどはその事実を知らないらしい。まあ、夢は壊さずにおこう。

「あ、そうそう。ここいら一帯についての詳しい地図はないか?ミストランテに行きたいんだ。で、持ち金も少なくなってきたから、仕事も探したい」
 カウンターにチップを置くと、キャサリンはうう~んと考え込みながら、
「ミストランテって~ここから行くには荒れ地を抜けなきゃいけないんですよぉ~。荒れ地には魔物がそこそこいるから~だいたいの人はいったんフランキシュかその付近に戻って回り道をしていくみたいですね~。まあお金ある人は護衛とか雇っていきますけど~」
地図を広げて丁寧に説明をしてくれる。
「それか、もしお二人が腕に自信があるなら~この依頼受けてみたらどうですかぁ」

 カウンターの下から壁に貼られてあるものと同じような感じの、紙の束を出し、ぺらぺらっとめくる。
「これ、でもちょっと特殊でぇ~」
「なになに……報酬が一日につき銀貨一枚、か。この+αというのは?」
「現物支給なんですよ~。依頼主はエドウィンっていう考古学者さんで~隣の町で依頼したけど誰も引き受けなかったっていういわくつき。商品取引もやってるみたいだからぁ、いい物が貰える時もあればそうじゃない時もある、みたいな~。銀貨一枚で荒れ地の護衛ってきついですよね~。でも~ここで他にお金になりそうな仕事らしい仕事もあんまりなくてぇ」
 きゅっと眉を寄せて上目使い。癖なんだろうけど……私に使われても困る。

「……どうする?」
 アルフレッドに尋ねてみた。こいつはあんまり意見とか言わないんだが……意志ははっきりしてるから、何も言わなければこちらにお任せ、ということになる。

「その学者に会いたい」
 珍しくはっきり言った。シャロンは悩みつつもキャサリンに、
「……引き受けるかどうかはともかく、会って詳しい話をしたいんだけど」
と告げると、じゃあ連絡つけておきますね~と彼女はにっこり笑ってさっそく壁に貼ってある紙を剥がしにかかった。
 補足説明:基本この世界では依頼を受ける時も情報を貰う時もお金が必要。ケチると誤った情報を教えられることもある。
 ここのギルドでは、依頼主に会う時点でいったん依頼を引き受けたとみなされ、壁の依頼紙を外しに行く(場合によっては紹介料を取ることも)。
 
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