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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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奔流

 大変お待たせしてすみません。第三者視点、それと、戦闘シーン有。
 その白く大きな体から血であるのか琥珀色の液体が流れ、辺りに飛び散ったかと思えばすぐにその色は褐色へと変化していく。

 身をよじるその動きに合わせてヒューイックの体は揺さぶられ、弾き飛ばされた。まずい。あの位置では……!!

 ひきゅい、きゅぃいいいっ

 鳴き声とともに白い巨体が敵を押し潰さんと、その身をひねらせた。

「間に合え……!!」
 風の剣で、強風を作り出し、落ちかけたヒューイックの体をさらに煽り、離れた場所でバッシャンと派手に水飛沫が上がった。

「やっぱり来ると思ったぜ」
 どうやら攻めあぐねていたらしく、遠巻きしていたジークがこちらに気づき手を上げてから、ヒューイックの落ちた方へと駆け寄っていく。

 白い巨体はしばらくぐるぐる回転しながら潜ったり、出たりを繰り返していたが、やがて離れた位置で再び休息を取り出した。その体の天辺からパシュッと飛沫が上がる。

「でかいな……」
 改めてその様子を眺めていると、海から上がったヒューイックがジークとともにこちらへやってきて、
「……やはりやみくもに突っ込むには危険が伴う、か。シャロン、来たなら先ほどと同じようにして、全員のフォローにまわってくれ。跳ね飛ばされたら風で援護を頼む」
ッくしゅ、と一つくしゃみをして、上着の裾を絞り上げた。
「倒せる、のか?」
「わからん。見た限りでは、機雷のダメージをかなり受けているから、そこまで手強くはないと思うが。……おいジーク、持ってきた毒薬とボウガンであの巨体を狙え。どれだけ効くかは不明だが、やらんよりマシだ」
「ちょい待て。オレは遠くからちまちま打つだけでいいのか?」
「ああ。というかあまり近づくな。死ぬぞ」
 断言したその言葉に、ジークは顔を引きつらせて頷いた。

「アルは俺と突発隊な。数多く斬りつけて弱らせればいい。背、胸、尾のそれぞれのヒレを最初に狙って動きを封印する。ああ、手袋はつけといた方がいいな。岩で手を切る」
 アルフレッド、シャロンがそれぞれ皮の手袋をするのを待ち、
「……それじゃあ、そろそろ始めるか」
 その合図で、再び四人は白く輝く巨体に向かい、ヒューイックとアルフレッドがもっとも近づき、シャロン、ジークが少し離れて立った。

 ゆるやかな水音をさせつつ、白く大きな体がもっとも近づいたときを見計らい、まず突発隊の二人がその巨大な背に跳び移る。異変を感じたのか、ピクリとその体が反応し、身をひねるが、それを待たず胸ビレにそれぞれ剣を突き立てた。

「う、わ」
 途端に凄まじい勢いで白く巨大な魔物が体をくねらせ、二人を乗せたまま泳ぎ、岩場にぶつかるかと思いきやすぐに方向転換してシャロンたちがいるまわりを二、三周するあいだに、ジークが狙いを定めて毒つきボウガンの矢をその体にいくつも打ち込んだ。

 五本打ちこんだところで動きが若干ゆるくなり、二人が本格的に胸ビレを斬り落としにかかる。その痛みに鳴き声を上げつつ、魔物はその体をくねらせて深みへと潜り込んだ。

 ギリギリで離れたらしいアルフレッドとヒューイックが水面から顔を出し、そこへ魔物が下から突き上げを食らわした。咄嗟に風で落ちる衝撃を和らげ、なんとか二人は体勢を立て直しそれぞれ離れた岩場へ降り立ったが、どうも見ていて、支援のためとはいえ離れた場所にいる自分に歯がゆさを感じてしまう。

 さらに血を流した魔物はぐるぐると岩場をめぐり、出口を探すも、見つけられない状態だった。この周辺は岩礁が多く、魔物の巨体が入り込めるだけの隙間は仕掛けられた多くの機雷で塞がれてしまっているので、逃げ道はない。

 シャロンが白い魔物を注視していると、その体から溢れた光が近くを泳いでいた魚の群れを包み込み、その姿を変化させた。

 バシャバシャバシャと勢いよく魚は、その魔物の体から流れる血を忌避するように群れをなして飛び跳ねながら岩の外へと逃げていく。

 やはり、この魔物が原因なのか……。

 シャロンは内心嘆息しながら、剣を構え、白い巨体へ風の刃を放ち、同時に走り出した。暴れる魔物から適度な距離を取りつつも、いくつも風の刃で斬り刻む。

 きゅい、きゅぃいいと、悲しげな声を出して身をよじる魔物には、先ほどのような勢いはない。そこに岩場から巨体へと乗り移ったアルフレッドと、ヒューイックが、その体にしがみつきながらじりじりと這い上り、胸ビレを完全に斬り落として、暴れる動きを利用して跳び退り、そこにシャロンが風で無事着地できるようフォローする。

 きゅぃいいいいいー

 魔物は血塗れになりながら、悲しげに鳴く。その鳴き声の調子がふと変わり、何かを呼んでいるかのようになった。これ、は……。

 一気にまわりの水面が波打ち、妙な渦を作ったかと思うと、引き始めた。魔物は苦しそうに体を回転させ、まわりを巡っている。

「なんだこりゃ」
 異変に気づいたジーク、そしてアルフレッドが焦った様子で岩を渡りつつこちらに駆け寄り、続いて離れた岩場にいたヒューイックも泳いでやってくる。

「……波が来る。それも、並外れたのが」
 緊張した面持ちでアルフレッドが示す先には巨大な壁のような大波が、ゆっくりとこちらへ押し寄せてくるところだった。まわりは岩礁地帯で、波は岩より高く、逃げれそうな場所などどこにもない。

 呆然と高波を見つめながら佇む三人に、シャロンは震えながらもなんとか声をかけた。
「アル……ヒューイック、ジーク。私の傍に」

 できるのか。できるのだろうか。

 三人が呆然としながらも寄ったのを確認して、シャロンは剣を手前に掲げ、成功しますようにと、一心に祈る――――――。失敗は許されない。

 イメージするのは球体、自分とそのまわりを包み込む風の護りを。大波が迫るこの状況で、冷たく滑りそうになる指先に力を込めながら。ただひたすらに望み、その力を解放した。

 波が来る。飲み込まれる。術の展開に集中しながらも、波がゆるくウェーブを描くその美しさに心のどこかで感嘆する。そして、風越しにもなお、引き千切られるような重圧がシャロンに襲いかかった。

 長い長い、自分との戦いの後、波は過ぎ、シャロンは汗だくになってがっくりと膝をついた。
「し、死ぬかと思った、死ぬかと……」
 まだ震えている彼女の肩をねぎらうようにアルフレッドが、続いて蒼褪めたままのヒューイックとジークがポンポンと叩く。

「まだ、やることは残ってる。アレを倒さなければ」
 ヒューイックがそう言って、琥珀色のとろりとした液体にまみれた白の魔物を睨みつけた。
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